1. ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
頑固で偏屈で嫌われ者の古代史教師ハナム先生。彼のキャラクターが素敵だった。学問を追求し孤独を追求し、嘘はつかず自分を貫くが紳士的で他者の意見を聞き入れないこともない。 歴史美術館にて「退屈だ無関係だと否定しないで、今の時代や自分を理解したいなら、過去から学ぶべきだ。歴史は過去を学ぶだけでなく、今を説明する事でもある。」 先生は斜視だし持病のため魚の体臭がするしで、これまでの人生あまりツイてなかったようだが、そんなことは気にも留めず人のせいにもせず、ただただ古(いにしえ)に想いを馳せているのだろう。自分は自分、嘘はつかないバートン男子のプライドだけを忘れずに。 人はみな孤独。それがどうした。物事は案外単純で、時間軸には過去と未来しかない。今なんて一瞬だ。出会いもあれば別れもある。それだけの事だ。っていう前向きで軽やかな後味が残る作品だった。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-02-20 15:59:29)《新規》 |
2. キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド
ドラマシリーズの「ザ・ファルコン&ザ・ウィンターソルジャー」がかなり良かったので、期待値もそれなりに高く、一応全ての関連作品を観てきているので(あっ!マーべルズ観てない!)、ここまでくるとなかば義務として鑑賞。 ざっくり言って、ストーリーはまだ次のステップへの序章に過ぎずヴィランも微妙だったが、元ファルコンのサムが、まあカッコいいこと。重責を担ってプレッシャーを感じ、血清打ってないけどものすごく強いのに、自分の努力は足りてるのかと未だに悩んで。とにかく誠実でスティーブが選んだのも納得のスーパー兄貴。これはもう相棒のホアキンじゃないけど、どこまでも付いていくしかないでしょう。 本作を観る前には、前述の「ファルコン&ウィンターソルジャー」と、「インクレディブル・ハルク」をおさらいしておいた方が良い。 [映画館(字幕)] 7点(2025-02-16 16:17:04) |
3. ファーストキス 1ST KISS(2025)
《ネタバレ》 坂元裕二×松たか子で面白くない訳がない。いつも見ているのは絶妙に面白い日常会話劇だが、今回はSFラブストーリーとの事。 マルチバースの世界観はもはや映画では基礎的知識として溢れている昨今、坂元氏の描くそれはどうなるのか、どう日常に落とし込むのかと興味深々で観たが、想像を超えるほどの深いヒューマンドラマに仕上がっていて驚愕した。 ラブストーリーという個人的な恋愛を描くと見せかけ、最終的に人間愛や人生観を描く壮大なドラマになっていたと思う。 「人生一度きりなんだから好きなことやらなきゃ」「人生やり直しは出来ないんだから」。タイムマシンが無ければそのとおりだ。もちろん現実世界にタイムマシンなんて無い。過去を変えることはできない。でも今を正して未来を変える事ならできる。「未来」を「反省」することが出来たら、タイムマシンに乗らなくたってやり直すことが出来る。「現在」を積み重ねた所に「未来」があるのだから。 結末は変えられなくても過程は変えられるとしたら、一番幸せな過程がいい。寂しさは人と人の繋がりがあるからこそ起こる感情なのだから、寂しさも感じない別れは虚しすぎる。人と人との繋がりなんてちょっとした小ネタでいいんだ。靴下の共有だったり、ばったり外で会っておー、って言ったり。ふふってなる感じが大げさでなくて心地よい程度の些細な幸せでいい。 いろいろと考察が楽しい作品。誰かと共に、観終わった後あーでもないこーでもないと話したくなる。 [映画館(邦画)] 8点(2025-02-13 16:04:15)(良:1票) |
4. サマーフィルムにのって
