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161.  パラサイト 半地下の家族 《ネタバレ》 
北米の映画館にて英語字幕版を鑑賞。話題の作品ということもあって映画館はほぼ満員。笑ったり、驚いたり、感度のよい観客のみなさんも最後は不思議な静けさに。ポン・ジュノ監督らしい格差社会の「寓話」です。絶対的・絶望的なわかりあえなさを描いたという意味では、監督の達観した「毒」が見事に発揮された一作だと思います。序盤の貧乏一家がどんどん金持ち一家に入り込んでいくプロセスは、それぞれが自分の思考の枠組にいいように考えるプロセスをコメディタッチで描いて、どんどん引き込まれます。大雨の日から一転する物語は、「パラサイト」、モールス信号、臭いなどをメタファーに、これでもかと貧乏一家を追い詰めます。とくに半地下の家が水没するシーン、その後の避難所のシーンは、ちょうど同時期に日本を襲った台風・大雨のニュース映像を思わせ、そこに浮き彫りにされる格差の現実は韓国だけの話ではないのだと痛感しました。韓国映画らしい凄惨なシーンに続くラストは、それでも貧乏一家が見せる人間性の力強さをじんわりと伝えてくれて大満足。大雨のシーンを思えば、来年1月と言わず今すぐに日本で公開してほしいと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2019-11-07 19:31:23)(良:2票)
162.  イエスタデイ(2019) 《ネタバレ》 
設定だけの「出落ち」映画かと思ったけど、意外と楽しめた。最後のクレジットで脚本が『ラブ・アクチュアリー』『ノッティングヒル』のリチャード・カーティスと知って納得。ビートルズはこの映画のテーマではなく、あくまで「設定」で、メインは売れない歌手の主人公と幼なじみのガールフレンドのあいだのラブコメだ。主人公の周辺がちょっとヘンだけどみんな「いい人」なのもこの手の映画の定番。恋愛のライバルが簡単に身を退いちゃうのもそう。というわけで、主人公も、歌詞の世界や人間関係などにも詳しい熱心なファンではなく、いち音楽ファンとしての立ち位置なので、ビートルズのほうはあまり深堀りしない。そういう意味では、終盤の「あの人」登場は個人的には蛇足だったように思う。海の近くで1人ひっそりと暮らすなんてルーク・スカイウォーカーかよ、とちょっと思ったりして。「あの人」が出てくるんだったら、「あっちの人」は?とか余計な疑問が広がったりもして・・・。ベタなラブコメを、ビートルズのいない世界というアイデアで味付けした映画、として楽しんだほうがいいんだろう。ただ、50年間「ラブ&ピース」も「イマジン」もなかった世界だと思ったら、もう少し毒がある展開でもよかったんじゃないかなあ、と思ったりもする。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 6点(2019-11-07 19:02:48)
163.  アトミック・ブロンド 《ネタバレ》 
雰囲気作りはすばらしい。歴史の大きな転換点にあったベルリンの雰囲気、80年代のイントロ最強二大巨頭といえるBlue Mondayで始まりUnder Pressureで終わる音楽。シャーリーズ・セロンの痛そうなアクションの数々。「当たれば痛い」という当たり前のことをちゃんと描いてる。アクションの描き方が丁寧で、動きがロジカルなのも見ていて気持ちいい。ただ、その雰囲気とストーリーが合っていないような・・・。いわゆる人間的なドラマよりも、誰が味方で誰が敵かわからない&実のところ主人公が何者かもわからないというサスペンスで引っ張るのだけれど、半分を過ぎたあたりからだんだんどうでもよくなってくる。ストーリーを追わなきゃという意識がだんだん麻痺してくる。終始鳴ってる音楽と見せ場多数のアクションもまるで「そうはいってもストーリーあんまり関係ないですよ」というメッセージに聞こえてくるというか・・・。スパイ映画、政治スリラー映画、アクション映画、音楽映画、シャーリーズ・セロン映画の要素をぎゅっと凝縮して2時間以内に詰め込んだ結果、トータルバランスがちょっとおかしくなったように思います。映画ってやっぱり足し算だけじゃなくて、引き算も大事なんだなーと思いました。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 6点(2019-11-05 23:32:14)
