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 > Сакурай Тосио さん
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プロフィール
コメント数 250
性別 男性
自己紹介 サンボリズムとリアリズムのバランスのとれた作品が好きです。
評価はもちろん主観です。
評価基準 各2点ずつで計10点
1.物語の内容・映像にリアリティを感じるか?
2.視覚的に何かを象徴できているか?
3.プロットの構成は適切か?
4.画面に映る動き・台詞や音にリズム感があるか?
5.作品のテーマに普遍性はあるか?

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141.  海を飛ぶ夢
尊厳死という題材を扱っていながらこの映画に感じられるのはむしろ人の温かさです。神父には家族の愛情がないからと揶揄されますが、逆に多くの人間から愛情を与えられているからこそラモン(ハビエル・バルデム)は死を選ぶのです。それは追い詰められたというのともまた違う感情でしょう。なぜいつも笑顔なのか?と尋ねられたラモンは他人の助けに頼るしか生きる方法がないと涙を隠す方法を自然と覚えると答えます。彼は他者の愛情を噛みしめているからこそ無理にでも笑顔を返すのでしょう(とはいえ世間の無理解な人間に対するそれは冷笑に近いのでしょうけど)。夜になぜ他の人のように自分の人生に満足できないのかと泣き叫ぶシーンも印象的です。生きる義務とは言い直せば現状を幸福な状態として受け入れなければならないという周囲の要求のことです。現状に満足することさえできれば人は生き続けることができます。それを拒むからこそ人は死を願うのです。
[DVD(字幕)] 8点(2023-06-18 22:55:55)
142.  クラバート
赤青点滅のポケモンショック演出があるので子どもに見せる場合には注意が必要です。内容はそう珍しくもないボーイミーツガールものです。親方の悪ばかり強調されて背景に戦争があるのにそれがほとんど物語に絡んでこないのがよくわからないです、まあ戦争に行くぐらいなら馬になって草を食んでいた方がマシってところは好きです。技術的にも素朴で水や炎の描写は実写との合成なのもあってユーリ・ノルシュテインの作品に感じるようなこの映像はどうやって撮ったのだろうという驚きに欠けているのがつまらないんですよね。安易に素朴な手作りの絵vs生気のこもってないCGという対立構造が作られがちですが、案外カレル・ゼマンって紀里谷和明あたりに近いことをやってたりしないでしょうか。映像作品としては画面の統一感の欠如という同じような危うさを持っているのは否定できないかと思います。
[DVD(字幕)] 5点(2023-06-17 23:57:37)
143.  The Son/息子
ファーザーで感じた違和感の答え合わせみたいな作品でした。やはりこの監督は現実の社会や人間にあまり興味がないのではないかと思います。鬱病という概念が全く浸透していないような世界で繰り広げられる不自然な物語は一応認知症への啓蒙になっていた前作ほどの価値もありません。構成や演出の斬新さがなくなれば頭の中で考えられて作られただけの全く新しいところのない平凡な物語が残るだけです。あの陳腐な息子との海での思い出の回想シーンは何の意味があるのでしょうか。描かれる世界の狭さが平凡な日本映画みたいで苦笑するしかありません。海外のレビューサイトでは酷評されてるのですが日本ではそこまででもない様子なのはある意味納得ではあります。
[インターネット(字幕)] 3点(2023-06-16 23:11:22)
144.  太陽を盗んだ男
内容としては日本社会のパロディであり、日本社会自体が何かを真剣にやろうとするとパロディのようにしかなれないというお話です。学園ドラマ、アクション映画やスパイ映画の真似事、鉄腕アトムの主題歌、とにかく何をやってもごっこ遊びのようにしかならないという倦怠感。テーマは世界の核拡散への警鐘…のようなものではなく戦後世代の戦争経験者へのコンプレックスです。あのバスジャック犯の老人のように無気力ではなく何かに対して必死で生きてみたかった、その気持ちが主人公を突き動かすのです。しかしその無気力な倦怠感の原因が何か社会にあるのではないかという点は追求されずに、漠然とそういう空気があることだけを前提として物語が進んでいくところがこの映画の限界です。明確なメッセージが欠けているので行き当たりばったりなまま終わるのは主人公だけじゃなく映画自体もそうなのは困りものです。もはや沢田研二も老人となる現代ではこの映画自体がゲリラ撮影やキワドイ題材を可能にしたエネルギッシュな時代への憧れのような論調で語られるのも皮肉な話ですな。
