1601. バンテージ・ポイント
《ネタバレ》 同じ事件を8人の視点で描く、と言っても30分程度の出来事なのでスポットを当てる人物が替わるたびに同じシーンを違うショットで見せられると言うのは、能がなさ過ぎると思います。つまり観客が見せられるのは“違う視点”からは程遠い映像でしかないということです。『パルプ・フィクション』でタランティーノが見せてくれたような世界を期待していたので、かなり失望させられました。タラのテクニックと才能を再認識した次第です。テロリスト側の男たちがみんな同じ様な風貌なので、誰が誰だか途中から判らなくなってしまったのもマイナスです。 でも私が思うにこの映画の最大の失敗は、○○○が×××だったと言う現実には絶対あり得ないバカな設定でしょう。こんな風に不測の事態が起きたらどうやって世界に説明するのでしょうか、全体主義国家の独裁者じゃないんだからね。△△△が犯人の一味だと言うのもミステリーならば禁じ手でしょう、これならもうなんでもありの世界になっちゃいますよ。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2012-10-31 20:47:21)(良:1票) |
1602. 飛べ!フェニックス
《ネタバレ》 不時着する輸送機はフェアチャイルドC-82パケットというマイナーな飛行機です。胴体が二本になっているツイン・ブームという珍しい型式が特徴ですが、原作者はこの姿を見て「これだ!」って閃いたのでしょうね。ちょっと飛行機に詳しい人なら、どうやってエンジンの後ろに計器をくっつけたんだよ、などと突っ込みたくなるところですが、フィクションとしては素晴らしいプロットであることは確かです。フェニックス号は飛行可能な機体として実際に製作されていますが、やはり空力的には不安定だったので墜落してしまい不世出の名スタント・パイロットだったP・マンツが撮影中に亡くなってしまいました。J・スチュアートは大戦時に航空隊に志願して爆撃機のパイロットをしてたくらいですから、適役と言えるでしょう。 この映画に出てくる男たちは、J・スチュアートを含めて人格的な欠点を持つ人間ばかりだってところが濃密なドラマ構成に繋がっています。H・クリューガーにやり込められてくさっているスチュアートは、まるで窓際の中年サラリーマンみたいで、全然ヒーローらしさがありません。それにしてもアルドリッジらしいところは、結果として卑怯で臆病な人間が生き残るという実にリアルな結末でしょう。極限に追い込まれた人間の醜さを、綺麗ごとで済まさずにちゃんと描いているところはさすがです。そして、あまり活躍しなかったけど、おサルちゃんが最後まで生き残ったのはホッとしました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-10-30 19:05:25)(良:1票) |
1603. ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録
「事実は小説より奇なり」とはこのドキュメンタリーのためにあるようなフレーズです。よく『地獄の黙示録』でのM・ブランドのモンスターの様な我がままぶりが語られますが、本作を観て真の怪物はコッポラだったのが良く判りました。まあ、良くぞ完成させたと褒めてあげたい。 L・フィッシュバーンが撮影当時は14歳だったと知ってちょっとびっくりしました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2012-10-29 20:51:00) |
1604. ウッディ・アレンの愛と死
《ネタバレ》 W・アレン映画にしては珍しいコスチュームもので、ロシア軍とナポレオン軍の合戦シーンまであります(もっともTVのお笑いバラエティでやってるレベルですが)。だけども実際にはこの映画はアレンがスタンダップ・トーク芸を見せたくて撮った様なもので、のべつくまなく喋り続けです。私はこのアレンの芸は嫌いじゃないですけど、耐性のない人には堪らないでしょうね。そのアレンにしゃべくりで返すD・キートンが、ヘタなコメディ演技ですべりまくっていてちょっと無残でした。ギャグもヘタな下ネタのオン・パレードで全体的に学生の自主映画みたいな感じです。この映画のつぎに撮ったのが『アニー・ホール』とはある意味で凄すぎです。 [ビデオ(字幕)] 4点(2012-10-27 12:20:36) |
