1. トゥルーマン・ショー
初めて映画館で観たときは、ピーター・ウィアー監督にしては作家性が稀薄な映画であり、面白くはあるけれども深みがないという感想を持った。しかし、そのときは設定の面白さに目を奪われていたようで、改めて観直してみると、それなりにピーター・ウィアーらしさも見受けられる。とりわけ終盤の演出には、この監督に特有の感性が表れているように思う。この結末は本当にハッピーエンドといえるのか? などと考えさせられるところもあるが、神の牢獄を打ち破ったトゥルーマンには喝采がふさわしい。素晴らしいもの、あるいは理想といったものは自分で選ばなければ意味がないのである。 なお、本作品の論評においては、筒井康隆氏のある短編に言及されることが多いが、私は、むしろ「将来、誰もが15分間だけは有名になれるであろう」(1960年代半ばのアンディ・ウォーホールの言葉)の「15分間」を「30年間」に拡張してみた作品と理解している。 8点(2005-02-04 11:26:38) |
2. ラスベガスをやっつけろ
メタファーやレトリックではない「サイケデリック」を観せてくれる映画。こんな映画をメジャーで作れてしまうんだから、テリー・ギリアムは只者ではない。キャメロン・ディアス、クリスティーナ・リッチの使い方が非常に贅沢。迂闊にも、トビー・マグワイヤに気付いたのは、ここの映画評を見てからであった。あれだけの狼藉を働きながら、なんのお咎めもないジョニー・デップとデルトロが愉快。したがってここから教訓を導き出すことができないのはもとより、そもそもストーリーらしいストーリーもない。それをこれだけ観れる映画にしたのは、やはりテリー・ギリアムの超絶技巧であろう。 8点(2004-11-24 13:32:45) |
3. エネミー・オブ・アメリカ
社会派のメッセージをエンタテインメントの衣にくるんだ秀作。「エシュロン」という名前こそ登場しませんが、この映画ですでにエシュロンが紹介されていたのですね。そういえば、「24」では、監視カメラを犯罪者が悪用するところまでいってしまっていました。政府が社会不安を煽っても、なお伝統的なプライバシーの価値を尊重する心情は、彼の地では根強いものがあるのでしょう。片や日本では一般市民が監視カメラやNシステムの導入に諸手を挙げて賛成し、プライバシーを声高に主張すれば反日非国民(エネミー・オブ・ジャパン)、犯罪者の疑いまでかけられかねません。映画製作の話に限っても、「踊る大捜査線2」での監視カメラの扱いに思いを致せば、彼我における志の違いは明らかといえましょう。 8点(2004-11-16 14:50:17) |
4. デッドマン・ウォーキング
《ネタバレ》 こういう映画ですから、死刑制度の是非に目が奪われがちなのは仕方のないことかもしれません。しかし、この映画は、死刑囚の魂の救済はいかにして可能か、というテーマに取り組んだものと私は解釈しました。その救済は、犯罪者が自己以外のもの(外在的要因)に責任を転嫁しようとする性向を持ちがちであることと、被害者の心情(魂の平穏)への配慮が必要不可欠であることから、必然的に困難とならざるを得ません。ティム・ロビンスはその辺りを的確にえぐっているといえるでしょう。もっとも、キリスト教の素養がない限り、魂の救済といっても理解されにくいかもしれません。そういう意味では、観客を選ぶ映画です。ともかくも、死刑執行に至る一連のシークエンスは圧巻。これほど心を揺さぶられる場面には、なかなかめぐり逢えません。この場面では、映画館全体が張りつめた雰囲気に包まれたことを思い出します。 9点(2004-08-27 11:01:41) |
5. デーヴ
《ネタバレ》 噂に違わず、良い映画でした。大統領職は、意外にあれで勤まってしまうものなのかもしれません。細かいことは周りがみんなやってくれるでしょうから。シャワールームのあれとか、オリバー・ストーン等の有名人の顔見せとか、小ネタも面白かったです。あと、ボディガード氏の決め台詞は"I will take a bullet for you."(君のために弾丸を受けるよ)と聞こえました。これまた格好いい。 8点(2004-08-24 15:41:48) |
6. 007/ワールド・イズ・ノット・イナフ
