1. デリカテッセン
《ネタバレ》 悪趣味、悪夢、悪食、のアートな絵巻。細部まで徹底している。ダークな色調に閉塞感(縦方向しかない)。カニバリズムのタブーの戦慄があるが、死の意味の軽薄化と変人のオンパレードで喜劇を演出している。そして、水のイメージで不快な湿気感も与えている。どこまでもが、作った側のセンス。見る者はそれを楽しめるかどうか、だ。一度でも、自分なりに悪夢の意味を考えて、それを空想でも実際でもいいが、イメージしてみたことがある人は、そして、自分の想像力の無さに失望した人なら、この監督を天才と評価すると思う。 [DVD(字幕)] 8点(2012-06-02 17:02:39) |
2. 運動靴と赤い金魚
《ネタバレ》 金魚こそ、祝福の、激励の、そして、今度来る新しい靴の象徴。足にキスするのは、良き未来があることを述べ、痛む足をケアし「よくやった」と伝え、靴くるからね、と足をつついている。悲しみの象徴で終わる映画は山ほどあるが、幸福の象徴で終わるのはそうない。子供の時って、本当に純真で、どうでもいいことで、津波が来る位の心配をして、言いたいことも言えず、悔しいけどがまんしたりして……この感覚を持ったことがない人、おそらく裕福な家でお育ちの方でしょうが、この映画は何にも分からないでしょうね。主演の二人の子供がかわいいという意見が多いですが、なんてことはない、そこには自分の小さな頃の顔が鏡のように映っていただけですよ。 [DVD(字幕)] 9点(2010-12-27 21:38:52) |
3. 桜桃の味
《ネタバレ》 おじさんが道を教える。荒れ地の道と人生の道と。見ている方はその二つの意味にああそうだなとか単純に思う。そう世の中には美しいものがあるから生きるんだよね、とそんな映画だと思わせる。最後の月とか雷とか、そんなこと言ってるんだろうとか感じさせる。ところがどっこい、最後には、「なーんちゃって、たかだか映画、ちょっとシリアスに考えた、はははは」という、すっごい肩すかしが待っている。あれっと、思いつつも、でも、やっぱりおじさんの桜桃の味の話をみんなに聞かせたいんだと思う。そう、真面目すぎたこと言ったもんで、照れてるんですよ、監督は。 [ビデオ(字幕)] 8点(2009-04-07 22:29:06) |
4. HANA-BI
《ネタバレ》 子供を失った悲しみ、これが映画の底流にあって、その胸を裂くような辛さを感じなければ、この映画の味わいは分からない。あとの不幸は、追加。花火を見上げる親子の絵、絵自体がいかにも子供のお絵かき、マンションにとめてあった三輪車、それを片付ける元刑事、しかし、小さな子供の靴はちらっと見るだけ。お寺の鐘に来た子供、元刑事は妻が思い出して辛い思いをするのだろうなとわざとオチャラケて鐘を鳴らす。最後の凧揚げの女の子は、二人が本当に見たかった光景。元刑事も傷ついてはいるが、妻の方は絶望している。その絶望を埋めるべく、静かに(妻がいないところで)荒れ狂い、妻に優しくする夫。夫の心を知っている妻。だから、「ありがとう、ごめんね」と言う。私達は二人の愛の形を静かに味わうしかない [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2009-04-05 12:03:56)(良:2票) |
5. 初恋のきた道
《ネタバレ》 「もうお父さんと会えないんだよ」と老婆が泣きながら言う。この単純な言葉に心を動かされなければ、退屈な映画かもしれない。老いた後、そんな言葉言ってみたい、言われてみたい……だから、この映画はお伽噺、恋のお伽噺、きれいな絵がついたお伽噺。話を盛り上げるドラマはほとんどなし。ただ、人を思う恋心があるだけ。そんな単純じゃないよと言う現実的な方もおられましょうが、だから、お伽噺と言うのです。一方、途中から主人公が涙したら、涙し、嬉しかったら嬉しく思うくらい感情移入した方も多いはず。私もそう。「初恋のきた道」っていい題だなぁ、あの村への道のことかもしれないけど、でも、道の終わりに「もうお父さんと会えないんだよ」と悲しむ、悲しむことができる人生を指しているんだろうなぁとか思っている。 [DVD(字幕)] 8点(2009-04-04 18:19:19) |
6. ヒート
《ネタバレ》 この映画の良さはみなさんが書いてある通り、主人公を始め、登場人物の公私それぞれの苦闘苦悶を、渋く描いたところでしょう。それよりも、気になったのがゴッドファーザー2でも主役を張った二人はこの英語で共演とはいえ、同じ撮影の場に立ち会わなかったのではないか、というのが気になって気になって。コーヒーショップのシーンもどうにもパッチワーク、ラストもどうにも後ろ姿が代役……なんだか、大物二人の関係の緊迫感を感じて、こっちのつばぜり合いの方が、ヒート!だと思いました。、 [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2009-01-25 11:58:15) |
7. ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ
《ネタバレ》 笑った、笑った。それに、何だかいろんな映画を連想しちゃった。冒頭は「フーテンの寅さん」? いかさまの映画かと「スティング」? 音楽と映像とブリティッシュが「トレインスポッティング」? 軽口叩くギャングといろんな人間がでてくるのが「パルプフィクション」? このタランティーノ繋がりで双方全滅は「トルゥー・ロマンス」? そのオルゴールの音楽は「続夕陽のガンマン」の決闘シーン、んんん、三角決闘へのオマージュ? その親子二人は「子連れ狼」? 四人組は「ロード・オブ・ザ・リング」やビートルズ以来イギリスの伝統?それに、新喜劇のポコポコヘッドのおじさん、顔も声も似てるんだ!とまぁ、あれやこれやを考えてしまいました。 [DVD(字幕)] 8点(2008-03-16 22:49:00) |
8. L.A.コンフィデンシャル
映画の一ジャンル、ノワールもの。「チャイナタウン」もそうだけど、この時代の、ファッションとか音楽とか車とか、きらびやかな都会とか、悪と暴力と正義と美女のノワール映画はマッチする。人間の欲望、資本主義的な欲望を見せてくれる。ジェームズ・エルロイ原作でしょ、もう、人間の根元の所で藻掻く、悪とか正義とか、そんな二元論なんか蹂躙するような、人間劇は当然と思って見なきゃ。でも、映画だから、その上、人間の善を信じているような、ハリウッド的な部分も絶妙なバランスで加わり、展開している。脚本を練って練って練り上げたんだろうな。全てのシーンに、映画自体の持つ華やかさがあるが、同時に、人間欲望のドロドロした部分を裏に感じさせるという(見る者はエルロイを知っていることが前提なのだが)、二層構造を楽しむ映画とも言えます。エルロイを知らない人は二回ご覧になってくださいね。 [DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2008-02-28 22:36:29) |
9. イル・ポスティーノ
《ネタバレ》 自然と歴史。人間の力が抗い用もないこの二つに、小さな人間は時には従順に時には抵抗し、生きる。海の綺麗な漁村、共産主義運動の高まり……二人の交流は言葉であった。郵便配達人は言葉が書いてある手紙を運ぶ。詩人は詩という言葉を配達人に教える。貧富名声地位国籍を越えた、一つの魂と一つの魂の交流。海と空は二人には何も語らず、むしろ、二人がそこに何かを見つける。時代が二人を引き寄せ、二人を離す。最後、時代は彼を死に追いやる。残された者はその思い出をその変わらぬ風景の中懐かしむ……フェリーニの「道」もそうだが、途中経過を飛ばしたいきなりの主人公の死、イタリア映画は時に反則だ。見る者の眼から涙を絞り取る。 [DVD(字幕)] 8点(2008-02-11 14:25:56) |
10. 恋する惑星
《ネタバレ》 自分中心の、それ故に孤独な感じが、良く出ています。それぞれが、風変わりな感じな生き方になる。それを、黄色の強い画面で、少し、古びた写真的な色合い、斜めに切り取る構図、ぶれる画面、そして、音楽、それにそれに、香港の町の猥雑なモダン……で味付ける。そして、それは、なんか、頑張って生きている若者なんだなぁ。背の高い女の子の、繊細で複雑な心が、良く出てました。アメリみたいだったけど……アメリの監督、さては、この香港映画を見たな、とか思いました。 [DVD(字幕)] 8点(2008-01-17 22:57:54) |
11. アメリカン・ヒストリーX
《ネタバレ》 結構なもんでした。私は「人種問題」の映画というよりも「後悔」の映画だなぁ、と思いました。「後悔」というプロットが先にあって、その後に「人種問題」というのが乗っかった印象がありました。それは、「人種問題」への切り込み方が少しステレオタイプからかな、と。たぶん、差別される側の映画はあったけど、その逆はなかったから、それでいこうか、という意気込みでしょうが、やはり差別する側。やや甘い。そこを「後悔」というプロットで包み込ませて、いいドラマの感じにしているという………観賞後、なんかこんな映画あったよなぁと考えてました。ずっと、考えて、あ、イージーライダーだと思ったのです。同じ「後悔」から「悲劇」へのパターンの映画ですね。 [DVD(字幕)] 8点(2008-01-15 21:15:54) |