1. 隠し砦の三悪人
とにかく美しい映画。ストーリー面ではやや一般受けしない面があるため、エンターテイメントとしては微妙なものがありますが、カット割りや構図、光の使い方、俳優の動きや表情、馬の描写、自然の描写等、芸術としての完成度が極めて高い作品です。観賞後の感覚は、ストーリーの荒っぽさと対比をなす、一枚の水墨画を観るような静謐さに満ちた乾いた緊張感といった感じで、黒澤監督が作品としての完成度を追求し尽くした傑作の一本だと思います。黒澤映画の中では個人的に最も好きな作品。 [ビデオ(邦画)] 10点(2007-08-18 21:59:09) |
2. トランスフォーマー
《ネタバレ》 迫力ある映像は一見の価値ありなので、映画館に足を運ぶ意義はあるでしょう。ただし、字幕を追っていると映像を堪能できないので、日本語吹替版を選ぶか、もしくは字幕をあまり読まないことをお薦めします(読まなくても大きな問題はない)。ストーリーの方は、敵があまり大暴れせずに映画の終盤近くまで比較的こそこそ動いているのと、主人公があまりピンチに陥らないため、全体的にかなり間延びした仕上りになっています。予告編をイメージしたまま観るとすかし投げを食らうので要注意。一方、テレビシリーズと比べるとはるかに好戦的というか野蛮な内容になっており、テレビシリーズのノリを期待した人にとってはある意味衝撃的かも。とりあえず続編に期待。 [映画館(字幕)] 3点(2007-08-18 21:04:34) |
3. パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
《ネタバレ》 酷評が多い本シリーズですが、2作目と3作目についてはオーシャンズ1xシリーズにも通じる"主人公のいない"物語で、かつやたらと長尺な話になっていて、何というかいわゆる「映画通」な人達のステレオタイプな常識をコケにするのが狙いなのではないかと思えてきます。 登場人物達の一向に一致しない思惑と計算ミスが話をやや混乱気味に展開させていきますが、2組の恋愛の話を明確に意識して話が収斂していく点と、敵と味方がどんどん入れ替わるかなりカーニバル的な展開の中でスパロウ船長が特異点のようにひっかきまわし役になっていることから、明らかに「狙って」作っているように思います。 主人公が存在しない祭り的な物語と海賊話というのは明らかに相性が良く、エンターテイメントの領域で実験を試みるには打ってつけの素材だと言えますし、個人的にはけっこう楽しめました。1作目が普通のダメ映画だったのが何とも惜しまれます。 [映画館(字幕)] 8点(2007-06-17 02:32:20) |
4. めぐりあう時間たち
《ネタバレ》 ヴァージニア・ウルフを知らないと多少わかりにくいところはあるが、非常に完成度が高く、登場人物の思念や情念が強く伝わってくる見応えのある映画だった。 ただ、ローラ・ブラウンの心情がわかるようでよくわからない。簡単にわかるようなら芸術は生まれないわけで、まあ私が単純というだけの話ではあるが、冷静に考えると、何か出来の悪い私小説を読まされているような気にもなってくる。そういう意味では、これを見事な映画に仕上げた監督と役者の方々は素晴らしい仕事をしたと思う。それにしてもメリル・ストリープは圧巻だった。やはり天才です。 [地上波(字幕)] 9点(2007-04-02 02:55:21) |
5. マグノリア
《ネタバレ》 個人的には傑作だと思いますが、生活面でのディテールや登場人物の発想がアメリカ的な特徴を強く(全くハリウッド的でないくらいに強く)帯びているため、やや感情移入しずらい面もちょっとあるかなという気はしました。 アメリカ的ユーモアが生み出した傑作なので、仕方のないことではありますが。 「愛」についてユーモアに満ちた視点で真剣に語る映画、という意味では間違いなく傑作だと思いますが、ストーリーとしては最後に煮詰まったんでしょうかね。各ストーリーが収束に向かいつつも交錯しきれずに「いつこの映画は終わるんだろう?」という疑念がふつふつと湧いた頃にカエルが降ってくると。 文学的に言えばこのアクシデント?はカタルシス(浄化)だと言えなくはないですが、これで登場人物達の苦悩が「浄化」されたというにはちょっと弱いかも(司会者の命は救いましたけどね)。 ということで多少減点ですが、人間にとって価値ある映画だと思うので8点。 ちなみにトム・クルーズの演技は良かったですが、あのキャラで女にモテるという設定はかなり微妙な気が・・。 [DVD(字幕)] 8点(2007-04-02 02:26:11) |
6. ドニー・ダーコ
《ネタバレ》 アメリカSF小説の黄金期(1950年代)近辺の作品を若い頃に読みあさっていた私としては、この映画はかなりハマりました。SF的/哲学的なセリフにしても、「π」のような「難しい単語ってカッコいい」というノリだけの無学丸出し系では決してなく、それなりに我慢できる程度には(SF的に)文脈がまとまってますし、こういう類の変な話が好きな人がハマるつぼをけっこうピンポイントでおさえているのではないでしょうか。まあ、個人的には、銀色のウサギとジェイク・ギレンホールの妙ちくりんな演技と学園ものというだけでかなりツボにはまっていて、あとは正直どうでもいいかも。最後のタイムスリップがちょっと無理矢理すぎて、別になくてもいいかも、と思ったので、1点ひいて9点。 [DVD(字幕)] 9点(2007-02-14 03:15:44) |
7. グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版
観る人を極端に選ぶ映画。テーマがすごく精神の内面に向いたものであり、観る人の性格や人生経験、観るときの精神状態、周囲の状況等が感じ方にかなり影響するはずで、とてもセンシティブな映画ではないかと思います。一見するとイタリア映画特有の荒削りな展開のようでいて、しかし、ラストシーンに向かってストーリーの全てが凝縮していき、最後の瞬間、とてもとても深い虚空に不意に放り出されたような感覚に陥り、それまでのストーリーがすべて夢を見ていたかのように突然意味をなくしてしまう。この作品は、映画というメディアで文学的な表現がどこまで可能かという大きなテーマに正面から答えた傑作の一つだと思います。こんなの計算して作れる作品ではないので、映画製作という共同作業によって生まれたというのはちょっと奇跡に近いかも。 [DVD(字幕)] 10点(2007-02-12 06:15:09)(良:2票) |
8. シベリア超特急
見終って最初に思ったことは「かたせ梨乃がかわいそう・・」。大女優がなぜこんな映画に出てしまったのか?これも水野マジックか?観ている方もとても恥ずかしいのに、本人はさぞや・・。合掌。 [DVD(字幕)] 0点(2007-02-11 17:34:19) |
9. ピーター・グリーナウェイの枕草子
グリーナウェイ監督の作品が好き&見慣れている人にとっては、この映画はわりと普通に観られるかも。そうでなければかなりキツいかも。この作品は映画としてではなく「動く現代美術」として観ないといけません(要は映画になってない)。個人的な感想としては、いつもクールなグリーナウェイが、本作では燃えるような情愛を描いていて、やや観念的で単純すぎるきらいはありますが、息苦しくなるほどの情念を描くことにけっこう成功していると思います。個人的には傑作だと思ってますが、他人にお薦めできる気はしないので6点。 [ビデオ(字幕)] 6点(2007-02-11 17:07:34) |
10. ヴェラ・ドレイク
《ネタバレ》 ラストだけ見れば倫理的に判断の難しい問題に取り組んだ社会派映画ということになりますが、途中までは家族ドラマとして十分見応えがあったので、そのままドラマで終わってくれれば、と、個人的にはちょっとだけ残念。ただ、この映画への私の評価はイメルダ・スタウントンの素晴らしい演技に与えるものであり、話の内容はもうなんでも良いかも。レビューとは関係ないですが、私の亡くなった祖母に表情がどことなく似ており、ちょっと泣いてしまいました。 [DVD(字幕)] 8点(2007-02-11 06:35:45) |
11. レストラン
《ネタバレ》 公開時に観てから久しぶりに観直しました。小粒ですがたまに観たくなる佳作です。脚本家と監督が(当時)新鋭というか駆け出しで、"プロを目指す若者達の青春群像"という内容が自分達と重なるせいか、細部の演出やセリフが思いのほか生き生きしてます。脚本にも舞台にもニューヨークの雰囲気がよく出ていて、ハリウッドが嫌いという人にはちょっとお薦めです。 ただ、人種差別の問題がかなり深くテーマに組み込まれていて、途中まで恋愛映画だと思って観ていると意外な結末にかなり戸惑うかも。このへんは脚本家が商業的に徹しきれなかったんでしょうか。まあそれはそれでこの映画の魅力ではあるわけですが。 [DVD(字幕)] 7点(2007-02-11 06:16:17) |
12. マンハッタンで抱きしめて
《ネタバレ》 個人的には非常に好きな映画。ストーリーも結末もとりとめがないため、「映画」としての完成度はどうかと思うが、内容的には文学作品に限りなく近いため、その点は仕方がないと思う。 一方、文学小説(特に中篇)を読みなれた人ならほとんど違和感なく観賞できるのではないだろうか。 一人の女性の心が救われるまでの話、といった内容で、ストーリーを強制されられることもなく、瞬間瞬間の気持ちの動きに身を委ねるだけでよい映画なので、個人的には、精神的に疲れたときに観るとたいへん癒される映画である。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2007-01-06 13:40:16) |
13. アイランド(2005)
このタイプのSF映画はすべからく中途半端な娯楽映画と割り切っている私としては、いい意味で予想を裏切ってくれる映画でした。 展開がすぐに読めてしまうのはこの手の映画ではお約束なので、それはまあ良しとするしかないですが、SF的なお約束ディテールもしっかり入ってますし、映画が大詰めに入ってからの展開が意外に速いテンポで、しかもなぜか延々と続くため、見応え感はかなりあります。 中篇程度の内容を力技でむりやり大作にしたような作品なのですが、けっこう成功しているのではないでしょうか。 家族と一緒に見た後に「・・ちょっとしょぼかったね」と言い訳せずに済む、よくできた映画ではないかと思います。 [DVD(字幕)] 8点(2007-01-06 12:50:52)(良:1票) |