1605. ロボコップ(1987)
《ネタバレ》 ヴァーホーヴェンは磔にされて復活したキリストのイメージをマーフィーに重ねていたそうです。でもそのキリストは、単に新しく生まれ変わったマシーンではなく、この世に残してきた妻子の記憶に苦しむひとりの男でしかなかったというわけです。マーフィーが空き家になった自宅を訪れるエピソードには何度この映画を観ても心が痛みます。 私には「こんな映画、今まで観たことない」と感嘆させられた映画の一本です。スプラッター度は製作当時ではハリウッド史上最凶だったのではないか、今観てもそのエグい描写は衰えていません。ルイス巡査のN・アレンもこの映画の時が最高に輝いていました。ヴァーホーヴェンの名を不朽のものにした映画史に残る傑作です。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2012-10-25 22:17:04) |
1606. ハートブルー
《ネタバレ》 サーフィン・スカイダイビング・銀行強盗、落語の三題噺みたいなプロットでもちゃんとアクション映画になるとはさすがK・ビグロー、“ハリウッドの女J・ウー”の面目躍如です。『イレイザー』のシュワちゃんの5年も前に、パラシュート無しのスカイダイブをK・リーブスがやっていたとは知りませんでした。ここまでやると普通バカ映画と呼ばれるものですが、あまりにもアクション演出がキレまくっているので無茶が通ってしまいます。あのダイビング・シーンの壮絶な美しさは、その後本作を超えた映画がいまだにないと言えるのでは。大根役者の極北・K・リーブスも、この映画のP・スウェイジぐらいカッコいいキャラと絡めると、けっこう観られるもんですね。でもラストでキアヌくんダーティ・ハリーの真似をしてましたけど、あまり様になっていませんでした。 ここからは私の妄想ですが、邦題をつけた宣伝マンはきっと試写も観てなかったんですよ。資料にサーフィンとダイビングの文字を見て、「ん、ダイビング?じゃあL・ベッソンの『グラン・ブルー』の路線だな、『ハート・ブルー』ってのはどうだ」と言う感じです。ダイビングはダイビングでもこっちはスカイ・ダイビングだっちゅうの! [DVD(字幕)] 7点(2012-10-23 19:57:06) |
1607. 勝利への脱出
《ネタバレ》 第二次世界大戦の捕虜収容所脱走映画ってたいがいは実話ものだけど、この映画は珍しくフィクション。まあフィクションならもっと弾けるバカっぷりがあってもいいけどね。 それにしても、捕虜たちの服装が綺麗すぎて実感を損ねている。『戦場にかける橋』の英軍捕虜のズタ袋を被った様なボロボロの軍服とは好対照です、もっとも『戦場にかける橋』はビルマだからハダカでも何とかなりそうですが。ドイツ軍将校の軍服がまた考証が行き届いているのは感心したけど、騎士鉄十字章(喉元にぶら下げている鉄十字章)をつけた将校が多すぎるのはちょっと興ざめです。この勲章、全軍で7,000人しかもらってないんですから。でも、スタジアムでナチ党関係者はナチ式敬礼、国防軍の軍人は普通の敬礼ときちんと見せているところなどは印象が良かったです。 ペレをわざわざキャスティングした割にはあまりに見せ場が少なくてもったいない限りです。肝心の試合の見せ方が単調すぎると言うのはちょっと致命的で、サッカーに縁が薄いアメリカ人のジョン・ヒューストンがメガホンをとったのがそもそも失敗だったかも。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2012-10-20 20:50:45) |
1608. 妖星ゴラス
