1. 楢山節考(1983)
《ネタバレ》 子どもの頃児童文庫で読んだ日本の昔話「姥捨て山」。細かい内容までは覚えていないが、祖母をおぶって山に捨てに行く父親を想像するだけで空恐ろしく、怒りと悲しみを感じたものだが、それどころじゃなかった。 この村は生きていることも困難なほど貧しく、古くから守られてきた口減らしに基づくいくつかのローカルルールがある。それを守って、生きる事を許されている者のみが逞しく生きる。食料は少なく娯楽も無いが、食欲と性欲だけは持て余すほどある。子は出来るが人が増えすぎるのは困る。 ルールは理不尽なものばかりだが、村人たちは生まれた時からそれを当然の事と受け入れていて、老いて山に捨てられることも「山の神様に迎えられる」と考える(捨てに行く長男は辛いのだが)。 過酷な生活を送る中でも、年の功で物知りなおっ母は家族思いで、少し短気な長男も母親思いで、隣村から来た後妻は気立てが良くおっ母とも仲良し、それだけが救い。ルールを守り無言でおっ母を捨てに行く道中は厳しくそして悲しいのだが、BGMによって何か異世界に迷い込むようなシーンとなり印象的だった。 時々挟まれる野生動物たちの映像、カマキリがカエルを喰い、蛇がネズミを丸呑みし、交尾する。 ここの人間たちは野生動物たちと同じく、生きるために必死だった。 [インターネット(邦画)] 7点(2025-03-13 11:49:42)《新規》 |
2. 名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN
《ネタバレ》 ただの音楽オタクだった名もなき金もなき若者が、「音楽で食えるようになりたい」という当初の目標も早めにクリアし、あっという間にフォーク界のプリンスになる。 彼がやりたい音楽は別にフォークに限らず、カントリー、ブルース、ロカビリー、ロック、彼の心を揺さぶるものであればそれは何だってよかった。頭の中に湧き上がる言葉とメロディーは、ジャンルの枠に収まらない。彼を縛り付けることも、溢れる音楽を堰き止めることも誰にも出来ない。作中でも押し寄せる音楽の嵐には圧倒されるばかりだった。 フォークのカリスマというレッテルを張られ、音楽もプライベートも自由を奪われ、馬でもないのに他人の荷物を背負わされ、がんじがらめになるのだが、そこに悲壮感はあまりない。 風に吹かれて転がる石のように、変わる時代を俯瞰で見渡す。それが普遍的なものを生み出す。 ティモシーシャラメがボブディランを演じたその努力というか意気込みを、感じさせないくらい自然にボビーになっていて、そのオーラまでもちゃんとコピーされていた。すごい俳優です。 [映画館(字幕)] 9点(2025-03-05 13:51:37)(良:1票) |
3. 生きてこそ
《ネタバレ》 想像以上に感動的な友情の物語だった。 乗客27人だけのアンデス山脈遭難は、まるで医師のいない野戦病院。悲惨な現場だ。見渡す限りの雪山、-40℃の極寒、食糧なし防寒具なし無線なしの中、普通なら自己中な奴がいたり争いがあったり、泣き叫んだり狂ったりで、とてもじゃないけど無理。それが70日間続いたという。当人たちにとってはそれがいつまで続くかなんて分かっていないのだから、もう絶望しかないと思う。 しかし彼らはラグビーのチームメイト、上手く統率を取りとにかく救助が来るまでサバイバルで生き延びる、という話かと思っていた。それだけでも十分すごいと思う。過酷な決断をし、仲間が一人ずつ減ってゆくことに耐え、生命の危うさを思い知る。 更に彼らはカトリック系の学生だったから、神の存在を道標とする。そこで力尽き死にゆく者にも、奇跡的に回復して命拾いする者にも、神は同じように現れる、と考える。生も死も 思し召し と思うかのように。 友人を思う気持ちが自然で美しく、その強い友情で耐えきるというだけでも十分な見せ場なのだが、なかでも勇気ある者がアンデス山脈を越えて自力で救助を要請するという、とんでもなく感動的なラストだった。それはちょっと凄すぎる。想像を大きく超えたノンフィクションサバイバル。 ほんと、生きてこそ、だ。邦題が素晴らしい。 [インターネット(字幕)] 9点(2025-02-28 14:18:46) |
4. ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
