1. 嵐ケ丘(1939)
《ネタバレ》 ウィリアム・ワイラーの「嵐が丘」。 ヒロインが語る「ジェーン・エア」と違い、「嵐が丘」はメイドの語りになっているため、プライベートな会話は監督や脚本家の創作による部分も多く、映画によって違う会話が聞けるのが特徴。 小説では思い込みが激しくほとんど破滅的な性格の彼らが、荒野(ムーア)のイメージと一体化し強い個性を生んでいますが、それを映像にするのはむずかしそう。 ローレンス・オリヴィエは野生児ヒースクリフにはあまり嵌っていないように思え、キャシー(マール・オべロン)もエドガーとヒースクリフの間で揺れが大きいので、重要な「私はヒースクリフなの」のセリフに説得力がないように感じます。 前半(一世代)しか描かれておらず、キャシーがヒースクリフの腕の中で息絶えるのは彼らにとり幸せな結末かもしれず、まとまりはよいと思うものの決定版という感じでは… エドガー・リントンのデヴィッド・ニーブンがまだ若々しいのが驚き。 [DVD(字幕)] 7点(2013-02-06 07:00:00)(良:1票) |
2. 嘆きの天使(1930)
《ネタバレ》 ドイツ時代のマレーネ・ディートリッヒ。 堅物中年教師を虜にしてしまう踊り子ローラは若さとオーラに輝き、女性もうっとりさせてしまうアンドロギュノス的な魅力を放ち、前半は彼女の独壇場。 後半は彼女のキャラがやや類型的になってしまうのだが、かわってラート(エミール・ヤニングス)が怪演を見せ、雄鶏の鳴き声に鬼気迫る。 「青い天使」(原題)とは、華やかなローラに吸い寄せられ生気を失い青ざめるラートその人。 美に魅入られて身を持ち崩し、狂気を経て死に至るのは「ベニスに死す」のダーク・ボガートにも似るが、あの場所で命尽きたのは、まだしもラートにとって幸せといえるやもしれない。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-01-06 07:00:06) |
3. 望郷(1937)
《ネタバレ》 「カサブランカ」のようにエキゾチックな映画。 ぺぺ・ル・モコって名がかわいいし、若きジャン・ギャバンもかわいいけれど、役柄はコワイしズルイしでかわいいとはいえないネ。 彼の心をとらえるギャビーも宝石ジャラジャラ、眉は全然ちがうとこに描いてるし、ファム・ファタールらしく妖艶ではあるものの、彼らが惹かれあうのもそれ相応というか。 ぺぺが故郷パリの香りをふりまくギャビーにからめとられて身を滅ぼすのは哀れではあり、彼が身を寄せるおばさんが古いレコードをかけて自身の華やかなりし頃に思いをはせ、郷愁をかきたてる。 有名なラストシーンは、号泣でなくはらはらと落涙するのが情緒的。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-01-05 07:00:06) |
4. 白雪姫(1937)
《ネタバレ》 75年前の初カラー長編アニメとは思えないほどの完成度と美しさ。 白雪姫はじめ等身大キャラは今でいうモーション・キャプチャーのようなことをしてるから、動きもリアル。 本物をなぞることが芸術かどうかは、現在のCGアニメ(「クリスマス・キャロル」など)を見てもわからないけど、もう生きてはいないであろう少女の動きだけが、今も映画の中に残されているのは不思議な感じ。 素晴らしい背景画やハイホー♪な小人さんたちも魅力的、特にグランピー(おこりんぼ)のキャラが作品を古くしていないよう。 「俺はお前らみたいなミーハーとはちがうんだ」なのに、ちゃんとおやすみのキスはしてもらいに行き、スノーも「よそよそしかった彼がきてくれてうれしい♪」なシーンが好き。 王子さまが形だけなので、彼が小人さんたちからスノーをさらっていくように感じられるのが弱点かもネ。 [映画館(字幕)] 8点(2012-10-02 06:59:59) |
5. フランケンシュタイン(1931)
《ネタバレ》 シェリーの「フランケンシュタイン」やべリャーエフの「ドウエル教授の首」には、人体を思うままに再利用したい人間の願望が潜む。 ノーマルな脳の代わりにアブノーマルな脳を移植された人造人間はそれを具象化したもの。 ボリス・カーロフがメイクアップした姿は本人とは似ても似つかず、以後のイメージを決定づける。 エリセの「ミツバチのささやき」はこの作品のもっとも詩的な部分が使われ、 燃える風車小屋でも生き延びた彼の真の苦しみは、求められない自分を知る「フランケンシュタインの花嫁」(35)に持ち越される。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-12-09 07:00:09) |
6. スミス都へ行く
