161. 君も出世ができる
《ネタバレ》 悲しいかな邦画ミュージカル屈指のこの名作でも、浪花節・演歌・盆踊り風土の日本では「邦画ミュージカルは所詮ハリウッドの二番煎じでしかない」事を感じる一抹の寂しさ。だがこの映画が後々の人々に愛されるのはやはりスクリーンからあふれ出る「幸福感」オーラが放出しまくりだからでしょう。中尾ミエとフランキーが星空の下泥だらけになって唄うあの美しさ・高島忠夫と雪村いづみの熱い恋心ふれあう瞬間/アメリカかぶれの社長令嬢=いづみが朴念仁忠夫の雰囲気に飲まれ踊り出すシーン。素敵じゃないか。最大の功労者は作詞/谷川俊太郎・作曲/黛敏郎の繰り出す音楽そのもの。特にしがないオフィスがあっという間に早変わり!の「アメリカでは~♪」これは必見。 [映画館(邦画)] 8点(2009-01-21 00:35:00) |
162. マルメロの陽光
《ネタバレ》 カリン(マルメロ)の樹を20年かけても描ききることの出来ない画家ロペス。彼にとってマルメロの果実=実が生り熟し朽ち果てるその姿は「人生」そのものだったのではないか。対象はあまりにも大きく、キャンバスに描くことは困難な代物なのかもしれない。ただ人間の美を愛する心・夢を描き出すことはまさに自由なのだと若輩者の大学生であった私にとって胸を打った一本。昔の映画ファンは名監督達の作品をリアルタイムで観ることが出来た点、羨ましいとも思うが我々にはまだ「エリセの新作を観ることが出来る」特典があるのだ。なんて幸福な事なのだろう。〔追記:2013年4月末~6月中旬まで東京でアントニオ・ロペス展(その後長崎→岩手と移動予定)が行われ、未完のマルメロの絵も見ることができた。この人の絵に他の作家とは異なる、より「暖かさ」を感じたのは自分だけだろうか。てかさ、こんなタイミングでソフト再発・再映の機会もないとは…無常なり~。〕 [映画館(字幕)] 9点(2009-01-11 14:11:45) |
163. 飢餓海峡
《ネタバレ》 巨匠内田叶夢による邦画史上屈指の「大作」である。この映画を観て私が感じるのは芥川「蜘蛛の糸」。犬飼多吉にとって津軽海峡の暗い波頭はまさに地獄の血の池であったのだろう。そして娼婦八重はまさにそんな糸を紡ぎ出す蜘蛛であったろうし、八重にとっても犬飼は一時でも娼館を抜け出せるきっかけを作ってくれた、まさに「同じ地獄の境遇」から生還できた同士であったに違いない。だが時が経ち篤志家となった彼にとって彼女の存在は過去の罪を思い起こさせてくれるだけの邪魔者=地獄からの使者に感じられた、という悲しさ。ラスト犬飼が飛び込んだ海。それは「地獄へ墜ちていく」事の意思表示であり愛を捧げてくれた薄幸な娼婦への贖罪であったに違いない。役者は皆好演だがやはりこの映画は人間の持つ清濁性を存分に発揮した役者三国の代表作として挙げておきたい。といって私アジャパーだけではない役者伴淳三郎も、左幸子も凄いと思うんですよね。左演じる八重の犬飼への感情のほとばしり(切った爪を抱きしめ悶えるあのシーン!)、または皆様仰る犬飼との再開(「いぬが~いざ~ん!」)。刑事弓坂が犬飼に指し示す「砂」のシーン。まさに名演のオンパレード。点数は前半の凄まじい展開から後半に進むにつれ観賞疲れを感じてしまう処を考慮して。ここでは健さん、たんなるおまけだな。 [映画館(邦画)] 9点(2008-12-30 14:08:38) |
164. 三十四丁目の奇蹟(1947)
《ネタバレ》 最後の盛り上がりに至るまでのプロセスがちょっと冗長かな、という気もしないではないがこの一本もやはりクリスマスシーズンお勧めの作品としてお勧めである。アカデミー賞を取った男優グウェンもさることながらここはやはり子役時代のナタリー・ウッド。ちなみに私は人々の持っている優しさや善意の気持ちが「サンタクロース」として具現化されたものと生まれてきてからずーっと信じているので、サンタ居ませんという定説には「ちゃんちゃら可笑しい」と断言する事が出来る。暖かい気持ちを持てばそれは皆サンタクロース。では皆様素敵なクリスマスを!HO-HO-HO! [ビデオ(字幕)] 8点(2008-12-24 18:57:23) |
165. ピクニック(1936)