164.  タクシー運転手 約束は海を越えて 《ネタバレ》 
ソン・ガンホは相変わらず素晴らしい。彼の英雄的とは言い難い、娘想いの1人の中年男の目線から、少しずつ光州で起きている事態が明らかになっていく序盤〜中盤がすばらしい。だからこそ、終盤のあの交差点での彼の迷いに誰もが共感できるし、その決断が感動的なものになる。でも、それ以上に印象的だったのは、主人公の周りの庶民キャラのみなさん。タクシー仲間から光州の学生まで、揃いも揃って、水木しげるの漫画から出てきたような「庶民」顔。対する軍側にはもうちょっと整った顔立ちの方々が目立つなど、このキャスティングはたぶん狙ってやっている。そういうフツーの庶民キャラのおかげで、自国民に銃を向けるという行為が、いかに異様で恐ろしいことなのかが伝わってくる。悲劇のあいだに挟まれるコメディタッチのやりとりも効果的。エンターテインメントの教科書のような展開だった。難点は、教科書どおり過ぎる展開(とくにミュージシャン志望の学生の顛末)と(他の方も挙げている)ラストのアクション。ラストのチェイスは、絵としては盛り上がるわけだけれど、若い兵士のなかにも疑問視する人がいたというかたちで結んだほうが、庶民のヒロイズムを描いた本作にはふさわしかったはずなのに、本当にもったいない。まあ、でもあそこでサービスしちゃうのが、韓国映画らしいのかもしれない。軍事独裁時代の話とはいえ、自国の負の歴史をエンタメ風味できっちり描く韓国映画界にも敬意を表して。
[インターネット(字幕)] 7点(2019-11-03 05:56:32)(良:2票)
165.  ジョーカー 《ネタバレ》 
見終わった後、しばらく呆然と立ち上がれなかった。社会のどん底で苦しむ男アーサーが、どんどん追い詰められて狂気に達する話・・として見れば、実は映画としてはよくあるモチーフだと思う。それでも、この映画で描かれる悲劇は、貧しさや病気を抱える困難だけではない。むしろ、一度は自分も「何者か」なのかもしれないと期待したところから突き落とされるアイデンティティの危機が、危険な一線を超えるきっかけになっているところが、現代のジョーカー像に説得力を与えている(だから彼が「墜ちる」境界線を超える行為は、病院でのあの行動になるのだろう)。それも、アーサーの内面にまで入り込むくらい近接するカメラワークと、肉体全体で狂気への道のりを表現したホアキン・フェニックスのどうかしている演技あってのこと。どうやったって比較されてしまうのは『ダークナイト』のジョーカー像だろうけれど、ホアキン・フェニックスの濃密な内面をさらすジョーカーへのアプローチは、ヒース・レジャーの恐ろしく空虚なジョーカー像とは対照的で、全く異なったジョーカーを描くことに成功した。個人的には、ラストのゴッサム・シティの「暴動」の表現には、ある種の嫌悪感すら抱いたけれど、それも監督の狙いなんだと思います。それにしても、ファレリー兄弟といい、アダム・マッケイといい、おバカコメディ映画を撮ってきた監督のシリアス路線の切れ味はすさまじい。きっと「コメディ」のなかに、映画の何たるか、というのが詰まっているのでしょう。
[映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2019-10-05 22:47:27)(良:3票)
166.  バイス 《ネタバレ》 
アダム・マッケイ監督の前作『マネー・ショート』は公開年の個人的ベスト映画だっただけに、同じ路線の政治ドラマコメディとして期待値が上がりまくった状態で鑑賞。面白かったけど、期待したほどではないか・・・というのが見終わった第一印象。前作も今作もポイントは、ある人の成功物語の背後に世界的な悲劇が存在するという両義性にあると思います。思わず笑ってしまうんだけど、実はこの笑いの裏に惨劇・悲劇が潜んでいるという居心地の悪さ。今作も、ホワイトハウスでのややバカバカしい会話劇の合間に、空爆や拷問などの目を背けたくなるシーンが挟み込まれています。ただ今回は、惨劇面は「言われなくてもわかっている」感はあるので、ちょっとしつこいというか、くどい印象もありました。そこは前作くらいのバランスのほうが効果的だったか。