1. 鬼畜
《ネタバレ》 役のために鬼に徹した岩下志麻の女優魂。しがない町工場の、くたびれた女房風情。鬼気せまる、それでいて尚、色香を感じさせる凄い女優。近年で、お梅役を彼女以上にこなせる女優は思いあたらない。小川真由美扮する実母の菊代、あそこまで育てた我が子を、ああも簡単に捨てられるのか。お梅にされるだろう酷い仕打ちを考えれば、恐ろしくて二の足踏みそうなもの。何の情も感じさせない、割り切りかたは正に鬼畜。緒形拳は、追い詰められていくダメ亭主ぶりが巧い。しかしあの亭主、愛人に頼みこんでまで産ませた子を…、あそこまできたら他に選択肢はなかったのか?自分が不幸な生立ちなら、長男の辛さを一番理解できるだろうに、結果として、我が子にそれ以上の不幸と苦痛を与えているというのは救いがない。最後の悔恨の涙も子供のためというよりは自分のため、なんて白々しい。子役の配役は悪くなかったが、セリフの棒読みに何度我に返らされたことか 笑。もっと上手い(小利口でなくて)子役を使い、中途半端でなく完全に、父親に対して決別宣言をしてほしかった。父親面するんじゃない!子供舐めるな!血の繋がりくそ食らえ!という表現に徹してくれたら泣けた。(6歳の子供にはちと難しいとは思うが)それにしても後味が悪い映画。末っ子役の男の子、トラウマになってやしないだろうか?それが気になる。(6点だけど、大人役者の演技に+2点。) [DVD(邦画)] 8点(2011-05-26 12:33:44) |
2. 悪魔の手毬唄(1977)
《ネタバレ》 一連のシリーズ観ましたが、やはりマンネリ化は否めない。石坂金田一は全5作品ですが、このくらいが丁度良かったのでしょう。個人的には「犬神家の一族」「獄門島」「病院坂の首縊りの家」「悪魔の手毬唄」「女王蜂」の順。ちなみに金田一の髪はカツラじゃなくて自毛だそうです。石坂浩二は撮影のために10日くらい洗髪しなかったとあるけど、本当かいな。しかし、今回のヒロイン(仁科明子)は出番も少なく影が薄い。「女王蜂」の中井貴恵よりはマシですが。全体評価は5点ですが、岸恵子と若山富三郎に+1点。青池歌名雄の配役に-1点(とても複数の女性に慕われるように見えん)。最後の金田一の質問に対して、磯川警部が聞こえぬふり、金田一を乗せた列車が走り出す、小さくなっていく磯川警部、その手前にさり気なくだが主張するように『駅名』が、つまりそれが答え(偶然か、いや偶然じゃないと思う)。そのエスプリの効いた演出に、大笑いさせてもらったので、+1点!! [DVD(邦画)] 6点(2011-05-26 12:32:19) |
3. 病院坂の首縊りの家
《ネタバレ》 草刈正雄の配役で、他の石坂金田一作品と良い意味での差別化に成功している。草刈の少々無粋で好奇心旺盛な若者キャラを加えることで、他の作品と一線を画している。桜田淳子の一人二役も、思ったより悪くない。原作読んでないので分かりませんが、2時間程度の映画だと流石に強引な展開は否めません。ただ、映像化、一つ間違えば茶番になりかねない横溝ワールドを、老舗の写真館に妖しい女性が登場するところから、物語にグイグイ引き込む力量はさすが市川監督というところ。艶やかな色彩、複雑な家系に纏わる因縁、ジャズバンドなど上手く現代的な要素と絡めつつ日本的映像美(一部不快な描写もありましたが)を楽しめる作品。 [DVD(邦画)] 7点(2011-05-16 22:53:02) |
4. 獄門島(1977)
