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プロフィール
コメント数 298
性別 女性
ホームページ https://kawamari7.hatenadiary.com/entry/2021/09/03/221816
自己紹介 取り締まる法律が必要な(1)XX中毒。生まれた場所のせいで3歳で兆候が現れ、13歳で表彰状物の重症に、今ではより強い刺激を求め(2)X屋の中だけではなくこのサイトに出没、ネットで(3)XXXXXXがないかと探し回るのに誰も助けてくれません。KW = 「かわまり」「はてなブログ」で原子力開発関連の「プロメテウス達よ」と19世紀ヨーロッパを夢と詩で描いた「黄昏のエポック」を公開しています。  (Xの数に文字数が一致する言葉を入れてください。)

空欄の答え:(1)XX=「言語」、「活字」も可、(2)X=「本」、(3)XXXXXX=「読める外国語」、キリスト教国際病院で生まれ、宗教は仏教。

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1.  千と千尋の神隠し
巻頭では無気力で新しい環境に適応する気もない女の子の千尋が両親と共に廃墟になったテーマパークらしい場所に迷い込んで好奇心が旺盛であって然るべき子供らしくもなく「帰りたい。進みたくない。」とゴネるという決して魅力的とは言えない始まり方なのですが、両親がブタに変えられ、野原だった入り口のゲートと江戸風の街路との間が海か湖に変わって大きな遊覧船が千尋に向かって進、接岸すると胴体が無い仮面が下船してくる下り(その間、沖縄の音楽のようなBGM)から俄然興味が湧いてきました。そしてミステリアスな昔の装束を纏った禿(かむろ=おかっぱ)頭の少年ハクの出現。。。 ハクはその後も、千尋が魔女の湯ババによって名前を「セン」と変えられた後もずっと超自然の世界で影に日向に千尋を守ろうとするのですがその理由が明かされるのはずっと後になってからです。しかし、千尋が経験した世界は超自然の世界ではなく、わたしたちが暮らす世界そのものなのでは無いでしょうか? ただ万物に宿る精霊たち、日本風に言えば八百万(やおよろず)の神々は通常は万象の影に身を潜めているのかもしれません。そしてそれらの中にはハクやリンのようにわたしたちを支えて助けてくれる精霊たちが多く存在し、湯ババ、銭ババや顔なしのように全悪の判別が難しいものも多くいるのです。人間の想像力が精霊たちを生かし、精霊たちに人間が生かされるのは日本ならではと言えるかもしれませんが、西欧でもハローウィンに奇怪な面をつけて練り歩いたり妖精の存在を信じたりと、一神教が行き渡っても今なお万物に宿る神秘的な存在を感じる人々がいるからこそ、この作品は欧米でも多くの人を惹きつけるのだと思います。
[DVD(邦画)] 8点(2020-04-13 02:10:04)
2.  コッポラの胡蝶の夢 《ネタバレ》 
邦題の「胡蝶の夢」というタイトルよりも「邯鄲の夢」と言うタイトルが相応しいと思える内容ですが、高校の漢文の授業を思い出してもらっては困るのでこのようにしたようです。と言っても正式な邦題も中国の古典である「壮子」、直接的には作品の最後の方でのドミニクと同僚らしい年配者との集いでの会話から来ています。老子と並ぶ道教の思想家である壮子は西欧の芸術家に多大な影響を与えました。わたしが知る限りではメキシコ人ノーベル賞詩人兼哲学者でスペイン語圏に俳句を導入したオクタヴィオ・パスが「胡蝶の夢」というタイトルの詩を書いていたはずですで監督のコッポラも壮子の胡蝶と邯鄲の故事の両方を知らなかったはずはありません。そして中国語の習得に励むドミニクが書いた最後の漢字は「未熟、無知」を表す「蒙」です。それはいいとして、中盤からドミニクがナチスの秘密警察に追われるようになった経緯はよく耳を傾けたのですがわかりませんでした。ストーリーはハンガリーの首都のブダペストで始まり。ドミニクは精神科医の助けで中立国スイスに逃げ、そこで戦後になってヴェロニカと出会うのだと思うのですが、間違っていたらごめんなさい。でも今回2度目となる鑑賞ではそれらはどうでもいいことだとわかっていました。