頑固で偏屈で嫌われ者の古代史教師ハナム先生。彼のキャラクターが素敵だった。学問を追求し孤独を追求し、嘘はつかず自分を貫くが紳士的で他者の意見を聞き入れないこともない。 歴史美術館にて「退屈だ無関係だと否定しないで、今の時代や自分を理解したいなら、過去から学ぶべきだ。歴史は過去を学ぶだけでなく、今を説明する事でもある。」 先生は斜視だし持病のため魚の体臭がするしで、これまでの人生あまりツイてなかったようだが、そんなことは気にも留めず人のせいにもせず、ただただ古(いにしえ)に想いを馳せているのだろう。自分は自分、嘘はつかないバートン男子のプライドだけを忘れずに。 人はみな孤独。それがどうした。物事は案外単純で、時間軸には過去と未来しかない。今なんて一瞬だ。出会いもあれば別れもある。それだけの事だ。っていう前向きで軽やかな後味が残る作品だった。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-02-20 15:59:29) |
5. キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド
ドラマシリーズの「ザ・ファルコン&ザ・ウィンターソルジャー」がかなり良かったので、期待値もそれなりに高く、一応全ての関連作品を観てきているので(あっ!マーべルズ観てない!)、ここまでくるとなかば義務として鑑賞。 ざっくり言って、ストーリーはまだ次のステップへの序章に過ぎずヴィランも微妙だったが、元ファルコンのサムが、まあカッコいいこと。重責を担ってプレッシャーを感じ、血清打ってないけどものすごく強いのに、自分の努力は足りてるのかと未だに悩んで。とにかく誠実でスティーブが選んだのも納得のスーパー兄貴。これはもう相棒のホアキンじゃないけど、どこまでも付いていくしかないでしょう。 本作を観る前には、前述の「ファルコン&ウィンターソルジャー」と、「インクレディブル・ハルク」をおさらいしておいた方が良い。 [映画館(字幕)] 7点(2025-02-16 16:17:04) |
6. ナイト・オン・ザ・プラネット
地球上のある一瞬を切り取り、5本のエピソードをオムニバスで見せる。 共通点はタクシー。ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキという5都市で、それぞれのタクシードライバーが客を乗せては降ろす。同時に起こっている設定だが時差があるから、夜10時のロスから始まり夜が深けていき、朝5時のヘルシンキは空が白んでくる。ドライバーも客も、それぞれの真夜中と夜明けを迎える。何だか地球の自転を感じたりする。地球って、時計の短針が2周してる間に1回転するんだなーなんて。 タクシー運転手は自分独りの職場を転がして、夜の街をその箱の中に切り取り、見ず知らずの人間を取り込んで交わり、二度と会わない者として吐き出す。考えてみるとかなり不思議な空間だ。 5本のエピソードはそれぞれ見ても見なくてもどうでもいいような話なんだけど、どれも可愛らしく愛おしい。知らない者同士だから価値観の違いがあるのは当たり前。それでも二度と会わない数分間の関係だから別にいい。へーって言って流せる感じ。ドリフの大爆笑のコントみたい。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-02-16 15:32:32) |
7. ファーストキス 1ST KISS(2025)
《ネタバレ》 坂元裕二×松たか子で面白くない訳がない。いつも見ているのは絶妙に面白い日常会話劇だが、今回はSFラブストーリーとの事。 マルチバースの世界観はもはや映画では基礎的知識として溢れている昨今、坂元氏の描くそれはどうなるのか、どう日常に落とし込むのかと興味深々で観たが、想像を超えるほどの深いヒューマンドラマに仕上がっていて驚愕した。 ラブストーリーという個人的な恋愛を描くと見せかけ、最終的に人間愛や人生観を描く壮大なドラマになっていたと思う。 「人生一度きりなんだから好きなことやらなきゃ」「人生やり直しは出来ないんだから」。タイムマシンが無ければそのとおりだ。もちろん現実世界にタイムマシンなんて無い。過去を変えることはできない。でも今を正して未来を変える事ならできる。