演技面は、あいかわらずの外見まで変えてきたクリスチャン・ベイルをはじめ、エイミー・アダムスのリン・チェイニーも、スティーヴ・カレルのラムズフェルドも、サム・ロックウェルのジョージ・Wも全部すばらしく、めちゃくちゃ高いレベルの演技を堪能できて、それだけでも楽しいです。ナレーターの正体のアイデアは面白いと思ったけど、この物語でこのプロットがどこまで重要だったのかは、よくわからない。そして、「あえて」チェイニーの内面を描くことを避ける(「そのとき彼が何を思ったのかはわからない」というナレーションは秀逸)手法も、とても興味深いと感じたけれど、その意義はまだ自分のなかでうまく理解というか落とし込めていない。全体としては、もう少し時間がたつか、何回か繰り返して見ると、じわじわとこの映画の良さ、斬新さがわかってくるのかもしれない、そういうタイプの作品でした。
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 7点(2019-09-14 22:21:59)
167.  マーダー・ミステリー 《ネタバレ》 
まあ、細かいことを言ってはいけない作品なのは間違いない。自分としてもお気楽作品をNetflixでサーフィンして巡りあった一本。時間も90分ちょいと長すぎず。お節介でセレブ願望ありのジェニファー・アニストンと妻の尻に引かれるテキトーな警官アダム・サンドラーの夫婦は、それぞれ18番な役どころなので、二人の掛け合いは楽しいし、最初の殺人のときの不謹慎ギャグなどつい笑ってしまった箇所もいくつかある。南仏〜モナコをめぐる観光気分も悪くない。忽那汐里さんがハリウッドで元気にしてる姿を見るのもいい。とはいえ、肝心のプロットがダメ過ぎる。中盤以降のどんでん返しの連続は、犯人が誰かなんてどうでもよくなるという意味で明らかに逆効果だし、中途半端なカーチェイス(しかも中年女性がF1ドライバーを追うという無茶な展開)がこの映画に必要なのかもわからない。ある意味、自分のように90年代に『フレンズ』とかアダム・サンドラーのコメディ映画が好きだった方限定で、何の期待もせずに見れば、それなりに楽しい時間は過ごせるか・・・。それ以外の人は手を出さない方がいい気がする。
[インターネット(字幕)] 4点(2019-09-14 03:12:52)(良:1票)
168.  アベンジャーズ/エンドゲーム 《ネタバレ》 
1つの映画を次の映画の予告編にしてしまったMCUには、ちょっと自分は否定的でした。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズや「ブラックパンサー」は楽しく見てましたが、ヒーロー大集合の「アベンジャーズ」にはどうも興味を持てず、飛行機で暇な時に見る程度の中途半端な観客でした。ただ、いよいよすべての予告編の「完結編」が出たことと、たまたま少し時間ができたことで、これまでの主要作品をまとめて見てみることに。そうすると、一つ一つの映画にちゃんと個性があって、さらに「assemble」させる脚本・演出の巧みさに感心し、徐々にはまっていき、いよいよの「エンドゲーム」でした。  個人的には、前作『インフィニティウォー』がヒーロー大集合ものの究極的な作品であっちこそが「マーベルらしい」作品かなと思いましたが、「エンドゲーム」は逆に最初からこの作品に関わってきた6人にスポットライトがあたり、展開もスローでマーベルらしいジョークもまじえ、じっくり描いてました。その方法として、タイムスリップを導入するのも脚本の妙。ただたんに歴史改変ものとするだけでなく、それぞれが抱えている過去と対面し、それぞれの過去に「落とし前」をつける展開になっている、文字通りの完結編。そして、タメにためて「assemble」の一声からやっと本当のヒーロー大集合バトル、そしてさらに30分かけてのエンディング&クレジット。というわけで、これは「昔からの」ファン大感謝祭だったわけですね。これは11年この作品に付き合ってきたファンの方からすれば、11年越しの伏線回収なわけで、あらためてこのプロジェクトがすさまじい時間とエネルギーで作られたことがわかります。もちろん、ここ1ヶ月くらいで追っかけてきた自分も、それはグッとくるものはありましたが、11年見てきた人はこんなん冷静に見られないんじゃないかと、余計な心配までしてしまいました。  ただ、後付けのタイムスリップや自己犠牲展開は、ヒーロー映画としてはちょっと残念。