161. 決戦は日曜日
《ネタバレ》 タイトルの元ネタはドリカムの名曲『決戦は金曜日』と思われます。日曜日、それは選挙投開票日を意味しました。国政に挑む世襲候補とその秘書の奮闘を描いた社会派ブラックコメディです。政界・選挙戦を扱った映画やドラマは数多くありますが、そのリアリティ度合いは様々です。ドキュメンタリーから架空の国を描いたファンタジーまで幅広い。本作はリアリティを担保しつつシリアスに寄り過ぎぬ軽やかさが魅力で「大人な笑い」を満喫できました。何と言ってもキャラクター造型がいい。ルックス良好、歯切れ良く意味不明な言い回し。世襲候補のモデルはあの方かな。そんなお嬢様を支える秘書を窪田正孝さんが好演しました。絶やさぬ笑顔は、魑魅魍魎跋扈する政界で生きぬく為の知恵でしょう。仮面は心を守る防護マスクです。でもずっと仮面をしていたら、外し方を忘れてしまいまうもの。コーヒーの味も分からなくなる程、泥に浸かっていた事を悟った主人公は遂に我に返りました。かくして新人候補とその秘書による掟破りの極秘計画が実行されたと。後半は一気にエンタメ色が強くなりましたが、その皮肉な選挙結果や希望と覚悟のエピローグも含め腑に落ちるものでした。川島有美氏は意外と骨がある人物でしたし、優秀な懐刀も腹を括りました。これから良い政治家になることが期待されます。モデルとなった現役議員さんの方はどうか知りませんが。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2022-10-01 22:46:24)(良:1票) |
162. いざなぎ暮れた。
《ネタバレ》 島根県松江市美保関が舞台のご当地映画。公式ホームページのプロダクションノートによりますと、もとは15分の短編映画企画だったそう。それが80分超まで膨らんだ訳ですから、映画に関わった皆さん大変なご苦労をされたことでしょう。もちろん作品にかける情熱が成せる業。その本気度は、地元PR要素がほとんど無いことからも窺えます。ただ本作の場合、タイトルどおり『古事記と縁ある神がかりな土地』であることが重要な伏線であるため、土地柄や祭りの伝承等はむしろ積極的に周知すべきだったと考えます。劇中での地元紹介は下品でも何でもありません。それに地元の人たちにとっての日常は、外部の者にとっての非日常。映画を通じた疑似旅行体験もご当地映画の楽しみ方のひとつです。ぜひ地元愛全開で郷土の誇れる歴史をPRして欲しいと思いました。 ヒューマンドラマ、犯罪もの、ミステリー、タイムリミット型サスペンスと多くの要素をはらむ物語は『神のお導き』によりヒューマンドラマへ軟着陸いたしました。ベタといえばベタな結末ですが、こういうお話みんな嫌いじゃないですよね。何より主役お二人がお上手でした。特に枚熊克哉さん。水商売のチャラさ、詐欺を企む悪党顔の隙間から覗く善良さが魅力的です。色気と雰囲気のある役者さんで、映画の格をワンランクアップさせる力のあるお方とお見受けしました。武田梨奈さんもすっかりアクション女優の肩書が外れたよう。贔屓の女優さんなのでご活躍何よりであります。ちなみに本作は吉本興業制作のため芸人さんが多数出演していました。ネルソンズの青山フォール勝ちさんに至ってはクレジット3番目という好待遇。いつものコント演技と変わりませんが、何の問題もありません。そもそも演技が上手いんですよね。歌ネタ王メンバーもチョイ役ですが印象的なポジションを任されていました。観光客役の方については神様=イザナギの化身との解釈も可能なオイシイ役どころでしたね。ちなみに、初見で和田まんじゅうさんの出番が分かった人は凄いと思います。 [インターネット(邦画)] 6点(2022-09-28 09:24:03) |
163. 地球がこなごなになっても