「未来」を「反省」することが出来たら、タイムマシンに乗らなくたってやり直すことが出来る。「現在」を積み重ねた所に「未来」があるのだから。 結末は変えられなくても過程は変えられるとしたら、一番幸せな過程がいい。寂しさは人と人の繋がりがあるからこそ起こる感情なのだから、寂しさも感じない別れは虚しすぎる。人と人との繋がりなんてちょっとした小ネタでいいんだ。靴下の共有だったり、ばったり外で会っておー、って言ったり。ふふってなる感じが大げさでなくて心地よい程度の些細な幸せでいい。 いろいろと考察が楽しい作品。誰かと共に、観終わった後あーでもないこーでもないと話したくなる。 [映画館(邦画)] 8点(2025-02-13 16:04:15)(良:1票) |
8. サマーフィルムにのって
「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」映画を愛する主人公のセリフ。そして今は未来へとつながる。 映画とタイムループは相性が良い。SFで夢があって、必ず愛がある。そして映画そのものが、誰もがいつでも手に取って観ることが出来るタイムカプセルだから。 オタクの趣味を理解し合える仲間が周りに(一人でも)居ることの幸福。これは学校という同世代の者が集う小集団だからこそ容易に感じられる実は奇跡的なもの。社会ではこれが意外と難しい。だから学園ものはキラキラしてるんだ。 俳優はほぼ素人っぽくB級の域を超えられなかったが、その中で河合優実はやっぱり本物の臭いがした。 上映会で掛けられた完成品の編集と殺陣は、純粋にカッコ良かったと思う。そっちも観たかった。 ハチャメチャではあるが、映画愛にあふれた作品。「映像は5秒がトレンド、1分は長編」な未来は嫌だ。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-02-02 10:32:25) |
9. 女は二度決断する
《ネタバレ》 ダイアンクルーガー、本作に関して言えば、素晴らしい俳優。今まであまりご縁が無かったのであくまでも本作についてです。クールで芯が通った強い女性像は、ジョディフォスターを思わせる。似てはいないけど。 普通の幸せな家族が巻き込まれた悪夢のような事件。一生のうちに一番言われたくない言葉「DNA鑑定で身元の確認を。」もう泣き崩れるしかない。そして「あなたがちゃんとみてればあの子は…」これもきつい。 度々ドキュメンタリーのような撮り方の映像をはさみ、視聴者にまるで実話のように見せ、感情移入させる。 ネオナチやギリシャの極右団体など日本人にはあまりピンと来ないが、サムライのタトゥーを入れた主人公カティヤの魂の物語であることは痛いほど伝わった。 重たい題材を106分にまとめられたのは、全く無駄のないストーリーテリングだったから。多くの事は法廷で語られる形式をとり、犠牲になった家族の遺体など一切出さず、法廷での証言で聞かされる残酷な死因と現場の状況。それをただ黙って聞くしかないカティヤは、込み上げる悲しみと怒りで気が狂いそうになる。 凶器となった爆弾のことも法廷でレクチャー、彼女が元々エンジニア系が得意な点もさり気なく伝えられている。 彼女は決断したが、一度目は断念した。小鳥のせいか。 家族で行った海でのホームビデオを繰り返し見返すカティヤ。「ママもおいでよ」と言う夫と子供のセリフ。 事件以降ストレスで止まっていた生理が、来る。自分の信念と関係なく、時の経過は心と体を徐々に癒そうとしている。控訴して、このまま前向きに立ち直ることも出来るかもしれない、もう私は大丈夫かもしれないと正気を取り戻したうえでの「二度目の決断」だったんだと思う。誰も救われない、やるせない結末。それがテロなんだ。 [インターネット(字幕)] 9点(2025-01-30 18:07:49) |
10. リトル・ダンサー
《ネタバレ》 何て良い家族なんだろう。ハラスメントの塊のようなお父さん、粗暴で筋肉頭のようなお兄ちゃん、認知症のおばあちゃん。そこに思春期で反抗期の主人公ビリー。そりゃあフラストレーション溜まりまくるでしょう。 炭鉱は潰れ掛け、炭鉱夫のお父さんとお兄ちゃんはいつもイライラしている。みんなこのままじゃいけないって事を感じてる。 ビリーのがむしゃらな踊りに、現状打破の希望を感じたお父さん、もうここからは熱い絆、温かい家族。 ビリーの夢、それは家族みんなの夢。スト破りで屈辱的惨めな姿をみせるお父さんのカッコ良さ。お兄ちゃんとおばあちゃんが優しく見守る姿。 そして14年後、ビリーの雄姿をまだ観る前に泣き始めてしまうお父さんに、愛情の深さを見せられた。ブラボー。 [インターネット(字幕)] 10点(2025-01-26 13:50:12) |