《ネタバレ》 私の中では“はやぶさ”と言えば、“妖星ゴラスのJX隼号”と昔から決まっています。バンザイしながらゴラスに吸い込まれて散ってゆくクルーたちは、何と日本的なことか(そういやこの映画、やたらバンザイするシーンがありますが)。古今からさまざまなSF映画が製作されたけど、ここまで壮大で大乗的な視点の大法螺話は映画史に残る偉業です。高度成長期の日本のバイタリティは、なんと地球まで動かしてしまったんですから大したものです(笑)。 南極からジェット噴射しながら地球が動く画って、稚拙な技法かもしれませんが今の眼で観ても凄い映像です。東宝特撮ミニチュアワークの粋を凝らした南極での工事シーンは見応えがあり、建設現場のミニチュアから溶接の火花が見えるように撮っているのは感心しました。 あまりに不評な唐突に怪獣が出現するシーンも、ここで登場する航空機が後に『ウルトラマン』で科学特捜隊が使用するジェットビートルの原型になっていることは評価してあげたい。 この映画で異彩を放つのは、久保明と宇宙飛行士たちの異様なまでに高いテンションと陽気さです。彼らの描き方を観ていると、旧海軍の戦闘機パイロットたちの文化をそのまま持ってきた様な印象を受けます。「宇宙飛行士は駕籠かきみたいなものよ」なんてセリフまであった気がしますが、まだ日本ではアストロノーツという職業への理解がまだ浅かったのが伺えます。当時はアメリカではジェミニ計画が進行中でしたが、『ライトスタッフ』を観れば判るように、宇宙飛行士には知力体力ともに超人的な能力が必要だと言うことは想像を超えていたんでしょうね。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2012-10-19 20:58:02) |
1609. 戦火の馬
《ネタバレ》 E・ワトソンやP・ミュランといった渋い俳優が出演していると言っても、この映画の主役はやっぱりサラブレッド・ジョーイでしょう。ちょっと驚異的なレベルの演技を見せてくれますが、CGテクノロジーが発展しているのでどこまでが実物の馬なのかとついつい詮索してしまいます(実はフルCGだったりして)。 スコセッシが『ヒューゴの不思議な発明』を撮ってますし、ハリウッドの二大巨匠が相次いで子供向け素材から作品を創作しているのは興味深い。二人とももう孫がいる世代だし、仏心が芽生えてきたのかな。 この映画は戦争を題材にしてますがスピルバーグの残酷趣味は抑えられており、馬とともに自然を美しく映すかに全力を注いだ観が強い。英国軍騎兵隊が葦の原から現れて突撃を開始するシーンは、さすがスピルバーグと言うイマジネーションだ。でもラストのあまりに鮮烈な夕陽はちょっとCG使い過ぎでやり過ぎの感は否めなかった。 [DVD(字幕)] 6点(2012-10-17 23:11:41) |
1610. 少女妻 恐るべき十六才
《ネタバレ》 まずは驚愕のトリヴィアから、なんとこの映画は昭和35年度芸術祭参加作品なんです!! さすがに受賞したわけではないみたいですが、恐るべし昭和30年代! 冒頭シーンでは明るい音楽が流れ、セーラー服の少女たちが校庭でバスケをしながらはしゃいでいます、まるで『青い山脈』か『若い人』みたいな雰囲気ですね。大騒ぎしながら校庭を飛び出し繁華街に繰り出した彼女たちは、一軒の喫茶店に入ってゆきます。開店前の店内にはケバイおネエちゃんがいて少女たちを叱ります、「商売衣装着て遊んでんじゃないよ、お前ら!」 何とこの娘たちはバリバリの娼婦だったんですよ。新宿駅東口のハモニカ横丁あたりが縄張りのヤクザが仕切っている売春組織で、組のチンピラがそれぞれのヒモになっています。娼婦とヒモで疑似夫婦というわけです。このヒモたちを定期的に“人事異動”させて担当する娘を変えるというのがビジネスライクで実に面白い。でもユキと五郎は真剣に愛し合うようになって、何とか組織から逃げ出そうと苦しみます。 この映画、予想外に丁寧に撮られていて、とくにユキと五郎の破天荒なカップルの恋愛は、同時期の松竹ヌーヴェル・ヴァーグを連想させるような瑞々しいタッチなんです。でも新東宝らしいダサさはもちろん健在で、客分として組に流れてきた殺し屋天知茂がやってくれます。天知のヘアスタイルがまた変でして、ビートルズをはるかに先取りした様なマッシュルーム・カットが全然似合ってません。堅気になって引退した仇敵が宇津井健こと“ハジキのブラック”、名字が黒木だからなんですがこのセンスが新東宝テイストなんです。そしてラストは新東宝お得意の無理矢理対決で、今回は“拳銃日本一”を賭けたガンファイトでした。 というわけで色々ヘンなところはありますが、最近観た新東宝プログラムピクチャーの中ではかなりいい味出している一篇でした。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-10-16 23:07:17) |