ただ、東欧の良識ある人々にとって、特に第一次世界大戦終結までオーストリアと同じ君主を元首として戴いていた独立国のハンガリーにとって、1939年にオーストリアがナチスソイツに無血併合されたことは悪夢のような出来事だったに違いなく、第二次世界大戦後そのままソビエト連邦の傘下に入ったこともまた然りだったということは記憶に留めないといけません。この作品が制作されたのはベルリンの壁が崩壊して9年後ですが、ナチスドイツとソ連の支配下から脱することができた東欧の人々はこの頃ようやく自分の頬をつねっては「醒めない悪夢はないのね。」と呟き始めたのではないでしょうか? バルカン半島だけは1984年に自由ろ繁栄を謳歌する冬季オリンピックを主催した後で民族抗争の嵐に見舞われ、10年後のオリンピックの開会式で黙祷が捧げられたことを鮮明に記憶しています。醒めない悪夢がないなら醒めない甘い夢もないということなのでしょうか。。。これを書いている現在、わたしが住む街ニューヨークでは伝染病が猛威をふるい、第二次世界大戦後に国際平和の実現のために設立された国連の事務総長が(おそらく)ニューヨークから「人類の敵であるウイルスと戦うために世界中の全ての紛争を停止せよ!」という号令を発しました。戦争の脅威は死と破壊ですが、死と経済衰退という脅威を目下人類に与え続けている伝染病が「醒めない悪夢は本当にないんだね。」とみんなが思えるような形で収束し、全ての人類が地球に生まれて良かったと思えるような思い出とともに人生を全うできるといいです。
[DVD(字幕)] 8点(2020-04-06 04:53:02)
3.  ニュルンベルク軍事裁判〈TVM〉
空襲で焼け野原になったニュールンベルクの、机や椅子などが全て持ち出されて床が塵芥で覆われた裁判所内部でジャクソン検察官の秘書が壁を指して「こんなところモーゼが受け取った十戒のタブレットのレプリカがあるわ!」と叫びます。モーゼが受け取った十戒こそが近代国家が遵守する法治主義の原点なのですが、人類の代表として基本法である十戒を受け取ったユダヤ人を迫害したことでゲーリング以下のナチスドイツの高官らは軍事法廷に立たされて審判を受けるのです。この事実からして、ナチスドイツによるユダヤ人迫害は異端審問と同じ性質のものだったと言えないことはないでしょう。「いや、異端審問は審問であり裁判で刑が確定した。」とおっしゃる方はエドガー・アラン・ポーの「落とし穴と振り子」を読んでいただければ異端決定がいかにいい加減なものだったのかがわかります。そもそもモーゼの出エジプトの起源になったエジプト王による迫害も王の母が叔母がモーゼを我が子のように可愛がったことによる血族間の憎しみに端を発しています。そしてユダヤ人のイエス・キリストに対する憎しみは唯一絶対神の信仰が民族宗教にとどまるべきか世界宗教に発展すべきかという考え方の違いに端を発しているようです。憎悪というものは近しい者同士や知った者同士で一層燃え上がるようですが、ナチスのユダヤ人に対する憎悪は少なくともヒトラーなど上層部では魔女狩りと同じで不寛容から発するヒステリーだったように思えてなりません。だとするとそれは戦時ヒステリーか不況によって引き起こされたヒステリーであって今の世の中で近代的な法治主義を採用する国家ではありえないと思いたいです。  中盤でゲーリングと心理学者として従軍したイギリス人将校との間で「ユダヤ人を大量に殺したのは罪だ、」「連合国だって広島と長崎で罪もない市民を大量に殺したじゃないか」「彼ら犠牲者は連合国の市民ではなかったがナチスドイツが殺したのは自国の市民だった。」という会話がなされ、ここではイギリス人将校が明らかに守勢立たされています。日本人としてはよくぞ言ってくれたというところですが、東京裁判の結果死刑を宣告された日本人の中で同様のことを主張した人はいたのでしょうか。。。おそらくいなかったと思います。わたしは靖国参拝したことはありませんが、せめて東京裁判で文明を被告とすることや勝者が敗者裁くことの理不尽さを指摘したインド人裁判官ハル氏の考え方を理解してから靖国参拝したいと思っています。
[DVD(字幕)] 10点(2020-04-04 02:26:38)
4.  HACHI/約束の犬