11. そして、バトンは渡された
《ネタバレ》 原作を少し前に読んだので鑑賞。これはこれは。タイトルを拝借しただけの別物なのでは。原作の細かいところまで全てを憶えているわけではないが、全ての登場人物の印象がなんだかちょっとずつ違うような気がした。俳優さんの演技に問題があるわけではない。原作と全く同じものを求めているわけでもないのだが、根本的な所が違う気がした。軽いタッチで読みやすい原作の文章が表現しているのは、まさに軽やかに世の中を渡ってゆく優子ちゃんというキャラクターそのもので、みいみい泣く みいたん ではない。優子ちゃんは強い子とまでは言わないが、現実を認めるのがとても上手で湿っぽいところがない子だったと思う。梨花さんは梨花さんであって、ママではない。結婚式の前に実のお父さんの事を「水戸さん」と表現した箇所も違和感があった。それぞれの呼び名一つとっても、その人間関係、距離感に係わる大きな差異となる。 また、本作では「親めぐりの旅」がメインパートとなっているようで、そこに行くまでが雑と言うか、特に高校生活の部分は早瀬君に出会うためだけに描かれたようなもんで、友達や担任の先生はもはや存在が謎レベル。 バトンの受け渡し、という大枠はなぞられているが、梨花さん(ママ)の顛末が「実は昨日電話があって…」って、ここまでご都合主義とはむしろあっぱれ。 何度も言うが、俳優さんは悪くない。脚本の問題。 [インターネット(邦画)] 4点(2025-01-09 18:48:22) |
12. JAWS/ジョーズ2
《ネタバレ》 続編なので前作と比べてしまうのは当然だが、比べる対象があまりに偉大過ぎて可哀そう。冒頭でダイバーたちが沈没したオルカ号を発見した時、前作のエンディング曲がさりげなく流れた時は、演出のセンスの良さを感じたし、元々海恐怖症だったブロディ署長がサメ嫌悪からすっかり猜疑的になっていて、海水浴客から白い目で見られてしまう所は胸が痛んだりもした。署長の功績を知らないんかよ!ってなった。続編としては合格な滑り出しだと思う。 前作の戦友が登場しない分、今作はブロディ署長が単身でサメ退治に挑む流れを期待した。署長がこっそり銃弾にシアン化ナトリウムを仕込んだりしていたもんだから。しかしその銃弾は使われる事もなく、おっさんが奮闘するというワクワクドキドキアドベンチャーにはならなかったのは残念。ロイシャイダー、前作の撮影で懲りちゃったかな。 結局少年たちのヨットが襲われるシーンが長くそれがメインとなり、対象年齢若めのパニック映画となった。まあそれはそれで怖かったし楽しめたのだが。 ラスト、きちんとブロディ署長の活躍でサメは焼き魚になったし、全体的には面白かったけど、なんかそうじゃないんだよな感が残ったかな。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-12-24 16:11:32) |
13. ドライブ・マイ・カー
《ネタバレ》 村上春樹の短編小説がベースになっているとの事で、登場人物が皆淡々としているが、それがだんだん心地よくなってくるのが正に村上ワールド。そこにチェーホフの戯曲を前面に押し出すことによって、多分、原作は読んでいないのであくまでも多分、そのことで原作小説よりも主人公家福の苦悩がより深く表現されているのではないかと想像すると、本作は映画として大成功だったのではないかと思う。チェーホフのテキストを口にすると自分自身が引きずり出されると語る主人公。妻の死によって、罪悪感を含む喪失感を抱えることになった彼にとっては、自分自身を引きずり出す行為が必要だった。前に進むためには。専属ドライバーの女子も家福と同じ心の傷を持ち、車中でカセットテープを聞き共にチェーホフに触れることによって、同じく自分自身が引きずり出される感覚に陥ったのだろう。二人は決して恋仲なんかになるわけではなく、互いの傷を交換し、自分たちは大丈夫だと確認し合う。