近年の007シリーズの中ではよくできていると思う。恋する007もなかなか良いではないか。Qを演じてたデズモンド・リューウェリンは、生きているうちにフェード・アウトできて良かった。それと比べて、「踊る大捜査線」のいかりやさんは残念。それにしても、デニースの胸は有無を言わさぬ存在感があるなあ。「男に興味のない学者」というキャラ設定は無理ありまくりだが。 7点(2004-08-24 15:11:15) |
7. 冷たい月を抱く女
《ネタバレ》 この映画は、まずは予備知識なしに観ることだね。途中まで、すっかり騙された。それに、「隣の男の子」のトリックは思いもよらなかったよ。金のためなら何でもやります! というニコール・キッドマンの役柄に説得力を与えているのは、きっとあのお婆さんだ。エンド・ロールでアン・バンクロフト(ミセス・ロビンソン!)と気付きましたが、最近たまたま「卒業」を観たばっかりだったので、この間の歳月の経過が感慨深い。そういえば、ミセス・ロビンソンの演技も説得力あったよなあ。きっとうまい女優さんなのだろう。それに比べるとアレック・ボールドウィンは中途半端で今ひとつ。キャラクタ造形の問題かもしれないけど。 7点(2004-06-29 12:38:03) |
8. 誘う女(1995・米)
観て損したとは思わないけど、語り口がお話作りにうまく合致していないように思えるんだな。これは編集の問題かもしれない。もっと大胆に時間をズラしまくるとか、真相はほのめかす程度にしておくとか、語り口に合った構成はいくらでもできそう。リメイク版「サイコ」を観たときも感じたのだが、ガス・ヴァン・サント監督は、手法がオーソドックス過ぎるのではないか。1960年代くらいまでの映画だったら、これでいいかもしれないけど、90年代の映画でこれではね。少しフォローしておくと、全米ネット局のアンカーウーマンになるというのは、そんなに小さな夢ではないと思うよ。 5点(2004-06-14 13:07:24) |
9. バッファロー'66
手触りも物語もやさしい映画。起承転結の「転」のところで衝撃的展開を迎えるのですが(その先の展開は観てのお楽しみ)、全体としてはほのぼのとしています。映画全体が、C・リッチのほんわかした雰囲気に包まれているとでも表現できるでしょうか。なにより、主人公のキャラクタ設定が秀逸。風貌はワイルド、そしてキレやすい直情径行型の性格。にもかかわらず、変なところで神経質なのがおかしい。この映画の面白さは、主人公と周囲とのどこかずれた会話に負うところが大きいと言えるでしょう。主人公の両親の描写も、「この親にしてこの子あり」と納得できるものです。 8点(2004-05-25 15:34:22) |
10. スワロウテイル
本作の物語世界には、われわれの世界とは異なる濃密な空気が流れているかのようだ。時にその空気感が失われてしまう瞬間があるのは残念だが、総じて良くできている。CHARAの存在感には感心。いくつかのシーンが退屈だという悪評もあるが、退屈さを感じた記憶はあまりない。これは分割鑑賞したせいか。なお、日本映画でこれだけ字幕を読まされたのは初めてだ。 7点(2004-05-20 13:33:22) |
11. 黙秘
暖かい過去。寒々とした現在。自らの老い。町の変遷と離れていく娘。閉ざされてゆく心。そして輝きを止めた太陽の下で起きた事件。パズルのピースがあるべき所に収まったとき、ドロレス・クレイボーンの行動の「なぜ?」が明らかになる。幾つかのトリックが仕掛けられていて、本質的にはミステリィと言えるだろう。J・J・リー目当てでDVDを買ってみたが、キャシー・ベイツの老け役が秀逸。ラストの「投げキッス&手振り」は一時期わが家で流行った。 8点(2004-05-12 12:48:19) |
12. 隣人は静かに笑う
ティム・ロビンスって、ああいう演技もできるんだ、と感心した映画。あの口をあまり開けずに話す芝居がコワイ。テロというのは抑圧のはけ口(正当な手段では意見表明やその意見に基づく社会を実現することのできない個人・団体が、自己の意見を認めさせる目的でする表出行為)なので、匿名のテロってあり得るのだろうか? との疑問があるものの、よくできたサスペンス映画だと思う。 あと、どうでもいいことであるが、ジェフ・ブリッジスが名優か大根かという議論は、水谷豊が名優か否かという議論に似た側面があるのではないだろうか。どちらの意見に与するかは、あの癖のある演技を「味」と見るか、「わざとらしい」と見るかの差で決まる。 7点(2004-03-28 16:11:08)(笑:1票) |
