1. 史上最大の作戦
《ネタバレ》 歴史的事実を題材にした戦争映画では、変にスター俳優を揃えてしまえば本来作品の持つテーマ性から離れてしまう。しかしユーモラスなシーンを取り入れたり、スター俳優を目立たせたりと、娯楽的要素の強い作風が観客に受け入れられたのかもしれない。また、4人の監督がそれぞれの国からの視点で撮り上げている割りには、作品全編に違和感は無く良くまとまっている。それにしても、この映画を見終えて思ったのは、連合軍側の無謀としか言いようのない戦法です。独軍が最も油断するであろう、悪天候の合間を縫った夜半からの奇襲は悪くないと思います。だけど、パラシュート部隊は地上からの格好の標的となるし、マシンガンが待ち受けているノルマンディー上陸なんて予想どおりの展開。多大な人的犠牲覚悟で臨む人海戦術だと、敵軍もやがて弾切れとなりいつかは突破出来るでしょう。第3波、第4波と兵をジャンジャン送り込めばよいわけですから。これは素人の発想なんですが、まずはドイツ兵が待ち構えている沿岸の拠点を、上空からのじゅうたん爆撃もしくは戦艦からの砲撃などで一掃する。それから、内陸へ向け怒濤のように兵を送り込む。これが本筋のような気がしますが。まっ、そんなこんないろいろ考えさせられる戦争映画だと思いました。 [DVD(字幕)] 7点(2007-08-19 21:03:04) |
2. 宇宙からの脱出
本作はラストに尽きます。スタージェス監督らしい渋く味のある演出なんですが、中盤辺りまで坦々と進むだけでちょっと退屈。ところがハリケーンの眼を利用するという着想からにわかに盛り上がり、カタルシス充分なエンディングシーンまで一気に見せてくれた。あたかも、翌年に起こるアポロ13号の出来事を予見していたかのような展開。冷戦という当時の緊張する米ソ間に於いて、ソ連の宇宙船を登場させるという発想も素晴らしく、独特の効果音を取り入れたラストのドラマは斬新かつ見応え充分。ラストに必ず何かある、衝撃的なシーンが用意されていると監督を信じてホントに良かった。 8点(2005-03-25 17:42:10) |
3. 恐竜100万年
男子専科。そう、本来SF映画といえば男性向け(青少年含む)用に作られているわけですが、この映画はそれが徹底されており大いにヨロシイ。本作こそが「バーバレラ」と双璧を成す、殿方向け本格特撮映画! 冒頭早々、合成バレバレの大トカゲを登場させたりで、時代考証にしろ原始人の描写にしろかなーりイイカゲン。というものの、ちっとも原始人には見えない皮ビキニ姿のラクエル・ウェルチだけは、この作品の世界観と妙にマッチしておりベリーグー。そしてもうひとつの見どころが、レイ・ハリーハウゼンの手によるモデルアニメーション。後々、「恐竜グワンジ」に受けつがれたと思われる、ケラトサウルスやアロサウルスの登場シーンについニンマリ。(死にっぷりも良く、なかなかイイ味出している) ハリーハウゼン&ドン・チャフィの作品としては、ファンタジー色豊かな「アルゴ探険隊の大冒険」には一歩譲るものの、ぜひ残しておきたい作品ですね。 7点(2005-01-25 12:12:02)(良:1票) |
4. 穴(1960)
《かなりネタバレ》モノクロ映像が映し出す光と影の絶妙なコントラスト、のぞき穴から鏡を通して見る独特の緊張感、深夜の地下道に響き渡るコンクリートを打ち砕く音などなど…非常に印象的なシーンと効果音がいつまでも脳裡に焼き付く。たしかにあんな大きな音を立てて看守が気付かない、穴を掘った砂利はどうしたなど基本的なトコロで引っ掛かったりしなくもない。それよりもむしろ本作は、サスペンスフルな演出の妙と独特の雰囲気を味わうべき作品でしょうね。鏡の破片はいうまでもなく、薬のビンが砂時計になったりと着想が秀逸で、どんな小道具が飛び出すか最後まで興味は尽きない。脱獄囚5人の人物描写もきっちり色分けしており、刑務所長の存在もラストでは大きく生きてくる。そして何より実話を基にしているのが良い。原作者のジョゼ・ジョヴァンニ、ロラン役のジャン・ケロディ共に元囚人で脱獄の経験者。このように経験者は語るではないが、作品に生々しさと説得力を持たせる。脱獄物の傑作と言われるだけの根拠は充分にあると思いましたね。 9点(2005-01-15 21:53:51) |