過去に戻っても取り返しがつかないからこそ「ヒーロー」を人々は求めるわけだし、自分や誰かを犠牲にしない選択肢を模索するのも現代のヒーローには必要なんじゃないかな、と。そういう意味ではソウル・ストーンの件とラストはうーん。ここは違う展開を期待していました。  それでも、この作品から学んだことは、映画はスタッフと俳優だけでできるものではなく、観客・ファンがいてはじめて成立するもの。そして、11年見続ける人たちがいたから、この壮大な実験が成立し、私のような「ニワカ」かつ「懐疑派」でも楽しめるように、ちゃんと終わってくれた。11年間これを熱心に支えてきたファンのみなさんに心から敬意を感じました。
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 8点(2019-08-26 07:58:07)(良:4票)
169.  キャプテン・マーベル
ブリー・ラーソンがとにかく魅力的。「ワンダーウーマン」のような典型的美人ではないけれども、表情や仕草で、可愛さ、美しさ、芯の強さがしっかり表現されてる。たぶん、「女優を魅力的に見せる」ことについては、ルッソ兄弟ではなく、今作の演出陣で大正解だったのだと思う。オスカー女優に微妙なスーツのマーベルヒーローかよ、とちょっと疑問符でしたが、それが吹き飛ぶはまりっぷりでした。ストーリーも、90年代ネタはいちいち楽しく、若返ったサミュエル・L・ジャクソンとのやりとりも楽しい(でも「パルプフィクション」を思えば若返り過ぎで登場時は笑ってしまった)。『インフィニティウォー』からのつながりは、思ったより本筋におかれていて、続けてみてればお得感もある。ただ、インフィニティウォーを見てしまった後だと、この映画のアクション演出のつまらなさがとても残念。ブリー・ラーソンの鈍重な走りっぷり。単体でみればなんだかのどかで微笑ましくむしろ好感もあるのですが、『アベンジャーズ』シリーズのブラック・ウィドーやらオコエやらのかっこいい女性アクションを見た後だと、ちょっとレベルが違い過ぎる。さらに、アクションのスピード感、特殊能力の見せ方、「待ってました!」的な見栄の切り方など、先に「インフィニティ・ウォー」を見ていないと楽しみ半減な作りなのに、先に見てしまうとこの映画のアクション演出にがっかりするしかないという矛盾・・・・。単体でもおすすめできる完成度ですが、『インフィニティウォー』と『エンドゲーム』という超超大作に挟まれたことで単体で評価しにくい難しい立ち位置になってしまった一作という感じです。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 6点(2019-08-25 22:07:32)(良:1票)
170.  アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 《ネタバレ》 
ヒーロー多過ぎで、ごちゃごちゃしてそうで敬遠してきたMCUですが、やっぱり見てみるかということでほぼ順番に見てきました。そのなかで一番びっくりしたのは、この『インフィニティ・ウォー』かもしれない。続編があるのはわかっているので、どうせ中継ぎなんだろうなあとは思っていたし、だからラストの「衝撃」はそれほどでもなかったんですが(それはそれで楽しみを半減させてるとも言えるけど)、それより驚いたのは、ごちゃごちゃ出てくるヒーローたちの世界観をちゃんと保ったまま、ヒーロー大集合をやってのけた、という点。とくに新顔のドクター・ストレンジとか、GOTGの面々とか、ブラックパンサーをそれぞれの映画世界のまま持ってきちゃったのは、脚本も演出もすごいと素直に感心しました。とくに、GOTGについては、ピーターとガモーラ、あと色物要員としてロケット&グルートくらいしか出番はないかと思ったら、ドラックスやネビュラ、さらにマンティスにまでちゃんと見せ場があってびっくり。このすさまじいバランス感覚。ほかにも、オコエとブラック・ウィドーとスカーレット・ウィッチの「強い女」3人衆の戦いとか、ソーとロケットの掛け合いとか、トニーとストレンジのちょっと似たもの同士なやりとりとか、説明抜きで、掛け合いと戦いぶりだけで登場人物どうしの関係性が見事に描かれていて、さすがのマーベル・スタジオの脚本&演出センスに脱帽でした。『シビル・ウォー』では無理矢理感があったヒーロー大集合(あれはキャプテン・アメリカ世界に無理矢理ほかのヒーローを連れてきた、という感じだった)ですが、今作くらいやり切ってくれたら満足です。ただ、その割を食ったのは、もしかしたらオリジナル・メンバーたち、とくにキャップ(最初「誰?」状態)、ハルク(今回はギャグ担当か)、ブラック・ウィドー(ワカンダだと「強い女」枠も交通渋滞)だったかもしれないけど(あとお休みだったホークアイ)、彼らの見せ場は次作なんでしょう、きっと。全員に見せ場を用意して盛り上げ、かつ物語上不都合のないかたちで退場させて整理し、最終作のための舞台設定をする。中継ぎ映画としては最強・究極の映画。
