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プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 2000年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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161.  アウトランダー
モンスターを輸送中の宇宙人が事故って地球に不時着。モンスター退治のため宇宙人はそのまま地球に滞在って、まんまウルトラマン第1話なのです。しかもその舞台は現代ではなくバイキングの時代。これはとんでもないバカ映画だと期待したのですが、内容は至って真面目です。演技も演出も真剣そのもの、主演はイエス・キリストを演じた経験もあるジム・カヴィーゼルですからね。その他、バイキングの王にジョン・ハート、ライバル勢力の族長にロン・パールマンと共演陣も渋めで、本作は真っ当な時代劇として製作されています。変におちゃらけていないことは評価できるのですが、同時にこの真面目さが、本作が持つはずだった闇鍋的な面白さを奪う原因ともなっています。内容は「ベオウルフ/呪われし勇者」と大差ないもので、主人公が宇宙人である必要も、敵が宇宙怪獣である必要もなくなっているのです。また、本作のドラマパートは「13ウォーリアーズ」に酷似しているのですが、重厚な男のドラマだった「13ウォーリアーズ」と比較するとキャラクター描写が浅く、見応えに欠けます。SFという前提がドラマを消化不良にしており、SFと時代劇が食い合う形となっているのです。その他、撮影や編集が悪いために訳のわからない場面が多く見られたり、音楽がワンパターンで聞き飽きたり、モンスターのCGが甘かったり(2001年に製作された「ジェヴォーダンの獣」と同水準)と、技術的な面においても残念な部分が目立つ仕上がりとなっています。。。なお、本作は製作費5,000万ドルという大作でありながら、北米での興行成績はわずかに16万ドル。大コケどころか、公開前の時点で勝負を諦めていたとしか思えない成績です。美しいロケーションや渋い俳優陣に対して音楽やVFXが雑なのは、この辺りの事情が関係しているのかもしれません。
[DVD(字幕)] 4点(2012-01-06 20:57:08)
162.  グッド・シェパード
エリック・ロス脚本作品はとにかく長い。フォレスト・ガンプ、インサイダー、コールド・マウンテン、ミュンヘン、ベンジャミン・バトン、代表作はどれも2時間半前後の長尺です。例に漏れず本作も長いのですが、ベテラン監督が手掛けていた前述の作品群に対して、本作の監督を務めたのはロバート・デ・ニーロ。役者としては超ベテランでも監督としては新人同然であったため、案の定、脚本を追い掛けることに終始して冗長な仕上がりとなっています。上映時間は2時間47分なのですが体感時間はそれよりも長く、「そろそろクライマックスかな」と思って時計を見ると、まだ2時間も経過していなかったという笑えない状態となっています。興味深い題材を扱いながら、その面白みを観客に伝え損ねているのです。ソ連のライバルスパイなどは良い味を出していたんですけど、そういう美味しい部分に限って軽くスルーしてるし。そこに追い打ちをかけるのがマット・デイモンのワンパターン演技。デイモンは全編に渡って出ずっぱりで、しかも彼の役どころは思いを胸に秘めて多くを語らない性格(はじめての恋人は聾唖者という分かりやすいキャラ設定)。つまり、デイモンは微妙な表情のみで演技をしなければならないわけですが、彼の演技の引き出しはそれほど多くはなくて、終始難しい顔をしているだけという状態でした。何も語らず、同じ表情で固まっているだけのデイモンを2時間47分も眺めているのは正直つらかったです。同世代の俳優であれば、芸達者なエドワード・ノートンにでも演じさせた方が良かったように思います(鉄仮面を被り、一度も素顔を晒さずとも存在感をアピールした「キングダム・オブ・ヘブン」をご覧ください)。
[DVD(吹替)] 4点(2012-01-02 20:23:10)(良:1票)
163.  ディファイアンス 《ネタバレ》 
ハリウッドで定期的に製作されるホロコースト映画にはプロパガンダ臭がするため、私はそれらに対して懐疑的な姿勢を持っています。本作についても「どうせいつもの『私達は被害者です』映画だろう」と高を括って観ていたのですが、前半を見終わって、これはホロコースト映画ではないことに気付きました。ユダヤ人の被害者意識が殊更には強調されていないし、ナチスによる残虐行為もほとんど登場しません。それどころか、ユダヤ人の中にも仲間を苦しめる者がいたことや、捕虜となったドイツ兵にリンチを加える場面がきちんと描かれていて、ユダヤ人寄りの映画ではないことがはっきりとわかります。本作のテーマはホロコーストではなく、森で数年間立て篭もらざるをえなくなった人々の戦いという、恐ろしく単純なものだったのです。ダニエル・クレイグ演じるトゥビアの、リーダーとしての苦悩に対して特にスポットが当てられるのですが、リーダーシップに関する考察としては興味深い内容となっています。