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1.  EMMA/エマ(1988)
上流階級と下層階級のふれあい。いささか図式的なところもあるが、童話と思えばいいでしょ。いいとこのお嬢さんが狂言誘拐を企む話。ブルジョワのお母さんの描き方が、ちょっとつまんない。下層階級のほうでもスエーデン人に対するイジメがある。バケツを天井にモップで押し支えさせられてるの。全体淡泊で、もう少し脇役が事件をかき回しても良かった。身代金を地下水道から取るあたりが面白い。小生意気だったブルジョワ娘が、ラストでしおらしくなってるところがミソ。メルテが来ても目を上げないで下を向いたままテーブルを回って抱きつくの。『トトロ』でメイが姉ちゃんに学校に会いに来たとこみたいな感じ。心優しい人を、安易に変わり者としてちょっと足りない感じで描くのも芸がない。町の広さがよく分からなかった。
[映画館(字幕)] 6点(2014-03-09 09:30:01)
2.  オペラ座の怪人(1989) 《ネタバレ》 
ホラーと割り切ってる。エルム街のフレディ君。皮膚へのこだわり。常に新鮮な皮膚をほしがってる。でも皮むきや首がゴロンより、楽譜から血がワッと湧き出るようなのをもっとやってほしかった。なんと言いますか、コクがないんですね。ホラーにもなんとなくルールがあって、たとえばあのネズミ捕りの老人は殺しちゃいけない人だった気がする。あるいはスターのプリマ。後半急に殺されてスープにされると、なんか物語の流れとしてヘン。本当に邪魔ならもっと早くに殺しちゃってりゃいいと思う。殺しがテンテンとあるだけで、作品としての流れを作ってくれない。怪人がクリスティーヌと呼びながら売春婦を買うのも、違うんじゃないかと思った。この倒錯男にふさわしくない。ヒロインは純粋な音楽そのものなんだから、そんなこと考えてもいけないじゃないか。
[映画館(字幕)] 5点(2014-02-21 12:34:04)
3.  プランサー 《ネタバレ》 
トナカイと少女の心の交流もの。傷を負って倒れていたトナカイを、家に連れ帰ってクリスマスまで養生しようとするけなげ。主人公がそういう夢見がちの少女なのに対して、そういうのを「困ったものね」と見守っているような役割りの友人がいいの。決してこまっしゃくれているのではなく、包み込むように存在している。こういうので泣かされるのは「意地悪と思っていた人が親切になる」パターンで、アルバイトをすると「よくやってくれたから」と5ドルに10ドルを加えてくれる。あと「動物の恩返しもの」パターンにも泣かされるが、こういうので一番やられちゃうのが「主人公が失意でいると外で町の人たちがクリスマスソングを歌いだす」っての。とにかくみんなが集まって祝福しだすともうダメ。ウルウル。肉屋に売ると言っていたパパも、トナカイのプランサーを見せる。メデタシメデタシ。少女の夢は肯定されなければならず、現実に勝たねばならない。クリスマスには清らかな気持ちが勝たなくてはならない。
[映画館(字幕)] 7点(2014-02-17 09:40:32)
4.  ローズヒルの女 《ネタバレ》 
この監督作品は芸術路線のようでいて社会派の面もあり、その融合がちょっとギクシャクに感じることが多かったんだけど、これはなんかすんなり入っていけた。見知らぬ町でさすらうってとこは同じなんだけど。霧・道・車。けっこう複雑な、それでいて滑らかな動きをするカメラ。昔はレナート・ベルタだったが、今回は違う人(ユーグ・リフェルって人)。すると同じように動いたカメラは監督の指示なのか。登場する人はみんな傷つくの。年いった農夫、嫁不足の孤独を共感しあえるはずだったのに、うまくいかない。母も息子の不幸を目撃させられ続ける。若者の伯母も疎外を共感しあえるはずだった。父は息子を失ってしまい、息子は死んでしまう。そしておそらくこの村では、あんな黒人女が来なければ良かったんだ、とささやかれることになるだろう。みんなして不幸へ不幸へと傾いていく。「社会派映画」と限定して見られることは監督は不満だろうが、人々のささやかな夢が潰れていく過程を記録する姿勢には、社会派の視線がある。これから「魔女狩り」の誕生まで、ほんの一歩なのじゃないか。
[映画館(字幕)] 8点(2014-02-10 09:48:52)
5.  ヤング・アインシュタイン