《ネタバレ》 エイリアン侵略後に平穏を取り戻した世界が舞台。設定こそSFですが『差別』をテーマにした青春ドラマでありました。個人的な好みを言えば、煙幕となるSFにこそ力を入れて欲しいところ。隠されたテーマが浮かび上がる部分に驚きや感動がある訳で。そういう意味で本作のSF設定は薄過ぎました。まるで透明レインコートのよう。別に映像にお金をかけなくてもSF色を濃くすることは可能なはずです。例えば印象的な『指鉄砲』に本当に殺傷能力を持たせてもいいですし、緑眼になった時に何らかの能力が発現するでもいいですし。台詞だけで作り上げる『エイリアンテクノロジーの世界』とかロマンがありますし、硬派じゃないですか。『HIV』という言葉を使いたくなかっただけという意図が透けて見えるのが不細工なのです。折角SFに手を出したなら最後までやりきるべし。タイトルが中二病的なので、それに合わせて物語も中二病ノリで作り上げたなら、メインテーマをきちんと包み込んだ面白い作品になった気がします。 [インターネット(邦画)] 5点(2022-09-27 19:59:46) |
164. おろかもの
《ネタバレ》 刺激的な展開で惹き付けるというより、人物造形の魅力で勝負するドラマ。前者は脚本テクニックがあれば可能ですが、後者は確かな人間観察や人生観を必要とするため、より高度で繊細な作業と考えます。監督が「自分は何者か」を知らしめる行為でもあります。物語を通じて監督の人や成りが分る映画には、もれなく芯が通っています。だから安心して楽しめます。この監督さんは信頼できると早い段階で確信しました。それでは物語の感想に入ります。 お話は「結婚を控えた兄を持つ妹」と「兄の浮気相手」という奇妙な組み合わせのペアを中心に進行しました。本来は相容れない立場の2人ですが、不思議とウマがあった様子。浮気相手の背景は詳しく語られないものの、その歪な恋愛遍歴を聞く限り彼女もまた兄妹と同じような家庭環境かもしれません。なお同級生が指摘するように両者(というより妹の方)に「百合的」な感情があったのか定かではありませんが「似た者同士」なのは間違い無さそう。タイトルに沿えば「おろかもの」であります。そんな2人が共通の敵に据えたのが「兄の婚約者」でした。浮気相手にしてみれば当然の敵ですが、妹の方は「何となく苦手」程度の相手。おそらく居心地の悪さの正体は、婚約者の「圧倒的な人間力」にあると推測します。ライオンを前にしたインパラのような。私の体感的にはティラノサウルスでありますが。一人だけステージが違いました。圧倒的な戦力差を思い知った妹は、早々に白旗を上げました。もちろん浮気相手もそんなこと百も承知。婚約者と対峙していますから。負けると分っていても退けないのは、彼女が長く生きてきた証。誰だって生きていくうちに意地とプライドの鎧を纏うのです。負けても一矢報いたいと願うのは人情として理解できます。しかし練習試合ならまだしも、戦争はそうは行きません。負けは即「死」を意味します。結婚式へのカチコミはそういう類の戦い。実際、婚約者が壇上から正対した時点で勝負は決しました。あのまま突っ込んでもハチの巣。名誉の戦死などでは決してなく単なる犬死でした。ですから振り上げた拳を下し降伏したのは正解。鉾を納めさせた妹もグッジョブでした。勝利より負け戦から多く学べるのが人生のよいところ。2人のおろかものには、今回の件を通じて成長して欲しいと願います。妹の方は間近にお手本がいるので大丈夫。浮気相手の方も己が弱点を知り、強者が強者たる所以を知れば、勝利に近づくでしょう。もっといい男を捕まえてください。一方兄に至っては「おろかもの」というより「ろくでなし」で女癖の悪さが変わるとは思えません。しかしティラノサウルスにかかれば、あるいは更生の目があるのかも。交通事故で生死を彷徨ったエピソードは「生まれ変わり」の暗示かもしれません。「おろかもの」を正しく描き、でも否定はしない。そんな人間愛が本作にはありました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-09-27 19:57:07)(良:1票) |
165. レディ in ホワイト