「映画って、スクリーンを通して今と過去をつないでくれるんだと思う」映画を愛する主人公のセリフ。そして今は未来へとつながる。 映画とタイムループは相性が良い。SFで夢があって、必ず愛がある。そして映画そのものが、誰もがいつでも手に取って観ることが出来るタイムカプセルだから。 オタクの趣味を理解し合える仲間が周りに(一人でも)居ることの幸福。これは学校という同世代の者が集う小集団だからこそ容易に感じられる実は奇跡的なもの。社会ではこれが意外と難しい。だから学園ものはキラキラしてるんだ。 俳優はほぼ素人っぽくB級の域を超えられなかったが、その中で河合優実はやっぱり本物の臭いがした。 上映会で掛けられた完成品の編集と殺陣は、純粋にカッコ良かったと思う。そっちも観たかった。 ハチャメチャではあるが、映画愛にあふれた作品。「映像は5秒がトレンド、1分は長編」な未来は嫌だ。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-02-02 10:32:25) |
5. そして、バトンは渡された
《ネタバレ》 原作を少し前に読んだので鑑賞。これはこれは。タイトルを拝借しただけの別物なのでは。原作の細かいところまで全てを憶えているわけではないが、全ての登場人物の印象がなんだかちょっとずつ違うような気がした。俳優さんの演技に問題があるわけではない。原作と全く同じものを求めているわけでもないのだが、根本的な所が違う気がした。軽いタッチで読みやすい原作の文章が表現しているのは、まさに軽やかに世の中を渡ってゆく優子ちゃんというキャラクターそのもので、みいみい泣く みいたん ではない。優子ちゃんは強い子とまでは言わないが、現実を認めるのがとても上手で湿っぽいところがない子だったと思う。梨花さんは梨花さんであって、ママではない。結婚式の前に実のお父さんの事を「水戸さん」と表現した箇所も違和感があった。それぞれの呼び名一つとっても、その人間関係、距離感に係わる大きな差異となる。 また、本作では「親めぐりの旅」がメインパートとなっているようで、そこに行くまでが雑と言うか、特に高校生活の部分は早瀬君に出会うためだけに描かれたようなもんで、友達や担任の先生はもはや存在が謎レベル。 バトンの受け渡し、という大枠はなぞられているが、梨花さん(ママ)の顛末が「実は昨日電話があって…」って、ここまでご都合主義とはむしろあっぱれ。 何度も言うが、俳優さんは悪くない。脚本の問題。 [インターネット(邦画)] 4点(2025-01-09 18:48:22) |
6. ドライブ・マイ・カー
《ネタバレ》 村上春樹の短編小説がベースになっているとの事で、登場人物が皆淡々としているが、それがだんだん心地よくなってくるのが正に村上ワールド。そこにチェーホフの戯曲を前面に押し出すことによって、多分、原作は読んでいないのであくまでも多分、そのことで原作小説よりも主人公家福の苦悩がより深く表現されているのではないかと想像すると、本作は映画として大成功だったのではないかと思う。チェーホフのテキストを口にすると自分自身が引きずり出されると語る主人公。妻の死によって、罪悪感を含む喪失感を抱えることになった彼にとっては、自分自身を引きずり出す行為が必要だった。前に進むためには。専属ドライバーの女子も家福と同じ心の傷を持ち、車中でカセットテープを聞き共にチェーホフに触れることによって、同じく自分自身が引きずり出される感覚に陥ったのだろう。二人は決して恋仲なんかになるわけではなく、互いの傷を交換し、自分たちは大丈夫だと確認し合う。身近な人を亡くした時、そこに居るはずの場所がぽっかり空いてしまった時、「喪失感」という新たな感情が生まれ、それは空いてしまった場所を埋めるかのようにそこに居座る。言いたかった言葉、伝えたかった感情を向ける相手がいなくなると、その言葉や感情は宙ぶらりんとなり、喪失感と一緒に仲良くいつまでも残ってしまうのだろう。自分自身を引きずり出し、悲しみや辛さを認め、今世は絶えて生き抜くしかない。そんな人生観はとてつもなく切ないが、逆にあっけらかんとしていて物凄く前向きだ。ドライバー女子の最後の表情は、それまで見たことのない柔らかな微笑で、ああ前進したんだなと思える素敵なラストシーンになっている。 [インターネット(邦画)] 8点(2024-12-19 18:29:51) |
7. ウィリーズ・ワンダーランド
