1. 断崖
《ネタバレ》 最後までハラハラさせるのは、さすがだなあという感じ。しかし、ヒロインがこの生活能力のカケラもないダンナのどこに惚れたのか、なぜさっさと愛想を尽かして別れないのか謎。場合によっては訴訟を起こしても勝つでしょう(しかし賠償金の取り立ては難航しそう)。結局、イケメンだから? 一説によると、この結末にもいろんな解釈があるそうで。ただいずれにせよ明らかなのは、この後のヒロインはけっして浮かばれないということ。ダンナが急に真面目に働き出すとは思えないので、借金はさらに膨らみ、メイドさんは当然解雇、豪邸も追い出されて路頭に迷うことになるでしょう。できることなら80年前に行き、ヒロインに「目を覚ませ!」と言いたい。イケメンなんてロクなもんじゃねえぞと。 余談ながら、ヒッチコックは国際政治だスパイだ陰謀だという大がかりな話より、こうしてチマチマと個人の心の内面を追う話のほうが合っている気がします。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-07-25 19:42:54) |
2. 市民ケーン
超久しぶりに再見。しかし内容はすっかり忘れていました。さすが、凝ったシナリオに凝った映像。今から見るといささか地味で退屈ではありますが、「バラのつぼみ」の一言で最後まで引っ張るあたりがすばらしい。経営する新聞社のイエロージャーナリズムな感じも、なかなか今日的で見応えがありました。 で、「バラのつぼみ」ですが、私はラスト直前に記者が言った「人生は一言では語れない」とか「無数のピースのうちの1つに過ぎない」あたりがオチでも十分かなと思いました。その後に本当のオチが待っているわけですが、そこに一発でカタルシスを感じた観客はどれだけいたでしょうか。 恥ずかしながら私はすっかり「?」で、最初からざっと見直してそういうことかとようやく納得しました。録画だからできた芸当です。あるいは2度、3度と見直すことで、また新たな発見があるかもしれません。 しかし映画とは本来映画館で見るもので、基本的に一期一会のはず。2度、3度と見直す時間的・金銭的余裕のある人は、そう多くないでしょう。まして80年前であれば、なおさらです。そういう観客にどこまで配慮して作ったのかなと。別に批判ではないですが、ちょっと疑問に思ったので。 言い換えるなら、昨今では映画の見方も多様化しているわけで、一期一会の人もいれば何度でも見返す人もいる。映画製作者はどちらに焦点を当てて作ればいいのか、あるいはそろそろ「映画」のカテゴリーをいくつかに分けたほうがいいのか。けっこう悩ましい問題なんじゃないかなと思います。私は傍観者として楽しませてもらうだけですが。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2021-07-16 02:43:01)(良:1票) |
3. 頭上の敵機
他の方も指摘しているとおり、戦争というよりリーダーシップがテーマでした。毅然としたグレゴリー・ペックは見応えがあります。古今東西を問わず、管理職は孤独で辛いもんだなぁと。また優秀なリーダーが組織にとっていかに貴重なものか、後継者の育成がいかに大変かということも、あらためてよくわかります。 本題はこれくらいにして、個人的に印象に残っているのは、後半に爆撃機の帰還を待つ地上勤務の面々を描いたシーン。なんとなく空を気にしながら適当に時間をやり過ごすわけですが、さぞかし「無事に帰ってきてほしい」と祈るような気持ちだっただろうと思います。 そして帰還が始まると、一斉にそれぞれ持ち場に散って職務を全うするんですよね。本筋とはあまり関係ありませんが、また戦争映画で描かれることも滅多にないですが、こういうリーダーでもエリートでもないバックオフィスの姿は本当にカッコいい。私自身が社会の一兵卒に過ぎないせいか、ついつい共感してしまします。 しかし、この邦題は意味不明。一応「直訳」なのかな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-05-27 02:38:20) |
4. 白い恐怖(1945)
ミルクとか、ピストルとか、いきなりダリな世界観とか、別の意味でスキーのシーンとか、いろいろ楽しませてもらいましたが、秀逸は後半のヒロインと師匠とのやりとりかなと。感情か理性か、愛か科学かという二律背反は、今日でもさまざま場面で問題になります。本来なら理性と科学が勝利すべきところですが、感情と愛にゴリ押しされるのが世のならい。たいていはそれで墓穴を掘って理性と科学に立ち戻るのですが、この作品ではゴリ押しが正解だったようです。まあイングリッド・バーグマンにあれほど間近で迫られたら、拒否できる男はまずいないでしょう。「女は愛を知ると能力が落ちる」なんていう、今日なら一発でクビが飛ぶような発言もありましたが、そこはご愛嬌ということで。 ただし前半、テーブルクロスにフォークで線を描く場面は、グレゴリー・ペックならずとも「えっ?」となるはず。お前の衛生観念はどうなっているんだと。当時はコロナがなくてよかったね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-04-15 03:55:20) |