《ネタバレ》 如月彩花が纏う「白」は、「何者でもない」または「生まれたまま」の象徴と解します。彼女が原石だとしても、磨かれていなければただの石ころです。実績がない、己が能力を示していない者が威勢のよい台詞を吐いたところで「ほら吹き」「妄言」と取られるのがオチ。普通なら面接で落とされて終わりでした。しかし世の中には一定数の「物好き」や「ギャンブラー」、稀に「目利き」がいます。いずれにせよ彼女は運に恵まれ、とある企業に拾われました。新人がパワハラ上司の下についたら潰されるのが常ですが、彼女は持ち前の芯の強さ(というより傍若無人ぶり)を発揮して難局を乗り超えます。ここでも彼女は幸運でした。上司はパワハラ野郎であっても陰湿では無く、仕事面では有能でした。無能で陰湿な最低上司に比べてマシと言うのも変ですが、原石を短期間で研磨するには有効な劇薬だったようです。人事部長の采配や恐るべし。 黒を羽織らされても中に白を身に付ける気概にヒロイン適性あり。ハイライトはアンケートのシーンです。インタビューしながら主人公は涙しました。パチンカーの戯言の何処に心打たれたのか不明ですが、きっと「自分の中には無い何か」に化学反応が起きたのでしょう。止めどなく流れる涙は、まさしく「無駄なものが落ちた」「殻を破った」を端的に表したものと考えます。かくして原石は宝石に生まれ変わりました。「自分が宝石だと信じる」と「自分が宝石であることを知る」は天地ほど差があります。己が価値を知った宝石の居場所は自ずと決まる。そんな結末であったと考えます。ですから当初主人公が着ていた「白」と、ラストカットで身に付けていた「白」では全く意味合いが異なります。ちなみに宝石の種類はパールでしょうか。石言葉は「富」です。 もっとも今回の一件は「運よく宝石が発見された」極めて稀なケース。原石っぽく見えても大抵は駄石です。それに経験不足の子どもの高い自己評価と政治家の公約ほど、あてにならないものはありません。前述したとおり「ほら吹き」か「妄言」が相場。でも同じ事が自己評価の低い人にも当てはまります。宝石じゃないにしても、レアメタルや有価値な成分が眠っているかも。だからとりあえず研磨してみるのです。なるべく、いろんな方法で。何か出てくればラッキー。出てこなくても、形が良くなれば使い道があります。それに普通の石が無かったら道路一つ作れませんから。これが50年間石ころをやってきた者の持論です。 主演は吉本実憂さん。私の鑑賞歴では『罪の余白』『大コメ騒動』に次いで3作目。今はオスカープロモーションを離れているようですが、米倉涼子さんや福田沙紀さんと同じく戦闘力高めなオスカー顔の美人女優さんです。敵役は勿論ですが、第一印象のギャップを活かして良い人役もいける。意外と汎用性の高い顔のタイプなのかなと思います。どちらかというと主役よりも脇役で映えるタイプかもしれません。 [インターネット(邦画)] 6点(2022-09-27 19:55:55) |
166. クネクネ<OV>
《ネタバレ》 『テケテケ』を観て『クネクネ』を観ないのも何だか不義理な感じがして謎の義務感で鑑賞しました。都市伝説クネクネをwikiで調べてみるとかなり曖昧な現象のようで、映画化にあたり相当脚色していることが分かりました。一番驚いたのは、クネクネ自体が全然くねくねしていなかったこと。DVDパッケージの図柄はそれなりにくねくね感があったと思うのですがフェイクでしたか(あるいは詐欺とも言う)。「くねくね」を呪う方ではなく、呪われる方に適応させ、手足を折られて絶命する様を「くねくね」と表現した訳ですね。何という大胆な改変。でもこの決断は正解だったと思います。だって菅原小春クラスのダンサーならいざしらず、ダンスに素養のない者が幾らくねくねしたところで失笑モノでしょうから。原作がある訳でも何でもないのが都市伝説。面白く(怖く)する為に工夫するのは大歓迎でしょう。この調子で型にはまることなく、自由な発想で怪物「クネクネ」を創り出せれば、あるいは『ノープ』のような傑作になったかもしれないと思うのですが、惨殺された女の呪いが元凶というありきたりな着地点にガッカリしました。結局のところ、やっつけ感が滲み出ちゃってるんです。じゃなきゃセルフ失明する村民なんて論外な設定が通る訳ないですもの。 [インターネット(邦画)] 3点(2022-09-26 20:22:01) |
167. エスケイプ・フロム・トゥモロー
《ネタバレ》 忘備録として『エロ親父、今際の際の妄想日記@夢の国』。言いたい事は分からなくもないですが(いや、やっぱりよく分からないや苦笑)、だから何なんだとも思います。無許可撮影がセールスポイントになる映画は間違っていると思うので採点放棄にしたいところですが、下手に0点とか1点を付けて好事家向け駄目映画として価値が出ても困るので3点くらいが妥当と考えます。人知れず、静かにB級凡作の沼に沈んで頂ければと思います。 [インターネット(字幕)] 3点(2022-09-24 23:24:54) |