素晴らしい絵画を鑑賞した際に感じる「言葉では言い尽くせない」衝撃を、私はこの映画を観て感じ取った。そして恥ずかしながら涙が溢れた。何て美しいのだろうか。愛のささやき、雨の音、水の流れ、風の匂い、鳥の声、緑のそよぎ、何もかもが愛おしい。観よ、この世の中にはかくも美しい世界があるのだ。それを感じていられる内はまだまだ自分は頑張ろうという気になれる。これはルノワールが描いた極上の「人間賛歌」。これに満点付けずに何をつけるのだ! [映画館(字幕)] 10点(2008-12-19 23:39:19)(良:1票) |
166. 裸の拍車
《ネタバレ》 大平原や砂埃・牧場といった西部劇に良くある情景を排除し、最初の山岳地帯から始まる追跡シーン・そして山の斜線=不安定な位置を活用したショットにただならぬ緊張感・不安感を感じる。そして「不安を抱えた」雰囲気で統一されている役者陣の中で一人不気味な行動を行う悪漢ライアンの演技は素晴らしい。現代にリメイクされたら多分もっとサイコ犯的な色合いが強くなるのだろうが、「たたずまい」という意味では真似出来ないだろう。そんな「不安の旅」に西部劇には考えられない「雨」の要素・洞窟での雨宿りと食器への雨音をバックに会話する主人公とヒロインの描写=安心感を与え、作劇中まさに緩急を使い分けた監督アンソニー・マンの巧さが分かる。マイナス点はまさに下の放浪紳士チャーリー様が述べられている、地理上の「過酷な道行き」が想像出来にくい事で登場人物の心情に観客が同化しづらい点、そして「妻に裏切られ、再起するためにお尋ね者を追いかける」主人公に役者スチュワートがはまりづらい点じゃないか。いや確かに力演なんだけどさ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2008-12-07 15:10:21)(良:1票) |
167. 最高殊勲夫人
欧州(イタリア)で監督修行を行ってきた増村。そこでは後年の「人間の自我の強烈さ」を映し出すセンス=全体文化の中での個人主義をスクリーンに焼きつけるすべを学んできただけでなく、イタリア映画的なライトコメディを撮る才覚も身につけてきた。スピード感溢れる演出もさることながらフレームの人間配置も非常に極まっており綺麗である。若尾文子ちゃん〈(様)ではないよ〉・船越英二・宮口精二も良いのですがこの映画のツボは丹阿弥谷津子でしょう。まさに映画的。そうそう、浩!お前ってやつはぁ~羨ましすぎるぞ、本当に!素敵な佳作。 [映画館(邦画)] 8点(2008-11-22 13:25:08)(良:1票) |
168. 不良姐御伝 猪の鹿お蝶
《ネタバレ》 はっきり言ってこの様な高評価を付ける輩は多分自分ぐらいであろう。話は荒唐無稽であるし、女優も当時は凄いグラマーで美人だったかもしれないが現在の目で見れば劣ることこの上ない。そしていつもの私ならば憤然と反論するが、この作品に関しては『「馬鹿馬鹿しい」と片付けられた』世評の方がまったくもって、正しい。ただ私は邦画界の斜陽化が進む中、観客の要求に応えるべくまさに「ど根性」で撮りあげたこの作品が大好きで仕方がない。冒頭の襲撃・惨殺シーンからオープニングに至る流れはまさに任侠映画で名を馳せた東映の実力の片鱗を見せており素晴らしい。森鴎外「舞姫」の換骨奪胎である異人女スパイと若者の恋物語も笑ってしまうかもしれないがたまらなく良いのだ。そして池玲子。初めて伝説の「全裸殺陣」を見た時はドキドキするどころかその役者根性に対して圧倒されたというのが正直な感想であった。そして復讐を終えた彼女が胸に着いた血を拭き取れないままよろよろと歩き、苦悶の表情のまま雪が花札に変わるラストシーンの中で彼女はポルノという範疇を超えた、まさに名女優と化した。昨今の「脱いだ脱がない」で騒いでいる女優・風潮に本当、池玲子の爪の垢の1ミクロンでも飲ませたい気分である。日本最高のバットガール、池玲子の魅力がダイナマイトのごとく炸裂する!(なんじゃこの文章。でもこんな感じなのよ、実際。) [映画館(邦画)] 8点(2008-11-15 17:39:08)(良:1票) |
169. 男はつらいよ