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 8点(2019-08-23 02:21:49)(良:1票)
171.  シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ 《ネタバレ》 
実は何度か飛行機で見ようとしたのですが、MCUの真面目な観客ではない私は、そのたびに寝落ちして結局よく覚えていないので、『アベンジャーズ』シリーズ完結に向けた復習の流れで再見。ちゃんと見たら面白かった! 『エイジ・オブ・ウルトロン』で誰もが思った「やりすぎじゃね?」というツッコミは、今作への壮大な伏線だったというのに感心。っていうか真面目そうにやってるけど、昔ウルトラマン見たあとの小学生のツッコミ「ビル壊しすぎじゃね?」を、これだけ哲学っぽく話広げて、大真面目に語るところが好きだ。キャプテン・アメリカの行動だって、少年漫画的な「友情」第一主義で考えればよくわかるし、みんな難しい顔してるけど、言ってることややってることは小学生でもわかる。でも面白いのは、それがちゃんと大人にも大人の物語として受け止められるところだ。キャップはこれまでの経験から国家や組織というものを信じていない。これは天才社長にはわからない感覚だろう。この「生き方」の違いが、ちゃんと二人の対立のベースにあるから、小学生みたいな仲違いをしててもちゃんと深みが生まれるのだ。ただ、そこを(たとえばノーランのように)掘り下げる方向にはいかず、基本的にはバカバカしいアクションで語らせる、というルッソ兄弟の哲学もよい。二人の対立は、陳腐な言葉を積み重ねるよりも、殴り合いでその思いは十分に伝わる(それはやっぱり少年漫画だ)。この物語の主軸部分だけだったら満点の出来だった。ただ、どうしようもないことだけれども、これはヒーロー大集合祭りでもあるので、その対立にいろんなキャラを絡ませなくちゃいけない。当然、話も長くなる。ただ、もう私の頭はルッソ兄弟のような情報処理能力を備えてはいないようで、正直なところ、ブラックパンサーもスパイダーマンもアントマンも「そこにいなければいない理由」を見出すことができず、ただただバタバタとめまぐるしく展開する絵の洪水に身を委ねるだけでした。まあ、それがマーベルだ、と言われてしまえばそれまでなんだけど、個人的にはそこを「惜しい」と思ってしまう。もっと上質な体験が出来たはずなのに、と思ってしまう。なんともやりきれない一作でした。その意味では極個人的には『ウィンターソルジャー』のほうが完成度は高かったなあと思ってしまいます。
[ブルーレイ(字幕なし「原語」)] 7点(2019-08-18 09:53:56)(良:2票)
172.  ライオン・キング(2019) 《ネタバレ》 
娘がアニメ版を歌も台詞全部覚えるくらい見てて大好きなので、現地での公開直後に家族で鑑賞。人間が登場せず、おそらくCGで精密に描かれた動物たちが主役のこの映画が「実写」なのか?という疑問は大いにあるのですが、それはさておき、IMAXの映像と音響で見れば、冒頭のプライドロックのシーンからおなじみのタイトルまでの流れは、やっぱり鳥肌ものでした。ただ、IMAX効果も実写効果の感動も長続きはせず、徐々にクエスチョン・マークのほうが大きくなっていく・・・。疑問その1は、あまりにアニメ版に忠実な絵と物語・・・。もともとストーリーは父の死からの定番の成長物語なので、あまりいじる必要がなかったし、いじるリスクのほうが大きかっただろう。けれども、25年ぶりのリメイクなのに、ほとんど何の「再解釈」もなく、ただ同じ話を見せられるのは思ったよりも辛かった。疑問その2は、アニメ版にあったダイナミックな絵の魅力は実写によってむしろ減じているということ。