身近な人を亡くした時、そこに居るはずの場所がぽっかり空いてしまった時、「喪失感」という新たな感情が生まれ、それは空いてしまった場所を埋めるかのようにそこに居座る。言いたかった言葉、伝えたかった感情を向ける相手がいなくなると、その言葉や感情は宙ぶらりんとなり、喪失感と一緒に仲良くいつまでも残ってしまうのだろう。自分自身を引きずり出し、悲しみや辛さを認め、今世は絶えて生き抜くしかない。そんな人生観はとてつもなく切ないが、逆にあっけらかんとしていて物凄く前向きだ。ドライバー女子の最後の表情は、それまで見たことのない柔らかな微笑で、ああ前進したんだなと思える素敵なラストシーンになっている。 [インターネット(邦画)] 8点(2024-12-19 18:29:51) |
14. ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版
《ネタバレ》 キスシーンをつなぎ合わせたフィルム映像に、師匠アルフレードの真意が全て込められていた。ことごとくキスシーンをカットして上映していた映画館を思い出し閉鎖された村であったことを再確認する。そしてまたその頃の映画愛が蘇る。 郷愁に惑わされるな。一度しかない自分の人生、いろんなものを観て、いろんな女と知り合って、広い視野を持って羽ばたけよ、て事だったんだな。怒りも吹っ飛ぶ深い愛のメッセージだった。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-12-12 15:47:29) |
15. レディ・バード
《ネタバレ》 故郷(田舎、ダサい)=母親(ウザい)。その呪縛から逃れるために、高校生は都会の大学に進学を希望する。そこで特段やりたい事があるわけでもないのに。これ凄くよく分かる。自分がまさにそれだったから。そして親元離れてその有難さに気づき、あろうことか郷土愛まで芽生え、パッとしないイケてない名前すら、自分の身の丈に合った程よい普通さにホッとする。心当たりあるわ~。 17歳とは、自分が思ってるより子供で、大人が思ってるより大人。そんな年頃だってのは全世界共通なのかもだけど、アメリカの土地勘や経済感覚はピンとこないので、そういう面が全て共感できるかって言うと難しい。でもそれは残念ながら観る側の問題なので仕方ないとする。 この世の終わりかと思うような身の回りの出来事も、自分はなんて不幸なんだろうと悲劇のヒロインに陥るときも、過ぎてしまえば何てことない。今は平凡な日常が送れている事をありがたく思う。そう言えば「有難い」とは、めったにない貴重なこと、って意味なんだな~としみじみ。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-12-09 14:25:22) |
16. カジノ
《ネタバレ》 ショッキングピンクのジャケットを着こなしキャデラックに乗り込む主人公サムは見るからに成功者。そして「信頼を重要視する」という自らのポリシーを発表した瞬間、爆炎で宙に舞う。これが本編を観る前の仕掛けになっていた。 些細な犯罪歴はあるものの、登場人物の中では唯一ギリギリセーフな男が、徹底した管理手腕を生かし、ギラギラに登りつめていくわけだが、ラストはああなっちゃうんだなと。悪女ジンジャーとの出会いから始まり、狂犬ニッキーとの腐れ縁、使えない従業員解雇、表向きの社長グリーンが訴えられ、ニッキーの素行の悪さからFBIが躍起になる。全ての出来事が数珠つながりとなってサムを追い込んでいく。 で、冒頭のシーンを裏切るように、ギリギリセーフなサムは奇跡的に助かり、アウトな人間たちは自滅していく。因果応報な実話は、スコセッシ監督らしい題材。 デニーロ、ジョーぺシ、シャロンストーン、「信頼」とは真逆の三人を演じたそれぞれが素晴らしい演技だった。 [映画館(字幕)] 8点(2024-12-06 14:20:32) |
17. グッドフェローズ