監督・主演がヤッホー・シリアスという冗談みたいな名前のやつで、冒頭にシリアス・フィルムと出る。もしかするとここが一番笑えたか。科学者コメディで、けっきょくアインシュタインの名前におんぶしただけの笑い。あの科学者の権威を俗なものにすりかえた笑いで、相対性理論の公式とビールの泡との取り合わせ、難しそうな深遠なものと身近なものとの取り合わせに終始し、こういうアインシュタインの権威に寄りかかった姿勢って非アインシュタイン的・非独創的なんじゃないか。発想をもっと根本的に変えようと工夫すれば膨らませられそうな設定だったのに惜しい。キュリー以外にも歴史上の科学者をもう2、3人出してもよかった。
[映画館(字幕)] 5点(2014-02-08 09:26:43)
6.  ミュージックボックス 《ネタバレ》 
だんだん正体を現わしてくる怖さは、この監督お得意の世界。国家の狂気とか権力の狂気を、アーミン・ミューラー=スタールのお父さんからじわじわと滲み出させる。父が絶対犯せるようなものでない犯罪の数々、しかし誰かが確実に行なった残虐行為、証人が次々に「この男です」と父を指差す裁判の場が緊迫。身近な人が得体の知れぬ者になっていく怖さ。裏返せば、こんないいお父さんでも、そんなこと出来る人間なんだ、という怖さでもある。父の笑顔と残虐行為が重なるミュージックボックスのシーンはゾッとする。ただファシストの残虐行為を告発するだけじゃなくて、じゃあそういうことやった人間はどういう人間だったのか、その罪はどこまでその個人が負うべきなのか、ってとこまで問題を拡げてるのが偉い。
[映画館(字幕)] 8点(2014-01-21 09:38:43)
7.  バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2
本作は未来篇ということになっているが、実質上のお楽しみは後半のダンスパーティで、一作目のややこしいパーティにさらにもう一本ストーリーを絡めたギュウ詰めのおかしさがたまらない。私はここが本シリーズで一番楽しんだところ。両親の若かりしころを現代の息子が眺めるというパーティだったのを、さらにもう一つの視点から見ていくその視線の絡まり具合がハンパでない。父がビフを車で殴りだしているのをマーティが窓越しに目撃する、とか(だからこれは1の記憶がまだしっかりしているうちに見るのが正しく、公開時もひとつピンと来なかったのは仕方がない)。時間と空間を飛び回っているようでいて、同一場所・同一家族(先祖・子孫)・同一脇メンバー、からはみ出さない「一座の芝居」という決まりを守っているのも良い。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2014-01-11 09:39:54)(良:2票)
8.  バック・トゥ・ザ・フューチャー
笑いの中心は85年と55年の時代差によるもので、スラングの変遷なんかはアメリカ人ほどストレートに笑えないのがもどかしい。救命胴衣とかレーガンならOKだが。現代と過去とで同じモチーフが繰り返されることの面白さは(主に両親に関して)生きている。叔父さんが檻に入っているところまで。そういう言葉で説明できる笑いを軸に、ぐんぐん押していったコメディだ。その「ぐんぐん」のリズム感のよさが、20世紀末の明るさだろう。母親が恋心を抱いてしまい慌てる面白さは、ちょっと間違うと粘ついてしまいかねない微妙な危うさを含んでいるのに、こういうところをきれいにクリアできるのがアメリカ映画の良さ。つまりそれを承知で笑いの種に出来るのが、アメリカだと言い換えてもいい。最後に天気が崩れてきてクライマックスへ盛り上げていくうまさも、(これはあの時代に限らないが)アメリカが一番得意としている気がする。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2014-01-10 10:14:45)
9.  ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス
子どもに夢を与えるはずの人形劇で、どこまでえげつなくできるか、その相性の悪さを楽しんでいる映画。コマ撮りじゃなくて指人形やぬいぐるみの形。だからセットの外に出てる全身のシーンになると(たとえばゴルフ場とか)しらけてしまう。マスコミの銀バエがうんこをむしゃむしゃ食べてるとこが一番えげつなかったか。あとウサギのステージでの嘔吐なんてのもあった。蝿がトイレの水タンクの中で想像してんのは面白かった。狐のソドミーのうた。ベトナムもの映画のパロディ。えげつなさを楽しんでる映画ではあるが、えげつなさの拠って来たる所以とかいったものには興味を示さない。そういうものを究明する映画ではないが、それにしてもなぜ私たちは「えげつないもの」を顔をしかめつつも好きなんだろう。監督のなかから本作や『ブレイン・デッド』の要素が消えてしまうのは惜しい気がする。