日本全国の観衆に感動・誇り・人の心の暖かさ・生きてゆくことへの活力・涙等を約25年間与え続けた上、邦画の低迷期に唯一その存在意味を知らしめたこの長寿シリーズが無ければ多分日本における「映画」文化は没落したであろうし、庶民文化としての「落語」というジャンルは壊滅の道を歩んだものと自分は思っている。そんな愛すべきこの作品にどうして低い評価をつけられようか。そういった点も含めてこの点数。 [映画館(邦画)] 10点(2008-10-18 22:19:24)(良:3票) |
170. 座頭市物語
《ネタバレ》 後に続く続編ではまさに超人の域まで達している座頭市であるが、冒頭へっぴり腰で丸太橋を渡る第一作目のこれは全く趣が違う。続編・若しくはリメイク等での彼の振るう剣はまさに爽快感溢れる「正義の鉄槌」(をダーティーたるカツシンが行う所に意味がある)。ところがこの作中の彼の剣には「いじめに対していじめられっ子が突然暴れ出す・反抗」のような陰鬱感がスクリーンから溢れだしているのだ。共に世の中からすね者として扱われている平手造酒との会合。剣を交えて座頭市もまた、自分が斬られてしまいたかったはず。「不知火検校」から続く新しいヒーロー座頭市の誕生(日本の天才俳優・勝新太郎が花開いたきっかけ)、監督三隅そして天知茂の職人的なサポートぶりもさる事ながら個人的には大映映画時代劇を彩った華の一人、万里昌代の代表作として挙げておきたい一本。 [映画館(邦画)] 8点(2008-09-28 17:13:55)(良:1票) |
171. ウォータームーン
《ネタバレ》 多分この映画で監督工藤(の名を借りた長渕の独裁状態)が述べたかったのは「人が生きていく中で安易に迎合するな、死にものぐるいで頑張っていこう」という頑張っている人達・または安易にその日を過ごしている者への奮起のエール、そしてそんな空虚な人生を送るような日常を生み出す社会への疑問という内容だと思うんですよ、これ。だったら別に「僧侶で宇宙人」という題材を使った映画などにエネルギーを注ぐより、素直に人々の魂に届く「歌」でいいじゃんか、というのが正直な感想。リーマンブラザース位馬鹿でかい、ダイナマイト級の話の破綻した内容を見せつけれた上に最後、「生きて生きて、生きまくれ!」というのは感動以前に余計なお世話である。それになお加えてこの作品の評価を下げているのは映画に関してはプロでもなんでもない者が一本の作品を蔑ろにしたという事実に対して。書き直してみたものの、まだ冷静になれないなぁ。 [映画館(邦画)] 1点(2008-09-23 00:25:30) |
172. 少年(1969)
《ネタバレ》 国家社会への対抗心やアングラ芸術への傾倒、またはエロチシズムでの表現といった様々な形で邦画界に名を残すオーシマだけど彼の作品の根底にあるものは「全体主義の中の孤独」。鬱屈を抱えて生きている人の疎外感や屈辱、労苦を取りあげそんな者を生み出す社会への告発・そして影に隠れて生きている者への掬い上げ(例えば横尾忠則やフォーククルーセーダース、荒木一郎やビートたけし、ま阿部定もそうかもしれん)が作品のテーマと思うが何せ主義主張の多い彼の作品は、正直疲れてしまう。ただ実在した当たり屋一家の事件を題材にした、「当たり屋役」で一家を支えている少年のロードムービーである本作は淡々とその道行きを撮しているだけでそういった強烈なインパクトは無く普通。ところがこれが過酷。掬い上げすらない。大人の自我を持たないままの「少年」が親のいいなりになって犯す犯罪だけが家族を繋ぐ「絆」という苦しみ。雪だるまを相手に「宇宙人が素敵な未来へ弟と共に連れ去ってくれる」という想像の発露。そして義理母が与えてくれた愛情の印=時計が招いた少女の事故死と家族の崩壊。胸がつまる。そしてラスト、護送される車内の中で涙する少年のショットは映画監督オーシマの力量を感じる。個人的には「愛のコリーダ」と並ぶ彼の名作。 [映画館(邦画)] 9点(2008-09-21 16:31:47) |
173. サマーストーリー