168. 隙間女 劇場版
《ネタバレ》 ネタバレしています。ご注意ください。 隙間女の生態は妖怪寄りだと思うのですが、その正体は幽霊(悪霊)だそうで。殺された恨みから生まれた存在であることを鑑みると本来なら地縛霊相当という気がしますが、場所に縛られることはなく呪った相手を追いかけて行く能力あり。しかも相手の命を奪うだけでなく、同族の隙間女(男)に変えてしまう力まである模様。もはや幽霊や妖怪を超えた怪物です。ただ出現するには「隙間」という縛りがあるため対策は可能。家具やドアの隙間をガムテで貼るだけで十分有効でした。ワンルーム住まいでミニマリストにでもなればかなり安全。それでもたまには引きずり込まれそうになるでしょうから、助けてもらうためにパートナーが居た方がいいでしょう。かなりのストレスですが、環境にヒトは慣れるもの。問答無用の即死系の呪に比べればだいぶマシだと思います。どうせ取り憑かれるなら愛嬌のある隙間女にお願いしたいところ。案外お友達になれたりして。 B級邦画ホラーとしては恐らく標準的な出来です。程々に怖く、程々に突っ込める。当たりではないものの、ハズレでもありません。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-09-23 22:55:42) |
169. リアル人狼ゲーム 戦慄のクラッシュ・ルーム
《ネタバレ》 本作は桜庭みなみや土屋多鳳、武田玲奈等人気若手女優が主演したサスペンスドラマ『人狼ゲーム』シリーズ作品ではなく、あの(どの?)知る人ぞ知るZ級ホラー『リアル人狼ゲーム』の続編だそうです。とはいえ前作の後日談でもなければ、共有されるフォーマットも無し。そもそも『人狼ゲーム』ですらないというビックリ作品でした。前作も偽りの看板を掲げていましたが、『手打ち蕎麦の店』が機械打ちだった程度の嘘。本作は蕎麦屋じゃなかったという話。喩えるならガテン系(死語)御用達『ワークマン』がいつの間にかカジュアルウェアやキャンプ用品を売る店になっていたような。違うかな。蕎麦を注文したら焼きそばが出てきました。怒って帰るのもアリですが、料金は支払い済み。失った時間は返りません。ならば食すのみであります。オカルトであり、SFであり、不条理であり。ダチョウ風に言うなら甘からず、辛からず、美味からず。まあハッキリ下手ではあるので(主役不在、行動破綻、唐突な謎解き)あまり満足度は高くないと思われます。ただし、見ようによっては荒木飛呂彦的と言えなくもなく。低確率ながら刺さる人には刺さる(面白がれる)と思われます。「ごとう」のいで立ちはまるで吉良吉影(デッドマンズQ)のようでしたし。そういう意味では売り方を間違えたと考えます。ブランド価値があるとは思えない(失礼)『リアル人狼ゲーム』シリーズではなく、パチモノ『岸辺露伴』の方が話題になったのでは。『岸部ルーローハンは動けない』。主演は高橋一生ではなく坂本一生で。「なにィィィィ。いきなり殺されているだってぇぇぇ」「スマホのライトを点ければいいんじゃあないか」いろんな人に怒られそうですが。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-09-22 19:27:00) |
170. ホラーマニア vs 5人のシリアルキラー
《ネタバレ》 ブラックなB級おバカコメディ。個人的に大好物のカテゴリーですが、当たり外れが大きいのも特徴。だからこそ当たりを引き当てた時の嬉しさは格別なのですが。それでは本作の感想をば。 一言でいえば「残念」であります。理由の一つ目は「セールスポイントを早々に放棄した」点です。言わずもがな「ホラー雑誌のライターが本物の殺人鬼のフリをする」パートのこと。「なりすまし」はコメディに限らず数多の作品で採用されている人気素材。最後まで引っ張ることが出来る大ネタです。でも本作では導入部分のみでアッサリ終了しました。単純に勿体ないと感じるのです。鱧、骨が多いので食べるの止めましたみたいな。おいおい、ちゃんと料理すればご馳走ですよって話。 2つ目の理由は「キャラクターの活用不足」です。