立て篭もったユダヤ人達は食うにも困る状態にあり、そんな中では「自分さえ良ければ」という風紀が横行しがちとなります。自分の生存すらままならぬ状況では、他人を思いやる余裕などないからです。だからこそ、集団を維持するための強力なリーダーシップと厳格な規律付けが求められるのですが、ここでトゥビアはひとつの大きな問題にぶち当たります。いよいよ状況が極まり、規律を無視する者が現れた時、リーダーとしてこれにどう対処すればよいのか?ある者は、「食糧は全員で平等に分配する」という規則を破り、貴重な食料を独り占めしようとしました。ある者は、「妊娠をしてはならない」という規則を破り、子供を作ってしまいました。トゥビアは、前者に対しては死を与えましたが、後者は無罪放免としました。しかし、規則違反という点では後者に対しても何らかの罰が与えられるべきではなかったのか?ここに集団維持や規則というものの難しさがあります。例外を認めると規律は崩壊してしまうし、かといって厳格すぎると形式が先行して規律が破綻してしまう。結局、トゥビアはこのジレンマを乗り越えることができず、クライマックスではリーダーとして機能不全に陥ってしまいます(運よく援軍に救われただけで、あのままでは全滅していました)。「こんなオチ、ありなの?」とも思ったのですが、なかなか興味深い着地点だとも思いました。
[DVD(吹替)] 7点(2011-12-19 01:59:34)
164.  2012(2009) 《ネタバレ》 
21世紀のジョン・ギラーミンことローランド・エメリッヒが放つ、映画史に残る大バカ超大作でした。これまでもエメさんは大風呂敷広げまくりのバカ映画を作ってきましたが、今回はバカの度合いが桁外れ。合衆国大統領が娘にまで隠している国家機密を、なぜかド田舎でDJやってるキ○ガイが事細かに知っているという不思議。超極秘とされている箱舟建造場所まで知っているのはナゼなんだ。その箱舟は全長が数キロにも及ぶ巨大船であるにも関わらず、工具がたったひとつ挟まっただけで動かなくなるというハリボテ仕様。「ドアが完全に閉じないとエンジンが動かない」って、一体どんな設計してるんだ(笑)。主人公は自分達が助かりさえすれば良いと思っている超絶ワガママ人間で、眼下で数千万の人間が死んでいても冗談を言えるタフな心を持っています。彼らが乗る巨大輸送機を使えば数百人の命を救えたにも関わらず、10人程度の身内・知り合いだけを乗せて火事場から飛び立つという倫理観の欠落ぶりには呆れました。合衆国大統領、輸送機のパイロットら、勇気を出して自己犠牲を買って出た人間は必ず死ぬという暴虐ぶりで、生き残った人間達はその自己犠牲について省みることもなく「俺が俺が」と言い続ける有様。ラストでは、家族の絆を取り戻したんで邪魔になってきた再婚相手が、実に調度良いタイミングで死んでくれるというハイパーご都合主義が炸裂します。生き残ったファミリーは、彼らの生存のためにあれこれ頑張ってくれた再婚相手のことを微塵も思い出すことなく、「俺ら生き残って良かったよねぇ」と新天地への希望を膨らませるのでした。。。なんだこの映画は(笑)。もしこれらすべてが計算のうちで、アメリカ人の貪欲さを描く壮大なブラックコメディであったとしたら、この映画は世紀の大傑作であると思います。ただし、ヘルムズリー博士がたまに英雄的な行動をとったり、家族愛で泣かせようとするくだりがいくつか挿入されている点から判断すると、エメさんはこの映画を大真面目に作ってるっぽいんですよね。その頓珍漢ぶりがなんともカックンなのですが、映画史上最大の破壊が繰り広げられる前半の素晴らしさに免じて5点とします。
[DVD(吹替)] 5点(2011-12-06 20:20:06)(笑:2票)
165.  ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記
「インディ・ジョーンズ」も「ハムナプトラ」も古代エジプトに題材を求める中で、アメリカ合衆国の浅い歴史からアドベンチャーを捻りだすというこのシリーズの基本コンセプトは嫌いではありません。また、過去のアドベンチャー大作が古き良き時代をその舞台として設定していたのに対し、「現代を舞台にアドベンチャーをやったら?」という本シリーズの思い切った切り口も悪くはないと思います。撃ち合い、殴り合い、殺し合いはなく(主人公は銃を持っていない)、あくまで頭脳を駆使した謎解きと追っかけのみという見せ場作りも、その意気込みは買いましょう。。。 ただし、製作陣が自らに課した厳しい条件に耐えられるだけの脚本を準備できていないことが、本作を不幸にしています。謎は魅力的ではないし、謎解きにも面白みがありません。先祖の汚名を晴らすことと、幻の黄金郷を発見することがどうやったらイコールになるのかがまったく腑に落ちないし、ニコラス刑事がブツブツつぶやくとすぐに謎が解けてしまうというマヌケな謎解きにも、途中から付き合いきれなくなります。英国女王の執務室に潜入する、合衆国大統領を誘拐する、歴代大統領のみしか見ることを許されない極秘文書を覗き見る、やってることはとんでもないのに、どれもこれもがアッサリと成功するためにまったく見応えがありません。せっかくの見せ場が見せ場として機能していないのです。キャラクターの動かし方もうまくなくて、エド・ハリス演じるウィルキンソンは場面によって別人かと思うほど性格が安定していないし、ハーヴェイ・カイテル演じるセダスキーはその存在自体が不要。今回はゲイツの助手のライリーにスポットが当たっているものの、残念ながら彼の成長物語にはなっていません。もみあげのないニコラス刑事の髪型は気持ち悪いし、ダイアン・クルーガーは相変わらず学者には見えません。テンポは悪くないので見れない映画ではないのですが、一方問題点をここまではっきりと指摘できる映画も珍しく、良い評価のしようのない仕上がりとなっています。 