1611. 美女と液体人間
《ネタバレ》 最近、新東宝のプログラム・ピクチャーに嵌まっていたので久しぶりにこの映画を観ましたが、同時期の新東宝の映画と比べるともう超大作という感じでした(笑)。東宝特撮映画にしては珍しくタイトルに“美女”なんて単語を使っているところなぞ、それでも多少は新東宝の路線を意識していたのかな(新東宝なら間違いなく『裸女と液体人間』でしょうな) 人間が水爆実験の死の灰を浴びて液体生物に成り果てるなんて現代では大クレームが殺到すること間違いなしですが、その後ハマープロなど海外でも使われたことでも判るように、けっこうセンス・オブ・ワンダーに満ちたプロットだと思います。だけど、液体人間が何でギャングたちの周辺に出没する必然性が意味不明。ここら辺をよく整理した脚本だったらもっと良い作品になったことでしょう。 “美女”こと白川由美、彼女こそ東宝特撮映画のクイーンなのかもしれないと見直しました、それぐらい彼女は光り輝いていましたね。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-10-14 23:22:11)(良:1票) |
1612. 女奴隷船
《ネタバレ》 新東宝、というか大蔵貢はいかにして手持ちの女優でエロっぽい映画を撮るかに全精力を注いできたのですが、それにしても本作は相当に奇想天外な映画です。 太平洋戦争末期、菅原文太はドイツのレーダー設計図(これが女性の写真の裏に隠しインクで印刷されているというわけが判らん設定)を南方から本土へ運ぶ任務を遂行中に乗機が撃墜されてしまう。気がついたらそこは船の中、その船は九州から上海に売られてゆく日本人女性を運搬している船だった。その船は丹波哲朗が首領の海賊船(!)に襲われて女たちと文太のほかは皆殺しにされ、本拠である無人島に拉致される。 はあ、思い出すたびに何とバカげたプロットかとため息が出るばかりです。丹波たち海賊は説明がないけど中国人みたいで、まあそれはいいけど丹波のファッションが幅の広いベルトにグリーンのサテンのシャツ、まるっきりカリブの海賊なんです、バンダナはさすがにしてないけど。 女たちを売り飛ばす組織の女王様は新東宝いちのヴァンプ女優である三原葉子でして、彼女がまたタータンチェックのベストに革のブーツとなんか違和感のある衣装で登場するんですよ(もっともその後は薄い半裸に近い衣装で通してくれます)。他の女たちもそうなんですが、みんな当時の六本木あたりで見られたファッションというのは、どうなんでしょうね(笑)。中盤では三原葉子がアラブ風衣装でセクシーダンスを踊ったり、三原と女たちがパンツ丸出しで乱闘して見せたりと期待されているものは一応見せてくれます。 ヒーローは菅原文太ですが、その文太の演技が驚くほど下手くそなんです。アクションシーンも腰が引けていて様になってないし、丹波の方が上手い役者に見えるというぐらいですから、相当なもんです。海女映画ではあんなに露出していた三ツ矢歌子まで、ひとりだけお嬢さんルックで肌も全然見せないと言うのには、当時のファンから罵声を浴びたんじゃないですかね。 ラスト、文太と女たちが高速艇で島を脱出するのですが、さんざん裏切ってあくどい事をしてきた三原がヒロインみたいな表情で船首に立っているのはびっくりです。まあ良くも悪くも、本作は彼女のための映画だったということでしょうか。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2012-10-10 23:46:23)(良:1票) |