[映画館(字幕)] 6点(2014-01-04 09:48:48)
10.  アタメ
オレンジとブルーのへんてこりんな色の組み合わされる世界。そのようにへんてこりんに進んでハッピーエンドになるってのがすごい。『コレクター』のように主人公の不気味さを見せ付けるのではなく、作者は主人公の夢を完成させてやるの。ヒロインの恐怖には関心がなく、主人公の愛の情熱に加担していく。彼の夢は「家庭を作りたい」が第一で、「女がほしい」じゃないんだよね。良き父親になりたいの。処方箋を書いてもらうとこで、子どもをあやしたりする。彼、孤独なんだけど「おれは孤独なんだっ」ってたぐいの自己憐憫がまったく感じられない。「おれは今一人だ、だから家庭を作ろう、そうだ、あの女優がいい」と論理的に・しかしあくまで一次方程式の単純さでつながっていく。縛らなくたっていいとおもうんだけど、情熱を表現したいのかな。歩く人の中をツーッと滑っていく人がいる、あの奇妙な感じ、けっこうこの監督のタッチと合っている。姉の歌とバックコーラスもいい。「この主人公、愛することに不器用で」ってんじゃなく、「愛ってこういうもんでしょ」と作者は確信しているみたい。困ったものである。
[映画館(字幕)] 7点(2013-12-14 09:59:24)
11.  尋問
スターリン主義下のポーランドの話。だらしなかった女が尋問で鍛えられて英雄になっていくってのが本筋。「英雄ってのは思想があるもんなんだぞ」ってのに対抗して、「誰をも裏切るまい、嘘はつくまい」ということを足がかりにして、思想のない英雄になっていく。彼女も立派だが、私はこの尋問者のほうが面白かった。社会主義の理想に燃えてるんです。はっきりとは語られてないけど、本人か身内かがナチにひどい目にあわされているらしい。だから本気で西側に負けないような清潔な社会主義国家を建設したいと思ってるんだな。だからこういう自堕落な女が許せないんだ。二人とも卑屈さがないの。それでそのガチンコ衝突が見ものなわけ。同室の眼鏡の女も怖かったなあ。理不尽な理由で入れられてるんだけど、国を建設する厳しい時代には犠牲も必要なんだと割り切ってる共産党員。いそうな気がする。ただこんな厄介な人物はもっとあっさり処分されちゃうんじゃないか、って気もしたが。 監督リシャルト・ブガイスキ。
[映画館(字幕)] 7点(2013-10-25 10:22:02)
12.  王と鳥
かんじんのやぶにらみの暴君は、けっこう最初のほうでいなくなってしまう。いろんな象徴がありましょう。扇動者としての鳥も、クリアな善のイメージだけではない。時報を告げる犀ってのは、どこから来るイメージなんだろう。もしかしてフランス語なりフランスの諺なりだけで分かるシャレかなんかなのか。アニメっていうと最近はとかくスピード感を出せるのを得意とする世界となっているが、これはゆったり動いてて、いい。落とし穴を避けようとピョンピョンするあたりのスピード感がそれで生きる。巨人の胸で奏される結婚行進曲のグロテスクなアレンジ。下層市街の冥府のような感じ。解放される猛獣たち、人の解放の喜びはそれほど強調されない。
[DVD(字幕)] 7点(2013-09-27 09:25:15)
13.  ジプシーのとき
シュールリアリズムって、欧米の「正統」文化史観からだと「こういうのもありました」と傍系的に見られるけど、もっと広く捉えるとスペインあり南米ありこの東欧ありと、もしかしてそっちのほうが主流なんじゃないか。ごく自然に超能力が描かれる。空缶移動、壁を這い回るスプーン、七面鳥。あの七面鳥が死んでこの一家に不幸がやってくる。主人公も悪の道に入って行っちゃう。盗みに入った家で思わずピアノを弾いてしまうエピソード。空中浮遊もよく出てきたが、あれいい。雨の野を駆け出していくお父さん、合唱が入るところで“まいった”と思いました。民族の力、いうか。ジプシーってなんか遠く離れた東洋の我々にはロマンチックな雰囲気があるが、ヨーロッパ人にとっては、魔法を使う犯罪者のイメージがあるよう。