「素晴らしき哉、人生!」とならぶフランク・キャプラの傑作は、シンプルな構成ながら白のスミスと黒のテイラーの間に灰色のペインを置いたのが効果的。 クロード・レインズは「カサブランカ」では署長さんになるイギリスの俳優さんですが、まだ良心が残っているペインの苦しむ姿が印象的で、悪辣なテイラーは憎めてもペインを憎むことはむずかしい。 無論ジェームズ・スチュワートの熱演をひきたてるためのものでもあるのですが。 世間知らずのスミスを最初は小バカにしながら、彼の純粋さと熱意に動かされる秘書サンダース(ジーン・アーサー)の「一生皮肉言ってるのも不幸だわね」もいい言葉で、30年代のヒロインとしては古くささのない女性像。 彼女とスミスの野球のサインのような連携プレイが堅苦しくなりがちな議会のアクセントになり、彼女に求婚する記者ムーアは世間とのパイプ役をはたし、必死に応戦するスミスをニマニマしながら見守る議長は「初(うい)奴じゃ」とカワイく思ってるんですよね。 テレビやネットのない時代にはラジオや新聞の影響力がとても大きかったのが感じられ、そういう時代性の中にタイムレスな価値のある作品。 [DVD(字幕)] 8点(2011-06-10 07:00:01)(良:2票) |
7. 或る夜の出来事
1934年っていったら「キング・コング」の次の年ですよ~スゴイ! キャプラ初期のヒット作はお金も時間もかかってなさそうだけど、十分オモシロイ。 かわいくないエリーがだんだんかわいく見えてくる。 エリーの衣装はローブ、イブニング、ウェディングとある中で、ずっと着ていた質素な服が一番似合っていたし、巨額の大金をふりまわすわりに金勘定が細かいのが庶民的。 新聞記者ピーター(「風共」のレットより感じイイかもね)の特ダネ交渉は20年後の「ローマの休日」がソックリいただいてる。 エリーのパパは名の知れたパイロットよりホネのある貧乏記者がお眼鏡にかなったよう。 エリーの結婚式の後は2人が画面に登場しないのも粋な演出に見えるんだけど、すでにスターで短期間しか参加しなかったコルベールの都合ってことはないよね? 重要視していなかった作品でオスカーをもらった彼女は壇上でキャプラに謝辞をのべ、彼女もエリーのように改心したってこと。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-06-09 07:00:01) |
8. フランケンシュタインの花嫁
エルザ・ランチェスター演じるエキセントリックな花嫁のヘアメイクや動作、言葉の代わりに発する奇声が「人にして人にあらず」な感じがよく出ていました。 彼女に拒絶される人造人間の悲しみも。 ダークな怪奇物だった1作目とは違いライトな感じではありますが、前作の少女のように盲目の老人との交流があり、心をかよわせる相手が常に弱者であることは変わりません。 50年後のリメイク「ブライド」(84)では、花嫁は違う選択をします。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2010-02-02 06:45:28) |
9. にんじん(1932)
《ネタバレ》 ジュール・ルナールが自分の実体験をもとに書いた物語はおかしくも痛ましくほろ苦い。にんじんが子供らしくないのは母親の不当な扱いに対処するのに常に知恵を働かせななければならなかったからであり、性根が悪いわけではない。にんじん役の子役は非常に愛らしくとてもにんじんとは思えぬほどであるが、母親役の女優がヴァロトンが1890年代に描いた挿絵に酷似しているのは、この役に関してはヴィジュアル・イメージが大事ということだろう。惜しむらくは原作を傑作たらしめているユーモアよりペーソスの方が浮き上がっているせいで、「ケス」のようなかわいそうな少年の話になってしまっていることだ。それでも謎であった、ルピック夫人が息子を苛める要因を父親のルピック氏に語らせている点は解釈の一つとして意義があるし、初めて味方を得て‘Mon pere’と呼んでみる、にんじんの笑顔を見られるのも嬉しいことである。 [地上波(吹替)] 7点(2009-10-26 23:59:58) |
10. 風と共に去りぬ
スケールの大きい偉大な映画かも知れないが、本能だけで生き周りを蹴散らすお嬢様ビッチなスカーレット・オハラに感情移入することは大変むずかしく、ラストも懲りない女としか映らない。(ヒロインや原作者が米国南部の女性であることも起因していると思われ、北軍が悪者なのも気に入らない)そのためマミーやレットのような魅力的な人物を備えながら自分にとって大事な作品とはいえないし、メラニーについては自分が彼女をどう思っているのか判然とせず。 [地上波(吹替)] 7点(2009-06-19 01:18:11) |
11. キング・コング(1933)
さらった小人ガリバーを手に屋根の上に登る巨人の国の大猿がモチーフともいわれる初代コングは、20世紀前半のセンス・オブ・ワンダーに溢れ、「メトロポリス」と並び圧倒的な完成度を誇る。だがカール・デナムに言わせる「美女が野獣を殺した」との台詞には疑問を覚えるし、フェイ・レイの悲鳴に後半飽き、コングの顔も怖すぎる。製作費43万ドル。 [ビデオ(字幕)] 7点(2005-12-29 10:31:13) |