5. 黄金(1948)
こんな名作の存在を知りませんでした。ハンフリー・ボガートといえばキザでグールな「カサブランカ」で記憶が停止していたので、対極的なキャラ変に驚き。まあ役者冥利に尽きるという感じですかね。 それはともかく、ちょっとした思考実験をしてみたくなります。彼らはいったい、今日の日本円でどれくらいの金を掘り出したのか。仮に1人あたり100万円程度だとしたら、3人分を独占すれば300万円。殺意まで抱くかどうかはともかく、「あわよくば…」と考えないこともないかもしれません。もしくは「奪われるかも…」と疑心暗鬼になったとしても不思議ではありません。 しかし、1人あたり100億円だとすれば、もう十分なので独占しようという欲も湧かないでしょう。では1億円なら? 1000万円なら? 結局、「金持ちケンカせず」という虚しい結論に達するだけなんですが。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-03-29 23:49:02) |
6. レベッカ(1940)
オドロオドロしく始まったものの、サスペンスらしい兆候はなかなか見えず、前半はずっとモヤモヤします。しかしごく一般の女性がいきなり寒々しい大豪邸の「奥様」に収まったら、とりあえずは恐れおののきますよね。そういう意味でおおいに共感できました。 で、だんだん「レベッカ」の存在感が増していってヒロインは本格的に恐れおののくわけですが、このあたりの展開は見事としか言いようがありません。当然ながら「レベッカ」はまったく登場しませんが、さながら「死せる孔明~」のヒッチコック版といったところでしょうか。 ちなみにこのヒロインの方、えらく美人さんですが、wikiによれば日本生まれとのこと。では他の作品も見てみようかとも思ったのですが、当然ながらカビの生えたような古典ばかり。「仲達を走らす」までには至らないかな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-02-13 04:02:34)(良:1票) |
7. 汚名
前半は美男と美女による〝いかにも〟な接近戦。まあ芽生えるんでしょうねぇとシラけた気分で見ていました。面白いのは後半から。スパイとしてのハラハラと、嫉妬のメラメラが重なって、なんとも興味をそそるサスペンスになっています。死と背中合わせのわりに緊張感は今ひとつですが、三者三様の〝目〟の演技がいい感じ。口ほどにものを言う目に、言葉の壁はありません。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-01-19 23:17:19) |
8. 深夜の告白(1944)
重要なシーンで登場する列車のスピードのように、物語のテンポとしてはものすごくスローリー。しかも最初から犯人が犯行を「告白」するという、謎解きの醍醐味を否定するスタイル。しかし、最後まで飽きません。ハラハラドキドキのツボを再三に渡って刺激される上、女性の怖さにゾッとします。このあたりは人類にとって普遍的な感情のようで。 しかし日本が戦意高揚の国策映画作りに邁進しているころ、かの国ではこんなクオリティの高いエンタテイメント映画を作っていたわけで、今さらながらその国力の差に愕然とします。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2020-07-05 02:25:03) |
9. チャップリンの殺人狂時代
いかにもチャップリン風のコメディシーンはあるものの、全編を通してほとんど笑えません。どんな意味づけをされようと、とにかく我欲のために人を騙して殺してカネを得るというキャラだけに、ちょっと距離を置きたくなるというか。 結局、最終盤のセリフを言いたいがためだけにがんばったのかな、という気もしますが、何ら説得力を持ちません。「目くそ鼻くそを笑う」の一語に尽きます。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2020-05-20 02:12:04) |
10. 海外特派員