《ネタバレ》 カッコいい先輩をまねて処世術を身につけ、ボスに気に入られ、ちょっと頑張ったら10代の若造だって大金が稼げる。主人公ヘンリーが夢見たアメリカンドリームはマフィアの世界だった。その特殊な世界には独自のヒエラルキーなんかもあって、生粋のイタリア人でないと幹部になれないとか、中でもシチリアの血が上位で、アイリッシュやユダヤは後続だとか、この辺はおもしろい。 スコセッシは歴史をそのまま映像化する。事実として多くの鑑賞者に伝承し、そこに私情を挟まない。盗みと薬と殺しを職業としている男と、それに養われて贅沢な生活をする家族たち。こんな世界があるんだぜと。そもそもこんな世界のヤバい奴らに共感できるわけないし、できた奴はヤバい。マフィアに夢を見るな。夢を見るなら目を覚ませ。少なくともそんなメッセージはあったように思う。 あきれるほど散々悪事を働いといて、ヤバくなったら警察(善)に協力して、仲間(悪)を裏切る。マフィアに共感はしてないが、なぜかコイツが一番クズに感じる。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-11-22 13:54:09) |
18. スパイダーマン:スパイダーバース
《ネタバレ》 アニメの技術って凄い。MCUの実写作品に真っ向から勝負している。まあ実写映画と言っても大半はCGなので、アニメみたいなものだけど。もう全部これでいいじゃんというくらい映像は素晴らしい。で、そこにコミック寄りの表現が加わり、実写との差別化も出来てる。ただ多くの皆さんが言うとおり、主人公に魅力が無いというのは否めない。みんな大好きピーターパーカーを退けておいて跡継ぎがこの子?と物足りなさ、認めたくない気持ちが発動するのはごもっとも。しかしスパイダーマンというヒーローが目指すのは親愛なる隣人であるし、ピーターパーカーとはどこにでもいるごく普通の、無個性な少年の代名詞なのだから、この段階では問題ないと言える。そしてこの頼りない新人ヒーローを支えるのが、異次元でスパイダーマンとして活動している個性的なキャラクター達だからバランスが取れてるように思う。まさにマルチバースの考え方はアニメとも相性が良く、スパーダーマンノーウェイホームもしこたま感動させられたけど、こちらの方が先にやっていたんだな。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-11-19 10:58:38) |
19. ダイヤルMを廻せ!
《ネタバレ》 トニーという男は頭が切れる。そして執念深い。前科者の先輩なんて簡単に行動を操られ、殺人動機の手紙に指紋まで付けられて、はした金で言われたとおりに何の縁もない人妻を殺しに行っちゃう。冒頭で語られた完全犯罪は失敗するけど、推理小説家に全て筋書きを言い当てられてしまうところからが面白い。それまで全てを先導していた切れ者のつもりが、娯楽推理小説家がちゃちゃっと考えたチープなトリックのまんまで、結局4本の鍵に翻弄されボロを出す。でもこの男、絶対に狼狽しない。捕まるときも至ってスマート。これってヒッチコックの理想なのかな。頭の中で犯罪の計画を立て、美女を絞殺し(または殺させて自分はそれを見物)、殺される美女はもちろん大好きなグレースケリー嬢で、捕まるときはカッコ良く。なかなかの変態的紳士像ですね。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-11-12 18:13:48) |
20. キャリー(1976)
《ネタバレ》 短い作品だが、インパクトは物凄い。もう、インパクトしかない。浮き沈みが激しく、全体を色で表すと、グレー→ピンク→赤→黒。そしてホラーとしては悲し過ぎるが、それもまた大きなインパクト。それまで虐げられていた少女が、例え一時の幸せだとしても、施しに似たような幸せだったとしても、彼女にとっては生まれて初めて感じた幸せだった。これ以上ない程の満面の笑みをたたえていた絶頂の瞬間に、最悪な事が起こってしまうことは想像するだけでわかるように進むので、ただただ可哀そうで、迫るクライマックス(悪趣味な悪戯)までは胸が締め付けられる思い。一人の少女がここまでのバッドエンドを巻き起こすとは、母親の言う通りキャリーは悪魔だったのか、いやそうは思いたくない。首謀者数人以外はキャリーを認めて受け入れてくれた。その事実を知らないまま不幸のどん底のまま終わったのは、救いようがなく悲し過ぎる。生き残りのスーの気持ちを想うと、またやるせない。短いのにとてつもなく重たい作品。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-10-31 18:25:10) |