アメリカにいくつもある大都市それぞれの周辺にこれまたいくつもありそうなベッドタウンが舞台のお話しで1987年の日本映画「ハチ公物語」のリメイクですが飛行機の貨物として送られてきた高価な秋田犬の子犬がケージが壊れて受取人の住所を書いた紙とも泣き(?)別れになってあっさりとリチャード・ギアが演じる教授に引き取られるという話の始まりも嘘っぽいけれどもっと嘘っぽいのは教授の死後に野良犬の道を選んだ主人公ハチは狂犬病の注射は受けたのか、鑑札はどうしたとかの問題もなく、銀行口座を開設できたり信託責任者(ホットドッグ屋のおっちゃんと肉屋さん?)が任命されて野良犬を続けているんですよね。まっいいです。とてもアメリカ的です。作品の撮影は4頭の秋田犬俳優を使い、動物俳優虐待されないよう愛護協会の監視のもとで行われました。ワンちゃんたちの可愛さに免じてオリジナルからの減点は1点だけにしておきます。
[ビデオ(字幕)] 8点(2019-12-10 08:49:24)
5.  愛を読むひと
ケイト・ウィンスレットのアカデミー賞主演女優賞受賞の後でDVDを借りて見た時にはあまり感慨がなかったのに、原作の日本語訳「朗読者」を読んだ時には相当の感慨があってDVDを借り直しました。  法律運用の上では文盲は処罰の相当な軽減理由になるはずですが、おそらく言語もドイツ語ではない現在のルーマニア領から未成年の時にドイツ流れてきてどの職場でもそれなりに評価されながら管理職に抜擢されそうになると転職してきたハンナの意地は「文盲だということがバレればわたしはこの国の下層階級の人々かそれ以下。」という国民のほぼ全員が読み書きができる島国日本に住む日本人には想像を絶する事実から来ているようです。これに対するマイケルの反応もこれでしかありえない、ハンナが読み書きできるようにするというものでした。でも、多民族がひしめき合うヨーロッパで国境を越えて流れてきた者がお隣の国の言葉を何とか喋れても読めないのは不思議でも何でもなく、マイケルが教授(原作では裁判官)に事実を言って情状酌量の可能性を尋ねなかったのは。。。やはり日本人の理解を越えているのでしょうか? その後にマイケルは贖罪のような行為を取りますが、ということはやはりドイツにおいても相談してみるべきだったということなのでしょうか?  遡及効というのはある事件に事件発生後に制定された法律が適用されて効力を持つことで、大多数の事件については原則として遡及効はありませんが、敗戦によって第三帝国が滅んで全く新しい政府が発足したドイツでは戦犯や戦後処理に絡んでかなり哲学的な議論が生じたはずです。哲学者を父とし、ハンナとの満たされない関係によって心理的に思春期に留まっているマイケルが学究を口実に大学に残り、裁判官として現実社会を歩む妻と離婚してハンナに尽くすようになる内面の過程は映画では描ききれていないのでこの点数です。
[DVD(字幕)] 7点(2016-09-26 13:18:03)
6.  陰陽師 《ネタバレ》 
視覚的にはかなり楽しませてもらいました。でも平安宮中と貴族の装束と館以外の視覚効果、例えば視覚化された悪霊などは余計です。陰陽の頭(真田広之)、陰陽師(野村万斎)、龍笛の名手の貴公子(伊藤広明)、この三人は脚本さえよければ怪獣映画ばりの視覚化なしに人と悪霊が共存していた平安朝の雰囲気を出せるだけの実力がある俳優だと思います。それにしても真田広之は時代劇に出たらチョンマゲ姿だけではなく平安貴族でも悪霊の使者のざんばら髪でも、どんな格好をしても素敵です。彼を主演にできる良い脚本を待っています。この作品の役柄では今でいう厚生労働大臣が地下鉄にサリンを撒いているようでわけがわからないです。わけがわからないのは野村萬斎が演じる安倍晴明も同じで時代は違っても陰陽寮勤務の公務員なんだから公務員らしい言動をして欲しいです(安倍晴明は自分の上司に勝てる自信がなかったので言っただけなのかもしれませんが言のほうにかなり問題あり)。三人の男優の中で言動ともに地位・身分と整合性がある役を演じたのは伊藤広明だけだったように思われます。主役ではありませんが芸術(笛)の才あり、恋した女性に対する思いやりあり、最後には武勇も見せるといういい役回りだったです。今の世なら安倍晴明の発言はメディアに叩かれて関連ブログが炎上し、陰陽の頭の件は人事院では済まずに総理大臣(平安時代の太政大臣)が採用責任を問われる事態です。藤原道長よりも百年ほど前の話らしいですが、凝った映像とキーになっている美しい龍笛の音はさておき、ストーリーに関しては「一体何やってんねん。」が偽らざる感想です。今昔物語にあるとかだったら評価を変えるかもしれませんが。
