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1.  エベレスト 若きクライマーの挑戦<TVM> 《ネタバレ》 
1982年、カナダ人初のエベレスト登頂を描いた作品。 標高などの情報は出るものの、日付や今いる場所がエベレストのどこなのか明示されないので、登山の行程の全体像が見えない。サウスコルやヒラリーステップくらい誰でも知ってるだろうと高をくくっているのだろうか。ふざけたり、いがみあったりする場面が目立つ。全体として緊張感に欠け、国の期待を担い、命がけで登山に挑戦しているように見えないのだ。実際、その時点でエベレスト登頂は珍しいものでなくなっている。カナダ人初という意外、記録的価値は少ないのだ。標高7000m辺りで素手で金属の梯子を掴んだり、笑いながら走る場面があり、首を傾げた。人物像の性格付けが通り一遍でしかないので、感動が無く、自然に対する畏怖や恐怖も伝わってこなかった。足元の氷が陥没する場面の特撮はよく出来ていたが、雪崩の場面はお粗末だった。ローリーは負傷して町に降り、医者から肋骨を三本骨折しているので登山は無理といわれるが、登山訓練中に死んだ親友の恋人に登山を懇願される。それでローリーは隊長の命令を無視して強行登山するのだが、これは展開が無茶すぎる。それに、すぐにアタック隊に合流してしまうのだから、安直すぎる。もう少し現実味のある劇にしてほしい。それやこれらが理由で、彼らが登山に成功しても感動はない。それに、四人もの死者を出したのだから、成功といえないのではないだろうか。この映画はドラマを編集したものだ。編集に問題があるのだと思う。
[DVD(字幕)] 5点(2015-02-08 02:30:08)
2.  第9地区 《ネタバレ》 
異星人についての考察。宇宙船が動かないのは燃料不足だろう。栄養不良に陥っていたことも考慮すれば、何らかの事故が発生したと考えるのが妥当だ。地球まで1年半の旅程。地球に来たのは偶然で、漂着した可能性がある。蟻などの社会性昆虫に似た生態で、知的で命令を下す管理層と命令通りに動く労働層に分かれている。管理層の生き残りはクリストファー(C)のみ。彼は司令船を土中に隠し、密かに液体燃料を集め、帰還の日を待望している。労働層は知能が低く、暴力的で、社会生活に順応しない。しかし、武器に関する知識は豊富で、様々な武器を作りだす。武器は使用せず、専ら猫缶と交換する。異星人は、戦争や暴力を日常的に行っている交戦的な文明と思われる。命令がないので人間に攻撃しないのだろう。搭乗人員が非常に多いことから移住が目的か、あるいは文明を持つ惑星を支配下におきに来た可能性もある。繁殖力は高く、180万人もいる。難民認定され一応保護されているが、居住地はスラム化し、人間のギャングに搾取されている。 不注意によって液体燃料を浴びたヴィカス(V)は徐々に異星人に変態していく。液体は、遺伝子に作用を及ぼしているので、明らかに生物由来のものだ。異星人の本来の姿は別で、液体燃料で変態しているのかもしれない。CがVを宇宙船に戻れば元の姿に戻せると言うのだから、その可能性はある。 Cは人間に似た感情を持っていて、実験にされた仲間を見て「仲間を実験材料にしない。惑星に帰り助けを呼ぶ」と決断している。3年後には全員を助け出すのだろう。 Vは、温顔で物腰柔らかだが、役人気質に凝り固まっており、利己的な人間だ。異星人の卵を大量に焼却して笑っている。自分が助かるためには人間相手でも武器を乱射する。Cから3年待てと言われると、Cを殴打して、自分だけ司令船に乗り込む。それでもCが拷問を受けて殺されそうになると見捨てることができずに救助の手をさし伸べた。悪い人間ではないのだ。CとVが心を通じあえたことで、Vが再来した時には、両文明間で友好関係が持てることが期待される。造花の薔薇は未来への期待だ。Vという小市民を主人公にすることで、人類の愚かさを浮き彫りにしている。いくら上辺で善人を装っても本音は違うのだ。不満点。異星人の姿と生態が気持ち悪すぎる。Vは人を殺しすぎ。人類が宇宙船を調査しないのは不自然。