5. ザ・ガードマン 東京用心棒
昭和40年にさっそうとテレビスタートした「ザ・ガードマン」。シブくシリアスな雰囲気を漂わし、大人向けのドラマとしては子供のクセに生まれて初めてハマった作品です。ひとくちにガードマンといってもピンからキリまであるわけで、ここに登場するのは誰しもイメージする制服姿で警備するというものではなく、むしろ矢面に立ちクライアントの命と財産を死守するスペシャリスト集団といった方が良いかもしれない。しかもこのシリーズの良いところは後々刑事モノ特有に表われるアクションや銃撃戦がウリではなく、スリリングな演出が見どころのサスペンスドラマであること。毎回、宇津井健演じる高倉キャップを軸に、清水隊員(藤巻潤)や荒木隊員(川津祐介)たちが抜群のチームワークを発揮して見事功を収めるわけですが、犯人側にも個性的な面々が登場したりでドラマを大きく盛り上げてくれる。けっこう前置きが長くなりましたが、本作は劇場公開用として作られたもの。テレビ版と違い予算も多めでゴージャス感を醸し出しているのはうれしい限り。しかし本来売りであるはずの、ザ・ガードマンたちと犯人側とを対峙したサスペンスフルな演出を期待していたんですが、大味で平坦なままストーリーが進んでしまう。重要な位置にある、外国人俳優ポール・シューマン演じるネルソンの人物描写も雑でなんかヘン。つまり脚本や監督が毎回入れ替わるので、作品の出来不出来にけっこう差が出るんですよねこのシリーズ。 5点(2004-12-23 14:46:29) |
6. 怪談 雪女郎
怪談モノといっても、四谷怪談や番町皿屋敷みたいな怨霊にとりつかれた人間の自滅する様を描くのではなく、むしろ怪奇民話に出てくる妖怪モノ(映画では雪の精といっているが)といったほうがよいのかもしれない。すると当然、鑑賞のポイントは作品が放つ民話的世界観と雪女の登場シーン。雪女を演じる藤村志保自身が色白の長身で、しかも手も冷たそうで(失礼! !)これがなかなかイメージに合っている。雪女の口から発する声といい、キーンと凍てついた雰囲気描写といい背筋をゾクゾクさせてくれた。とくに不気味な眼が良かった。少々中だるみはあるが郷愁を誘う夫婦物語にしたのが正解で、エンディングもたっぷりと余韻を残してくれた。 7点(2004-11-21 14:01:11) |
7. 用心棒
三船敏郎演じる桑畑三十郎の炸裂するダンディズムにヒロイズム! エンターテイメント時代劇としては、もう文句の付けようがないほどオモシロく見応え充分な黒澤作品。三十郎の口から出るスパイスの効いた台詞がここかしこで決まり捲る。また、東野英二郎演じる居酒屋の親爺に不気味な短銃使い(仲代達矢)、加東大介演じるお馬鹿なヤクザにニセ用心棒(藤田進)、はたまた巨木のように馬鹿デカい用心棒(馬場さん似の人ネ)、人三化け七なお女郎さん達などなど脇を固めるユニークなキャラも大いに作品を盛り上げてくれた。ラスト、三十郎の放つ「あばよ! !」が心地良いほどに余韻を残す。 8点(2004-11-13 16:16:41) |
8. 帝銀事件 死刑囚