[インターネット(邦画)] 6点(2023-06-15 23:29:39)(良:1票)
145.  レッド・ロケット
ショーン・ベイカーは実力のある監督です。ロングショットで映される風景のスケール感、限定された音楽の使用、貧しい寂れているはずの地域をファンシーで色彩豊かな空間として捉える一方で登場人物が世界のどこかに実在していると確かに感じさせるリアルな人物造形も両立しているのは大したものです。しかし子供が主役だったフロリダ・プロジェクトに比べるとこのファンタジックなアプローチが題材に対して適切なのかは疑問です。ありのままの姿を肯定するだけなら良いのですが、この映画は男性のための都合の良いファンタジーに近づきすぎ、より多くの人間に評価される余地を自ら失っていると思います。2016年大統領選挙の様子がテレビで流されていますが、それに対する劇中の人物たちの態度が曖昧なように最終的にこの映画が何を伝えようとしているのかもよくわかりません。フロリダ・プロジェクトと同じように唐突なエンディングですが、前作のような切実な幻想シーンとしての説得力を持てていないのです。
[映画館(字幕)] 6点(2023-06-14 23:12:02)
146.  シャドー・メーカーズ
クリストファー・ノーラン監督のオッペンハイマー公開前に予習として鑑賞しました。原爆投下は本当に必要だったのか?という批判的視点もあり、描き方は中立的で悪くないと思います。ポール・ニューマン演じる原爆使用を推進するグローブス将軍は傲慢な人間として描かれておりそれが作者の立場を代弁したものではないのは明らかでしょう。確かに広島・長崎への原爆投下こそ直接描写はされませんが臨界事故による被曝のシーンはあり、放射線の恐ろしさを軽視してるわけではありません。そのため核に対する姿勢はダメとは思わないのですが、かといって映画としての出来が優れているわけでもありません。スタッフが一流どころの割にチープな印象を受けます。淡々としている割りにトリニティ実験にくるみ割り人形の音楽を被せたり演出過剰なところがあります。エンニオ・モリコーネの音楽もあまりやる気がなかったのかアルジェの戦いを多少アレンジしただけのような感じで目新しさがないです。キャストはポール・ニューマン以外は印象に残りません。オッペンハイマー役のドワイト・シュルツは重要なポジションなのにポール・ニューマンに全く対抗できていませんので結果的に将軍の方が間違っていながらも魅力的なキャラクターになってしまっています。原爆開発という題材ゆえに日本未公開となったというより、原爆開発という題材でなければ日本未公開であることに特に疑問も持たれない程度の地味な作品です。
[DVD(字幕)] 5点(2023-06-13 23:11:58)
147.  エレファント
ドラマ性を廃して長回しで撮り続ければいつか映画の神様が降りてくるかもしれないという信仰が有効だった時代の産物ですね。しかしそんな迷信は素人がスマホで撮った映像が氾濫する現代ではもうほとんど効力を失っているのではないでしょうか。つまるところ映画というのはどうあがいても映されたものに人間の意図が働かざるを得ない創作物なのですから神頼みの前に人智を尽くすべきだと思います。リアルな風俗描写だけが取り柄で明確なメッセージがない作品に時代を超える力は宿らないでしょう。しかも銃乱射犯人たちのパートになるともうあからさまにカッコいい絵を撮ろうとする演出の意図が見えてきて全体のコンセプトすら貫徹できていません。どうしても事件の直接的な描写は劇的にならざるを得ないのでしょうが、ここでこそ抑えた描写をしないのは何かが間違っています。エリーゼのためにやナチスのような深読みさせるための要素をしっかり入れるのには苦笑いです。それに同性愛者とナチスを結びつけるとはなんと軽率な描写でしょう。説明不足のためにその意図が深淵であるように見えるだけで実はこの監督は事件とそれに関わった人間についてろくに理解していなかったのではないでしょうか。