《ネタバレ》 暗殺ありカーチェイスあり密室トリックあり裏切りあり、命がけで追いつ追われつ、ついでに色恋沙汰やら友情やら、さらには航空機の迫真の撃墜・着水シーンまであって、最後は絶望を感じさせつつ幕を閉じます。1つ1つのシーンはけっこう見入ってしまうのですが、終わってみたら「あれ、いったい何を騒いでいたんだろう?」という感じ。要するに冒頭のテロップに登場した「特派員さんはエラい、お前らもっと尊敬しろ」というメッセージに尽きるのかもしれません。面白くなくはないけれど、ヒッチコック映画にしてはちょっと説教くさいかな。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2020-03-10 01:19:32) |
11. 誰が為に鐘は鳴る
《ネタバレ》 狭くて殺伐とした洞窟暮らしの中、美男美女の二人だけ別世界のようにイチャイチャされては、周囲の人間にはたまったものではないでしょう。そのデリカシーのなさから、私は早々にこの作戦の失敗を確信しました。イングリット・バーグマンは言わずと知れた超絶美人さんですが、後半に行くにつれて「ロベ~ルトォ~」と聞くだけで腹が立ってきます。 それにしても、リアル戦時中にこんな甘ったるい戦争映画を作るような国と戦争しちゃいけませんね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2017-05-27 22:50:29) |
12. ガス燈(1944)
カビ臭そうで退屈するかなと思いきや、まったく杞憂でした。ヒロインを心理的にギリギリと追い込んでいく様子は、まさにサスペンスの王道。予備知識ゼロのせいもあってダンナの意図がなかなかわからず、不気味さに惹きつけられました。「ガス燈」という小道具(大道具?)の使い方もシャレています。 ただし、イングリッド・バーグマンほどの美人より価値のある宝石がこの世に存在するとは、私にはどうしても思えませんが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2017-02-27 01:27:26)(良:1票) |
13. 素晴らしき哉、人生!(1946)
《ネタバレ》 「その発想はなかったわ」という感じ。ご説ごもっともで、秀作であることは間違いありません。とはいえ野暮ながら疑問に思ったのは、「地域にここまで愛される金融機関とは何か」ということ。「貧しい人にも住宅を」という意味では、かのサブプライムローンと変わりません。しかしバブルがはじけてリーマンその他の金融機関がバタバタ潰れたとき、地域住民が金を持ち寄って救ったという話は杳として聞きません(当然ですが)。 では、両者の違いは何なのか。お金に色はありませんから、突き詰めればそれは「金利」でしょう。おそらくベイリーの店では、地域住民の直近の幸福を追求して、できるだけ高利で借り受け、できるだけ低利で貸し付けていたものと思われます。しかしものは考えようで、もう少し利鞘を追求していれば、店の業務も拡大でき、もっと多くの人に資金提供し、もっと多くの住宅を建てられたかもしれません。それは地域住民の中長期的な幸福につながったはず。だとすれば、ポッター&ゲッコー&リーマンの「強欲は善」にも一理あるわけで…。結局、何が「正義」かはなかなかわからないということです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-04-20 01:39:32) |
14. ロープ
《ネタバレ》 あまり硬いことを言うのも野暮ですが、この作品はいただけません。はっきり言って、吐き気がしました。動機不明のまま人を殺すだけならまだしも、その遺体の上に燭台と料理を並べ、被害者の親や婚約者まで呼んでパーティを開き、あろうことか凶器のロープをその親に渡すなど、とても正気の沙汰とは思えません。自称エリートの精神異常者を見ていても、気分が悪くなるだけ。ついミヤザキとかサカキバラとかを想起してしまったのは、私だけでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2012-01-20 14:50:35) |
15. チャップリンの独裁者
ラストの演説が“目玉”だそうですが、さほどグッと来るものはありませんでした。だって、たとえば今、米国でテロや金成日を批判または皮肉る映画があったとても、何ら不思議ではないでしょ(最近は自国批判もありますが)。また冷戦時代には、ソ連を敵国に見立てた作品が無数にありました。第二次大戦前夜の米英のヒトラーに対する嫌悪感を考えれば、むしろ予定調和的な作品といえるのではないでしょうか。ただし、喜劇としては十分に堪能できます。デタラメなドイツ語による絶叫演説とか、地球儀ボールで遊ぶシーンとか、“ナパロニ”とのやりとりとか。いわゆる風刺画のように、そのキャラの立て方や“笑い”のバリエーションは、まったく古さを感じさせません。チャップリンはアジテーターではなく、やはり偉大な喜劇王だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2006-11-22 07:13:01) |