[DVD(邦画)] 5点(2016-01-18 12:25:39)(良:1票)
7.  インビクタス/負けざる者たち 《ネタバレ》 
わたしが見た映画案内では人種融和のためではなく、負けに負けていたナショナルラグビーチームを大統領が掛け声をかけて立て直した話しと紹介していたので最初からそのつもりで鑑賞しました。何れにしてもネルソン・マンデラの不屈の精神が核であることは確かでしょう。「これが敗北の味だ。乾杯しようぜ。」と言う破れかぶれの主将フランソワがマンデラ大統領との会見を経てチームメートと訪れた離れ小島の刑務所で収監時のマンデラの幻影を垣間見、その精神の一端に触れ、一念発起頑張るという物語はまさにクリント・イーストウッド節です。この映画で語られる話があったのは1990代ですが、あれから様々なことがありました。その中でも筆頭に挙げることができるのは日本のナショナルチーム(と言おうか日本に縁がある人々からなるチーム)が負けざるチームだった 南アフリカのチームを下して世界中から「大金星」との賞賛を受けたことでしょう。そのマンデラ氏も既に故人です。さらに1998年の長野オリンピック開会式で小澤征爾氏の指揮による五大陸合唱の一拠点だった南ア喜望峰で白人と黒人が黎明の中で肩を並べて歌っている象徴的な場面を衛星中継で見たわたしとしては古今の感を覚えます。
[DVD(字幕)] 7点(2015-12-20 13:01:34)(良:1票)
8.  容疑者Xの献身
「石神は人を殺さない。殺す前に殺さなくてもいいように解決策を見つけるだろう。」という湯川。一見幾何の問題に見える関数の問題にはまってしまったんですね。全編を通じて堤真一の演じる不器用な数学者の演技にはまってしまいました。でももし石神が数学者ではなく、昨今の法律家大量生産のせいで仕事にあぶれて安アパートに住むしかない弁護士だったら落ち着いて「靖子さん。あなたがやったことは正当防衛。それが立証されれば無罪。悪く転んでも過剰防衛で微罪ですよ。」とアドバイスしたはずなんですけれどね。こんなこと法律の素人のわたしでも言えるけれど数学者には言えないのでしょうか?どんなに好きな相手でも正当防衛以外で人殺しをしたら百年の恋も冷めるし、逆を言えば恋が冷めないのなら優秀な弁護士に依頼して無罪を勝ち取る余地が十分にあるはずです。最初のニュースと爆発現象を説明する湯川のかっこよさ、雪山から見る広大なパノラマ、そして堤真一の好演のせいで点数は甘めです。
[DVD(邦画)] 8点(2015-06-22 07:02:47)
9.  単騎、千里を走る。 《ネタバレ》 
北京オリンピック開会式のプロデューサーを務め、その後の作品で潤沢な資金やエクストラを駆使して「昔の心意気はどうした!」と揶揄されたチャン・イーモウ監督のまだ擦れていない頃のお涙頂戴もの作品です。別に日中両国をまたがなくても、とかツッコミどころはありますが高倉健と仕事をしてみたかっただけなのかもしれません。でもプロの日中ガイドと少し話しが混みいるとしどろもどになるガイドの二人を配して言葉が通じないことからくるドタバタもあり、最後は言葉を越えてわかり合うようにもっていくところなど、心憎いストーリーでした。リーの仮面の下での涙は唐突に感じましたが自分の子供のために動き回れる高田(高倉健)に対する羨望と囚われの身の自分に対する自責の涙だったのですね。高田がガイドを介して伝えた決断はリーとヤンヤンの父子両方にとって妥当なものだったと思います。高倉健さんは昨年亡くなりましたが「チャン・イーモウ監督、高倉健が元気なうちに撮れて良かったね。」と言いたい一作です。雲南省の風景がとても綺麗でした。 
[DVD(字幕)] 7点(2015-02-12 08:00:51)
10.  千年の恋 ひかる源氏物語