1613. 死ぬにはまだ早い
《ネタバレ》 情事を終えた元レーサーと人妻。女を車で送りに行くが、街道では殺人犯を追っている警察が検問をしている。夜11時、喉が渇いたので山小屋風のドライブインに二人は入る。店内には新婚カップル、常連の医者、おつむの軽い若い娘ふたり、タクシー運転手、そしてカウンターの隅っこで黙々とマッチを積み重ねる陰気な男などの客がいた。そこに拳銃を持った男が乱入してくる… ここでネタばらしちゃいますけど、実は本作は64年製作の『恐怖の時間』を翻案した映画なのです。原作は菊村至の『閉じ込められて』という小説なんだそうですが、原作自体が『恐怖の時間』をネタにしたということなんでしょうか。 『恐怖の時間』と違ってこちらは男が立てこもってからは完全に密室、誰も入ってきません。客たちのエゴはだんだんむき出しになってきて、自分だけは助かろうとして醜い行動をする奴も出てきます。黒沢年男が演じる立てこもり犯は、浮気した恋人を射殺しその浮気相手を殺すために店に来たのですが、いきなり見回りの警官を射殺する凶暴な奴です。こいつは『恐怖の時間』の山崎勉とは違って鬼畜のような男で、医者に新婚の女をレイプさせようとしたり緑魔子には裸になることを強要したりでやりたい放題です。この頃の黒沢年男はこういう激情に駆られて身体を動かすキャラをやらせたらピカイチですよね、セリフは聞き取りにくいけど。 低予算ながらもほぼドライブイン店内だけで繰り広げられる密室劇としてはかなり濃度が高いと言えます。ジュークボックスがあって、そこから森進一の『花と蝶』やザ・タイガースの『青い鳥』なんかを聞かせるところなど独特のテイストに満ちています、この映画は。ラストにちょっとしたオチがあるのですが、『恐怖の時間』と比べても毒味がはるかに利いています(基本的には同じオチなんですけどね)。 こんな映画がソフト化されていないのは実に不思議。この映画の内容が、後におこった三菱銀行北畠支店の有名な事件に似ているからというあまり説得力のない説もありますが、真相はどうなんでしょうね。監督の西村潔には、ほかにも完成したのにお蔵入りさせられて観た人がほとんど皆無の『夕映えに明日は消えた』という正真正銘の幻の映画があり、まあ不運な人だったみたいです。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-10-08 14:33:41) |
1614. 恐怖の時間
《ネタバレ》 渋谷の宮益署は夕方6時を過ぎてのんびりとした雰囲気に包まれていた。刑事課の部屋に若い男(山崎勉)が入ってきて「刑事の山本さんいらっしゃいますか」と尋ねた。帰宅しようとしていた初老の刑事(志村喬)が「わしが山本だが」と答えると、男は突然拳銃を突きつけて在室していた他の三人の刑事も武装解除して部屋に立てこもった。実は男は人違いをしていて、恋人を射殺した山本和夫刑事(加山雄三)をねらっていたのだが彼はまだ署に戻っていなかったのだった。 エド・マクベインの『殺意の楔』が原作だそうで、古典的な密室限定サスペンスです。密室と言っても、刑事部屋に三回も人が入ってくるのでどんどん人質が増えてくるのに、肝心の加山雄三がなかなか帰って来ないと言うのがサスペンスになっているのです。山崎勉はニトログリセリンを持っているので、人数が多い刑事たちも手が出せない。加山雄三は奥さんと食事をしたり、射殺した女の家に弔問に行ったりしているのを並行してカメラは映してゆきます。 ここまで観ていちばんイラつかされるのは、加山がまるで若大将みたい陰がない坊ちゃんで、正当防衛とはいえ女性を殺してしまったという苦悩がまるで伝わってこないところです。対照的に山崎勉は死んだ恋人のことを嘆くばかりで、熱演だとは思うけどキャラとしては深みに乏しい。貧乏だが真面目な恋人同士だったことは回想映像で語られるけど、なんで女が麻薬取引の現場にいたのかが説明されないのが作劇としてはとても不可解でした。刑事部屋に閉じ込められた人々と山崎努との駆け引きは見せ場として重要なのですが、どうも監督のサスペンス演出にキレがないのであまり盛り上がりませんでした。それでも、志村喬や土屋嘉男など刑事たちの海千山千ぶりは、観ていてなかなか面白かったです。 ラスト、事件が解決してからやっと加山雄三が警察署に到着して、「救急車が来てましたけど、何かあったんですか?」とボケをかますんです、これには笑いました。奥さん(星由里子)まで犯人に騙されて殺されかけたってゆうのにね、まったく… [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-10-08 14:33:32) |