[DVD(吹替)] 4点(2011-12-05 01:16:21)
166.  G.I.ジョー(2009)
原作が男の子向けの玩具であり、アメコミよりもさらに下の年齢層を対象とした作品であるため、本作の設定の粗さには文句を付けません。敵組織の目的がサッパリわからなかったり、国際社会におけるG.I.ジョーという組織の位置付けが謎だったりしますが(各国領空に自由に侵入する権限を持っている一方で、地元警察に拘留されたりする)、男の子向けのアクション大作でそういう細かいことを言うのは野暮ってやつです。しかし、本作の構成のマズさは指摘されるべきでしょう。とにかくペース配分がメチャクチャで、映画は2時間もたずに失速します。G.I.ジョー登場にはじまり(スネークアイズかっこよすぎ!)、メタルスーツによる見たこともないチェイスが繰り広げられる前半は大いに楽しめるのですが、物語にまったく起伏がない状態で緊張感皆無の撃ち合いをダラダラ続けているだけでは、後半に入ると一気に飽きが来ます。前半ほどインパクトのある見せ場を配置できなかったことも致命的で、本作はペース配分が完全に狂っています。。。 「ハムナプトラ」以降のスティーブン・ソマーズ作品はすべてこの傾向にあって、冒頭からフルスロットルで見せ場を畳みかけるものの、途中で息切れしてクライマックスでは平凡なドンパチをやってしまい、尻すぼみになって終わるということをここ10年間繰り返しています。この監督が「インディ・ジョーンズ」に憧れているということはわかります(「ザ・グリード」は当初、ハリソン・フォードが主演する予定だった)。冒頭で観客の心を掴み、冒険の世界に引きずり込むというアクション映画が心底好きなのでしょう。ただし、冒頭でハデな掴みをやれば、観客はそれ以上の見せ場を本編に期待します。スピルバーグにはその期待に応える力量があったのですが、残念なことにこの監督にはその力量がありません。だからこの人の映画はつまらない。予算制約によって冒頭に掴みのアクションを入れられなかった「ザ・グリード」がフィルモグラフィ中もっともバランスの良い娯楽作に仕上がっていることが何とも皮肉です。 
[DVD(吹替)] 4点(2011-11-02 23:44:35)
167.  パーフェクト・ゲッタウェイ 《ネタバレ》 
デヴィッド・トゥーヒーはハリソン・フォード版「逃亡者」のオリジナル脚本を書いたことで注目され、当初は子供向けアドベンチャーだった「ウォーターワールド」をダークなディストピアSFに書き直すなど(ケビン・コスナーがせっかくの毒気を消したために映画の出来は散々でしたが)90年代のハリウッドでは一目置かれる脚本家でしたが、2004年にユニバーサルが年間最高クラスの予算を投じて製作したSF大作「リディック」を微妙な結果に終わらせてしまい、それ以降はハリウッドの表舞台から姿を消していました。そんな御大が5年ぶりに手掛けたのがこの「パーフェクト・ゲッタウェイ」なのですが、大物脚本家の満を持しての復帰作とだけあって、これが壮絶な仕上がりとなっています。あまりに面白くてぶったまげました。。。 この映画、不気味な予兆を重ねる前半部分からイヤ~な汗をかかせてくれます。ちょっとした不親切からヤバイ相手に絡まれ、凄惨な事件に引きずり込まれていくという導入部はいわゆる「テキサスもの」の流れなのですが、これを閉塞感のあるテキサスではなく開放感あるハワイでやったところが本作の新しいところ。陰惨な連続殺人とハワイとはイメージ的に結びつかないのですが、浮かれた新婚カップルが他人とトラブルを起こして楽しい気分がブチ壊されるという誰もが容易に想像できる不快感を間に挟んだことで、両者をうまく結び付けています。主人公カップルが疑心暗鬼に陥る中盤も巧く作られていて、現在行動を共にしているカップルはどうやらヤバそうだが、もっとヤバいカップルから目を付けられている手前、このカップルからは離れられないという緩やかな八方塞がり感がお見事です。そしてラストには空前絶後のオチが待っているのですが、加害者と被害者が逆転し、主役と脇役が交代するという大胆なオチには意表を突かれました。「ズルい!」とも思ったのですが、犯人カップルの会話を振り返ると、これがオチと見事に整合しています。観客の先入観を利用して彼らを被害者であると錯覚させていただけで、彼らの会話は獲物を選別する犯人の会話としてきちんと成立しているのです。この大胆さと緻密さには完全にやられました。お見事!