《ネタバレ》 無口な男が恐怖のテーマパークに迷い込んでしまったのは偶然と思いきや、実は男は過去の犠牲者の身内で、その復讐の為に体を鍛え、お掃除ノウハウを叩きこみ、不気味な動物ロボを倒すためだけの入念なバトルプランを練って、この地に舞い降りた戦士だった・・・のかと思ったら、思いっきり外した。私の要らぬ邪推は本当に無意味なものでして、シンプルにホラーコメディでした。予想は大体外れますので、どんなものを見せられても大抵楽しむことが出来ます。 律儀に休憩をはさみながら黙々とお掃除をして、何やら怪しい敵が出てきても顔色一つ変えず戦う。綺麗になった場内はその返り血ならぬ返り機械油と、若者たちのおびただしい流血で再び汚れ、それをまた黙々と掃除して休憩をとる。見事敵を倒し、パークが綺麗になった時の達成感と言ったら!この男は一体何者なんだ?ってそんな事考えちゃいけません。邪推です。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-09-05 17:37:15) |
8. せかいのおきく
「せかい」という言葉を知ってるか?「あっちの方に向かってゆけば必ず、こっちの方から戻って来る。そうゆうものです。」真木蔵人が演じる和尚はこう説明する。「世」は現在過去未来、時間を表し、「界」は東西南北上下、空間を表す言葉なんだそう。うん、和尚の言葉も何となく分かるような気がする。でっかいどんぶりの中に微生物のように生息する生物(人間)は、今も昔も生きるために活きている。物騒なことがあったり、小さい怒りや些細な悩みは毎日際限なく生まれ、人を好きになり、仲間とくだらない話をして、飯を喰うため仕事をする。何でもない毎日を送る主人公は「青春だなあ」と嬉しそうに繰り返し言う。他人の糞尿を運ぶ彼らの世界をモノクロで表した青春映画は、色と引き換えに、見えない「臭い」を画面から終始匂わせ、同じく見えない「青春=未来への希望」をふんだんに表現しようとしている。なかなか攻めた作品だったように思う。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-09-03 10:44:27) |
9. アバター:ウェイ・オブ・ウォーター
《ネタバレ》 前作に引き続き、その世界観は遥か彼方の惑星で実在するかのような説得力を持ち、没入することが出来た。ストーリーはスターウォーズのような政治色は持たず、あくまでも古代人(原始人)と未来人(侵略者)との闘い。そこにはもちろん自然破壊への警鐘が含まれる。傍若無人なスカイピープルと、ただ復讐に燃えるだけのクオリッチ大佐の憎らしさと言ったら、どんなに今回のマ・ジェイクが中途半端だとしても応援したくなるのは必至。想像力も創造力も人間を超えるトゥルクンの髄液は500ml程度で8000万ドル、金持ちどもの老化を止める薬になるなんて、何だか本当にありそうな話だ。金だけが生きる目的みたいな人間に対しナヴィや自然生物の尊さは、古(いにしえ)より不偏のものだから。助けちゃったアイツを、次回作はどう活かすか、楽しみにしています。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-08-26 12:53:19) |
10. デッドプール&ウルヴァリン
《ネタバレ》 「LOGAN」でノースダコタの地に静かに眠ったウルヴァリンを、デッドプールがあんなことして…。そのシーンがデップーらしくブラックでキレキレで面白かった。そこら辺までは最高でしたが、やっぱり時間変異取締局出ちゃった。あれ出ちゃうとちょっと乗れない自分がいました。このウルヴァリンがマルチバースの人なので、キャラがちょっとアレなんです。そこが残念。 X-MENとMCUのキャラクターについて、知ってれば知ってるほど楽しめるのは分かる。チャールズやドクターストレンジなど有名どころのキャラの知識はみんな持ってるとしても、ロキだったか。見てない人も多いと思うので、虚無の世界の事もう少し説明が必要だったのでは。アライオスとか。ロキ見てても、ちょっと??だったのは私の理解が追い付かなかっただけかもしれませんが。 デップーのセリフ「マルチバースとかもういいよ」みたいなセリフ、あれは良かった。思わず映画館の暗闇の中で小さなガッツポーズをしてしまいました。でもまあ、ウルヴァリンとデッドプールの夢の競演に、MCUへの殴り込みという企画が実現したことは凄いことだという事です。 [映画館(字幕)] 6点(2024-07-25 12:52:48) |
11. プロミシング・ヤング・ウーマン