帝銀事件とは終戦後間もない頃、帝国銀行の行員12名を毒殺し金品を奪うという冷酷極まりない殺人事件であり、その犯人として逮捕されたのが平沢貞通。やがて、本人の自白に基づき東京高裁で死刑判決を言い渡される。しかしその後、新たに見つけ出される事実の数々は平沢氏が犯人とは思えないものばかりであり、終戦直後GHQと深く関わりを持つ731部隊関係者が犯人像として大きく浮かび上がることになる。監督は熊井啓で、しかも本作が映画初作品。当時としては類稀なる社会的大事件であり、しかも冤罪(かもしれない)という難しい題材を取り上げた姿勢こそ高く評価しても良いのではないだろうか。この映画は新聞記者武井(内藤武敏)達の視点からドキュメンタリータッチで切り込んでゆく手法が取られており、作り手のこの作品にかける意気込みが充分過ぎるほど伝わってくる。昭和20年代の刑事や検事の人権を無視した取り調べ、マスコミ報道に恐ろしいほど左右される世論、犯人扱いされる残された家族の悲惨さなどなどかなり鋭く踏み込んで描いており作品そのものの完成度は極めて高い。そして何より、当時のGHQという圧倒的な権力の前ではジャーナリズムといえどもいかに無力であったか、さらに人が人を裁くということはいかに難しいかをも監督熊井啓は力強く訴えかけている。社会派ドラマの傑作です。 9点(2004-11-06 14:25:00)(良:1票) |
9. コレクター(1965)
男女の違いにより視点も受け取り方も異なる傑作、名作は数多くあるが、この作品ではそれが著しく表われるのではないだろうか。この映画でのテレンス・スタンプ演じる主人公の男、おそらく幼い頃からイジメられたり仲間はずれにされたりで、一人孤独な生活を送ってきたに違いない。美しい蝶の収集だけがすべてを忘れさせてくれる唯一の楽しみなわけだが、やがて一線を大きく越え狂気の世界へ入ってゆく。視線を斜めに反らしややうつむき加減に歩く姿は、男である私の心情からするとむしろ哀れみを誘い気の毒でもある。(もちろん監禁は許されぬ犯罪です) 監督は万人が認める名作かつ大作である「ローマの休日」「ベン・ハー」などで有名な名匠ウィリアム・ワイラー。しかし個人的には、本作を含め「必死の逃亡者」など社会の闇の部分を斬新な視点と切り口で格調高く描き切る作品こそ偉才振りを発揮していると思うし、また好きですね。それは、常人と常人ではない人間(常人と紙一重かもしれないが)とを対峙させることにより生み出される独特の緊張感、そして監督ワイラーならではの異色心理劇、とでも言えばよいかもしれない。本作に於いても、見る者を困惑させる意外なラストは当時斬新だったに違いなく、それはあたかも将来起こるべく犯罪を予見しているかのようである。ラング作「M」、ヒッチコック作「サイコ」などのお手本があったにしろ、サイコ・サスペンスの傑作であることに疑う余地はない。 9点(2004-10-22 15:50:11)(良:1票) |
10. ガス人間第一号
特撮の父こと円谷英二氏の手による特撮映画を世代別に分けると、まず子供向きには言うまでもなく第2作目以降のゴジラシリーズやその他の怪獣モノ。やや大人向きには「ゴジラ(54)」や「世界大戦争」、そして戦記物。そしてそれら中間に位置する青少年向けには、「マタンゴ」や本作のような科学の力を利用した人間変身モノ。後々、テレビ番組で青少年向けように作られた円谷英二監修、「ウルトラQ」や「怪奇大作戦」などに繋がっていったものと思われる。ちょっと前置きが長くなりましたがこの映画、たしかに突っ込みどころは幾つかあるが作品そのものはなかなか良く出来ています。決してB級ネタをB級のままに終らせてはおらず、悲しい男女の運命劇とも受け取れる意外な結末はたっぷりと余韻を残してくれた。 7点(2004-10-10 11:19:21) |