とくに、「I just can't wait to be a king」の歌のシーン。アニメ版では奇想天外な絵が繰り広げられるのですが、実写では残念ながらその豊かなイマジネーションがまったく活かされていない。アニメ版の絵をそのまま再現することは不可能だからこそ、ここは実写班の腕の見せ所だったと思うのですが、残念ながら数少ない実写独自の描写がうまくいっているようには見えない。疑問その3は豪華すぎる声優陣の使い方。ドナルド・グローバー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)とビヨンセという今もっとも影響力がある黒人シンガー2人を主役キャストに配しながら、その魅力がまったく活きていない。キウェテル・イジョフォーもジェレミー・アイアンズの真似の部分のほうが目立つ。キャスティングが発表されたときは、『ブラック・パンサー』級の新世代のブラック・ムービーとして生まれ変わるのか!?と期待MAXだっただけに、あまりにおとなしい声優陣と、ちょっと気を遣った風に挿入されるビヨンセの新曲・・・。結局、敗因はアニメ版に対する制作陣の敬意が大きすぎたこと、だったのだと思う。この手の映画だったら普段は盛り上がる映画館も、今回は終わっても反応がほとんどなかったので、そう感じたのは私だけではないんだろう。
[映画館(字幕なし「原語」)] 4点(2019-07-24 00:09:11)(良:1票)
173.  バッド・ジーニアス 危険な天才たち 《ネタバレ》 
面白かった! カンニングをめぐるバリエーションの豊かさ、サスペンスは娯楽映画として楽しめるレベル。カンニングへと引き込まれていく「天才」2人の描写も、それなりに説得力はあった。海外留学こそが成功への道になっている新興国の若者を取り巻く環境、実は「能力」主義でも平等でもない(「天才」であっても常に奨学金獲得と「模範学生」であれというプレッシャーにさらされる)受験戦争の背後にある経済格差の問題が、爽快なカンニング・シーンの苦めのフレーバーになっていてよい。とくに、主人公とそのライバル役の2人は外見も演技も個性が光ってて、素晴らしかったし、彼らの「仲間」になるクズ学生たちもどこか憎めない感じ、悪意なく主人公たちに頼ることに躊躇しない感じがいかにも「金持ち学校」の生徒っぽくてよかった。ただ、とにかく残念だったのは、最後の試験シーンの描写。邦画でもよくある西洋人俳優のクオリティの低さ、近年のSATではあり得ない試験の描写(シドニー受験でペーパー試験はない、受験者の少なさ、会場(どっかの図書館?)のありえなさ)は、ラストのカンニングのサスペンス感を削ぐのに十分な破壊力でした。「そうゆうもの」として受け入れるべきなんだろうけど、自分も受験経験があるので、あのリアリティのなさはちょっと受け入れ難い。そのまえのチーム分裂の危機からのシドニーへ、の流れが素晴らしかっただけに、本当に残念でした。
[インターネット(字幕)] 7点(2019-07-23 23:47:08)
174.  アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
トーニャ・ハーディングとその関係者の証言ドキュメント仕立てで、彼女の半生と彼女を一躍時の人にした襲撃事件の裏側を描く。一つの出来事を異なった立場の人々の視点から描く「羅生門」風な組み立てにもなっているので、常に誰かの主観で物事を眺め、ドキュメンタリー風なのに時には「真相」自体が宙ぶらりんになる感覚が新鮮。基本的には、トーニャ、母、夫、コーチ、夫の友人で自称ボディガードの5人の語りが交錯していくのだが、物語が、この狭くて濃厚な「レッドネック」(白人貧困層への蔑称)の世界にどっぷりとはまっているのが面白い。アメリカではフィギュアスケートは、しばしば選手だけでなくその家族の物語として描かれる(日本でも五輪メダリストの家族の物語をやたら追いかけるのは一緒か)ので、審査員にそこを指摘された時のトーニャの困惑と母親へのアプローチ(とその失敗)のシーンは、彼女という「異物」を結局は排除してしまったスケート界やメディアへの強烈な皮肉だった。ただ、映画として夢中で見ていたのはこのあたりまでで、終盤の肝心の襲撃事件の話はどうしても主体が彼女から夫とその友人のほうへ移行してしまうので、物語の軸がぶれてしまって、個人的には少し飽きてしまった部分もあった。まあ、それもふくめて彼女が生きた「世界」だったのだろうけれど。でも、最後に彼女を訪れる母親の行動には絶句・・・・。あのシーンは、「家族」という物語を徹底的に突き放した、この作品の白眉でした。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 7点(2019-07-13 21:05:01)