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-31 19:52:29)(良:1票)
168.  クライム&ダイヤモンド 《ネタバレ》 
残念ながら面白く感じませんでした。全体的なプロットは良いのですが、細部があまりに雑なのでアラばかりが気になります。そもそも主人公フィンチは詐欺師なのですから、彼の語る物語には真実と嘘が巧妙に混じり合っていて、その嘘を解き明かしていく過程で全体像が見えてくるというのがこの手の映画の基本でしょ。例えばダイヤモンドに係るエピソードはラスト近くにまで伏せられていて、最後の最後で主人公の目的はダイヤモンドを奪うことだったという話にすればよかったのですが、そういう捻りがこの映画にはありません。詐欺師がバカ正直に事実を話してどうすんだって感じです。また、タイトルにもなっているクレディス・タウト氏に係る謎についても同様です。刑務所を脱獄した主人公フィンチは逃亡用の新たな身分を得るためクレディス・タウトという死者の名を騙るのですが、このクレディス・タウトとはマフィアの逆鱗に触れて暗殺された人物でした。タウト氏は生前から正体不明の人物であったことが劇中で語られるため、彼の正体が映画の重要なピースのひとつになると考えるところですが、驚いたことにタウト氏に係る伏線は完全に放棄されて映画は終わってしまいます。この雑さはさすがにアウトでしょ。その他にも本作にはご都合主義が横行していて、中でもダイヤモンドを掘り起こしたい主人公が自ら刑務所に収監されるエピソードの粗さには唖然としました。主人公:俺を刑務所に収監してくれ→警察:自分を刑務所に入れろっておかしくないか?ま、いいか。主人公:俺が刑務所内の庭を掘ることを認めてくれ→警察:刑務所の庭に何か埋まってるのか?ま、いいか。結果、何の苦労もなくダイヤモンドを掘り起こしてしまう主人公。犯罪ミステリーでこんな頭の悪いやりとりをしちゃいけないでしょ。詐欺師である主人公が口八丁手八丁で警察に無理な要求を飲ませるというプロセスを入れていればストーリーの説得力が増すし、主人公のキャラクター付けにもなったはずなのですが、シナリオはそうした工夫を完全に怠っています。監督・脚本を担当したクリス・バー・ヴェルなる人物は本作以降ハリウッドから姿を消していますが、有名俳優を何人も配置したこの企画をこの程度の仕上がりに終わらせたのでは、干されたのも仕方ないと思います。
[DVD(吹替)] 3点(2011-10-28 09:51:06)(良:1票)
169.  告発のとき 《ネタバレ》 
これは困りました。まったく面白みのない捜査が90分以上も続くため酷い評価をしてやろうと思っていたら、ラスト30分で監督の意図がわかった瞬間に傑作になってしまいました。まったく面白くないが、素晴らしさは十分に伝わってくる映画。とても評価に困ります。 タイトルの” the Valley of Elah”とは古代イスラエル軍とペリシテ軍の決戦の地。ペリシテ軍が誇る巨人兵士ゴリアテにイスラエル軍は戦意喪失し、誰も戦いを挑まない状態が40日に及んでいました。そんな中ゴリアテ退治に名乗りを上げたのがダビデという羊飼いの少年でしたが、その小さな体では甲冑を身につけることも刀を振ることもできないダビデは、小石5つとパチンコだけを手にゴリアテに挑みます。絶望的な戦力差の戦いでしたが、ダビデは恐怖に負けず冷静に石を放ち、見事ゴリアテの額を砕いてこの戦いに勝利しました。。。 この物語が示すことは、勇気を持てば大きな力が与えられるということ。本作の主人公ハンクも、息子達に勇気を持つことを求めました。しかし現実は伝説ほど容易ではありません。もしゴリアテが都合良く倒れてくれなかった場合、ダビデはどうなっていたのか?それが明かされるのが本作のクライマックスです。「勇気を持て」という親達の期待に応えてイラクに出征した若者たちは戦争の狂気に勝つことができず、完全に壊れた状態で祖国へ戻ってきました。ハンクは息子を殺した犯人を探して執念の捜査を続けてきましたが、その捜査の果てに、若者を戦地に送り込んだ自分達こそが息子を死に追いやった加害者であることを思い知るのです。ハンクには息子を救うチャンスがありました。戦争の狂気に直面したマイクがハンクに助けを求めて電話をかけてきたのですが、ハンクは息子のSOSに気付かず、ただ「戦友に涙を見せるな」というアドバイスだけをして会話を終わらせてしまいます。もしここで息子の弱さを受け入れていれば、息子を狂気で失うことはなかったのですが。。。 本作は戦場の狂気というよくあるテーマを扱っており、その内容は「ディア・ハンター」「フルメタル・ジャケット」はたまた「ランボー」とも似通っているのですが、ダビデの物語を絡めることでテーマを普遍的な親子の葛藤にまで敷衍している点がポール・ハギスの抜群の構成力の為せる技。本作は評価に困る映画ではあるものの、この惚れ惚れするほどの構成の巧さに8点以下は付けられません。 