酷評が多いけれど、そんなに目くじら立てることはないんじゃないかと・・・今から千年前に書かれ、日本が世界に誇れる世界初の近代文学だとか吹き込まれている上に高校の古典の時間や大学入試で油を絞られた記憶から辛い点数がつくんじゃないかと思います。光源氏と明石の君が熱帯魚が泳ぐ海中でダイブの追いかけっこするシーンとか目いっぱい楽しんだんですけれどね。本作の欠点は長いことだけです。目を楽しませる色彩や豪華な衣装・背景や耳に心地よいシンセサイザー音楽なんて一時間半以上続けて見ると食傷気味になります。で、かく言う当方はイアン・マックラン監督兼主演で戦車が突進し軍用機が空を舞う「リチャード三世(シェイクスピア原作、上映時間104分、本サイトでの平均点8.75)」の大ファンです。リチャード三世にあげた点数と同じ9点をあげようとも思ったけれど、質的にちょっと落ちる「ロミオ+ジュリエット(シェイクスピア原作、レオ様主演、本サイトでの平均点5.54)」にわたしがつけたのと同じ点数にしておきます。「シェイクスピアと紫式部を差別しないでください!」というのがわたしの切なる願いであります。
[DVD(邦画)] 6点(2012-09-29 12:35:52)
11.  ゼロの焦点(2009) 《ネタバレ》 
松本静張生誕100周年記念特売(中国語字幕付)というDVDセットを期待して買って見てがっかりしました。その昔十朱幸代主演でNHKで見た同作品が非常によかったせいもあります。十朱幸代版は一、二回ぽっきり放送のTVドラマだったのでこのサイトには載らないんですね。松本静張は新婚7日目でお嬢さんの主人公が社会の暗部に目覚めていくという重厚なテーマを描きたかったのだと思います。十朱幸代版では主人公は最後までお嬢さんっぽさが抜けないもののきちんと推理したり検証したりしたのに、このバージョンではその過程もすっ飛ばして簡単に犯人との対決にもっていってしまって残念です。それにしても元米軍兵相手の暗い過去が以前のバージョンではずしりと重たい過去の事実に見えたのがこのバージョンでは「それがどうした。」と言いたくなるほどの重みしか感じられなかったのは脚本や演出のせいでしょうか、それとも良家のお嬢さんまでが援助交際とやらをする現代の風潮のせいでしょうか?
[DVD(邦画)] 4点(2012-08-08 03:48:31)(良:1票)
12.  ボルチモアの光<TVM>
男性である主人公は作中でも「女みたい」と言われるような名前をしていますが、奴隷に甘んじても誇りを失わなかった家庭に生まれ、アフリカ由来の名前をつけられたようです。映画の中身ですが、キング牧師のように「私には夢がある!」と絶叫するわけでもなくバスの中で頑として白人に席を譲らずに公民権運動の旗印を掲げた話でもなく(どちらもアメリカの1960年代)、それよりもずっと昔の話でありながら主人公が黒人であるという事実もさらりと描かれ、医学根性ものとでも呼びたくなるような主人公の努力も誇張されず、先天性心臓疾患の子供たちとその親たちの望みも努力の動機の一要素以上でも以下でもなく、白人医師と黒人助手の間の友情も相手の将来を思いやる親切心からというよりは自分の助手として存分に使いたいという利己心の両方の所産として現実的に描かれています。これだけ多くの要素が一作の中に詰め込まれているわけで英語のタイトルをつけた人はさぞかし考えあぐねただろうと思いますが、”Something the Lord Made”は正に「事実は小説より奇なり」ではなく「事実は小説より感動的なり」というところです。黒人に生まれたことを負い目とは感じず、医学校にいけなかった運命を悲憤慷慨もせず、敷かれた線路の上を歩まず、ただまっすぐに病気治療に向けて努力するゲリラ戦で栄光をつかむ主人公の生き方からは学ぶところが多いです。主人公の器用さが外科医としての道を歩むきっかけになったのは事実でしょうが、外科手術という人体にとっての極限状態の下でショック死させないためには執刀医には生理学の広範な知識が必要とされ、戦時下で怪我によるショック死を回避する研究が急務だったせいでブラロック医師が主人公に動物実験をさせた(採用の翌日だったそうです)理由であり、後に執刀医であり医学教育者となった主人公もブラロックと同程度の生理学の知識があったに違いないことをつけ加えておきます。
[DVD(字幕)] 8点(2012-05-08 12:47:46)
13.  永遠のマリア・カラス 《ネタバレ》 