1615. ジャッキー・ブラウン
近年になって評価が上がってきた様な気がしますが、タラ映画の中でも最も不評な一篇みたいですね。初見の時から気にいった自分としては、どうしてそんなに評判悪いか判りませーん。 ムダ噺や時系列をいじくった演出がほとんど見られないなど、世間がタランティーノに期待しているところを見事に裏切ってくれたせいでしょうか。でもP・グリアやR・フォスターの絶妙な演技を観ていると、タランティーノは普通に映画を撮っても超絶的な技巧を持っていることは良く判ります。この映画ではとくに長回しが多くて、そうなると俳優の演技力の優劣が観客に良く判り、監督にとっても腕に自信がなくちゃチャレンジしたくないものです。 タランティーノはこの映画では真横からP・グリアを撮ったショットがやたら多いんです。確かに横から見ると彼女の黒人離れした堀の深い顔がとても美しく、タランティーの彼女に対するリスペクトが窺えます。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-10-04 22:32:50) |
1616. 理想の女
原作の舞台をアマルフィに、主人公ウィンダミア夫妻をアメリカ人へと変更してますが、ストーリーとの違和感はなく良く馴染んでいます。アマルフィみたいな名所を舞台にすると、某日本映画みたいに半ば観光案内みたいなものを想像しちゃいますが、さすがにあんなバカなことはしていません、この映画は。米英の有閑上流階級がひと夏を過ごす場所としては持ってこいじゃないですか。 オスカー・ワイルドの戯曲が原作ですから、全篇ウィットに富んだ名セリフのオンパレード状態。良く聞くとけっこう辛辣なんですが、笑えます。この映画を観た最大の収穫は、何と言ってもH・ハントの女ぶりの良さ!熟女の魅力が大爆発です。スカヨハなんて演技はもちろんのこと、彼女の前ではまだまだガキです。T・ウィルキンソンも良かった、今まで観た彼の役の中で一番だったと思いました。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-10-01 21:04:48) |
1617. ならず者部隊
《ネタバレ》 50年代はハリウッド製戦争映画の不作の年代で、本作もその中の一本。南部の大農園主であるR・ワグナーが徴兵されて(たぶん)フィリピン戦線に派兵され、農園の小作人たちと同じ部隊で苦労しながら人間性に目覚めてゆく、というのが大まかなストーリーです。アメリカは州兵単位で師団を編成するので、同郷の地主と小作人が同じ部隊で肩を並べて戦うというのはまああり得る話でしょう。軍隊はどこの国でも階級が同じならみな平等というのは大原則ですが、アメリカ南部のように貴族的な風習が残っているとちょっと面白いことになる場合もあるわけです。映画としては良くあるパターンなんですけど、それを戦争映画にしたところがユニークと言えなくもない。 この映画の唯一の見どころは、実はワグナーの上官であるB・クロフォードのキャラ設定なんです。異常に臆病で自分に対して敬礼をさせない(自分が指揮官であることがばれると狙われるから)。常に二人の美青年兵士に警護させていて、彼らとホモセクシュアル関係にあることが暗示されている。この二人だけは上半身裸で、実に変な雰囲気なんです。そんなクロフォードも解任されてしまいますが、そのとたんにきちんと階級章をつけた軍服とヘルメットを着用してジープに乗りこみ、あっという間に狙撃兵に撃たれて死んでしまいます。まるで覚悟の自殺みたいな最期で、名優らしい存在感がありました。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2012-09-29 23:32:16) |