[インターネット(字幕)] 3点(2023-06-12 23:38:00)(良:1票)
148.  プラットフォーム
ご馳走の載ったテーブルが上から降りてくる設定はドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の短編・華麗なる晩餐のパクリじゃないですか。あっちの映画が社会の上層部の醜さを描いていてこっちは下側という違いはありますが、結局この監督には自分の好きなあの映画みたいな作品を作りたいというモチベーションしかなかったのではないでしょうか。スペイン語を喋っていることとドン・キホーテ以外はスペインらしい要素はなく登場人物の人種も多様で世界市場向けの商品としての最低品質は満たしてはいますがそれだけです。寓話として記号化されすぎた登場人物には共感することも難しいです。階級社会・資本主義・宗教、いろいろ意味深な要素を並べてもそれらに対する作者の立場が明確ではないので曖昧で陳腐な答えしか提示することができていないのです。
[インターネット(字幕)] 4点(2023-06-11 23:19:02)
149.  M3GAN ミーガン
冒頭の雑な両親の死に方やミーガンの試作機が炎上する場面での登場人物の馬鹿っぽさ、この時点で真面目に見るべき映画ではないのかもしれないと不安になりますが、それ以降は両親を亡くした姪を引き取ることになったジェマの葛藤やミーガンとケイディの交流の中で現代社会における子どもとのコミュケーションの問題が丁寧に描かれており悪くないです。この映画は確かにターミネーターの要素もあるわけですが、内容的には1作目よりもロボットの方がより良い親になれるかもしれないというターミネーター2の方が近いんですよね。アイザック・アシモフのロボット三原則も三原則自体の矛盾によってドラマが生まれるのですが、この映画も人間を守るという目的のための行動が結果として人間への加害へと繋がるというジレンマが面白いです。この問題を真面目に掘り下げていけばジャンルの枠を越える傑作にもなれたと思うのですが、終盤になると既視感溢れる安易なホラー映画的殺戮劇になってしまうのがつまらないです。社員がミーガンの情報を盗み出そうとしてたシーンの顛末があれだけで終わるのも期待外れの展開です。まあこの映画のスタッフは単純なエンターテイメント作品を目指していただけでそこまでの野心もなかったのでしょうし、グロテスクな描写も控え目なのでホラーにあまり興味のない方でも楽しめる軽い娯楽映画としては悪くない出来だと思います。
[映画館(字幕)] 6点(2023-06-10 23:53:15)
150.  ファーザー
まあ設定がリアルなメメントですね。でも逆に現実に存在する認知症を題材にしたことで認知症患者は本当にこのように見えてるのかという違和感が生じてしまっていると思います。認知症の当事者がこの映画を自分の経験と照らし合わせて評価することは困難でしょうし、結局はこの描写で正しいか間違っているかの判断は誰にもできないのでしょうけど。認識の不確かさがもたらす不安感、親を思う子の気持ち、確かに評価できるポイントはあります。しかしパズルとして面白さに気を取られて根本的なドラマがおざなりになってはいないでしょうか。認知症の感覚を再現するために複雑な構成にしているのではなく、ギミックの方を先に思いついたのではないかとすら思えてしまいます。サスペンスやホラー調のシーンが挿入されるのも安っぽい印象を受けてしまいます。ラストシーンにはさすがにうるっときましたが、それは映画全体の力というよりもアンソニー・ホプキンスの演技の力によるものが大きいです。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-06-09 23:38:04)
151.  穴(1960)