人形は顔が命、コメディはキャラが命が持論。本作ではコメディパートを担うキャラとして警官3人が配されていました。高圧系大バカ、小バカに、マニアバカ。ムカつきますが単細胞。結構いい味を出しているのです。ホルスターから拳銃が抜けないとか、謎の髭コンプレックスとか。もっと活躍の場を与えればいいのに。 理由3つ目は「ドラマ不在」です。本作は振り返ってみれば「殺人鬼ハンターチーム結成秘話」でした。主役2人がコンビを組んだ経緯を延々と見せられていた訳ですが、何故2人が惹かれ合ったのかイマイチ分かりません。特に女の方は男の何処を気に入ったのでしょう。もっと明確にラブロマンス(片思い系がオススメ)に仕立てても良かったのでは。女の背景についても今ひとつ判然としません。続編用にとってあるのかもしれませんが、やはり消化不良感は否めません。どんなジャンルであれ、核となるのはドラマと考えます。 凄く面白くなりそうな要素が多いだけに、期待値が上がり物足りなさを感じたのだと思います。残念無念。そう簡単に当たりは引けません。 [インターネット(吹替)] 5点(2022-09-19 19:53:20) |
171. NOPE/ノープ
《ネタバレ》 秀逸な構想(アイデア)を思いついた時点で多分「半分」だと思うのです。さらに深堀りし、磨き上げ、どうしたら面白くなるかを突き詰め、やっと「完成」作品として陽の目をみる。そういう映画は観客の想像を超えてきます。冒頭のお猿事件の本線への繋がり、ダンシング空気人形の使い方の見事なこと。細かな伏線の数々にも唸りましたが、何より緊張感が凄くて。虚構の中のリアリティとは何たるかを監督は熟知しているのでしょう。SFであり、サスペンスであり、サバイバルであり、アクションでもあり、監督お馴染み社会批判もありますが、何よりホラーとして極上でした。息を潜めスクリーンに見入りました。個人的にはクスクスできる部分もあって満足度高し。「目撃者」感覚で没入する為にも、映画館での鑑賞をお勧めします。ちなみに『ウォーキングデッド』のグレンも出てますよ。ところでアレの造型は、エヴァンゲリオンの影響を受けているのでしょうか。 [映画館(字幕)] 8点(2022-09-18 00:49:16)(良:1票) |
172. JKエレジー
《ネタバレ》 3737さん、2番投稿失礼します苦笑。 『貧乏は諸悪の根源』との名言がありますが、主人公にとって諸悪の根源は貧乏ではなく家族でありました。事態は想像以上に深刻で、高校卒業と同時に家を出るなどと悠長なことを言っている場合ではありませんでした。直ちに、今すぐに、避難すべき案件。火事と一緒のレベル。兄の引き合わせで、クラッシュビデオという名のAVに出演したのがそもそもケチの付けはじめ。パンツひとつ見せていないと主人公は開き直りますが、それが詭弁であることは彼女自身が一番よく分かっていること。とはいえ、普通にバイトしても保護費と相殺されるだけですし、母が残した進学資金が残っているはずもなく。彼女にしてみれば、クラッシュビデオだけが希望に繋がる生命線だったのでしょうが、実は絶望に繋がっていたという。それでも、八方塞がりという訳ではありません。進学が難しいなら就職だって立派な選択です。しかるに彼女は自ら未来を閉ざす選択をしてしまいました。ヤクザと関わり合いになるなど百害あって一利なし。彼女は「もう振り回されたくないから」と言いましたが、逆に自ら振り回されに行っています。まともな就職すら危うい状況に追い込まれたことを彼女はまだ自覚していません。振り下ろしたツルハシでの一撃にカタルシスを得られない時点で、この物語は破綻していると考えます。 [インターネット(邦画)] 5点(2022-09-15 18:59:27) |
173. マスターズ・オブ・ホラー(2018)