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-27 21:18:24)(良:3票)
170.  ストーリーテリング 《ネタバレ》 
トッド・ソロンズという監督は過激な題材を扱いつつも直接的な暴力や性描写は徹底して避ける人なのですが、「フィクション」編ではかなり露骨な性描写がなされています。また、主題について登場人物がセリフではっきりと喋ることも例外的であり、「フィクション」編はソロンズ作品としてはかなり異色な仕上がりなのですが、ここにソロンズの意図があります。恐らくこのパートは過激な描写があれば立派な社会派作品として扱われる風潮への反乱であり、外面的なショックのみに反応する観客達を挑発するためだけに作られたパートなのです。こんな底意地の悪い前振りを作り、そしてそんな前振りのためだけに当時人気が出始めていたセルマ・ブレアを裸にしてあんなことやこんなことをやらせたソロンズ、恐るべしです。 そうして「フィクション」編によるウォーミングアップを終えて後半の「ノンフィクション」編に入ると、映画のイタさはフルスロットル状態となります。殺人者やレイプ魔がひしめき合っていた「ハピネス」をも超える漆黒の闇が広がるのですが、そのあまりのイタさにすっかり魅了されました。本作にヘンタイは登場しないのですが、無気力人間スクービーを除く登場人物全員が無神経であり、本人の自覚のないうちに他人を傷つけまくります。「ハピネス」のような極端さがないだけこちらの方がリアルだし、身近に感じる分見応えがありました。さらに本作が凄いのは映画史上最大のタブーにまで踏み込んだことで、ユダヤ人の被害者ナショリズムや拝金主義にまで鋭く言及しています。「うちのおじいさんはホロコーストの被害者だ(おじいさんは戦前にアメリカに移民しているため、実際にはホロコースト経験者ではない)」と言い張るリビングストン家の人々が南米からの移民である家政婦をボロ雑巾のようにコキ使い、その献身に一切の感謝もせず使い捨てにしてしまうという展開が準備されています。その家政婦が善意の被害者であるかと言えばそうでもなく、レイプ殺人を犯した孫のために涙し(孫の無実を信じているわけではなく、孫は確かにレイプ殺人を犯したが、それは悪いことではないという無茶な論理で泣くのです)、ラストでは一家虐殺までを行います。とにかく登場人物全員がどうしようもなく、観客に何の拠り所も残さない徹底したダークぶりには恐れ入りました。 
[DVD(吹替)] 8点(2011-10-24 23:47:55)(良:1票)
171.  ハンニバル(2001)
前作は、連続殺人犯の追跡と若き捜査官の成長物語を軸とした王道の刑事ものでしたが、そこにレクター博士という特殊なスパイスを加えたことで、歴史的な傑作へと変貌を遂げた作品でした。対して本作はレクター博士を見るためだけに作られた続編であり、多くの要素が有機的に絡み合っていた前作と比べると、根本的に分の悪い企画だったと思います。いわば「美人すぎる○○」みたいなもので、政治家やスポーツ選手にしては美人なので世の注目を集めるが、その美貌のみを抽出してグラビアなんかをやらせると、一気に色褪せてしまうというあのパターンと同じ。レクター博士は脇役でこそ映えるキャラクターなのです。バッファロービルを捜査するクラリスに重要なヒントを与えるが、決して多くは説明しない。「もうあと一言欲しい」というところでクラリスと観客を放り出してしまうことが、彼の知性や存在感をより大きく感じさせていました。一方本作では主人公となった博士が何から何まで丁寧に説明してくれるのですが、このことが彼の存在を小さくする原因となっています。リドリー・スコットは企画が根本的に抱えるこの欠点を理解していたようで、開き直って残酷な見せ場をこれでもかと盛り込むことで観客の恐怖心を煽ろうとしますが、完成した映画は見せれば見せるほど恐怖の底が知れてしまうという悪循環に陥っています。メイソン・ヴァージャーというもう一人の狂人を加えるというテコ入れもなされていますが、このキャラクターも完全な出オチで、インパクトがあるのは初めて顔を晒す場面のみ。ビジュアルの巨匠リドリー・スコットの限界がここにあったと思います(かと言って、仮にジョナサン・デミが続投しても優れた作品を作れたとは思えませんが)。