この頃の映画は暗い夜の場面でも照明が照らされて画面が不自然に明るかったりするのですが、この映画の場合暗い地下のシーンでは手持ちのランプの火のみで照らされ、人工的ではない自然な照明が現代でも通用するリアリティを生み出しています。それがまた通路を歩くシーンでは光が輪のようになって美しい効果をもたらしています。いい意味でドラマ性が希薄な作品です。最後のシーンまでは5人が仲良しで一つの目的に向かって一致団結し、いじめや対立が起きたりしないのがいいんですよね。基本的には看守とすら対立せず安直なドラマチックな展開は排除されてびっくりするぐらい人がよい人間しか出てきません。そのためか変なことを言うようですが、この映画は深刻な脱獄というよりは修学旅行の夜や学園祭の準備をしているかのようなわくわくする感じがあるんですよね。持ち物検査をされ、先生に隠れて夜遅くまで遊んだり、手作業で何かを作ったり、散らかして掃除をしたり、ラストも仲の良かった友達と進路の違いで別れることになるような寂しさを感じました。監獄とはまるで学校のようなもの、いや、学校とは監獄のようなものというのがより適切かもしれません。そういうところからこの映画は一種の青春映画のような気持ちで見れちゃうのです。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-06-08 23:29:54)(良:1票)
152.  カオス・ウォーキング
デイジー・リドリーはこのまま先代スカイウォーカーと同じくスター・ウォーズだけの俳優で終わってしまうのでしょうか……。まあとにかく設定がよくわからない、よくわからないのでこれは何についての映画なんだろう?という興味だけは持続します。新世界(ニューワールド)、アメリカ大陸への入植初期を思わせる村の描写、この舞台が物語にとって重要な意味を持つかというとうーん別にという感じです。話が進んでいくと結局ボーイミーツガールで田舎から抜け出た少年の成長物語でしかないんですよね。この設定で露骨な性描写がないのでまあヤングアダルト小説が原作なんだなとわかります。ノイズはただのデメリットというだけではなく幻覚攻撃にも使えるという設定は面白いですが、それが特にアクションシーンで活用されることもないのでこの設定から面白いシーンを作り上げる意欲もなかったようです。これを見るとヴァレリアンはやっぱりすごくよく出来た映画だと思いますよ。
[インターネット(字幕)] 4点(2023-06-07 22:58:09)
153.  FALL/フォール
これも映画の最先端の形の一つではないでしょうか。新しい映画とは常にこれはどうやって撮ったんだろう?と興味を湧かせるものです。落下場面ではちょいちょい合成っぽさは目立ちますが、VFXが用いられてるとは思えないほど高所を感じさせる自然な映像で本当に怖ろしさを感じます。サスペンス映画としては鳥やめまいのような古典もきっちり踏まえた上で作られてるのも好印象です。お話は冒頭で主人公が大切な人を失い、そのトラウマから再起しようとする定番のやつです。風刺という程ではないものの過激さを求める配信文化の悪影響という問題意識もベースに、スマホ、ドローン、自撮り棒、現代的なアイテムを使ったオリジナル脚本のエンターテインメント作品としては上出来でしょう。頂上にある夜間照明が良いワンポイントとして機能していますね。序盤の小ネタの伏線回収に、点滅に合わせての場面転換も洒落てますし、幻覚と現実の区切りとしても効果的に使われています。ただ終盤になると主人公の不自然なまでのタフさと無駄にひねった展開で映像のリアリティに比して物語が非現実的なものになってしまうのは大きな欠点です。途中までは複雑な女同士の友情もちゃんと描いていてドラマ的にも評価できそうだったのですがそこはやっぱり減点せざるを得ないです。
[DVD(字幕)] 6点(2023-06-06 23:56:50)
154.  夜明けまでバス停で
冒頭とラストにそれを連想させるシーンがあるだけですので、実在の事件を題材にする必要性はあまり感じませんでしたが、90分というコンパクトさでありながらコロナ禍の2年間の社会を過不足なくまとめたよくできた脚本だと思います。社会派ドラマでありながらところどころクスリと笑える娯楽性もあるのも良いです。LINEでネガティブな投稿を入力したものの送信はやめておく、こういう細部の描写が人物にリアリティを宿らせます。ああいう女性たちはこの社会に確かに実在しており、自分にもそういう部分があったとも感じさせる現実味があります。三浦貴大と柄本佑のキャラはちょっと単純で露骨すぎるきらいはありますが不条理コメディのような魅力があるとも言えます。