《ネタバレ》 ポップでカラフルな宣伝用画像と、色欲男どもに復讐という紹介文から、もっとドギツく爽快な世直しモノを期待しました。そうすると前半などは物足りなく、主人公がもうちょっと可愛いといいなとか、復讐場面はソフト過ぎるなとか。多くの方がおっしゃてるとおり、見る前のイメージが完全に間違っていた作品。ラストは痛快どころか後味悪いし。自分の命を懸けてまでやることか?というのは、当事者にしかわからない事ですが、「みんなのために前へ進んで」という言葉が一番正しいと思う。ゴッドファーザーのマイケルコルレオーネが言ってた。「敵を憎むな。判断が鈍る。」結局これなんでしょうか。憎まず、冷静に、策を練って、敵を不幸のどん底に陥れてやれれば、それで済んだのに。 [インターネット(字幕)] 6点(2024-07-07 15:34:15) |
12. マッドマックス:フュリオサ
世界観やアクションは今更語るまでもなく素晴らしいが、何せ前作まででお腹いっぱい、度肝も抜かれっ放しなので新しさはさほど感じないかな。相変わらずヴィジュアル重視で潔いほど何じゃこりゃな装置には楽しませてもらえます。ここから更にデコレーションが進化して、あの火炎放射ギターとかが生まれるってことなのかな。意味なんてない、説得力なんて必要ない、それがマッドマックス。子フュリオサの女の子がなかなか良い。存在感あって女優の風格が備わっている。あとクリスヘムズワース。おバカな大将っぷりがちょうど良い加減で、でも彼の駆るデカ6輪車は猛獣のように凄味があって怖かった。俺に相応しい死を与えてくれ、なんて最期はカッコいいこと言ったけど、結局おとぎ話のような末路を用意されて、やっぱりちょっと間抜けな感じでズッコケた。ジャックとディメンタス、共にフュリオサの記憶に残る男だったのだろう。 [映画館(字幕)] 7点(2024-06-13 17:27:18) |
13. 罪の声
《ネタバレ》 原作小説を読みましたので鑑賞しました。主人公の一人曽根俊也は、自分の声が犯罪に加担した罪の声だったことを突然知ることなります。全く記憶にない出来事に、良心の呵責とか罪の意識とか、そういうのとは違う「真実を知りたい欲望」「知らなければならない責任」「知りたくないという恐怖」を覚えます。その葛藤を星野源はしっかり演じていて。同じように利用された子供が二人いることを知り、寄り添いたい気持ちなった優しい男であることもすんなり理解できます。 原作は、忘れかけていた凶悪完全犯罪のルポルタージュとして大変興味深く、また過去の犯罪に利用された子供に着眼して創作された物語としても素晴らしいものでした。事件当時、脅迫電話に使われた例の子供の身を案ずるムーブメントはあったのでしょうか。 原作に対し映画はかなりスピーディーに取材が進み、さっさともう一人の被害者の聡一郎くんが登場して、ちょっと都合良過ぎるなと思ったのも束の間、この現在の聡一郎くんが素晴らしかった。つまり映画の方は事件のことよりも子供の物語を多く語る形になっていて、これはまた原作者が一番訴えたかったことだと思われ、その点は結果的に良かったと思う。 曽根さんはどんな人生だったんですか?と聡一郎に問われた時、答えられなかった曽根。曽根さんの今はあなた自身が掴んだものです、罪の意識を抱くべきはあなたではない、という阿久津。 望ちゃんの声が聴きたいと言って泣く母に、聞かせる声は犯罪に使われたテープの声。日本を震撼させた劇場型犯罪の裏に、一生を台無しにされた家族がいた、という仮定から作られた物語は、あまりにも切ないものでした。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-06-03 17:05:33) |
14. シャイロックの子供たち
原作読んだので観てみました。落ちは原作と違ったけど、落としどころは同じというか、器用にまとまってる。まとめるのが上手。役者もそれぞれの持ち味をそのまま出していて、安心して見ていられるものになっていた。そのまんま過ぎて意外性が皆無という言い方も出来るが。混み入った話と多数の登場人物を丁寧に描くなら、やっぱり連ドラサイズくらいの方が良かったかなと思う。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-04-22 13:20:59) |
15. モリコーネ 映画が恋した音楽家
