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1.  海を飛ぶ夢 《ネタバレ》 
一度観ただけでは、おそらく尊厳死という「社会問題」に頭をめぐらせて終わってしまう。しかし、そういう類の映画ではない。この映画は、尊厳死一般を論評しようという行為自体を拒んでいるし、ラモン・サンペドロ自身の持つ「尊厳」に対する考え方に対して、批判を加えようという映画の見方自体を拒んでいる。(冒頭のロサが行った批判のように。)尊厳というものがごく個人的な問題であることを理解したうえで、改めて映画として純粋な目で観賞してこそ、この映画の真の価値を評価し得ると思う。この映画は、純粋に「生と死のあり方」と、それをめぐる「愛情のあり方」を味わうための映画として非常に作り込まれた作品であると感じる。登場人物一人一人のラモンに対する愛情のあり方の異なりが、それぞれ印象的に描かれている点は秀逸である。個人的には、ラモンが他人の「手」を借りる必要からロサとの間で形成した「愛情」のかたちに、ラモンの境遇のリアリティが持つ絶望的な切なさを感じさせられた。最後、ラモンと運命を分かったフリアのもとへラモンの届かぬ詞が伝えられ、想いが魂となって海へと帰していくラストは見事だと思う。
[DVD(字幕)] 10点(2008-01-06 16:01:48)(良:5票)
2.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
SF映画なのだから、登場するSF技術がいくら非現実的であろうと問題はないと思う。しかし、同時にサスペンス映画であるわけだから、そうしたSF技術や特殊な設定を前提とした上で、ストーリーの辻褄が合っていなければ、それはやはり脚本として問題がある。この映画にとって時間的な整合性は、「デジャヴ」を表現する上での生命線であるはずだ。しかし結果的に、整合性はぼやかされ、さまざまな矛盾が明示的に解決されることはない。数学者ならば例のSF技術を幾重にも駆使してこの謎を解けるのかもしれないが、一般人からするとただ誤魔化されているという印象に終わってしまう。映画を観終わってから色々と材料を洗い出して頭の中で再構成するという作業はそれなりに面白いのだが、そもそも「正しい答え」が用意されていないとすれば随分な肩透かしだ。もし「正しい答え」にたどり着ければ、この点数も変わるのだが。
[映画館(字幕)] 7点(2007-03-26 20:42:08)
3.  硫黄島からの手紙 《ネタバレ》 
日本人として、日本人が経験した硫黄島戦(あるいは太平洋戦争)がどのようなものであったかを知ることが、歴史を忘れず、語り継ぐという行為であろう。そこで我々が何を知るべきかといえば、日本人が経験した硫黄島戦の特殊性(あるいは日本人が経験した太平洋戦争というものの戦争としての特殊性、固有性)であり、それは「戦争の悲惨さ」などといった「一般論としての戦争映画」が描き出すような、戦争の本質を見ることとは性質を異にするもののはずである。結果的に、この映画は後半から終盤にかけての展開で明らかなように、「一般論としての戦争映画」として作られたに過ぎなかったと結論づけられよう。中心的な登場人物である栗林中将と西郷が、この戦争に対してどのような考えを持っていたのかがほとんど描き出されていなかった(日本兵の精神的な側面を描くことが決定的に欠如している)ことからも、それは明らかであろう。日本人にとっての硫黄島戦(あるいは太平洋戦争)を語り継ぐという作業を外国人に託してしまうことに致命的な無責任さが存在することを、映画を観終わって当然のごとく認識させられる。
[映画館(字幕)] 6点(2007-01-17 22:59:05)(良:1票)
4.  クラッシュ(2004) 《ネタバレ》 
「人種差別」という事に対して、多面的な描き方をすることで、観る者に対して単純ではない考えを形成させる映画だ。 しかし、この映画で描かれた人種差別は大きく二つの要素からなるように思う。一つは、意識的に人種差別主義的な思想を持つ人間が行う「思想的な差別」。もう一つは、人間が経験的あるいは統計的思考によって、ある人種に特定の性質を結びつけることによるいわば「認識上の差別」である。 例えばマット・ディロン演じるライアン巡査は明らかに「思想的な差別」であるし、逆にそれが不満だったライアン・フィリップ演じるハンセン巡査が最終的に陥ったのは「認識上の差別」による反応行動であった。また、たいていの差別はその両者が絡み合ったものであるだろう。 この映画では、通常は「人種差別」概念と同一視されがちな「思想的な差別」の問題を扱うだけでなく、万人が陥りうる「認識上の差別」の問題性を効果的に浮き彫りにすることで、正義の側から人種差別を単に悪として片付けるだけでは済まされないことを観る者に痛感させたであろう。 結局、この映画のメッセージとして残るのは、人種差別への非難というよりは、人間の普遍性を意識させる方向へと向いているといえるだろう。悪を非難して正義を美化したところで、両者の隔絶は広がるばかりであって、むしろ悪と正義とを互いの方向へと近づけることによって、初めて理解へと向かっていくことを、説得力ある現実性の描写によって表現したといえる。 個人的には、アメリカのみならず、西洋社会が広くこの作品を受容することで、卑劣な黒人選手差別が問題化している欧州サッカー界の現状に光が射すことも強く願いたい。 
[映画館(字幕)] 8点(2006-04-15 23:24:57)(良:1票)
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