孫に残飯を食わせるなんて虐待だという非難はそこだけ切り取れば正しい考え方なのが嫌らしいですね。ベテランの高橋伴明監督は手堅い仕事をしていますが、映画としての構成や演出に斬新さがあるとは言い難いのは惜しいところです。コロナ禍や女性が物語の中心であるという現代的な要素がなければ8年前の映画東京難民と大して変わらないと言えなくもないです。根岸季衣と柄本明のキャラクターはちょっと非現実的で漫画チックですが、映画なんだからこれぐらいはやってしまってもいいでしょう。真剣に現実に向き合いながら深刻に物事を捉え過ぎておらずどこか希望を感じさえするのはこの映画の美点です。
[DVD(邦画)] 6点(2023-06-05 23:18:41)
155.  恐怖のまわり道
映画史上最もジム・トンプスンの小説の雰囲気を再現することに成功した作品ではないでしょうか。しかしジム・トンプスンはこの映画の公開当時小説家としてデビューしたばかりなので逆に影響を与えたと考えるべきなのでしょうね。それってつまり当時のパルプ小説の一番文学的な部分を拾い上げることに成功したということであって低予算の中で映画の本質に迫った作品というのはずれた評価だと思います。全編に渡りモノローグが多用されているのも低予算を誤魔化すためでしょうし、この映画の面白さって台詞の良さに大きく依存しているわけです。奇跡的に脚本の出来が良いだけでエドガー・G・ウルマーの演出は当時のハリウッドの中で飛びぬけて優れているわけでも異常でもないと思います。単に信頼できない語り手の手法を用いた映画を求めるだけなら1940年代あたりの文化に思い入れがない現代人ならばメメント等を見た方がいいでしょう。ただアルとスーとの電話では相手の応答は全く聞こえずまるで一人語りをしているように見える演出はすごいですね、これも上映時間を短くするための省略がたまたまそう見えるだけかもしれませんが。トム・ニールの童顔と倦怠感の釣り合わない感じが役のイメージにピッタリで素晴らしいです。アルとヴェラとの口論を見ているとフィルムノワールとラブコメは実は紙一重のジャンルなのかもしれないとも思えてきます。
[インターネット(字幕)] 7点(2023-06-04 20:29:04)(良:1票)
156.  5時から7時までのクレオ
ヌーヴェルヴァーグとか今更見てもたいていつまらないしヌーヴェルヴァーグ左岸派とかなんのこっちゃという感じでsight&soundの2022年版オールタイムベストに見慣れない映画があったからという非常に軽薄な動機で見たのですが、これは今も古びてないどころか現代的なセンスでかなり楽しめる作品でした。日本の女性作者のエッセイ漫画みたいな感覚です。ヌーヴェルヴァーグらしい自由な軽快さがありながら死という現実に向き合うことをテーマに据えたちゃんとした構成があるところが頭一つ抜けています。ああいう口うるさい世話焼きおばさんみたいな人いるよなあ、人の目を過剰に気にしてしまうような時ってある、お互い理解がずれた微妙に噛み合わない会話、街の人々の会話や振る舞いもどこかで見聞きしたことがあるような既視感があります。自分に関係なく世界は流れてゆき何にも変わっていないのになんとなく何かがわかったような気がして生きていく、まさにこれこそが人生そのものではないでしょうか。
[インターネット(字幕)] 8点(2023-06-03 20:28:50)
157.  パラレル・マザーズ
冒頭からスペイン内戦に関する説明的な台詞が続き不安になりますが、まあすぐにいつものペドロ・アルモドバルの映画になります。レインボーな色彩と女性同士の連帯、そして母となる女性への賛美。うーんしかしこうも同じことを繰り返されると正直マンネリズムです。それに物語の根幹である子どもの取り違えとスペイン内戦に何の関係があるのかよくわかりません。新生児取り違えなんて今時目新しいアイデアでもないですし、赤ん坊がおじいちゃんに似たのかもしれないという旨の台詞がありましたがスペイン内戦を絡めるならむしろそこを掘り下げるべきではなかったでしょうか。ラストの遺骨の発掘場面ではリアリズム優先のためかビビッドな色彩の強調が抑えられておりそれは死者への誠実さの現れなのでしょうが、平凡なテレビ番組のワンシーンのような印象も受けてしまいこの監督が撮る意義を感じさせません。今までのように愛の多様性や人生を肯定する結末で終わるのが難しい題材である以上、自分のスタイルに固執するよりも題材に適したスタイルへの大胆な飛躍が必要だったのではないでしょうか。たとえばピカソだってスペイン内戦を描いたゲルニカでは色彩を捨てたモノクロの画面を選択しました。今回は新境地というよりもむしろこの監督の限界を感じてしまいました。