《ネタバレ》 旅の途中で巡り会った若き弁護士の男と農家の娘との「結ばれなかった恋物語」。最初鑑賞した時はあまりにも身勝手な男の考え方に(純愛を貫く娘と比較して)正直評価が低かった。ただ再見してみると、彼らが恋に落ちてゆく課程が丁寧に撮られている事(俗世間溢れた都会から抜け出した青年は美しい農村に滞在することで偽りの「浄化」を感じてしまった点ね)やその当時のイギリス階級社会の枠組みでは結婚なんて絶対に無理であった事、そして社会的な立場を実感しやすかった男とただ恋の情熱に身を任せるだけであった女の違い。男を探しに来た娘に再会するシーンはそんな背景が感じられてとても印象深い。ラスト年を経て再訪問した村で男が知る事実。彼もまた生涯重い罪を背負って年老いていかねばならない現実を痛感させられ少しだけ男に同調してしまった。これ今ではレンタルビデオでも見つからないけど、隠れた恋愛映画の佳品ではないか。基はノーベル賞作家、ゴールズワジーの短編「林檎の木」。これもまた良い本でありますよ。 [映画館(字幕)] 8点(2008-08-29 13:35:21) |
174. 近松物語
《ネタバレ》 邦画にだってこんな情熱的な「愛」を謳いあげた映画があるのですぞ!これはモノクロ・邦画嫌いの人にも観てほしいなぁ。 [映画館(邦画)] 10点(2008-08-24 16:48:09)(良:1票) |
175. 大脱走
《ネタバレ》 E・バーンスタインのテーマ曲から始まる、これはまさに「大人の鬼ごっこ」映画。「絶対脱出不可能な~」という刑務所か!?とも言いたくなるのもわかるが、そんな事をも吹っ飛ばしてくれる痛快・爽快・楽しさに溢れている。もちろん俳優達の豪華さもさることながら、映画としての魅力の一つである印象的なショット=例えば飛行機から抜け出たプレザンスが見つめる国境近くの風景若しくはコバーンが入っていくスペインの山のショット、ビッグXチームが銃殺される処など監督スタージェスがうまくやっている事も忘れてはならない。まあTVで映画館でソフトで何回観たことか。それでも全く飽きないのはこの映画が多分大人になってしまった映画ファンにとっての「童心回帰」、「わくわく感」を高揚させられるからでしょう。吹き替え版も素晴らしい。マックィーン=宮部昭夫、ガーナー=家弓家正、ブロンソン=大塚周夫、コバーン=小林清志。ああうっとり。願わくばスクリーンで吹き替え版、観てぇ~!(私が好きなのは「運が良かった」だけで脱走に成功したコバーン=セジウィック。マックィーンのオートバイ・ガーナー+プレザンスの飛行機に比べ自転車とは!) [映画館(字幕)] 10点(2008-08-23 00:17:40)(良:1票) |
176. 異常性愛記録 ハレンチ
《ネタバレ》 輝男、どうしてあなたは輝男なの?いいじゃぁなひか、輝男なんだから。とにかく深畑を演じる若杉英二のアドレナリン500%位ぶっ飛んだ演技に気持ち悪い以前に可笑しくて仕方がない。「ウハハッハハ×10」と笑い彼女に傍若無人な振る舞いを行うも、最後は極まって「ノンコ~、愛してるよ~」でオールオーケー。按摩に体をモミモミされつつメイクラヴ。ぷよぷよな身体に女性用下着を着込み、外国人女性のレズショーを覗きつつ自分はゲイとカモナレッツプレイ。その反面自分にとって耳の痛い話題にはツンツンしノーテンキュー。なんなんだこいつは!(笑)常人なら気色の悪い、観るに耐えない題材をここまでエンターテイメントに仕立てた輝男、あんた最高だよ。更にひどい目に遭うのが黄色いショールに赤ストールを真知子巻きにした橘ますみなのだからたまらない。ラスト若杉英二と吉田輝雄の対決シーンは何故か(いや、お約束の)雷雨。ここでヒロインが絶叫する「ハレンチよぉ!」そしてドンガラガッシャーン!!!で観客はドッカンドッカン沸きまくるのでした...。こりゃ観る人、選ぶな。なんちゅうレビューなんだ、こりゃ。そして自分にこんなレビューを書かせるような映画を撮りあげた輝男に完配。いや完敗、ううん乾杯だ。 [映画館(邦画)] 8点(2008-08-16 02:42:38)(笑:1票) (良:1票) |
177. 本日休診