[DVD(字幕)] 4点(2011-10-03 23:58:52)(良:1票)
172.  ニンジャ・アサシン
「こんなに楽しめるクソ映画は久しぶり!」というのが率直な感想です。殺人マシーンが人間性に目覚めて組織を裏切るという凡庸な題材をとり、さらには脚本に何の捻りもないため話は全然面白くありません。主人公の生い立ちが描かれる前半のつまらなさには筆舌に難いものがあり、見るのが苦痛で仕方ないほどでした。しかしこの映画、中盤の大乱闘から突如息を吹き返します。ライブアクションとCGを巧みに使い分けたカッコいい見せ場の連続には目が釘付けになりました。ニンジャ軍団がベラボーに強いことにも燃えましたとも。前半では脚本を追うだけだった演出も中盤以降はノリノリで、主人公が武器を鎖鎌から日本刀に持ち換えた瞬間に音楽が変わり、スピーディな早回しからスローモーションに転換する場面には、あまりのカッコよさに鳥肌が立ちました。完全武装の特殊部隊vsニンジャ軍団という世界中の男子が妄想した見せ場もばっちりモノにしており、ハリウッド製ニンジャ映画に求められるものはきちんと詰め込まれています。高いレイティングにも関わらず北米だけで製作費の元をとるほどのヒットになったのも、男の子が喜ぶものを漏れなく詰め込んだおかげでしょう。主演のRainも素晴らしい熱演を披露しています。ニンジャ映画の主演に韓国人俳優が起用されたことには不満もあったのですが、本編を見ればこのキャスティングに納得できます。これほどのアクションをこなせて、おまけに英語を話せる若手俳優は、残念ながら今の日本では見当たらないのです。また、Rainはイケメンではないものの不思議な色気が漂っている点でもミステリアスな主人公にふさわしい空気を持っていました。こちらもまた、薄味のイケメンが多い日本芸能界にはない魅力です。
[DVD(吹替)] 7点(2011-09-24 20:16:36)(良:2票)
173.  実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
本作は3つのパートから構成されているのですが(連合赤軍結成までを描く序盤・のちに山岳ベース事件として知られる総括リンチを描く中盤、あさま山荘事件へと雪崩れ込む終盤)、タイトルが示す通り、あさま山荘事件そのものではなくそこに至る過程を重視することで、あの事件が非常に分かりやすくなっています。また、本作のように歴史的経過を追う作品は事実の要約に終始してつまらないものになりがちなのですが、本作は山岳ベース事件という美味しい部分を山場に持ってきたことで、映画としての面白さがグっと増しています。連合赤軍との付き合いもあった監督にとって本作は思い入れの強い企画だったようなのですが、ただ個人的な思いをぶつけるだけの映画に終わらせず、観客にうける形を追求したことで客観的な完成度も維持できています。俳優の演技も良く、森恒夫と永田洋子の恐ろしさは尋常ではありません。どこかで聞きかじってきたそれらしい理屈を大声で主張し、そんな自分の言葉に酔って周りが見えなくなる森、こういう男って確かにいます。他の女性に対する個人的な僻みや嫉妬心をいつまでも覚えていて、まっとうな理由付けができるタイミングでウサを晴らす永田、こういう女性もいます。彼らをレクター博士やジョン・ドゥのようなモンスターとして描くのではなく、ありふれた人格の延長としてその凶暴性を描いたことで、より恐ろしさが増しています。両者とも指導者には向かないタイプの人間なのですが、組織を結成した大物達が逮捕されるか逃亡したかという状況では、彼らが組織を仕切らざるをえなくなっていました。さらに、学生運動に何万人もが参加していた時代は過ぎ去り、運動では社会を変えられないことが明らかになった時代。少しでも我に返れば「俺達は一体何をやってるんだ」と自覚してしまうことが怖くて、彼らは内面世界へと固執するようになっていました。気に入らないことがあれば「革命のためだ!」と叫んで暴力をふるう、それによって自身の指導力不足と一向に成果をあげられない焦燥感を同時に紛らわせることが出来たというわけです。なんとも恐ろしい世界。しかし、組織のメンバー達も革命ごっこを止めたくないからリーダー達の蛮行に黙って従っていたというのですから、こちらもまた恐ろしい限りです。
[DVD(邦画)] 8点(2011-09-23 20:05:26)(良:3票)
174.  マイ・ブラザー(2009)