175.  ヴェノム 《ネタバレ》 
トム・ハーディ演じるさえない負け組男エディと同じく異端の宇宙人ヴェノムの寄生獣的バディもののやりとりの数々は楽しかったです。個人的にはヒーロー誕生譚がけっこう好きなので、実はヴェノムとの共生関係が始まるまでがとても楽しかった。自分の体の異変に気づき、恐怖し、でもそれを受け入れていく過程はもどかしいけれど、そのなかで築かれるヴェノムとの関係が微笑ましく、中盤にかけてはかなり好きな映画でした。ただ、そのほかは残念なことのほうが目立ちました。まず「ダークヒーロー」に見えないところ。動物を生で食べちゃうことくらいしか悪役っぽさがなく、ヴェノムもあっさりエディや人間の味方になってしまう。バディものコメディであっても「最後にこいつは裏切って自分を乗っ取るかもしれない」緊張感はやっぱり必要。むしろペット的なかわいさを強調するような描き方(子犬に取り憑くあたりは特に)には違和感多し。「悪役」なのに「悪くない」映画の系譜にまた1本追加されたという感じです。それから、生ぬるい描写。『デッドプール』があれだけできたのに・・・。むしろディズニー系マーベル作品ではできない踏み込んだ描写が、この作品にはできなかったものか・・・。結局、後半は、平板なアクションが続き、平凡なラストに着地してしまいました。この路線で行くんだったら、続編はあまり期待できないか。
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 5点(2019-06-04 22:52:59)
176.  フロントランナー 《ネタバレ》 
個人的に贔屓なジェイソン・ライトマン監督作品でしかも政治劇ということで期待して鑑賞。大統領予備選挙での最有力候補(フロントランナー)がスキャンダルで転落、という大筋から考えると、政治的な陰謀ドラマ、とくに『ハウス・オブ・カード』的なものを期待してしまいますが、そこはライトマン監督、政治スリラーというよりは、個人の信条が徐々に時代とかみ合わなくなる悲哀の物語として、とてもパーソナルな政治映画という趣でまとめていました。都会的・知的かつセックスアピールもある有力政治家ゲイリー・ハート役にぴったりなヒュー・ジャックマン。信念を持つ政治家としての魅力と男性としてのちょっとした隙の共存が、こんなに似合う俳優もいないかと。そして、その信念ゆえに、彼は自分が陥った苦境を理解できず、記者会見で深みにはまっていく様子の空回り感、無力感も見事でした。自分の「正しさ」を確信するがゆえに、少しずつ変化する時代の空気を感じられない彼の姿にゾッとする男性観客も少なくないのでは? 政治家としての彼を信じながらも、少しずつ溝ができていく記者たちやスタッフとの関係の描き方も丁寧でした。ただ、ダイナミックな政治劇を期待するとちょっと肩すかしかも。なんでもないシーンでの視線や言葉の交わし方、表情とか細かいところに、映画の魅力が詰まっているタイプの作品だと思いました。 
[CS・衛星(字幕なし「原語」)] 7点(2019-06-04 22:38:23)(良:1票)
177.  IAM A HERO アイアムアヒーロー 《ネタバレ》 
面白かった! 何よりもゾンビ1体1体が「モブ」ではなく、「個性」があるのが魅力。その人の生前がどんなものだったのかが浮かび上がり、それぞれが個性のある動きを見せる。だからゾンビと戦うアクションも単調にならず、とくに都会でのゾンビ大発生の大パニックからタクシーでの脱出のシークエンスは、文字通り息つく暇なく夢中で楽しめました。また、そんなアクションの主人公を演じるのが大泉洋というのがまたいい。「大泉洋」なのにちゃんとその役の人になりきって見えるという彼の役者としての魅力は、この映画でも十分に味わえます。とくに不穏な雰囲気のなかで英雄の日常を描いた序盤のおかげで、そこからのパニックのスピード感が際立つ。