《ネタバレ》 『マスターズ・オブ・ホラー』をwikiで調べるとアメリカのテレビオムニバスシリーズがヒットします。その映画版なのかと思いきや、原題は『Nightmare cinema』だそう。テレビシリーズと関係があるのかどうか分かりませんが(詳しい方、リサーチ力のある方、そのあたり補足頂けると助かります)、雰囲気はまるっきりホラー特化の『世にも奇妙な物語』でありました。タモさん役がミッキー・ロークですな。脚本、映像、演出、おフザケ度合い、どのクオリティもTVMのそれであり、過度な期待は厳禁ですが『世にも奇妙な〜』程度の面白さは担保していると思います。何より、SF、バイオレンス、風刺、オカルト、スプラッター、精神疾患等よろづホラーカテゴリーを網羅しており、目先が変わるので飽きない点は良かったと思います。全5作品のうち、全編モノクロの一作だけが抜きん出て面白いです。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-09-13 19:55:18) |
174. バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ
《ネタバレ》 ミラ・ジョヴォヴィッチを主役に据えシリーズ合計6作を数えた人気映画『バイオハザード』が完結してから5年。キャストを一新してリブートしたのが本作『ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』です。前シリーズは、ミラ・ジョヴォという稀有なスターの魅力を拠り所としたサバイバルアクション映画でありました。原作ゲームから設定と看板を借用してはいますが、基本的にゲームとは別物だったと考えます。これに対し本作は、原作ゲームを忠実に映像化しようという意思を強く感じました。館内のファースト感染者の振り返り描写然り、ロケットランチャー然り。回復アイテムでハーブが出できたら完璧でしたが、そこまでやると逆に醒めた気がするので、監督に良識があって良かったです笑。もちろんストーリーはゲームと異なるでしょうが(注:何せ初代ゲームをプレイしたのが四半世紀も前の話。細かい点は覚えていません)、世界観は高いレベルで再現されていたと思います。何より「アクションである前にホラーたれ」とでも言いたい空気感に好感が持てました。ただし、鑑賞後の満足度はさほど高くありません。シリーズの前フリが終わっただけという感じ。この感覚はまるで『ウォーキング・デッド』ファーストシーズンを観た時と同じであり、続編ありきの物語である点がインパクトを弱くしている気がします。生き残り人数が破格に多いのも、続編を見据えての事でしょうから。シリーズ化に異を唱える気はありませんが、映画は一発勝負が基本。結末を決めていないシーズンドラマのような作り方の映画はちょっとなと思う古いタイプの人間であります。とはいえ魅力的なキャラクターが揃っているのも事実。特にリサ・トレヴァーはかなり好みです。続編が製作されれば確実に観るでしょう。 [インターネット(吹替)] 6点(2022-09-11 17:23:31) |
175. 死の実況中継 劇場版
《ネタバレ》 ※かっぱ堰さん、お先に投稿失礼します。かっぱさんの考察の深さやリサーチ力にはいつも感心させられます。読んでいて不快にならないのも素晴らしいです。レビュー心待ちにしております。 邦画ホラーは基本地雷だらけです。5点なら当たりの部類。それでもごく稀にホームランがあったりするのが困りもの。『口裂け女2』とか『人狼ゲーム』シリーズとか。予習なく当たりを引き当てた時の得も言われぬ快感たるやもう。こうしてB級ホラーに魅せられた者たちは、人生の貴重な時間を無駄に費やしていくのです。あな恐ろしや。 実は本作を中ほどまで見進めた時点では、これは大当たりを引いたのでは?と色めき立ちました。劇中劇に妄想系?意外とテクニカルなホラーの様相だったのです。それに赤い服の女もいい感じ。変にカクカク動いたりせず、見事なフォームで小気味よく走ってくるあたり逆に不気味。得物にナイフや包丁ではなく裁ち鋏を選ぶセンスもナイス。これはきちんと考察せねばと身構えたのですが、終盤失速しました。結局はただ「呪いのURL」をクリックした者を襲うだけのガサツな女でした。イデオロギーの無さにガッカリ。もっとも都市伝説の殺人鬼にイデオロギーを求める方がどうかしているのですが。明らかに不自然な登場の仕方であった親友も妄想ではなく実在していたみたいです。赤い服の女が何処ぞのyoutuberみたいに自撮りしながら音声実況を付けてくれたら(これが真正の迷惑系youtuberや!)アッパレを差し上げたところなんですけども、惜しいなあ。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2022-09-09 00:28:38) |
