1. アモーレス・ペロス
《ネタバレ》 何の予備知識もなしに観たので、3本立ての映画だと知らずに面食らった。思うに1つ目のエピソードが長すぎた感じがする、そのまま展開していくものだと思っていた。しかし突然、事故の被害者である美人モデルの不倫生活の話に切り替わる。正直、この2つ目のエピソードには興味が沸かず、すぐに入っていけなかった。「被害者の話はいいから、少年のほうはどうなった?」が観覧中ずっと気かがりとなる。3つ目のエピソードは最初から登場していた老人が主人公なので「待ってました!」と観ることができた。3つとも「犬と愛とお金と家族」の話で、それが映画中央の交通事故で一瞬だけ交錯しているという構造。こういう仕組みは大好きなんだけど、主人公3人に何の関係性もないのは好き嫌いの分かれる所だろう。黒い犬が殺し屋に飼われるようになる点はシナリオの面白い積み重ねだった。美人モデルのエピソードも何らかの形を残して結末を迎えていれば、私も心置きなくこの映画を名作と呼んだだろう。 8点(2005-02-19 19:04:37) |
2. ストーリー・オブ・ラブ
「私はこの映画が大好きだ。」 けれど人にはそんなこと言わない。 もちろん薦めないし、けなされても「うん、うん」と頷ける。 ブルース・ウィルスは好きな俳優じゃないし、内容の9割は下世話な会話だし、 ウディ・アレンもどきの演出はどうかと思う。 けれど「私はこの映画が大好きだ。」 喩えるなら、つまり、よく冷えたビールだ。 蒸し暑さに目が覚め、通勤ラッシュに揉まれ、外回りで足を棒にした後は、 よく冷えたビールが格別に旨い。 夫婦の倦怠、言い争い、生活のこまごまとした不満、すれ違い、などなどを 丁寧に積み上げた後にある、ミシェル・ファイファーの発露が格別に泣ける。 あの台詞を聞くために、この映画を何度も観てしまう。 あのシーンだけ観る、なんて横着はナシだ。 ちゃんと汗をかいてからじゃないと、ビールは旨くならないぞ。 友人には言わないが、ここには書いておきたい。 「私はこの映画が大好きだ。」 9点(2004-06-09 15:51:17) |
3. シベリア超特急
第二次世界大戦勃発の前夜、イルクーツクからマンチューリへ向けて疾走する 高速鉄道があった。その列車の一室に鎮座する男、アドルフ・ヒトラーとの会談を 終え静かに目を伏せる、山下奉文陸軍大将その人だ。 乗り合わせた乗客は国際色豊かで、列車内は小さな世界情勢と化す。 そして引き起こされる連続殺人。列車という名の密室。 巧妙に張り巡らされた伏線は和太鼓の響きと共鳴し、真実の糸を手繰り寄せる。 事件が暗闇に閉ざされたその時、山下の神秘的な推理が冴え渡り、道を切り開く。 「9号室だ!9号室!」 訪れるクライマックスは常識を飛び越え、予測不可能な展開が観客の思考を停止させる。 息をのむ演出、演技とは思えない人物造形、戦争への痛烈なメッセージ・・・ 名画の条件を兼ね備え、マイク水野が放つ究極の社会派サスペンスミステリー・・・ 晴郎の胸いっぱいの愛、映画への叶わぬ片思いに、あなたも触れてみませんか。 【追記】晴郎を「晴雄」と書いていたので修正しようとしたら、頂いた笑票を誤って消してしまった・・・。これも晴郎の呪いだな。そうに違いない。 [ビデオ(字幕)] 0点(2004-06-07 16:34:16)(笑:4票) |
4. リプリー
《ネタバレ》 前半部分はとてもよかった。しかしディックを殺してからの展開が、証拠隠滅に終始して しまったのが良くも悪くも浅かったように思います。そうしたサスペンスも楽しめたことは確か ですが、その代わりにトム・リプリーを描ききれておらず、ただの連続殺人者になってしまった 印象です。 殺してもなおディックを愛している様子や、彼の人生に同化している至福などを端々に忍ばせて くれたら、彼の衝動もよく伝わっただろうし、前半と後半は分離せずにうまく落ち着いたのでは ないだろうか。 7点(2004-06-05 05:45:39) |
5. ブレア・ウィッチ・プロジェクト
《ネタバレ》 これはクソミソに言われても仕方のない映画ですね。 なにしろ映画が単体で完成していない。事前のWebページ上の展開も込みでの作品だ。 フィルムだけ観るのはさながら、ルールを知らずにゲームをするようなもの。 私もルールを知らずに観たクチなので、騙されたという感はある。 それでも妄想たくましい私は最後のシーンに恐怖を感じた。手持ちカメラの臨場感が上手く作用して、 夜の廃屋を探索する不気味さや、地下室へ降りていく息苦しさがよく出ていた。 深夜、潰れた病院や旅館の中に侵入してみる、あの感覚。 最後に見えた男の後ろ姿も想像力を掻き立てる。 こんなに話題になりさえしなければ、内容的にもっと高い評価を得ていたかもしれないのにね・・・ 6点(2004-05-30 01:55:14) |