[インターネット(字幕)] 5点(2023-06-02 23:42:56)
158.  65 シックスティ・ファイブ
序盤からスケールの大きなロングショットが見られCGや美術も結構クオリティが高いと期待できますが、中盤暗い閉所の場面が続きこれはやっぱりそこまで予算に余裕はなかったんだなとがっかりというか納得しちゃいます。ただ王道のティラノサウルスとの戦いもちゃんとありますし、娘の記録映像や熱湯が噴き出す間欠泉といった序盤の伏線はちゃんとクライマックスで活かされてますので大きな期待をしなければ十分楽しめる展開です。しかしあの四つ足恐竜はなんでしょうか?少なくとも実在する肉食恐竜はすべて二本足ですのでこの映画のためにデザインされたオリジナルの生物であるのは間違いないようです。考えられるのは70年代頃までの恐竜映画で使われた手法として、本物のトカゲやワニを巨大な恐竜に見立てて撮影してたことへのオマージュじゃないかと。このスタッフですのでちょっとホラー風味ではありますが、全体的に70年代以前の低予算の冒険映画やSF映画みたいな雰囲気ですのでそういうのが好きな方へはおススメです。今時珍しく底なし沼まで見られます(笑)。恐竜の滅亡から現代文明までの諸行無常を簡潔に見せるエンドクレジットも良いです。下手に感傷的にしないこの終わり方だけで結構評価が上がりました。まあ半年もしたらほとんど内容を忘れてそうではありますが、そこまで悪くない佳作だと思います。
[映画館(字幕)] 6点(2023-06-01 23:27:59)(良:1票)
159.  M(1931)
この映画の主眼は殺人鬼がどういう人間かという点ではなく、殺人鬼が現れたことで社会はどのように変化するかという点に置かれています。明確な主人公が設定されていないのも、あくまで社会の多様な人々を描くことが目的だからでしょう。悪人の魅力や異常性よりも悪人の平凡さ、脆弱さを強調しているのは後のサイコキラーものには見られない点です。暗黒街と警察、殺人鬼と民衆、倫理的にどちらか一方が優れているわけではなく対等なものとして描いています。全編に渡り音楽が全く流れませんが、完全に無音になるシーンは演出に感心する以前に機械の不調を疑ってしまいます。窓の外からカメラが屋内に入り込むシーンはよく見ると窓を不自然に動かしているのが見えちゃってます。ラストもぶつ切りのようでえっこれで終わり?と思ってしまいます。構成とテーマには今見ても感心するものがあるのですが、ところどころ演出に違和感を覚える箇所がありそこには時代を感じてしまいます。
[インターネット(字幕)] 6点(2023-05-31 23:41:02)
160.  リング・ワンダリング
ジブリ作品とかが好きな人が作ったんでしょうかね。良くも悪くもアニメみたいな話です。登場人物の会話や行動は説明的でいかにも頭の中でこしらえたようで現実味がありません。タイムスリップ要素はほとんど意味不明です。空襲で焼かれた写真店のエピソードはもうひとつのニホンオオカミのエピソードとの関連性が弱くテーマがぼやけてしまい、ビジュアル的にも自然描写の素晴らしさに比して貧弱で必要とは感じませんでした。全体的に画が綺麗なだけの雰囲気映画という謗りは免れないとは思いますが、光るものもあるので安易に切り捨てるのも惜しいとは思います。予算はあまりなかったでしょうに雪山の中でこれだけの撮影を実現し、VFXを自然に効果的に使ってるのは感心します。この監督は卑近な題材に留まらずにスケールの大きな人間と自然の関わりというテーマとビジュアルセンスを持ってるのは強みだと思いますので、ある程度予算をかけて作った大作を見てみたいとは思いますね。まあもうちょっと人間の心理を丁寧に描くことに興味を持たないときついでしょうけど。
[DVD(邦画)] 6点(2023-05-30 23:10:25)
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