オペラにあまり詳しくない方のため一言。劇中劇の「カルメン」の主役カルメンはソプラノ(マリア・カラス)ではなくメゾ・ソプラノかアルトの役柄です。わたしもマリア・カラスが歌っている「カルメン」のCDを持っていますが、マリア・カラスにしてみれば(劇中でも「カルメンは別物。」と言っていますが)「頼まれたから自分の得意分野ではないけれどしかたなく歌ってあげた作品」なので、口パクも簡単に引き受けたのだと思います。「トスカ」は引き受けたような引き受けてないような・・・。彼女の十八番はやはり「椿姫(ラ・トラビアータ)」です。椿姫(ソプラノ)が歌うアリアの難度は非常に高く、声量が要求されるのでマリア・カラス以外の痩せ型ソプラノ歌手がうまく歌えた例は極めて稀なようです。肺病で死にかけているはずの椿姫の役を太ったソプラノ歌手がやって上演期間中笑いの種になったこともあります。だから、中年を過ぎて美貌とすらっとした体型を保ったカラスが口パクのビデオ版「椿姫」の製作を許したのか・・・恐らく頑強に拒否したのでしょうね。おまけですが、一流俳優の口パクに上の中程度の歌手の声を載せたビデオ作品にはソフィア・ローレン主演の「アイーダ」があります。プレイボーイとして名高い(実際は堅物)のプラシド・ドミンゴ(テノール)が歌うモーツアルトの「ドン・ジョバンニ(バリトン)」も聞いてみたいです。主役のあまりのワルさ加減のせいでいくらうまく歌っても主演歌手はカーテンコールで拍手してもらえないんです・・・でもあんなに太ったドミンゴではやはりうけないかもしれません。
[DVD(字幕)] 8点(2012-04-16 02:51:27)
14.  カロル ローマ法王への歩み <TVM>
ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」の主人公は時に「主人公はピアノがお上手なだけ。」「主人公はピアノの才能があったから生き延びることができた。」等々の酷評を受けるようです。一方、本作品の主人公で後にローマ法王ヨハネ・パウロ二世となるカロル・ヴォイティワは同じ時代に青年期を送ったポーランド人ですが、聡明でひときわ感受性が強いという他は普通とは変わらないごく平凡な青年です。それでも「カロル・ヴォイティワはユダヤ人ではなかったのでナチス占領下で生命の危険はなかった。」など、ナチスの非人道的な行為が彼に及ぼした影響を疑問視する声もあるでしょう。でも、ナチス・ドイツがポーランドのカソリック聖職者の三分の一を殺害し、その事実に無縁ではいられなかった青年カロル・ヴォイティワが暴力に対抗する良心の砦となるために恋人や文学・演劇の道を捨ててカソリック聖職者を目指すに至ったその経緯からはナチス支配下でのユダヤ人のサバイバル・ストーリー以上にナチスの暴虐(そして旧ソ連の圧制)を如実に感じることができます。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世となった後の主人公は455年ぶりの非イタリア人ローマ法王にして初のスラブ系ローマ法王、暗殺の危機に晒されかつその暗殺者を許した度量、歴訪した国の数や飛行機の搭乗時間が歴代で最多・最長という正にスーパーマンでしたが、カトリック教会で順調に出世し結婚という世俗的な幸福は捨ててもスポーツは捨てなかったカロル・ヴォイティワの日常、祈るだけではなく必要とあれば平服に身を包んでソ連の官僚との交渉も辞さなかった行動力、元婚約者だった女性に起きた医学では説明できない生命の奇跡、そして良心の府でありつづけようとするバチカンの枢機卿らが「このような経歴・経験のあるヴォイティワなら世界においてその役割を果たすのに最適だ。」と考えて選出したに違いない、その期待に応えつくした生涯を余すとこころなく説き明かした作品です。
[DVD(字幕)] 9点(2011-02-24 02:23:19)
15.  白バラの祈り/ゾフィー・ショル、最期の日々
理屈っぽくて議論好きなドイツ人の取調官と収監された政治犯の迫真のやりとりには目を見張らされるものがあります。そして主人公ゾフィー・ショルの容疑者としての弱みを決して見せない堂々たる態度と取調官に代表されるヒトラー政権を相手取った理路整然とした議論が素晴らしかったです。どうせ死ぬなら戦場で敵の弾に撃たれるよりも、空襲で焼け死ぬよりも、正義と真実の主張によって断罪されるほうがいいというゾフィーとハンス兄妹の信念と二人を誇りに思うという年老いた両親の姿も感動的でした。翻って、日本について考えてみると、ショル兄妹のような良心の囚人はいたでしょうが、本作品の取調官のように冷静に論陣を張れる取調官はいたのかどうか・・・。同じような作品(例えば小林多喜二を描いたもの)なんて陰惨極まりない、バイオレンス映画か蟹工船を上回るホラー映画になってしまうでしょう。でも、野心のある脚本化と監督に是非挑戦してもらいたいと思います。検察特捜の失態が明らかになり、取調べの可視化が取りざたされている今、そういう観点からもこの作品を鑑賞することができます。