1618. スネーク・アイズ(1998)
《ネタバレ》 ニコラス・ケイジのリック・サントロというキャラクターがなければ観たことを忘れてしまいそうなぐらいデ・パルマ映画の中でも印象が薄いんです(個人的にはけっこうデ・パルマは好きなんですけど…)。 外ではハリケーンが荒れ狂っているアリーナという閉じられた空間の中で、色んな種類のカメラに逐一見張られていると言うプロットの肝心のところがあまり生かされていないんじゃないでしょうか。デ・パルマ映画に特有の粗が目立つストーリーは凝った舞台設定が目くらましなければいけないのにね。まあニコジーが好演してくれたので何とか観れました、ラストにかけて転落してゆくところなんか特にいい! ところでいちばん最後に見せてくれるあのオチなんですけど、エンド・ロールは普通カットされる地上波では見せてもらえないんでしょうか? [CS・衛星(字幕)] 6点(2012-09-27 20:12:02) |
1619. 絶海の裸女
《ネタバレ》 フィリピンから日本へ向かう船が戦時中に設置された機雷に触雷して轟沈、ボクサー二人に流行歌手とマネージャーおよびその付き人二名、この男女6人が無人島に漂着する。まあ新東宝版の『LOST』みたいなもんです。歌手はボクサーと恋仲だったけどマネージャーに手篭めにされもう一人のボクサーにも犯され、そうなるともう怖いものなしという心境で無人島の女王みたいになってゆく。邪魔になった元恋人ボクサーはマネージャーに右手を岩で潰され、定期船に発見されるも彼だけは島に置き去りにされてしまいます。そしてここからが新東宝お得意の電気紙芝居の始まりで、洞窟に隠された旧日本軍の財宝を発見するのです。と聞けば、そうあの『女真珠王の復讐』の男性版にして同じプロットの使いまわしだったというわけです。この悪役マネージャーは新東宝一の怪優である沼田曜一が演じているのですが、中川信夫の『地獄』で観る者を震え上がらせた怪演には遠く及ばない凡庸な演技でした。歌手は久保菜穂子なんですが、“裸女”のはずが水着姿すら見せません、完全な題名詐欺状態です。でも彼女、前田美波里に似た顔つきがけっこう良くて気に入りました。この人女任侠もの映画で初めてヒロインを演じた、藤純子への道を拓いた偉大な(?)功績の持ち主なんだそうです。 後半は財宝をせしめて大富豪となったボクサーが日本に舞い戻って自分を置き去りにしてきた三人に復讐するわけですが、ほんとに安っぽい紙芝居みたいなもんですから、何も語ることはありません。 それにしても新東宝、現代ならば誇大広告で消費者庁あたりから手入れを喰らうんじゃないでしょうか(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2012-09-25 20:55:13) |
1620. 海女の戦慄
《ネタバレ》 伝説のグラマー女優、前田通子です。顔はわりと地味ですが、とても昭和30年代の女性とは思えないナイスバディは評判通りでした。「海女の慕情」なんて題名の主題歌まで披露してくれるのですが、これがけっこう上手いんですよ。そういや、海女の衣装が彼女だけビキニというのがなんか変ですけど… そしてまたまた出ました三ツ矢歌子、露出シーンは彼女の方が明らかに多いぐらいです。 内容はまあとくに語るようなものはありませんが、酒場がまるで西部劇に良くあるサルーンみたいだったりして日活の無国籍アクション風に撮ろうとした努力の跡は認めてあげましょう。だけど船員に変装した海保の捜査官が現れると、もうここら辺で観るのを止めようかという気分になりました。彼だけが白塗りの時代劇風のメイクで、アクション(らしきもの)もチャンバラ映画のヘタな立ち回りみたいなんですもの。 まあ元は二本立て・三本立て興行のためのプログラム・ピクチャーですから、怒っちゃ大人げがないのでしょう。 [CS・衛星(邦画)] 2点(2012-09-23 22:19:15) |