後半のショッピングモール以降は、一転古典的な社会風刺風ゾンビ映画になりますが、ラストの連射バトルは「ラスボス」の魅力もあってダレずに楽しめました。難があるとすれば、原作ありものゆえの説明不足感か。結局ヒロミは何なのかよくわからないし、主人公が「発症」しない理由(これは恋人が彼を想って「歯」を折ったから、というふうに思えるけど、それで回避できるようなウィルスなのかな・・)や伊浦がどこで噛まれていたのか、とか、そのあたりのロジックが続編ありきなのかおざなりだった。あとモールの空間的な位置関係もわかりにくく、終盤はアクションの勢いで押し切られた感じでした。とはいえ、これだけの本格アクションが楽しめる日本映画、そうはないと思います。
[インターネット(邦画)] 7点(2019-06-01 08:09:41)
178.  祈りの幕が下りる時 《ネタバレ》 
長時間フライトで眠れなくなったときに、機内映画でよく東野圭吾作品をチョイスするのですが、今回もそういう事情で鑑賞。橋の名前が鍵になる序盤は引き込まれた。字幕での経過説明はうざかったけど、主人公の家族も絡む複雑な話をテンポよく見せるのに成功していた。ただ、開始1時間くらいで、もう松嶋菜々子が怪しいというか、ほぼ犯人確定していくので、残り時間どうするんだろうと思ったら、そこから延々と逃避行ドラマでした。この部分、小日向さんと若手の女優さんがすばらしい演技で盛り上げるのですが、音楽がうるさすぎるのと、話の中身自体は東野作品によくある「身代わりもの」の話だったので新鮮味も少なく、ちょっと残念。東野さんって、文章だとベタな人情話を乾いたタッチで描くところがうまいと思うのだけれど、映画はいつもその逆を行ってしまう・・・。もうちょっと違う演出家で見てみたいなあと思ってしましました。
[DVD(邦画)] 5点(2019-05-25 05:46:00)(良:1票)
179.  メアリと魔女の花
休日のひまつぶしに、子どもと一緒に北米版DVDを英語音声で見ました。英語の吹き替えはもともとキャラクターが西洋人なのでまったく違和感なし。ただ、この内容とキャラであれば、ケイト・ブランシェットとジム・ブロードベンドは完全な無駄遣いでした。彼女たちは、あの支離滅裂なキャラをちゃんと納得して演じていたのだろうか。それにしても噂には聞いていただけれど、予想以上にジブリの「劣化コピーもの」でした。序盤こそ、メアリをめぐる家族関係とかいろいとワクワクする要素があったけれど、魔法学校に行ったあたりからは、ジブリっぽい絵と設定のもとで脈絡なく展開するストーリーにどうでもよくなりました。子どもたちも飽きたようで、1人は途中で席を立って自分の部屋へ行ってしまいました。米林監督、日テレをはじめ巨大資本に囲まれて思うようにできないのも想像できますが、3回目のチャンスでこれは酷いです。幸い、好き嫌いはあるけれど、ここ数年のアニメ映画界は、片渕さん、新海さん、湯浅さんなど中堅どころの作り手が次々新しい表現・作品に挑戦しています。ジブリ1強だったいままでが不健全だったのかもしれません。
[DVD(字幕なし「原語」)] 3点(2019-05-15 03:00:52)
180.  ダンボ(2019) 《ネタバレ》 
イースターの連休に子連れで映画館にて鑑賞。観客の入りは子連れ中心でまあまあ。序盤のサーカス描写やキャスティングを除けば、全体としてはティム・バートンのカラーは薄め。そのへんはディズニー・クラシックだからなあと思っていたら、後半には明らかにウォルト・ディズニーとディズニーランドへの風刺を込めた展開に。ではそれが痛快なのかというとそういうわけでもなく、なんだか微妙に腰が引けているというか、やりきってない感じ。ラストで動物をサーカスから解放しましたという場面の直後に馬に乗って現れる主人公・・・が象徴的。一方で、風刺を盛り込んだせいか、物語のエンタメ的なテンポや盛り上がりにも欠け、全体として夜が主体の暗い場面も多いので、誰に見てほしい映画なのかがよくわからない、ちぐはぐな一作となっていました。なによりもダンボの「飛翔」が目玉のはずなんだけど、「飛ぶ」といってもテントのなかをぐるぐるするだけなので、明らかに爽快感に欠けたのは残念でした。
[映画館(字幕なし「原語」)] 4点(2019-05-07 01:23:16)
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