古い推理小説ではよくそんな扱われ方をしてたし、だいたい差別用語になっちゃって、今はロマって言わないといけないんでしょ。ジプシーの扱われた歴史は、たぶんユダヤ人とともにヨーロッパを考えるとき大事なんだろう。主人公の顔が良く、ちょっと頼りなげで、組織の中にいればひょうきんな人気者だけど、外に出るとグレちゃいそうな弱さがある。そこらへんに実感があった。/このころユーゴの映画がよく公開されてて『アーティフィシャル・パラダイス/カルポ・ゴディナ監督』ってのもあった。フリッツ・ラングの東欧での青春時代を描くの。20世紀初頭の演劇や詩やカメラに漬かっていたある階級の雰囲気と、その崩壊の予感が味わい。ラング作品のネタ探し的楽しみもあった。
[映画館(字幕)] 8点(2013-09-17 10:06:19)
14.  生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言
カバーかけたまま走り出す車のイキのよさで乗せ、次第に原発に集中していく。原発ジプシーと呼ばれるワタリの労働者の問題。30年前の映画だ。今も現場で働く人たちがマスコミに登場してこない気味悪さが続いている(欧米だったら英雄視されるだろう事故始末をしている彼らが、日本では顔が映るとモザイクがかかったりする)。廃液漏れなんてまさに今直面してるわけだ。飲み屋でビール瓶をボーボー吹くので彼らの不安が伝わる。浜での宴会で、今まで出会った人の名前を並べ立てる声が、呪文のような効果を出す。あれは題名になっている党の党員名簿でもあるのか。なら政治的な映画かというと、原田芳雄が白いのかぶっていれば、宗教的な気配が漂う。天気雨ってのも宗教的だし。「弱いものは助け合うべきだが、その弱さゆえに仲間を裏切ってしまうこともある、でもその疚しさを持続させれば、いつか弱いもの同士の連帯が可能なのではないか」といったメッセージが浮かぶが、これは政治的なのか宗教的なのか。甘いと言われればそうだが、その切実さが迫ってくるので、つい「あふれる情熱、みなぎる若さ」と叫んでしまうのであった。
[映画館(邦画)] 8点(2013-09-10 10:00:18)
15.  サブウェイ 《ネタバレ》 
地下鉄網は、フランス人にとってヴィクトル・ユゴーの時代の地下水道とつながっているようだ。さらにはナチに占拠されていた時代のレジスタンス運動とかも考えると、自由とか抵抗の足場として地下がごく自然にイメージされている。もう民族的イメージと言ってもいい。東京も勝手にどんどんいろんな地下鉄が掘り進められ、魔窟のように広がってこんがらがり、本作のような自由な隙間がどこかに生まれていそうな気分があって、けっこう地下鉄好き。初めての連絡通路を歩いていると、思わぬ場所に出てしまいそうな期待を感じることがある。そういう地下鉄ロマンってのはよく分かり、そこには納得した。ただ映画としては「洒落てるでしょ」感がちょっと鼻についた。死に至るロマンスってのが本当に好きな国だとは思うが、命を張った果てがロックバンドの演奏ってのは、かつての革命の歴史を思うといささか寂しい。今はそういう時代なんだと正直に認めているわけか。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2013-09-09 09:06:45)
16.  インド夜想曲
『マリエンバート』などの線、ヌーボーロマンって言うの? 何が真実か分からず途方に暮れるってのが芸術になる。各国語が交わされる。英仏独印ポルトガル。その迷宮感。舞台がインドで、行方不明になるにはうってつけの国だ。静けさが続いて主人公はぼそぼそとつぶやく。ゆっくりゆっくりネジを巻いていく緊張感。病院のゆっくり回る扇風機。山積みのカルテ。なんか『黒いオルフェ』にこんな雰囲気なかったっけ。バスの待合わせの占いのあたりから、ミステリアスな雰囲気が高まってくる。あなたはここにいない、というお告げ。そしてラストへ向けてだんだん「彼」の気配が濃くなっていくあたりが見どころと言えば見どころ。そして語りの中で彼と僕とが逆転し…。たしかにこういう物語の枠組みの中で、ある種の洗練を続けた作品ではありましょう。でもこういう世界に対する切実さがこっちにあんまりないもんだから、こういう「上品な洗練」をもっとナマのインドとぶつけたほうが面白いんじゃないか、と思ってしまうほうの人間なんで、やや猫に小判。ナマのインドから逃げて小さな世界に閉じてしまったもったいなさのほうが来てしまう。ちょっと面白かった発見は、インドって中世ヨーロッパが残ってるってことか。シューベルトの五重奏がいい感じなのは、やっぱり下地はヨーロッパなんだよな。