《ネタバレ》 今を去ること十数年前、仕事で行った中国農村部の連中はメチャクチャだった。持って行ったカセットウォークマンに驚愕され、風邪を引いたというので手持ちの薬をあげたら次の日から何十人という者が俺のところに来た。冷蔵庫にあった自分のジュースや飲み物を勝手に開けられ帰宅してみたらいつの間にか宴会が始まっていた。自分の部屋はみんなの立ち寄り所と化し、20代前半の自分が何故か老若男女の人生相談(仕事から恋愛まで)まで聞く羽目になった。もう行きたくない、だけど離れる時は寂しくてしかたなかったし皆オイオイ泣いてくれた。そんな個人的な話から入って大変恐縮なのだが、この映画に出てくる人々が皆自分、Nbu2の体験した「純粋で素朴な」あの農村のみんなと重なってしかたがないんだ。指を詰めてもらいたいチンピラ・生きる事に必死なおばさん・そして戦争の疵により心を失っている青年、皆温もりを求めてさまよっている。仕事は休診でも心へ温もりを与える事には休みはない。ちょっと加味してこの点数。主演柳永二郎もいいが、確かにこの映画は女性陣の方が印象に残ります。今もあの農村のみんなは、同じ空・飛ぶ鳥を見上げているのかな。 [映画館(邦画)] 9点(2008-08-15 13:30:42)(良:2票) |
178. アイアンマン
《ネタバレ》 軽い気持ちで観た方が得、という当初の意見には変わらないがこれ改めて見直してみるとそれなりに現代の情勢に合わせている点も好感を呼ぶ。ベトナム戦争を背景に進められていた原作をアフガン戦争に合わせ、国家に利益をもたらす軍需産業が逆にテロを助長している要因となっている皮肉をちゃんと表しているのだ(といってアフガン=悪、アメリカ=善で片付けられそうな単純な表現も無くはなく、なんじゃそりゃではあるが)自分が開発した製品がテロ組織に使用されている現実を知りその撲滅の為に立ち上がる天才科学者トニー。やはりこれはロバート・ダウニーJRのいい意味での妙な胡散臭さ・演技の巧さが光る。そしてアイアンマンガーのデザイン、スキンヘッドの悪役ブリッジスとこれもまた愉快。ヒーロー物好きな自分には満足でした。 [映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2008-08-13 22:39:43) |
179. 椿三十郎(2007)
《ネタバレ》 友達が「面白い映画があるよ」と連れて行かれてこの映画とわかった時はどうしてくれようかすら思ったが単純に言って、もともとの脚本が良かったからか結構楽しめた事を告白しておく。三船と織田を比較すること自体野暮ってもんだろうし、松山や佐々木、そして豊川もそれなりに良くやっていたのではないか。ラストの殺陣、ありゃぁ無いだろうという声もあったが元々オリジナルの衝撃を超える事など不可能なのだから仕方のないところか。ただし三十郎に力のコントロール・侍としてのあるべき姿を問う殿+奥方に主水&玉緒というキャスティングの方が個人的には致命傷。愚鈍であるように見せながら実は侍のあるべき姿・本質を突く台詞を述べさせ同類であるはずの三十郎と室戸半兵衛の違いを際だたせるはずだった映画上重要なポイントにも関わらず、その効果がむちゃくちゃ薄れてしまったのではないか。これでは「危ないから気をつけてねー」位の感想しか持てずオリジナル版の馬面&化け猫コンビから得る感慨はすっかり無くなってしまった、こっちの方が主役のイメージより致命傷なのでは。「用心棒」のリメイクでは、気を付けてもらいたい。 [映画館(邦画)] 6点(2008-08-03 19:46:42) |
180. 夏の嵐(1954)
《ネタバレ》 映画としては確かに未熟かもしれないが、この作品はやはり貴族の血を引くヴィスコンテイでなければできなかった題材ではなかったか。オペラ座の光景。ロバート・クラスカーの荘厳なカメラ。ブルックナーの第七番。伯爵夫人の恋の相手となるファーリー・グレンジャーもルックスを生き延びてゆく武器にしながら、そんな自分の卑劣な行動に心底嫌気がさしている駄目人間を演じて好演。そしてこの話の素晴らしさはそんな「だめんず」に心底惚れ込んでしまった伯爵夫人アリダ・ヴァリの情熱的な眼差し、そして最愛の恋人を密告し処刑場に送り込んでしまった際の最後の叫び。恋のもたらす盲目的な熱情をこんなにうまく表した映画は無いのでは、と思っている次第です。ちなみにこの映画の原題は『「Senso」=官能』ですからね。 [映画館(字幕)] 8点(2008-08-02 20:48:10) |