今のところ石坂金田一は『犬神家』が一番ですが、この作品も中々の出来。映画化された横溝作品を本格と捉えた場合は、毎回余程の好条件が整い、犯人はフットワークが異常に軽い人物でないと物理的に難しいだろうということで低評価になりがち、小説と違いディティールを説明しづらい映像では、尚更それが顕著になる。(特に閉鎖的な孤島を舞台とした限られた人間関係のみの事件では、消去法で自ずと犯人が分かるはずであるから、動機付けが弱く説得力も乏しい)ので、謎解きを楽しむというよりも、日本的耽美な世界を楽しむという位置付けで。今回も豪華女優陣の競演を無条件に楽しみました。それにしても浅野ゆう子が「彼女」だとは、しばらく気付きませんでした。気品溢れる司葉子、安定感のある草笛光子、蓮っ葉な艶っぽさでは並ぶ人のない太地喜和子は今生きていたらどれほど活躍しただろう。坂口良子のキュートさは相変わらずでしたが、なんといっても若き日の大原麗子が抜群に可愛い。 [DVD(邦画)] 7点(2011-05-16 22:48:02) |
5. 本陣殺人事件
《ネタバレ》 意外に評価低いですね。これほど「水車の音」が効果的に使われた映画を知らない。昨今の全ぺん煩いくらいBGMが流れる映画に、半分うんざりしつつ慣れきってしまったせいか新鮮で、この映像にこれ以上の効果音はあり得ないだろうという出来。ひと癖ある登場人物(薄弱な少女、指噛み、チック症)の、根底には同様に内なる狂気が潜んでいると納得させる、さり気ない演出も効果的。石坂金田一と真逆のタイプの硬派な中尾金田一もありかと。この作品には石坂浩二よりも中尾彬の方がマッチしているように思う。ただあのサングラスはいただけない。犯人の動機(設定を現代にしていることで尚)が納得出来ない(役者の演技力で救われている)ことを除けば、個人的に地味だけど後をひくこの横溝作品も好きです。低予算でこれだけの映画が作れるのだから、チープで陳腐な誇大宣伝映画は見習ってほしいと切に願う。 [DVD(邦画)] 8点(2011-05-16 22:46:09)(良:1票) |
6. 犬神家の一族(1976)
「佐清、頭巾をとっておやり!」「佐清、この薄情な人達に仮面をめくっておやり!」幼き頃テレビでこの映画を見て、思わずここで瞬きしながら薄目で観た人も多いのでは。ゴム製のマスクをバリバリバリとめくり上げる様が恐ろしかった。全体的に子供には刺激が強い映画だったが、何せこの場面がトラウマのごとく、その独特な名前の響き『スケキヨ』と共に心の襞にはりついた。今見返しても最高に面白い(厳密にはホラーじゃないですが)和製ホラー。印象的なテーマ曲と相まって日本映画にしか醸し出せない淫靡な雰囲気が何ともいえない。更には俳優達の個性も際立っている。存在感が違う。旧家を舞台に陰惨な、親子代々因縁のとおなじみ横溝正史の小説観が映像として表現されている。そこに飄々とした石坂浩二とコケティッシュな坂口良子の存在が清涼剤のように生きている。生真面目だが早とちりな警官、加藤武の「よし、分かった」はこの作品から。犬神三姉妹を演じたベテラン女優陣はさすがの貫録。特筆すべきは珠世の美貌。魅了されました。邦画もこの当時はすでに斜陽と云われていたらしいですが、やはり時代の空気というかノスタルジーなのか、この頃の邦画は良かったなあ。こういう日本映画今作れといってももう無理じゃないかな。(リメイク版は未見です。機会があれば観るけどイマイチ乗り気じゃない) [CS・衛星(邦画)] 9点(2011-04-28 00:07:25) |
7. ルパン三世(1978)
《ネタバレ》 皆さんもおっしゃる通り、これこそ「ルパン三世」といえる作品。各キャラクターの特長が生かされていて、意味不明なゲストヒロインが皆無なのも良い。惜しむらくは、ありえねーと思うシチュエーションが多々みられる所。例えばパリの街中のオープンカフェで敵がヘリに乗って銃をぶっ放すシーン、ルパン一味は無傷なのに、多くの一般市民が犠牲になっている。ルパン達が全く銃弾にあたらないのは(常套なので)まあいいとして、あんなに市民が犠牲になったらフランス政府が黙っていないし、国際的テロ問題として大変なことになると思うのだが…30分アニメならともかく、映画の場合はそこらへんをキッチリ描いて欲しかった。 良い作品なだけに評価も幾分厳しく...なので-1点。 [DVD(邦画)] 9点(2007-04-19 21:03:48) |