11. 宮本武蔵 一乗寺の決斗
剣術の世界で圧倒的な強さを誇った宮本武蔵の青年期を描く、吉川英治原作「宮本武蔵」の映画化。エンターテイメント時代劇としては抜群におもしろく、学生時代にはのめり込むようにして読んだものです。また、沢庵和尚にお婆に又八、お通に朱実といった多彩な登場人物を絡ませる人間絵巻は、文豪吉川英治の人生訓がそこかしこに散りばめられており教えられることも数多かった。この全五部作からなる一連のシリーズでは、主人公武蔵を迫真の演技でもって好演した中村錦之助はもちろんのこと、巨匠内田吐夢のゾクゾクさせてくれる丁寧かつ味わい深い演出も見どころです。《ネタバレ》今作のクライマックス、一乗寺下り松で繰り広げられる壮絶な決闘シーン。武蔵が修羅のごとき形相で、我が子をかばう父親もろとも源次郎少年を斬り捨てるという凄絶な描写には思わず唸ってしまった。この鬼畜さながらの非情な剣術体験が武蔵を苦悩させ、人間宮本武蔵の大きなターニングポイントとなる。みなさんの仰るとうり今作の決闘シーンがシリーズ中、最大の見せ場ですね。 8点(2004-09-27 15:17:39) |
12. 十三人の刺客(1963)
わずか十三人の刺客で、どのような戦法でもって参勤交代の道中の途上、暴君の藩主を暗殺するのか。アイデアとしてはおもしろく、しかも丁寧な演出も手伝い中盤あたりまでゾクゾクさせてくれたわけなんだが…。《以下ネタバレ》問題は本作の売りともいえる終盤の大殺陣シーン。そこそこリアリティはあるがこれが冗長に延々と続く。しかも「七人の侍」まんまの袋のネズミ作戦が、なぜか的中また的中でけっこうシラケ気味。ラスト、「待っていたぞ」のドンピシャの御対面シーン。絵に描いたような娯楽時代劇って感じでかなーり興醒め。絶対君主制である武家社会の不条理、武士として生まれた悲しい定めをもそれなりに描かれており、まっ佳作の域には達しているのでは。ところで本作の音楽ですが、巨大ダコや巨獣が出て来そうな雰囲気で、なんか曲調チガウような気もするんですが、ねー伊福部先生。 7点(2004-09-27 15:15:39)(良:1票) |
13. たたり(1963)
みなさんの仰るようにカメラワーク、映像、音、俳優陣の演技だけで背筋がゾクゾクするほどコワがらせてくれる力量ある演出は、さすが名匠ロバート・ワイズ。幽霊を見せるか見せないかギリギリのところまで引っぱる、人間の内面から揺さぶる恐怖の醍醐味。この、ワイズ監督の格調高い雰囲気とゾクゾク感、そして演出の妙が充分に味わえる。この映画ではカメラワークと音(とくに効果音)の使い方が巧みなのはいうまでもありませんが、モノクロ映像ならではの、陰と闇の抜群の効果が存分にイマジネーションを働かせてくれた。このように、モノクロ映像が放つ魅力を再認識させてくれる、代表的な作品ではないだろうか。ところで本作は、視点を変えて見るならば孤独な女性の悲しい物語とも言えると思います。女性としての大切な時期を母親の看病にすべてを捧げたあげく、唯一の遺産である家屋を姉夫婦(たしか記憶では)に奪われてしまう。帰る家もなければたよれる人もいない。前途に希望を見出せず精神的に不安定になっているところ、引き寄せられるように巡り合えたのがこのヒルハウス。ただ怖がらせるだけではなく、悲しいドラマという側面をもたせ印象度を高める辺りは、やはりロバート・ワイズらしい。たしかに小品ですが、恐怖映画の傑作と言い切ってよいと思いますね、本作は。 9点(2004-09-14 15:39:27) |
14. 僕の村は戦場だった