176. ポーカーナイト 監禁脱出
《ネタバレ》 『パーフェクトトラップ』鑑賞時に前作『ワナオトコ』を復習しようと某サブスクで検索したところ本作が引っ掛かりました。殺人鬼の見た目が完全にワナオトコのそれでしたが、関連はなかったようです。もうすぐ配信終了だった為これも何かの縁と『パーフェクトトラップ』と続けて鑑賞することに。おかげで内容がごっちゃになりました苦笑。 簡単にあらすじを説明しますと、主人公の刑事は犯人に監禁されます。そこで先輩刑事の体験談に基づく教訓を思い出しながら脱出を試みると。このアプローチは新鮮でしたが、いわゆる精神論の範疇であったため、大して教訓が役立っているとは思えませんでした。「諦めるな」とか、そりゃそうでしょって話ですし。もっと『スラムドッグミリオネア』みたいに具体的かつミラクルな脱出法だったら良かったのに。とはいえ、サスペンスとしては上質の部類で、二転三転する展開は見応えがありました。もっとも、利口な犯人が適度にスキを与えたから、主人公が見せ場を作れたとも言えますが。後味はビターですが悪くありません。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-09-08 21:28:39) |
177. 殺人鬼から逃げる夜
《ネタバレ》 聴覚障害を持つ主人公と殺人鬼による命を懸けた鬼ごっこ。ハンディキャップがマイナスに作用するのは仕方がないにしても、登場人物の行動や選択が合理性に欠けることや、警察の無能ぶり、通行人の無関心さ等、終始イライラさせられっ放しでした。もっともこれは洋画の殺人鬼ホラーでお馴染みの「あるある」であり、ツッコまれることなど百も承知でしょう。それでもあえて採用したのは、観客にフラストレーションを溜めさせるため。ラストで吐き出させ、カタルシスを得させようという魂胆があるのは明らかです。あざとい手口で品が無いと思うものの、実際まんまと爽快感を感じましたし、エピローグも観客の期待に沿うものでした。悔しいかな(笑)エンターテイメントとして正解と言わざるを得ないでしょう。喩えるなら焼肉のタレで味付けしたようなサスペンスでしょうか(韓国だけに)。繊細さは皆無ですが、分かりやすい濃い口の味付けで、美味いのは間違いありません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2022-09-08 20:24:01) |
178. 老後の資金がありません!
《ネタバレ》 タイトルを補足するなら、【喜劇】『老後の資金がありません!』【さてどうしたらよいでしょう】。まず本作を語る上での最重要ファクター【喜劇】部分について感想を。正直言って驚くほど笑えませんでした。ずっとムカムカ、イライラしっぱなし。理由は明白です。主人公に共感したから。それだけ篤子さんの境遇は一般的であり、悩みにリアリティがあったということ。マイホームローン残ありとはいえ、子どもを2人仕上げて預金700万とか立派なもんです。だから預金残がみるみる減っていく様が我が身を切られるように辛くて。葬式のような必要経費はまだしも、オレオレ詐欺で大金を失うとか、マジで洒落になりません。3日くらい寝込む金額ですよ。それに夫婦して失職とか、この状況でどう笑えと。結局のところ『男はつらいよ』や『翔んで埼玉』が笑えるのは所詮他人事だからです。身も蓋もない言い方ですけど。多分監督もそれを分かっていたから殊更「これはコメディですよ。笑って大丈夫ですよ」アピールをした気がするのです。じゃなきゃ怒り心頭の篤子さんの顔に赤面&湯気のエフェクトなんて掛けないでしょうよ。大女優に対し演技力が足りないと云わんばかりの失礼な演出ですから。それでも篤子さんが姑さんと打ち解けてからは大分落ち着いて観られた気がします。とくに生前葬での篤子さん(嫁)への謝辞は、お世辞半分だとしてもグッと来ました。姑さんも根が悪い人じゃないわけですし。「我侭した方が勝ちよ」は苦労した人じゃないと言えない台詞ですから。 次に【さてどうしたらよいでしょう】の部分。