[DVD(字幕)] 8点(2015-02-05 23:52:28)(良:1票)
3.  キング・コーン 世界を作る魔法の一粒 《ネタバレ》 
この映画の作られた時と現代では状況が変わってきている。 映画では、トウモロコシ全体の55%が飼料、32%が輸出、12%がコーンシロップ他の構成となっているが、現代では30%がバイオマスエタノールの原料となっている。ちなみに日本では、コーンシロップはJAS法により、「果糖、液糖、ブドウ糖」などと明記されているので注意が必要だ。 映画の舞台となっているアイオワ、イリノイ州などのコーンベルト地帯は、2012年以来、地球温暖化によるものと思われる旱魃にみまわれていて農家は大打撃を受けている。コーンベルト地帯は北上中だ。 テキサス、オクラホマ、ニューメキシコ、コロラド州などの米国の6分の1の面積を占める“世界の穀倉地帯”グレートプレーンズは、オガララ帯水層の地下水を用いた灌漑によって大規模農業を発達させてきたが、この地下水源は50年以内に消滅するといわれている。従って「安くてありあまる食糧」は砂上の楼閣に過ぎない。 アメリカは自国の農業と食品業界の利潤のみを考えて政策を行っている。 1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)を結んだメキシコでは、主食であるトウモロコシが安価な米国産の輸入によって農家が壊滅状態となり、大量の難民となって米国に押し寄せた。安価な食料の輸出は、輸入国にとって喜ばしいことばかりではない。農家を疲弊させ、食糧自給率を低下させる。高カロリー食品は健康被害をもたらす。遺伝子組み換えで戦前の10倍の収穫量を達成できるようになったが、栄養価が少なく、代謝にも悪く、カロリーも少なく、食としての価値は「カスだ」。マクドナルドで売っている食品のほとんどはコーンから出来ていると知ることができるだけでも観る価値はある。
[DVD(字幕)] 7点(2015-02-04 17:20:20)
4.  運命を分けたザイル 《ネタバレ》 
絶体絶命の雪山遭難から奇跡の生還を果たした登山家の物語。“絶体絶命”は掛け値なしで、これを奇跡と言わずして何を奇跡というだろうか。それほど絶望的な状況だった。1985年英国人のジョーとサイモンの二人が未踏峰のアンデス山脈シウラ・グランデ峰の西壁に挑む。無事登頂に成功するが、下山中に雪庇が崩れ、滑落したジョーが右足を骨折してしまう。二人はお互いの体をロープで括り、ジョーがロープの長さだけ滑べり落ち、落ちた地点にサイモンが合流する方法で下山する。それを繰り返すうち、ジョーは氷壁に宙吊りになってしまう。折しも吹雪で視界はきかず、声も届かない。共倒れを防ぐ為、サイモンはロープを切る。ここから奇跡が始まる。ジョーは45mも落下して氷棚に叩きつけられるが、命はとりとめる。急峻な氷壁は登れず、仕方なく地下に降りると偶然にも地表へ通じる出口が見つかった。そこから迷路のような氷河を這いずりながら抜け、と氷堆石帯に出た。そこからは片脚と杖代りのアイスバインで、激痛に耐えつつ、文字通り転がりながら移動し、9㎞の距離を5日間かけて漸くキャンプに辿り着いた。幸運にもサイモンはキャンプを去らずに待機していた。観ていて“痛い”ことおびただしい。何度も目をそむけた。痛いだけでなく、体感温度マイナス60度の極寒、飢餓、絶望感、死への誘惑に耐えながら一歩一歩すすんでいく姿は凄絶で筆紙に尽くしがたい。強靭な精神力があってこそだが、強い生への執着があったのかといえば、そうでもなく、本人に言わすと「生き抜くために進んだんじゃない。死ぬときに誰かにいて欲しかった」かららしい。死を意識したとき頭に浮かんだのが、好きでもないディスコ曲だったという話も体験者にしかわからぬことで、生々しい。