タルコフスキー監督による長編映画第一作。さっそくこの作品でも、物質文明とは対極にある自然界を構成する水、火、木、土などが重要な要素を占めており、これらの格調高い演出はさすがであり感心しきり。ただ、本筋に於いて必要なのかと思われるシーンがところどころ見られる。しかしそんなシーンでさえ後々まで記憶に残り、説得力を持たせるところがタルコフスキー作品の奥深さとも言えよう。この映画では、主人公イワンを演じた少年の存在がすべてであろう。少年イワンが海辺を楽しそうに走るシーンは哀し過ぎるほど美しく、いつまでも脳裡に焼き付く。ドイツ軍に対し憎悪の塊となった少年イワン。夢の合間に現われる幸せだった日々と、過酷な斥候となった現実との対比が戦争の悲劇性を浮き彫りにする。また、表面的には憎きドイツ軍という設定だが、子供というものは国家にしてみると光り輝く希望そのものであると、監督タルコフスキーは敵味方の壁を超え戦争指導者に訴えかけているようにも見受けられる。すると本作は、人間としての良心や罪の意識に問いかける痛烈な戦争批判映画とも言える。様々な解釈が出来る傑作です。 10点(2004-08-19 10:30:31)(良:3票) |
15. 仇討(1964)
ズシリと重い時代劇です。中村錦之助演じる主人公新八は些細な事から上役と果し合いとなり、その弟まで二人を斬り捨ててしまう。新八にしてみれば、武士らしく正々堂々と勝負に臨んだまでのこと。そんな新八を藩全体がよってたかって死に追いやろうとする。藩の名誉、面目を絶対的なものとする当時の武家社会の非情さ、そして下級武士に生まれた悲劇を名匠今井正は力強くリアルなタッチで描いています。このような世間体を重んじる非情な体質は、日本の政界や大企業に今だ根強く残っている闇の部分と言えるのではないだろうか。死を覚悟に太刀の刃引きをするシーン、湯につかり武者追いの歌を歌うくだりなど、新八の穏やかな表情が胸を打つ。ラスト、竹矢来の中での仇討シーンは凄惨を極めており、新八の心情を察すると言葉が出ない。たしかに、話が前後する展開で若干滞りがちなんですが、錦之助の迫真の演技にこの壮絶なラストシーンで補って余りあると思います。 8点(2004-08-08 10:44:17) |
16. 武士道残酷物語
君主や国家に仕えた中村錦之助演じる飯倉家当主の残酷な歴史を、戦国時代から太平洋戦争、そして現代まで七つに区切りオムニバス形式で描いています。その中でも、3番目と4番目の物語りが強烈な印象を残しましたね。とくに4番目、非道を極めた藩主に仕える飯倉修蔵の被虐的忠義心にはただただ唖然。ただ一人残された幼子が「侍の命は侍の命ならず、主君の為ならば…」を繰り返し唱えるシーンにはゾッとさせられるものがある。忠義、忠義、そして腹切り。もし欧米人が見たならば、さぞや驚愕したことであろう。ところで、非道ぶりに逆上した家臣が君主を斬り捨てるというシーンがあるわけですが、当時、虎視眈々と狙うこのような侍がけっこういたのではないだろうか。それにしても本作は、島国である日本人の精神構造を執拗なまでに描写しており、名匠今井正のリアリズム手法には脱帽ものです。敗戦後日本は、基本的人権を根幹にした民主主義が当たりまえのように思われています。しかし私たちの祖父の時代までは、この非人間的な君主制・天皇制が延々と続いていたわけなんですよね。しかも何が一番凄いかといえば、昨今日本人の個人主義(否、自己中心主義というべきか)への変わり様、激変する精神構造. ベルリン映画祭金熊賞受賞も納得の、時代劇の傑作です。 9点(2004-08-08 10:37:48) |
17. 世界大戦争