[DVD(字幕)] 9点(2010-10-15 13:39:34)
16.  終着駅 トルストイ最後の旅
第一号の方と同じでわたしもヘレン・ミレンの演技を見たかったので見ました。何が言いたいのが、いまいちわからなかったです。ものの本によれば、トルストイはソフィーと結婚してからどんどん創作意欲がわいたとのことで、彼女との結婚がなければ後世に名を残す文豪にはならなかったようなことまで書いてありましたが、奥さんとしては許せないような不倫をして名作「クロイツェル・ソナタ」を書いたりとか、トルストイの奥さんが彼にどのように創作意欲をもたらしていたのかについては一言では言い尽くせないものがあるようです。その奥さんとトルストイを教祖様のように尊敬する一群の人々との間にトルストイ死後の著作権帰属に関して問題があったのも事実だそうですが、わたしとしてはヘレン・ミレンの名演技を見てでさえ、「それがどうした・・・。」と言った感想しかありませんでした。どうせやるなら「クロイツェル・ソナタ」執筆前後のどろどろした人間劇を脚色・映画化したほうが面白みがあるのでは・・・ただし、ヘレン・ミレンでは年取りすぎているかもしれません。
[映画館(字幕)] 5点(2010-09-25 11:19:09)
17.  小さな村の小さなダンサー
英語の予告編で華麗なグラン・パ・ドゥ・ドゥー(男女ペアの舞)を見せつけられ、英語サイトであらすじを読んだ後にこのサイトで初めて戴思傑原作・監督の「小さな中国のお針子 」のパクリみたいな邦題を見て「あれっ?」と思ってしまいました。なぜ、英語のタイトルを直訳しなかったのか・・・。でも、作品を鑑賞した後では邦題のほうが内容をより良く言い当てているのかもしれないと思っています。英語サイトには「毛沢東主義に染まった中国人芸術家が共産主義に疑問を持ち・・・」なんて書いてありましたが、こんな堅いことは一切抜きで鑑賞できる作品だと(少なくともわたしは)思うからです。文化大革命などといった歴史のうねりと比べて芸術家であろうがなかろうが、一人一人の人間の力がいかに小さく弱いものであるかが描かれているようでもあります。天職のダンサーとしてはより高く飛び、より美しく舞うことしか考えず、一人の青年としてはごく平凡にカンフー映画やディスコ、そして女の子とのデートに興じる主人公の李存信の生き方を見て、「これでいいじゃない。こういう人が歴史を作るんだ。」と妙に納得したりしました。主人公は普段着の時はどこにでもいそうな東洋人の兄ちゃんですが、彼が舞台衣装を纏い、メイクを決めて居並ぶ白人群舞ダンサーたちをバックにしてソロを演じる様には本当にぞくぞくさせられました。わたしも同じ東洋人だからだと思います。異論もあるでしょうが、わたしはこの作品は少女コミックにあったようなスポーツ根性ものの一種ように鑑賞するのが自然だと思います。レオタードではなく白いシャツと黒いズボンを身に着けた中国人の少年たちが舞踊学校で次第に高度な舞踊技術を身につけていく様、初めて女の子とパ・ドゥ・ドゥーを舞う時の主人公たちの恥じらいの表情、そして五星紅旗と青空をバックにしての主人公とアメリカ人女性との普段着のままでのパ・ドゥ・ドゥーなど、何も考えずに見ても(考えてもいいですが)楽しめます。デビューの舞台上でのフラシュバックがやたら長いこと(一番強烈な中国古典の射手の寓話だけで十分)、そして奥さんとの経緯がいまいちはっきり描かれていないことが減点要因です。
[映画館(字幕)] 9点(2010-09-25 09:57:52)
18.  戦場でワルツを