13. ワイルドシングス
「B級エロティック・サスペンス」の枠を超えるものではないが、その枠内のものとしては、映像・脚本ともに上質。それに、デニス・リチャーズをとらえるカメラの視線がエッチであった。彼女は1971年生まれで、公開時27歳。ビル・マーレーはひとりで陽気にはしゃいでおり、全体の中では浮いている。が、そこもまた良し。 7点(2004-03-06 10:45:21) |
14. フリージャック
原作は「不死販売株式会社」。これのジュブナイル版を小学校の時に読んで感銘を受け,大学ノート2ページ分くらいの感想文を書いて先生に提出した記憶がある。その記憶をもとに映画館を訪れたものの,この映画には何の感銘も受けず。終盤で,ミック・ジャガーが高笑いしながら主人公を追いかけるシーンだけは良かったかな。 3点(2003-08-21 17:41:26) |
15. オープン・ユア・アイズ
「何が真実なのだろうか?」と考えさせる知的な面白さがある。しかし、別様の解釈があり得るとはいえ、やはりオチが今ひとつだったと思う。トリックに乗ることまでも楽しめれば、最後まで面白く観ることができたのかもしれないが。もっとも、監督がまだ20代の若手であることを思えば、こうしたオチの映画を作る感覚も理解できなくはない。 6点(2003-08-10 21:20:39) |
16. マトリックス
往年のSFファンとしては、サイバーパンクのキーワードである「マトリックス」という概念を陳腐化(大衆化)させたところに意義のある映画といえます。彼らの活躍する仮想世界は元祖「サイバースペース」なのですが、サイバースペースという言葉は今や別の意味を持つに至っているため、マトリックスというネーミングが採られたのでしょう(あと10年早ければ……)。元祖サイバースペース的情景は、「アニマトリックス」に収録されている「セカンドルネッサンス」で堪能することができます。この映画そのものについてですが、映像的に面白い映画はそれだけでも評価できますし、大がかりなスペクタクルと独特のアクションなどもひっるくるめて、普通に面白い映画だと思います。 7点(2003-06-17 16:14:57) |
17. CUBE
全編にわたり、観客に緊張感を強いる映画。箱設計者のような感性(外の世界は生きる価値がない)を持っている人は、この映画の雰囲気にハマっていけるかも。逆に、そこが鼻持ちならないと思う人には(あの警官はそんなタイプだな)、ちょっと退屈でしょうが。終盤は勢いで持っていったようなところがあり、作りの粗さが若干みられました。が、それも映画におけるストーリーテリングの技法ということで。 8点(2003-06-02 22:17:58)(良:1票) |
18. イル・ポスティーノ
詩は人生を変える(こともある)。そんな一見陳腐なテーマを生真面目に取り上げた映画。「ニュー・シネマ・パラダイス」が映像的とすれば、こちらは文学的。淡々としつつ、終盤、静かに盛り上がっていく。この流れがすばらしい。そしてユーモアの込められたシーン・台詞の数々が、この流れの中に控え目ながら散りばめられている。同じような時代を扱った「ニュー・シネマ・・・」と比べても、数等お気に入りです。イタリアでは、当時、良くも悪くも政治の季節だったわけですね。それをドラマのネタにしているだけであって、政治的なメッセージがあるわけではないと思います。 9点(2003-05-02 18:03:31)(良:1票) |
19. アミスタッド
マコノへーって大根役者だなあ、と思った映画。存在感が耐えられないくらい軽い。あと、アフリカ人の身体の所作・動作がアメリカン・アフリカン化されているところに違和感アリ。アフリカン・アフリカンも、顔突き合わせて喧嘩するのかい? これは演出の問題でしょうが。内容ですか? 題材も、法廷ものも、スピルバーグも嫌いじゃないんだけど、やっぱり駄作です。期待しすぎがよくなかったのかも。 3点(2003-04-30 18:04:33) |
20. キャラクター/孤独な人の肖像
陰影と光陽のある映像作りには感心しました。個々のエピソードもおもしろい。ただ、いかんせん主人公やその両親等の行動の動機が理解しがたい部分がありました。そのため、いま一つ物語世界に没入できず。執行官って、えげつないほど厳しい執行をするもんだと学んだ映画でもあります。 6点(2003-04-30 15:24:45) |