サム帰還後のドラマが薄すぎるため映画全体のバランスはイマイチであり、売れっ子俳優のスケジュール調整を優先して脚本を練り上げる時間がなかったような印象を受けましたが、それでも俳優陣の演技力と監督の演出力によって水準以上の作品には仕上がっています。とにかくこの映画、「気まずさ」の演出が実にお見事。夫の死という悲しみを乗り越えて新たな生活を開始した矢先に、すっかり別人となった夫が帰還してくる。誰も口には出さないが、どの顔にも「死んでいてくれた方がよかったのに」と書いてあるわけです。そんな思いを必死に隠そうとする家族と、自分は邪魔者になったことに薄々気づきながらも、なんとか元の場所に戻ろうとする夫。両者の間に流れる居心地悪い空気の表現が実に見事で、見ている私までが胃の痛むような感覚を覚えました。また、本作は帰還兵の物語であると同時に兄弟の物語でもあるのですが、こちらの面でも見応えがあります。親の期待に応えようと必死で努力する上の子供に対し、甘ったれてはいるが家族の愛情を一身に受ける下の子供。単純な家族愛の話に終わらせず、愛憎入り混じる兄弟の関係をドラマに織り込んだことで映画全体に深みが出たし、物語をより一般化することに成功しています。「ディアハンター」や「父親たちの星条旗」、果ては「パールハーバー」とも類似した内容の本作ですが、兄弟の愛憎関係を軸にしたことで独自のポジションを築くことに成功しています。
[DVD(吹替)] 7点(2011-09-14 00:55:06)
175.  チェイシング/追跡
サスペンスアクションを連想させるかっこいいタイトルですが、実際は「地獄の逃避行」や「リバース・エッジ」のような暗~い青春映画です。DVDジャケットで大きく扱われているラッセル・クロウも脇役に過ぎず、両親を殺害した罪で服役するも短期間で出所した青年と、義父の性的虐待に耐えかねて死を望む少女が本作の主人公。この二人のドライブが上映時間の大半を占めるのですが、派手な展開も謎解きもドンデン返しもなく、描かれるのはひたすらに二人の会話のみであるため、正直言って退屈します。。。ただし、映画の出来自体はそれほど悪くありません。説明的なセリフは極力排除されており、登場人物の背景や心情は薄皮を剥くように徐々に明かされていくのですが、観客に対して事実を明かすタイミングとドラマの呼吸が見事に一致しており、よく計算された脚本だと思います。月並みではないラストも主題に適合しており、余計な期待をせずに見れば、それなりに得るもののある作品だと思います。
[DVD(吹替)] 5点(2011-09-13 21:32:25)
176.  パンチドランク・ラブ
ポール・トーマス・アンダーソンが稀代の天才監督であることは紛れもない事実なのですが、この映画には最悪なまでに退屈させられました。カンヌ映画祭で監督賞を獲った作品だけあって、技術的には見るべき点が多くあります。役者の演技はどれも良いし、ところどころ笑わせる場面もあるのですが、本筋のラブストーリーが分かったような分からないような話でまったく付いていけませんでした。主人公がどれほどの問題行動を起こしても彼を受け入れ続けるリナの心境が腑に落ちないし、そもそもリナとは何者なのかもよく分かりません。「恋愛とは感じるものだ、理屈ではない」という意図から敢えて説明を省略しているのでしょうが、だとしたら観客にもバリーやリナの心境を感じさせる演出を施すべきでした。「実験的」という言葉を免罪符に、監督はあらゆる説明を放棄しているように思います。説明不足といえば、冒頭の事故、置き去りにされたピアノ、主人公の青いスーツ等、思わせぶりに登場しながら結局何の伏線でもなかったという個々のアイテムの肩透かしにも参りました。面白そうなアイテムを思いつくままにぶちまけて後片付けなしというのはストーリーテラーとして失格でしょう。シュールな物語にパズルのピースを巧妙に忍ばせるデビッド・リンチの技を学んでいただきたいところです。
[DVD(吹替)] 2点(2011-05-29 22:32:36)
177.  ワイルド・バレット
各々思惑を胸に秘めた悪人達が多数入り乱れるサスペンスアクションはよく見かけるジャンルですが、本作の面白さはその中でも群を抜いています。タランティーノやガイ・リッチー作品にも比肩するほどよく出来た脚本に加え、トニー・スコット風のかっこいい画面作り、ノンストップのスピード感、ハマりまくりの俳優陣(ポール・ウォーカーかっこよすぎ!ヴェラ・ファーミガ美人過ぎ!)、もはや文句のつけようのない仕上がりです。ヤクザ同士の権力闘争に加え、DVや児童ポルノなどネタにしていいのか微妙な題材にまで臆することなく手を付けたおかげで、本作は独自性を打ち出すことに成功しています。話が桁外れに陰惨なのです。陰惨ではあるが、救いがないわけではない。バイオレントな落とし前はきっちり付けるため、後味は妙に爽やか。その辺のバランスの取り方も最高です。この監督、「トゥルー・ロマンス」や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」といったタランティーノ自身が監督していないタランティーノ作品の大ファンと見ました。
