1. ノーカントリー
《ネタバレ》 セリフがすべて比喩的なので、大人向けの渋い映画。運命は何十年もかけて旅し、ある日とつぜん、その人に訪れる。その人が納得しようとしまいと、それはその人が知らなかっただけ。そう考えないと納得できない事件が、世の中には多い。逆にいえば、生きるということは、偶然の連続によるもの。しかし人は、その幸運のコインをわざわざ気に留めず、ポケットにいれてしまうので気付かないだけだ。シガーという存在は、その哲学そのもの。これを(悪い意味で)実践してまわっている。だからこそ、青信号でいきなり横から追突されても、淡々としている。―――――いつからこんな世の中に・・・?これは「時代の変化」、だと信じていた。ベル保安官も、観客である自分も。「昔は良かった」、と信じたい自分がいた。しかしよくよく考えると、いつの時代もそうだったはず。最後、ベル保安官が語った父が出てくる夢に、そんな気づきを感じた。そこではじめて、主人公も観客も、“目が覚める”のだ。 [映画館(字幕)] 10点(2008-05-03 17:07:05)(良:2票) |
2. 鬼が来た!
《ネタバレ》 観る前は、タイトルからして単なる反日映画かと思っていた。だが実際は違った。日本兵も、平素は、みんな人間らしく描かれている。どこからどうみても、日本人を単純に悪人扱いしているようには見えなかった。鬼はもともと人の心の中に潜んでいて、権力を行使した人間、あるいは行使された人間のなかで、突然暴れだす―――――そう言っているとしか思えない。具体的に言うと、映画のポイントは「権力」、あるいは「立場」だろう。アメリカを中心とした連合軍は国民党を利用し、国民党は日本人を収容したあとも、日本軍隊内部にあった主従関係をそのまま利用した。マーの処刑シーンは、国民党の命令を受けた酒塚隊長が、「日本兵はすでに武器を放棄したから、体の一部である刀を使わせて欲しい」と、花屋に刀を渡してその役を押し付ける、という奇妙な構図。こんなややこしい主従関係さえ存在しなければ、花屋は命の恩人を自らの手で葬る必要などなかった。自分は人の上に立っている、あるいは、人の下に立っている、という感覚を持っているからこそ、人は鬼になれるということだ。その象徴である村の焼き討ちシーンは、すごく考えさせられるものがあった。村人たちを命の恩人ととらえていたはずの花屋が、村人が隊長に馴れ馴れしく接したことにカチンと来て、殴りかかる。それが発端となり、日本兵たちはいっせいに村人の虐殺を開始、村はあとかたなく焼き払われる。あれだけ村人に感謝していた花屋がなぜ?というのが当たり前の疑問。しかし、中国で現地人の持つ気質を実際に知ってみると、妙に納得できる。中国人が持つ独特の親しみやすさ(馴れ馴れしさ)と、日本人が持つ独特の礼節(主従関係)。それらが悪いかたちですれ違いを起こせば、たしかにああなる。中国で暮らしている身として、痛いほどそれを実感する。繰り返すが、これは日本を単純に悪者扱いする映画ではない。実際、この映画は中国で上映禁止措置を受けた。日本人の描き方が人間的に過ぎたから、といわれている。でも、現地人たちは多くがこの映画を知っている。「戦争について考えさせられた。いい映画だった」と話す人が多い。つまり逆に、われわれ日本人はこの映画に感謝すべきなのである。罪を憎んで人を憎まず・・・。この映画が全人類に向けて発する強烈なメッセージである。 10点(2004-11-27 02:23:45) |
3. ミスティック・リバー
どんより落ち込んだが、「くだらないものを観てしまった」とは思わない。後味の悪さは、いままで目をそむけていた現実を目の前につきつけられた衝撃。世の中、理不尽と不公平に満ちている。デイブの過去も理不尽なら、ジミーの娘ケイトの死も理不尽そのもの。それらがはちあった結果生まれる新たな理不尽を、すべて流し去ってしまう神秘の河。人間、過去や罪を背負って生きているし、それを理由に、また罪を重ねてゆく。『ミスティックリバー』というタイトルは、河のほとりに立ってじっと見つめてごらん、そう言っているように思える。「現実」から目をそむけず、「過去」と「罪」について考えてごらん、と。 10点(2004-10-28 00:54:27) |
4. バトル・ロワイアル
監督にどんな高尚なメッセージがあったのかは知らないが、やはり小中学生の殺人衝動を刺激してしまったのなら、大問題作だと思う。本当に、「中高生にこそ見てほしい」と思っていたなら、わかりやすく、メッセージが伝わるように作るべきだ。実際は、大人の観客に、答えを考えることを要求するB級映画にしかなっていない。事件のきっかけとなったからといって、映画を批判するのは良くない、という意見も理解できる。しかし個人的には、映画はそういう存在であってほしくない。この映画は、少年には、悪影響しか残さない映画、という気がして非常に残念。 6点(2004-06-26 02:44:42)(良:3票) |
5. ラスト サムライ
特攻を美化したり、責任をとって切腹したり・・・と、外人はこれを観て、日本人の本質的な部分を理解できるはず。現代でも、神風特攻隊の事実が美化されて世界中でテロを巻き起こし、日本では、「死んでお詫びするしかない」の風潮が当たり前のように存在している。この映画は、淡々と「うん。日本人ってこういうのを美化するよな」と納得しながら観るべきだと思う。もっとも、それは日本人が“誇る”べきものではないと思うが。死を「無駄死に」と認めたがらない国民性がよく出ている点で、死ななくて済んだ人が大勢死ぬ不条理を強調した『プライベートライアン』と対極をなしている気もする。ちなみに、ストーリーはパッとしないが、日本人をほんとカッコよく描いてくれている。19世紀年以前の日本なんて、いまでも西洋諸国から見れば“サルの惑星”としか思われていなかっただろうから、この映画のおかげで、根本的に国際的地位が上がった気もするし、それだけで嬉しい。ただし、外人には勧められない。『インデペンデンスデイ』をしきりにすすめてくるアメリカ人みたいなもの。アホだと思われる。こういう映画をハリウッドが替わりに製作してくれたということを、ただ静かに喜んでいたい。それだけ。 7点(2004-01-21 17:06:24)(良:1票) |
6. 千と千尋の神隠し
《ネタバレ》 「4駆だから大丈夫」と静かな森を外車で暴走したり、「クレジットカードがあるから大丈夫」と勝手に上がりこんだ店で食い散らかす父親。そして、所詮はどこかから借りてきた知識の詰め合わせでしかないカオナシ(最期は吐き出してまた無口になる)。滑稽なキャラクターたちが、自分にそういう部分がなかったか、こうはなりたくないなぁ、と“社会人”の自分らに考えさせてくれる。それだけでもスゴイ。そして、最後トンネルを振り返る千尋。現実だったのか夢だったのかはわからないが、少女があんなに変わった、本当の意味で大人になった・・・。(トンネルに入ってから)時間が経過したのかどうかもわからないが、そのわずかな時間に人間が変わる―――――。オーソドックスだけれども、すごくいいですね。ちなみに、長いこと日本に帰っていないのですが、この映画ほど日本の美しさを感じさせてくれる映像と音楽の組み合わせ、ほかにありません。観るたびに涙ぐんでしまいます。日本がもっと世界に誇るべき映画だと思います。 10点(2003-12-25 23:48:17)(良:6票) |