6. ファニーゲーム
恐怖映画として出色の出来。表面的な暴力やセックスを垂れ流すことをせず、 全編が心理的な暴力に満ちている。 この白い手袋をした二人の青年は、人の心というものがよくわかっている。 わかっていながらそれを思い遣るつもりはない。逆手に取って相手を陥れる。 こうすればイライラするだろ?こんなことされれば腹が立つだろ?と挑発し続け、 我慢しきれずに手を出したが最後、「先にやったのはあんた」という子供の理屈を 押し付ける。自分たちへの礼儀だけとりわけ重んじ、少しでも気にさわろうものなら 「気分悪いだろ」ともっともらしい不平を言ってみせる。 この二人の青年は人の心を持ちながら、それを自分たちにしか向けられない。絶望だ。 この絶望たちが、こちらに向かって話しかける、承諾を求める。 彼らは観客の代行者。だって私たちは、わざわざこの映画を観ている。 逃げ惑う人々を殺す類の映画を好き好んで見る私たちの要求に答えるため、彼らは登場 している。ジェイソンやフレディは純粋すぎてもう飽きただろう、僕らがかわりにやるよ、 ってなもんである。そんなことを頼んだ覚えはない、こっちに気安く話しかけるな! 私たちは嫌悪感で拒絶する。でもやはり、彼らが戻ってくることを期待しているんだ。 私自身の悪趣味さを思い知らせてくれる、この映画は貴重な一本だ。 8点(2004-05-29 05:57:22)(良:1票) |
7. ショー・ミー・ラヴ
《ネタバレ》 とにかく心にグサグサと刺さってくる場面が多い映画でした。 アグネスのお誕生日会のいたたまれない雰囲気とか。 夜中に好きな子と二人で家を飛び出すけど何をしたらいいかわからず、 手持ち無沙汰になり「もう帰りたい」と言われる痛さとか。 そういう痛みの中、車の後部座席で吸い込まれるように キスするシーンにはもの凄くドキドキしてしまった。 痛みがよく伝わるからこそ、快感の手触りも伝わってくる。 案外仲良くなれるのは正反対の背景を持った者同士だったり するんだよね。 8点(2004-05-19 12:57:40) |
8. アメリカン・ヒストリーX
《ネタバレ》 私がこの映画を通して見ていたのは人種差別問題ではなく、 弟が抱く兄への憧憬でした。 いつだって自分の前を歩く兄の背中を、弟は追いかける。 兄は自分の知らない世界を見ている。兄の視線の高さまで、少しでも近づきたい。 そこに善悪の判断はないかもしれない。 いや、むしろ反社会的であるほど、憧れは強くなる。 カメラはダニーの目となり、デレクの肉体を讃えるように映し出す。 憧れは時に盲目だ。疑いたくはないのに、心が追いついてこないという体験を したことがある人は多いだろう。だから私はデレクの改心を素直に受けとめる ことが出来た。 ダニーについても同様で、いくら追いかけても追いつけなかった兄が、 自分の視線まで降りてきて、刑務所での出来事を包み隠さず打ち明けて くれたことは、かけがえなく大切な出来事であっただろうと思う。 人種問題に疎い日本人の私には、こういう見方しかすることができなかったが、 それでも十分に胸に迫ってきた作品でした。 この映画を観たあと、辻仁成の「旅人の木」という小説を思い出した。 8点(2004-05-19 11:21:05)(笑:1票) (良:2票) |
9. 恋愛小説家
《ネタバレ》 ニコルソン演じる小説家メルビンは売れっ子で、いつも甘ったるい恋愛小説を書いている。 彼は女がどんな言葉で喜ぶのかよくわかっているし、それを生業にしているはずなのだが、 異常な潔癖症のせいだろうか、飾った台詞を口にすることができない。 言葉で相手を喜ばせるのは、なにより簡単なこと。使いこなせば代価なしに報酬を得ることも できてしまう。舌先三寸とはよく言ったものだ。メルビンにとってそれはビジネスの枠内に限られた ことであり、私生活の中には一切持ち込みたくない類のものなのだ。 そんなメルビンにキャロルは「お世辞のひとつも言ってみせて」とせまった。苦悩するメルビンが 吐き出した言葉は、キャロルを褒める言葉ではなかった。メルビンの言葉は ともすれば聞き流されてしまうほど何気ないけれど、それはその場だけで消えてしまう幻ではなく、 彼の行動を伴うリアルな言葉だった。 「時間をかけて見ていると、その人の人間性がみえてくるんだ」隣人でゲイの画家サイモンが モデルにかけた言葉だけど、この映画が私に伝えたのは、そういうことでした。 背中にファスナーが付いてるんじゃないかと思える小犬の演技は、主演の二人を凌駕しました。 8点(2004-01-26 20:43:26)(良:2票) |
10. ドラゴンハート