[DVD(吹替)] 9点(2011-05-29 19:55:08)(良:2票)
178.  13/ザメッティ
ロシアン・ルーレットは一瞬でカタのつくゲームであるため映画には不向きな題材なのですが、本作はそんな困難な題材を扱いながら90分の緊迫感あるサスペンスにまとめた点で評価できます。「弾を込めろ」「弾倉を回せ」「中央の電球が点いたら撃て」という胴元の指示に従い、淡々と進められるロシアン・ルーレットの描写は実によくできていて緊張感を煽ります。殺人ゲームを扱う作品においては人を殺す過程がシステマチックであればあるほど鬼畜感が漂うわけですが、本作はそうした描写を見事にモノにしています。モノクロ映像もアンダーグラウンドの世界にピタリとハマっていて、なかなか巧く作られていると思いました。。。ただし、本作が誉められる点ってそれくらいなんですよね。外箱は上手く作られているものの、人物描写の妙や脚本上の捻りはないため中身はスカスカです。アンダーグラウンドの人達の怖さは大したものではないし、突如命を張ることとなった主人公の心理描写も意外と適当です。監督自身が脚本も手掛ける低予算映画であるためアイデア一発勝負にならざるをえなかったことは理解できるのですが、それでももうちょっと何かがあれば見違えるほど面白くなっただけに残念さが残ります。
[DVD(吹替)] 6点(2011-05-29 19:26:35)
179.  月に囚われた男 《ネタバレ》 
「ブレードランナー」をベースとして(主人公の置かれている立場はレプリカントそのもの)、「2001年宇宙の旅」に「惑星ソラリス」に「エイリアン」に「アウトランド」、さらには「ザ・フライ」を思わせる描写まで登場し、SF映画好きには堪らない仕上がりとなっています。また、単なるオマージュの集合体に終わらせず、イギリスらしい落ち着いたドラマとユーモアによって独自性を打ち出すことにも成功しており、非常にクォリティの高い作品だと思います。作業基地を制御するAIであるガーティの扱いなどはよく考えられていて、誰もがHAL9000を連想するポジションに置いて彼を悪玉と見せかけておいて、実は友情に厚い男前AIであったという捻り方はお見事でした。サムの為に自己犠牲を買って出るラストには感動しましたとも。。。ただし、本作には難もあります。サムがクローンであることが判明してからの展開が単調であり、映画が猛烈に中弛みする原因となっています。もうひと捻り何かがあれば、文句なしに「傑作」と断言できる作品になっていただけに残念です。
[DVD(吹替)] 7点(2011-05-28 20:22:25)(良:1票)
180.  es[エス](2001) 《ネタバレ》 
この監督さんはやっぱりうまい、物凄く面白かったです。抑圧シーンのイヤ~な空気や、逆襲に転じる場面のカタルシスなど観客の心を揺さぶることにはことごとく成功していて、かなり見応えのある作品でした。ワキガをバカにされたことから地味で陰気な男ベルスの心にスイッチが入り、最初は穏やかだった他の看守役達もそれにつられて暴力的になっていくという過程には妙に説得力があって、人間心理の一端をうまく映像化できていると思いました。本作の前半部分はスタンフォード監獄実験において観察された結果をうまく拾ってきているようで、囚人役に消火剤を浴びせたり、素手でトイレ掃除をさせるといった行為は現実に発生したようです。さらには、辞退を申し出た被験者の離脱を許可しなかったり、禁止事項であるはずの暴力行為が発生するに至っても被験者の安全より研究対象への関心を優先して実験を中止しなかったなど、教授側のマッドな行為も事実に基づくようです。看守役の被験者もさることながら、実験場という閉鎖空間において神の如き権力を持つ教授もまた、その疑似的な権力によって公正な判断力を失ってしまったようです。後半に入ると映画独自の展開を辿りはじめるのですが、ここから本作の評価は難しくなります。状況がより逼迫することで映画としては俄然面白さを増すのですが、これが実際の実験によるものではなくフィクションの物語であることから、「人間はここまで怖くなるんですよ」という恐怖感に歯止めをかける結果となっています。
[DVD(吹替)] 7点(2011-05-17 21:24:00)
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