長い距離も20分ごとに目標を定めて歩んだ積み重ねの結果だという。サイモンは、ジョーが怪我したとき、「このまま転落してくれたら」と告白し、ロープを切った重荷を一生背負っていくという。学ぶことの多い映画だ。特筆すべきは撮影技術で、空撮、遠景、俯瞰、仰視、アイゼンとアイスバイルの大写しを巧みに使い分けている。山岳映画の最高峰だろう。現地で撮影し、クレバスも本物、空撮に映る姿は俳優ではなく、本人だ。山岳美も素晴らしく、粉雪の作りだす「アンデスの悪魔」は必見。再現劇方式で本人達が顔を出すが、年月を経ている為、冗談交じりになっているのが残念。
[DVD(字幕)] 8点(2015-02-04 05:43:27)
5.  インファナル・アフェア 《ネタバレ》 
香港犯罪映画の傑作。警察と犯罪組織の間で互いに間諜を潜入させているという新奇な設定が興味を引く。潜入捜査官のヤンと組織から送りこまれたラウの対決が見どころ。どちらも優秀な警官で、その高度な応酬に見応えがある。 丁々発止と火花がちるような知能戦、ひりひりと肌を焼くような神経戦、紙一重の際どさで障害を乗り切る緊張感、裏切りや大物の死など予想できない展開、そして衝撃的な殺人場面…、緊張感が持続し、全編に渡り弛緩するところが無い。作品の価値を高めているのは、間者である両人の懊悩が恐いほど描けていることだ。組織のための道具ではなく、いつ正体が露見するかと怯え、不安を抱え生きている、恋人や婚約者のいる生の人間なのだ。ヤンは長年に渡る潜入捜査の緊張感から不眠が常態化し、精神を病んでいる。警察に戻ろうとするが、彼の正体を知っている上司は死に、ラウによって警察のデータベースから彼のデータは消去されてしまう。ラウはボスから「道は自分で選べ」と教えられていたが、選んだ道はボスを殺して、組織から足を洗うことだった。しかし、彼の正体をする別の人物が現れ、その人物も殺さなければならなかった。又、ヤンにより婚約者に正体は知られてしまった。勝者というものは無い。一度人としての道を踏み外してしまったら、生きている限り心の平安は得られない。生きながら無間地獄に落ちる。その恐ろしさが胸に迫るのだ。巧みと思う演出を上げる。ヤンとラウの接近遭遇だ。二人はお互いを知らないが、警察学校の同期であり、オーディオ店で一度顔を合わせている。環境が違えば、親友になれたかもしれないという演出だ。ヤンが映画館から出たラウを追跡するが、あと一歩のところで取逃がす。このようにして緊張を作りだしているのだ。ヤンの上司の警視が落下して車に激突するのは、あっと驚く演出だ。組織のキョンはヤンの正体を知ったにも関わらず庇う。組織の人間にも友情があるのだ。ボスもどこか憎めない。正義と悪という二元対立ではなく、犯罪者も人間として描いている。最後の想定外の展開とその衝撃度は計り知れない。 残念なのは、屋上に呼び出されたラウのすぐ後ろに拳銃を持ったヤンが現れる場面。どこに隠れていたのか。それとヤンがラウの正体を暴く録音を所有しているのなら、何故警察に提出しなかったのか。それによりヤンの身分が証明されるはずだ。
[映画館(字幕)] 9点(2015-01-14 04:15:47)
6.  ヒマラヤ 運命の山 《ネタバレ》 
ナンガ・パルバット(標高8,125m)の南壁「ルパール壁」は、4800mの標高差を持つ世界最大の絶壁。1970年その初登攀に成功したラインホルト、ギュンター・メスナ―兄弟の物語。二人は、ヘルリヒコッファー博士の遠征隊に招待される。博士の兄は、ナンガ・パルバットの初登頂に挑戦して死亡しており、兄の無念を晴らさんと、博士は過去に七度も遠征隊を送り込んだが全て烏有に帰していた。 今回の遠征も天候に阻まれ、登山期限が迫っていた。最終キャンプで無線が使えず、悪天候なら赤、好天気なら青の信号弾が揚がる手筈だった。赤が揚がって、ラインホストの単独決行となる。この赤は後に間違いと判明する。