この作品は邦画の「おくりびと」とオスカー外国語部門賞を争い、前評判では「おくりびと」よりも評価が高かったそうです。イスラエル人がやっているらしい英語版の吹き替えの訛りがきつくて、アメリカ人の声優さんが起用されていたらもっとよくわかったかもしれないのですが、もう一度字幕をオンにして見直す気はあまりしません。全体に流れる悲痛な雰囲気に耐えるのはもうゴメンというのが本音です。パレスチナの問題はわたしたち日本人の想像を絶するものがあると思いますが、そもそもイスラエル人であろうがどこの国民であろうが、自分の手で人を殺すのはどんな場合でも(殺す相手が死刑囚で仕事で殺さなければならないとしても)いい気分ではありません。それを代わってやってくれそうな強硬派の現職のネタニヤフを、20年前には同じような誰かを首相に選び、当のネタニヤフや20年前の誰かは自分で戦場に行って殺人に手を染めるわけでもなく、本作品の登場人物のようにレバノンなどに送られたイスラエル兵が公務として人を殺し、自分の心にも傷を負う・・・という構図、どこかおかしくありませんか?だからそのおかしな構図の一部を拡大して描いたこの作品よりも平和な社会での生と死を見つめた「おくりびと」のほうが上を行っている、とわたしは本気で思います。でも、深層心理をたたえた大人の表情やしぐさの細部や抑えた色調は特にビジュアル系の人からの高い評価を受けるでしょうし、ストーリー、美術とともに完成度は非常に高く、一見に値する作品ではあります。
[DVD(吹替)] 6点(2010-07-13 13:52:29)
19.  クロッシング(2008)
今から60数年前、日本では天皇の威光を笠に着たエリートを自称する軍人集団は自分たちの体面を守るために国民を盾にしました。「硫黄島からの手紙」に描かれているように、国民を守るために体を張って玉砕した軍人もいないわけではありませんでしたが、「日本の一番長い日」に描かれた本土決戦の主張は国民を盾にすることに他ならず、空襲での市民の死と戦場での兵士の死のそれぞれに本作品のようなドラマがあったわけです。そして、ドラマが入り込む余地もなく広島・長崎の原爆投下で蒸発して消え去った何万人かの市民とドラマにするにはあまりに痛ましい原爆後遺症でなくなった数十万人・・・。でも、軍人の復員と海外からの引揚者によって起きた戦後の食糧難の時代、日本人には「これさえ我慢すれば・・・。」という希望があったと思います。一方、この作品を見る限り、今の北朝鮮は日本が60数年前に相次いで経験したことを一度に、しかも希望なしに経験しているようです。他国人を拉致するテロリスト国家」と北朝鮮を非難してみたところで、北朝鮮の国民が民主的な方法で拉致を合法化したわけじゃなし、食料などの人道支援をしても、軍人や官僚の私腹を肥やすだけかと思うとやりきれないです。作品中で主人公が韓国の薬局で北朝鮮の医者に処方された薬を買おうとし、店員が「結核の初期治療は全て無料だから本人が保健所に行けばこの薬も無料。」と言う場面があります。つまり、日本や韓国では伝染病の予防など、国民の生活を守ることが国家の存在意義なのですが、北朝鮮では国家とは国民を犠牲にしてでも体面を保ち、存続しなければならない怪物なのです。この作品は多くの脱北者の証言に基づくリアリティと家族愛のドラマで迫ってくるものがありますが、この内容が早く時代遅れになってほしい、現状が変わってほしい、こんなことが長く続くはずがないと思わずにはいられないのでそこそこの点数をつけます。
[DVD(字幕)] 8点(2010-05-30 03:39:49)(笑:1票)
20.  マルチン・ルターの生涯
登録を要請しておいてレビューをすっかり忘れていました。すみません。全く正統派の作品。ヨーロッパに旋風を巻き起こしたとはいえ、地味な宗教家の生涯を描いているので退屈に感じる人もいるかもしれませんが、論争あり、戦乱あり、恋愛も結婚もしたという宗教家としては波乱の人生を送ったルターに共感を呼び起こすように描かれています。わたしはルーテル教会の付属の幼稚園に一年間だけ通ったのですが、開祖さま(?)の伝記映画を鑑賞して非常に誇りに思いました。テレビで放映される機会があるかどうかわかりませんが、ルーテル派のプロテスタントの方は必ずご覧になる機会があるでしょうし、そうでなくても、ルーテル教会が無料上映することもあるかもしれないので、世界史の勉強をかねて是非鑑賞していただきたい作品です。
[DVD(字幕)] 7点(2010-05-02 00:46:38)
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