答えから言うと「見栄なんか捨てて身の丈にあった暮らしをしましょう」でした。言い換えるなら「支出を減らしましょう」です。結局主人公はマイホームを手放し、シェアハウス暮らしとなりました。至極真っ当な意見です。現実的な選択だとも思います。しかしあまりに残酷な答えにへこみました。後藤家の皆さんは姑さんと違って浪費をしていたわけではありません。堅実に日々暮らしてきただけ。なのに終のすみかを手放せなんて酷すぎませんか。シェアハウスが悪いとは言いません。実際、後藤家の皆さんは笑っていました。しかし共同生活に合う人もいれば合わない人もいます。決して万人向けの解決法ではありません。それにこれって要するに「共助のススメ」ですよね。基本は自己責任。ヤバくなったら国民の皆さんで相互に助け合ってね。決して国に頼らないように。そんなメッセージをオブラートに包みまくって言われた気がするのですが。もしかして制作費にお上の資金とか入ってたりしますか?物価の安い外国へ移住なんて結末なら、半分ブラック半分マジのジョークとして成立した気がします。普通の人が普通に暮らして普通の幸せが手に入らないのなら、それは何かが間違っていると思います。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2022-09-04 22:49:40)(良:2票) |
179. ドント・ブリーズ2
《ネタバレ》 盲目の老人と犯罪者集団のバトルを描くバイオレンスサスペンスの続編。今回老人と相対するのは、老人に娘を攫われた親御さんとその仲間です。『ドント・ブリーズ』の基本構造は犯罪者vs犯罪者ですが、今回は子どもを取り返すための戦い。両者の善悪について議論の余地など無いかと思いきや然に非ず。平気で人を殺したり、犬を見捨てたりと、父親サイドも相当ヤバい人たちでしたが、その正体は想像を絶するド畜生でありました。毒親にも程があるというか、もはや親とは言えないクソ野郎。誘拐犯の方が聖人に見えてしまう始末です。という訳で親側の素性が知れた後は、老人に100%肩入れして物語に挑むことになります。前回は自宅内という圧倒的な地の利を活かし盲目のハンデを帳消しにしましたが、今回は老人にとってアウェー戦。正直勝負にならないシチュエーションですが、そこは様々な工夫を凝らして勝負を成立させているのが凄い。勿論多少の、というか大いにご都合主義が幅を利かせていますが、それでも思わず唸るような仕掛けの数々は努力賞ものだと思いました。胸糞&血塗れサスペンスにも関わらず後味爽やかなのもいい。前作を楽しめた方なら、本作を気に入ること間違いなし。自信をもってオススメします。 [インターネット(吹替)] 7点(2022-09-02 22:22:32) |
180. ラストナイト・イン・ソーホー
《ネタバレ》 伏線の張り方、ミスリードの仕込み方、意外な真相、どれをとっても脚本は一流です。凝った演出技法や、キャスティングセンスの良さも流石エドガー・ライトという感じ。出来の良い映画なのは間違いありません。ただし今回は手放しで称賛という訳にはいきません。エロイーズの悪夢を延々とみせられ閉口しました。前述したとおり見せ方は凝っていますが同じシチュエーションが反復されるのでどうしても単調になりがち。さらに妄想ともオカルト案件とも判別が着かない状況下、打開策や回避方法が示されぬ為ただ苦痛な時間を過ごす羽目になります。エロイーズもキツイでしょうが観客もしんどい。これがまさしく「無間地獄」かもしれませんが、苦行を課されて喜ぶ観客はいません。サスペンスやホラーで興奮や高揚感を覚えるのは、恐怖の先に希望をみているから。エロイーズの悪夢には絶望しかなかったので、言い方は変ですが「退屈」したのだと思います。 繰り返しますが映画の出来は悪くありません。良い映画です。しかし良い映画である前に、まず面白い映画であることが大事では。エドガー・ライト監督はそういう映画を撮る監督だと思っていたのですが、今回は違ったようです。是非また『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』みたいに、愛おしくなるような娯楽作品を撮ってください。 [インターネット(吹替)] 6点(2022-09-02 01:54:18)(良:3票) |