[映画館(字幕)] 6点(2013-09-08 09:34:37)
17.  チ・ン・ピ・ラ(1984)
ラストの白服の船長さんの嘘っぽさ・いかにも取ってつけた感じが柴田君の幻影のようでもあって、それほどキズとは思えない(寺山修司の映画によく出てくる海軍軍人を連想したので、より幻想っぽく思ったのか)。三十男の焦りという中心テーマの侘しさがいい。じゃれ合うチンピラのままでいたいけど、やくざの成熟社会(親分子分のキッチリした関係)に追い詰められてもいるわけで、ヤーさんの“制服”への嫌悪感もある。で、すぐデパートの屋上へ行ってしまう。アマチュアなんだな、もうしばらくアマチュアで居続けたい。親分と一緒にメロンに手が伸びちゃうなんてスケッチもよかったな。サインペンで刺青に色を入れる、これがラストで生きてくるんだ。
[映画館(邦画)] 7点(2013-09-05 13:29:18)
18.  国東物語
この監督さんは、人が宗教感情を持つ瞬間てのに興味を持ってる人で、日本では貴重。菊池武治が修行をするあたりからが本題。びょうびょうとした感じがいい。シャリーンシャリーンという音が響く。人が土と一緒に生きてる仏教はひたすら歩く。それに対して大友宗麟のキリスト教は「父と子のように愛し合える国」を念じ始める。この対立をこそ描くべきだったろうが、うまくぶつからなかったような。後者の排他性が前者を潰していってしまう。もっともその後のキリスト教弾圧を私たちは知ってしまっているので、受け止めは複雑になる。この国には今さら「愛」という概念はいらないんじゃないか、ってのはもっと突っ込んで面白くなれそうなところだった。前半の父と子が疑い合っている状況が、キリスト教の教義「父と子と精霊と」と皮肉に照らし合わされる仕掛け。中央に人がこちら向きに座っている構図が好きで安定感がある。夜討ちを掛けるときのお面の効果などよいが、音楽が甘すぎた。合戦シーンには低予算映画の哀しみがしみじみと満ちている。
[映画館(邦画)] 6点(2013-09-03 09:30:23)
19.  伽倻子のために
グイグイ横向きに力が加わる作品ではなく、静かにゆっくり沈澱していく下向きの力がかかった映画。物語を語るというより、主人公の記憶があちこちから湧いてくる感じ。さして重要ではないかもしれない幼稚園のバザーのシーンも、記憶を通過した懐かしさがあるのでキラリと光る。地べたに置かれたものの影、不意に鳴り響くオルガン。そして水漏れ調査のシーン。静けさと響きと。ずっと向こうの道が左手に折れてるあたりの板塀がテラッと光ってる。行く末は明るいなんて象徴じゃなく、どちらかと言うと侘しさがあって、暗闇に置かれた金屏風のよう。あれが利いてて、なんとも切ない。全体に白くなろう白くなろうという意志が感じられ、タイトルからそうだった。記憶がなかった時間を懐かしんでいるのか、憧れているのか。白い霧、白い朝鮮服。この白の反対がドローンとした夕陽。別に朝鮮と日本じゃないけど。
[映画館(邦画)] 7点(2013-09-01 09:18:23)
20.  秋のミルク
ドイツ版「おしん」。でもドイツは厳しい。旦那の叔母さんてのが憎々しいいじめ役で、この人ラスト近くで「ごくろうさんだったね」という一言があって和解する感動の一幕が来るぞ、と思ってたら、なかった。旦那に追い出されて終わり。グリムに出てくる悪いおばあさんだった。ヒロインがだんだんたくましくなっていく物語。母の死を回想し、これからはお前が母親だ、という言葉を思い起こすと奮起する。ナチの高官にも食ってかかる。政治的反感ではなく、生活レベルでの・自分の人生を良くしようとする態度。これは強い。ナチズム下の一般大衆の描写。外に高官が来てみんなが敬礼しているときに主人公がケーキなんか食べてると、店のおばさんが非難がましくヒットラーの演説流してるラジオの音量を上げる。ドイツ農家の暮らしってのが分かって、男や老人が威張ってるのは日本「おしん」と似てる。カッコーワルツのひなびた味わい。ちょっと愚痴っぽかったけど、愚痴のない庶民の暮らしなんて古今東西なかっただろう。
[映画館(字幕)] 6点(2013-08-28 09:33:39)
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