《ネタバレ》 映画と音楽を切り離せないものにしてしまったのが、モリコーネという人だったと思います。テーマ曲に限らず、映画のシーンにあてるメロディや効果音まで作っています。必ずしも納得した作品ばかりじゃなくて、映画音楽なんてやめようとずっと思っていて、それでも監督に求められる。そしてその映画の脚本を読むと、音が、メロディが、頭の中に湧き出し、手紙を書くかのように、紙に音符を書いてしまうんだとか。天才です。天才を超えてます。どんな偉大な監督だって人間だから亡くなることは避けられませんが、モリコーネ音が語る映画が今後生まれないのは、映画界の大きな損失でしょう。かと言って、AIに作らせようなんてなったら、モリコーネがきっと悲しむのでやめてほしいな。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-03-25 16:29:03) |
16. アントマン&ワスプ:クアントマニア
《ネタバレ》 量子世界の帝国軍と反乱軍の戦いに首を突っ込んだアントマンファミリーでしたが、ミシェルファイファーにアクションやグリーンバックの演技はもう辞めさせてあげて。ご本人も何演ってんだかあまりわかってないんじゃないの。マイケルダグラスも変な操縦桿ばかりだし、ビルマーレーが出て来た時も、あ!ビルマーレー!って思っただけだった。この大御所たちを使う意味があるのかなあ。量子世界の生物たちの造形が全体的に滑稽よりで、やっぱり子供向けなのは仕方ないが、個人的にはあまり魅力を感じられなかった。次のヴィラン、カーンの紹介作品にしては、既に配信ドラマ「ロキ」で十分。カーンはサノスほどの凄みが全く感じられないから、全くワクワクしない。良かった点は、娘のキャシー。可愛くてカリスマ性も有りで良かった。ジェントーラという女戦士もかっこ良かった。蟻たちがまたちゃんと活躍したところ、くらいでしょうか。 [映画館(字幕)] 5点(2024-02-02 12:07:56) |
17. ウォンカとチョコレート工場のはじまり
ミュージカルに徹したところが良かった。苦手という人も多いジャンルだけど、かなり完成度高いです。怒涛のように展開する音楽パートはまるでチョコレートの大河のように滑らかに流れ、そんな中でもストーリーは分かりやすく進行する。登場人物たちの細かなエピソードも見事に繋げ、おとぎ話らしいご都合主義と予定調和な部分が逆に心地良くて。笑いあり、ちょっとホロリとさせる所もありで、こういうミュージカル映画って、何だかんだ言ってもやっぱり最高に楽しいエンターテインメントだなー。 [映画館(字幕)] 10点(2023-12-15 12:53:23) |
18. ゴジラ-1.0
《ネタバレ》 VFXに関して良い評判が多かったので、これは観なければと行って来ました。期待どおり、というかそれ以上の物を観させられ震えました。一方、人間の描き方については、主人公の性格が後ろ向き過ぎてイライラする、というような声も聞いていたので、おーこれが巷で有名な後ろ向きで演技が微妙な神木君か、確かに後ろ向きだねえ、と思いました。帰還兵って、金銭的補償とかは何も無いのでしょうか。ふらっと帰ってきていきなりホームレスみたいになって、憎まれ口をたたかれる。そりゃあきついでしょう。トラウマとか多くの人の死とか貧乏とかで、とにかく生きていたくなくなった訳です。金の為に危険な仕事に就き、過去のトラウマと再会するというご都合主義も、これは運命と受け止めます。今度こそアイツと戦って前に進むぞっってなって、砲撃の腕前も生かされます。銀座のアイツはとにかく絶望的に恐ろしく、戦争からは難を逃れた街並みが、無惨に破壊されます。それがアメリカの原爆が投下されたのと同じように、木っ端みじんなのです。ようやく戦後復興に向けて歩み始めた当時の敗戦国日本人と、平和にのほほんと日々暮らして大画面で映画を鑑賞している私たち現代人の前に、その絶望感が一気に押し寄せ、辛く悲しくなりました。せっかく戦争を終わらせたばかりなのに、まだこの国に大きな試練が与えられるのか。そこで立ち上がった元海軍兵と技術者、学者が奮闘します。先の戦争では、特攻だお国のためだと命を無駄にし過ぎた。戦闘機には脱出装置さえ装備されていなかった。今度は生きる為に戦おう。彼らにとってのゴジラが、得体のしれない怪物から、打倒すべき敵になりました。海神(ワダツミ)作戦も、現代のヤシオリ作戦と比較すると断然力業で、これまたかっこ良かった。東洋バルーンの人達も、好きでした。とまあ、ゴジラの凄みのある造形と、それが迫り来る恐怖感などはもちろん素晴らしい出来栄えでしたが、一般に微妙といわれる人間物語の方も、とても良かったと思います。昔の人って現代人とは違うんだから、きっとああいう喋り方してたんでしょ、って思えば。他にも書き尽くせばきりがない程ですが、三丁目にT-REXが突如現れたみたいな感じが、とても良かったです。褒めてます。 [映画館(邦画)] 10点(2023-11-06 16:05:28)(良:2票) |
19. キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
《ネタバレ》 206分という長さでもダレることなく、観てよかったと思える作品でした。ノンフィクションを誠実に描くスコセッシ監督の仕事が、やっぱり素晴らしかった。ストーリーも分かりやすく、婚姻関係まで使って国盗り合戦するのは、日本の戦国時代と変わらないな、なんて。土地の利権の為に血眼になって殺人までしてしまうのは、セルジオレオーネの「ウエスタン」などをどうしても思い出しますし。そのくらいよくある話で、何だったらここに警察の汚職とか絡んでくるともっと面白いんだけど(不謹慎)、こちらはノンフィクションです。デカプリオとデニーロの共演もまた嬉しいです。デカプリオがデニーロにずっと騙されてて悪事に手を染めてしまうおバカさんなんだけど、結局は自分の良心を優先しました。しかし、デカプリオが最後のセリフを言った時の表情は、「知らなかったけど、薄々気付いてたけど、でもそれだけは絶対言わんとこ」っていうクズっぷりが出ていて、秀逸でした。ラストのサプライズ演出も、おしゃれです。 [映画館(字幕)] 9点(2023-10-23 17:06:43) |
20. 君たちはどう生きるか(2023)
《ネタバレ》 まず、御年82歳の巨匠が自らの集大成を総括した作品に対し、10点満点(もしくは5点満点)で採点すること、そしてこのような「考えるな感じろ」的な作品に対し、感想を文字化し可視化することが極めて無粋である事と知った上で、あえて書かなければならない。そうしないとこの作品を見た意味すら見失ってしまいそうな、そんなつかみ所の無い作品だったから。自分への覚書のようなものとして、書いておこうと思う。 ネタバレ厳禁をここまで徹底する要素が、果たしてこの作品にあったのか否かは疑問。あくまでも戦略だっただけのように思う。そもそもネタばらしをしようにも、あらすじなるものを簡単に言葉で語り継げるようなストーリーをまず持っていない。とりあえずは「感じろ」と。しかしその次の段階には、登場する全ての物に何かしらの意味が隠されている事を「考える」こととなる。メタファーにつぐメタファーの連続。そして過去作品のセルフオマージュの連続。この、メタファーとセルフオマージュの連続が、一見取り留めのないものの羅列として、退屈を感じさせてしまうのかもしれない。この作品、実は、感じろ、ではなく、考えろ、だった。 全ての鑑賞者の数だけ、解釈の数がある。監督の持つ戦争観、死生観、男女の在り方役割分担、アオサギとは、ペリカンとは、インコとは、そして13の積み木と跡継ぎ問題、産屋へ入ることが禁忌であるということ。 この作品に限らず、監督は常に、生きろ、と言う。生物は生きているか死んでいるかしかない。死んだ者は、食べられるか埋められるかしかない。生きている者は、生きるため産むために殺生をすることがある。イレギュラーケースとして、生きるか死ぬかの基準の中には存在しない行為、自分の頭を石で殴った自傷行為の事を彼は「悪意」と言う。彼が負傷のために刈上げた頭で真剣に武器を作る姿は、デニーロのタクシードライバーを思い出してしまった。捕らえられた女を救出するために命を懸ける男の話だ。男が女を守り、女は子を産む。この古臭い男女の役割分担という考え方が、現代では禁忌、ストレートには表現できないタブーとなっている。メタファーという鎧で自分を守りながらでないと表現出来なくなり、そのために分かりにくい面白くないと評価されるようになってしまう表現者。13の積み木(ゲド戦記を含む13作品)を積み終わった後は、許されるのであれば悪意の無い跡継ぎにこの場を渡してしまいたい。言葉をしゃべるが中身のないインコみたいな無責任な不特定多数の群衆どももいるこんな世の中だから、最新の注意を払って、自分と自分の周りの大切な人を守って、生きていかなければならないんだなぁ、と。どのように生きるか、という監督からの設問への、これはあくまでもほんの一回答、です。 [映画館(邦画)] 8点(2023-07-18 15:51:56)(良:2票) |