置き去りにされたと感じたギュンターは、身勝手にも下山ルート工作任務を放棄して兄の後を追った。6月27日、兄弟は山頂に立つ。しかし、ザイルも満足な装備も無く、弟の疲労が甚だしいため、登路のルパール壁下降を諦めて、西側のディアミール壁から下山することにした。無装備でのビバークを強いられた下山は辛酸を極め、疲労困憊した弟は兄とはぐれ、雪崩に遭って死亡する。兄は一週間後に生還するが、凍傷で足指七本を失った。独占的に報告書を公開する権利を得ていた博士は次のように報告した。「二人の行動は隊からの離脱である。ラインホルトは、最初から西側から下山する計画をしていて、弟を頂上直下に見捨てて単独下山した」弟の謎の死は様々な憶測を呼び、兄に対する批判も強かった。ラインホルトは独自の登攀記録を発表して、名誉回復裁判を起こしたが、敗訴した。2005年ギュンターの遺体がラインホルトの主張通り、ディアミール側山麓の氷河で発見され、彼の主張が正しことがほぼ証明された。本作は、彼の原作を忠実に映像化したもので、彼の助言も得ている。以上のような事情を知っていればより楽しめるし、下山に多くの時間が割されている理由もわかるだろう。それにしても二人がカメラとヘッドランプをポケットに入れただけで、ザイルもリュックも持たずに登頂するのは驚きである。無謀を超えている。一人だけでも生還出来たのは奇跡だ。若くて自信過剰だった兄弟が、登山経験のない博士を軽んじていたことが悲劇につながったといえる。無線がつながらないのに、想像を交えて報告書を書き綴る博士も異常である。兄弟の救助を拒否したフェリックスは数年後に謎の自殺をしている。真相の一部は未解明だが山岳映画として秀作。
[DVD(字幕)] 8点(2014-12-09 21:55:25)
7.  つぐない 《ネタバレ》 
子供時代の思い込みによるふとした発言や行いが不測の事態を招き、取り返しのつかない不幸をもたらすことがある。後にそれに気づいたとき、どうやって贖罪すればよいのか。贖罪すべき相手が他界していたら、どう心の整理をつければよいか。そういうことに焦点を当てた映画だ。ブライオニー(B)は姉とその幼友達ロビーとの関係を勘違いしていた。相思相愛なのに、一方的にロビーが姉に横恋慕していると思い込んだ。そこで従兄ローラの強姦未遂事件の犯人をロビーであると証言し、ロビーが姉に宛てた卑猥な手紙を提出する。その背景には、Bの初恋相手がロビーで、彼にふられたことが影響している。ロビーは逮捕、投獄され、四年後に兵役志願して戦死する。姉も後を追うように爆撃関連死する。作家になったBは真実を自伝小説にするが、贖罪の気持ちを込めて、死なずに幸せになった二人の姿を書き込んだ。せめて物語の上だけでも幸せになった二人の姿を残したかったのだ。 次々と視点と目先が変るので集中力を強いられる。Oから見た姉とロビー、真実の姉とロビーの姿、ロビーの悲惨な戦場体験、看護婦になったOの悔恨、数十年後の作家となったOのインタビュー。ロビーの牢獄場面を省略して、いきなり戦場にいるので唐突感は免れない。気になる点がある。強姦事件の時、ロビーは家出した双子を連れて帰ってきた。アリバイがあるのにどうして逮捕されたのか。少女の曖昧な証言だけで有罪になるとは思えない。Oはローラとポールの結婚を知って、強姦犯人がポールだったと知る。ところがOは、それ以前に罪を後悔してい看護婦となり、姉に謝罪の手紙を送っている。犯人がロビーでないと、どうやって知ったのか。強姦されたローラがポールと結婚するのも不自然な成り行きといえよう。和姦だったとして、皆が心配してローラの弟の双子を探している最中に、庭で秘め事をするだろうか。証言を撤回して、ロビーの名誉は回復されたのだろうか。 陰影と色彩に富んだ映像の美しさは特筆すべきものがある。修復されないOと姉とロビーの関係が「壊れた花瓶」で象徴されている。ダイナモ作戦の長尺の映像は素晴らしいが、映画の本質とは別である。インタビューでOが心から悔いているように見えないのも短所だ。涙ひとつ見せない。Oを成功した作家としているところも物語にそぐわない。不幸な人生の方が主題に似つかわしい。