1996年といえば「インディペンデンス・デイ」や「メン・イン・ブラック」といった、CG映像ならではの 映画がまだ驚きをもって迎えられていた年。その中にあって本作「ドラゴンハート」は、登場人物(?)の 一人(1体?)を完全にCGで作り出し演技させてしまったという挑戦的な作品だ。これを境に映画のCG技術は 背景や効果等の裏方から抜け出して、アクターの領域を侵し始めることとなる。 1993年に公開された「ジュラシック・パーク」と比べると、本作のドラゴンは細かな部分で実在感に乏しい。 重量や体臭や翼圧といったものを感じさせない。技術的には可能であったはずだが、何らかの理由で そうした部分を省いているように思う。(やっぱり予算でしょうか) そのかわりにドラゴンの仕草や表情は、人間と並べても遜色ないものに仕上がっている。観客はいつしか ドラゴンに親しみを覚え、そこに友を見るでしょう。それは本作が目指した課題であり、 十分に達成されたと言えるのではないでしょうか。 6点(2004-01-26 18:40:42) |
11. ブレイド(1998)
《ネタバレ》 マトリックスよりも黒い。 4点(2004-01-11 11:56:10) |
12. グリーンマイル
《ネタバレ》 誰もが、希望を連想する不可侵な存在である「天使」に、アメリカで差別の筆頭にある「黒人」の大男を当てはめ、幼女暴行事件に放り込んだこの映画。冒頭から送り手が観客を誘導したい方向がわかりやすく、それにのっかって最後まで観ていくと、驚くほどステロタイプな悲哀と感動を押し付けられてしまう。 サイコ野郎を完全悪としか捉えられないなら、コービーの心にもまた闇が存在するといえるだろう。 中盤の看守たちの生活は面白かった。いっそあのノリで牢獄を舞台にした群像劇にしてくれたらよかった。 4点(2003-11-29 07:33:00) |
13. ロスト・ハイウェイ
冒頭でプルマン演じる主人公フレッドに「事実をそのまま記憶したくない」というセリフがありますが、リンチ監督が追いかけているテーマがここにあるような気がします。 辻褄を合わせるには時間が不可逆である認識が邪魔だったり、存在という概念を疑わなければならなかったりする。普通なら当たり前のように順番に並んでいるはずの出来事が、リンチフィルターを通ると自由に繋ぎ直されてしまう。辻褄が合わないということは原則的に許されないことのはず。しかしこの映画はそれを壊すことで主人公の倒錯に血肉を与えた。観客は彼がいる狂った世界に引きずり込まれる。感覚に直に触れてくる、いたずらで甘美な映像の渦に飲み込まれてみよう。 9点(2003-11-29 04:51:52) |
14. アメリカン・ビューティー
《ネタバレ》 この映画が見せてくれるのは、世界はいつだって内側にあるものだということ。人々が共有している外側の世界には、いまや壊れた世界とそれを取り繕っている人々しかない。家庭崩壊や性倒錯やドラッグなどは、いまさら深刻に語ってみても驚きなんかない、もはや当たり前のことだ、と軽く笑いとばしてしまう。 娘の友達に恋をして、彼女の気を引くためにエクササイズを始めてしまうケビン・スペイシー。アホなオヤジと笑うのもいいけど、物事は全てこの通り。なにかの目的をモチベーションにして、夢中に励む。世界は結局そうやって回っているんだから。主人公の中の世界では、そのこと自体がすでに幸せなんだ。外の世界にある彼女という存在自体とは関係なく幸せになれる。だからいざ彼女と一線を越えようとしたとき「初めてなの」という告白で、内世界と外世界のギャップを再確認し、すっかり醒めてしまう。 その後の彼女との会話は素敵なシーン。彼女との関係はすっかり娘の友達に接する父親のそれになっている。さっきまでニャンニャンしようと目を血走らせていたケビンが、ここでは思い出したように娘の心配をしちゃったりする。それは外世界で父親でいるための処世術であり、その実、父親としての本音でもある。内外の世界が一瞬だけ重なるその瞬間が美しいです。ここで死んでしまうところがまた、彼にとってこれ以上ない幸せなのかもしれません。彼の内世界では、温かい家庭が彼を包み込んでいただろうから。 主人公と対比した影として描かれる隣人、元海兵大佐役のクリス・クーパーの人生もまた観客にとって身に覚えがあると思う。棺桶まで持っていく秘密を抱えて、保身のために嘘を塗り重ねて生きている。主人公のことも、大佐のことも、あまりに私(達)に似すぎていてコメディだけど、同時にとてもシニカルだ。 しかし、登場キャラクターに付随するファクターを、自分の手札に変換して考えられない人にとっては、まったく共感を得ることが出来ない映画なのかも。 10点(2003-11-28 19:52:35)(良:6票) |