タイトルから分かるように第三次世界大戦という大作だが救いようのないテーマを、平均的な市民である運転手一家の視線を通じて描いています。監督は松林宗恵で、特撮はもちろん円谷英二。人間ドラマと特撮との役割分担をはっきりさせた割りには違和感のない仕上がりになっており、核ミサイルを制御する軍人達のスリリングなシーンを取り入れたりで、最後まで緊張感を持続して見れる。やはり最大の見どころは、特技監督円谷英二の集大成ともいえる精巧なミニチュアセットと特撮。今現在の視点で見るならば、時代を感じさせなくはないが(もちろん当時としては衝撃的だった)、それよりもいかに描写すべきかという発想そのものに舌を巻く。(これだけはセンスの問題であろう) 富士山の背後で閃光と共に立ち昇る巨大なキノコ雲、溶岩状の地上に僅かな原形を残す国会議事堂などなど、そら恐ろしい光景が画面に映し出される。それこそ核戦争が勃発しようものなら人類はこの様に崩壊するのだ、ということを見事描写しており、いつまでも脳裡に焼き付く。特撮という素晴らしい技術は、確かなテーマと強烈なメッセージに裏打ちされてこそ最大限に活かされるということをも、この作品では教えてくれた。「ゴジラ(54)」と双璧をなす特撮映画の傑作として、この作品を高く評価したく思います。 10点(2004-06-17 11:11:39) |
18. 妖星ゴラス
「地球最後の日」より、巨大彗星などが地球に激突するというSF映画は今までに何作かあります。この映画の良いところは、安易に核の威力で恒星そのものを爆破しようというのではなく、地球そのものを移動して激突を避けるというところです。これはムチャというより逆転の発想と受け取りたい。しかも米ソの緊張が高まる時代背景の中、国連を通じ世界がその持てる科学力を結集し、人類の危機を回避するという斬新かつ希望に満ちたテーマ性。このように強く訴えるものがあるならば、時代を感じさせなくはない演出も特撮もおおめに見てしまいます。しかし残念なのは、突如現われ基地を破壊する怪獣マグマの登場シーン。これはイタダケナイ(-2)。怪獣ブームということもあり、きっと会社のトップから出せの命令が下ったのでしょう。円谷英二氏にしてみれば心底悔しかったに違いなく、大人向けSF映画の名作となりえただけに残念な作品です。 7点(2004-06-17 11:10:03)(良:2票) |
19. H.G.ウェルズのS.F.月世界探険
科学者が鍛冶屋や庭師と共に自前のロケットを作ったりと、ファンタジー色豊かなファミリー向けSF映画。モンスター造形と特撮はレイ・ハリーハウゼン。ニョキニョキ伸びた不思議なモノリスや、永久運動を繰り返すソーラーシステム?などユニークなオブジェがけっこう楽しい。その一方、人間側も月人に対し攻撃型と友好型に分かれるなど、ここかしこに風刺を利かせたシーンもありなかなか侮れません。ここはひとつ、想像力を逞しくして見るべしウェルズ作品。 7点(2004-05-27 11:22:31) |
20. かくも長き不在
まず浮浪者風の男のシーン、次に大音響と共に軍隊のパレード(パリ祭だろうか)が映し出される。そしてアコーディオンが流れる陽気なタイトルロールへとつながる。この映画は戦争が背景にあるということを暗示させており、切り口早々から監督アンリ・コルピのセンスの良さにヤラれてしまう。本作では、アリダ・ヴァリが主人公の中年女性を魅力たっぷりに演じており、これが抜群に素晴らしい。記憶を失った夫(実は夫ではないかもしれない)に向ける情感を込めた優しい眼差し、何とか夫の記憶を呼び戻そうとあれこれ試みる姿などなど…まさに大人向けの愛のドラマ。後頭部にある深い傷の跡、名前を呼ばれ一瞬記憶を取り戻したもののそのまま悲劇につながるラストシークエンス…たったこのふたつのシーンで、この男が戦争の狂気に巻き込まれ記憶を失ったことが分かる。切々と描いた夫婦愛の名作にして、見事な反戦映画。 9点(2004-05-13 10:43:35)(良:1票) |