[DVD(字幕)] 7点(2014-12-05 15:42:44)
8.  戦場からの脱出 《ネタバレ》 
ベトナム戦争時、ラオスに不時着して捕虜になった爆撃機操縦士が、収容所を脱走して、密林で辛酸を舐めながら奇跡的に帰還を果たす物語。一筋縄ではいかない、どこか奇妙な味わいの映画だ。捕虜となったディーターは虐待を受けるが、さほど凄惨ではない。収容所で仲間と出会ってから奇妙な雰囲気が漂い始める。滑稽味が加わるのだ。妄想に取りつかれ、間もなく開放されると主張し、脱走に反対するジーン。毎夜、寝便をするドウェイン。いつもらりっているようで、真剣さが伺えない。ディーターも変った人物で、薄ら笑いが多く、楽観主義で、妙に明るいのだ。家族や婚約者の話はほどんどせず、いかに自分が飛行機が好きになったか、飛行機のどこが素晴らしいかという話を恍惚の表情で長々とする。飛行機に憑りつかれた男だ。説明不足の部分もある。脱走決行の日、二つのグループに別れて看守を急襲する計画だったのに、ジーンらのグループが現れないのだ。ディーターとドウェインだけで看守を片付け、脱走するとジーン等が待っていた。どう調達したのか知らないが靴を履いて。話が噛みあわないまま、早々に別れて、それっきりジーン等は登場しない。後半は密林での逃避行となるが、ここからは生存をかけた悲壮な展開となる。ドウェインは遭遇した村人に殺され、ディーターは飢餓に苦しんで蛇を生で食べたり、味方のヘリから機銃掃射を受けたりする。ようやくヘリに救助され、基地に帰還を果たし、英雄として迎えられるが、そこで終らない。ディーターは秘密任務についていたとして、身柄は情報局に預けられ、毎日尋問責めにあう。それに同情した同僚が彼を情報局から連れ出し、仲間達の元へ連れ帰る。一見痛快のようだが、詳細が不明なのでどう反応してよいか分らない。映画の視点が動くのだ。主人公の精神力の強さは伝わるものの、反戦の声明は伝わらない。ベトナム人の描き方も画一的で尊重されていない。短所を端的に言えば、主人公が英雄として描かれていないことだ。奇妙な人間が、偶然に助けられて捕虜収容所から生還を果たしたという話で終っている。人物の掘り下げや反戦思想は盛り込まれていない。英雄を英雄らしく描くのが王道だが、監督には別の狙いがあったのだろう。それが伝わらず、米国での興行成績は惨敗し、日本では公開されなかった。渾身の演技は見応えがあった。力量ある監督だけに残念である。
[DVD(字幕)] 7点(2014-12-04 02:03:20)
9.  告発のとき 《ネタバレ》 
イラク帰還兵士が四人の同僚に殺された実話に基づいている。 途中まで、元軍警察所属の退役軍人ハンクが、婦警エミリーの助けを借りつつ、息子の死の真相を突き止める推理物と思っていたが、死の真相が判明してからは、明確に戦争告発に変わった。推理物としては上出来だが、戦争告発としては弱い。思えば、推理物として違和感があった。名推理を発揮するハンクとその相棒たるエミリーの友誼を描いていくはずが、途中で喧嘩のようになってしまうのである。ハンクの「戦友が殺すはずがない」という推理も覆される。ハンクの息子のマイクは、戦場で子供を轢いてしまった衝撃から立ち直れずに精神を病み、負傷者を面白半分に痛みつけるような人間になる。同僚も同様に病み、帰還してから些細な諍いからマイクを刺し、遺体を分解して燃やし、空腹を覚えてチキンを食べるような人間になる。息子も同罪と感じたハンクは彼等を責めない。そこが泣かせどころだ。星条旗を救難信号を意味する逆向きに揚げるだけだ。 ハンクは軍に対する忠誠心を持ち、愛国者ぶっているが、ベトナム戦争の経験もあり、軍警察にいたのだから、軍の良い面も悪い面も熟知しているはずである。「戦友が殺すはずがない」ではなく、戦友が殺すこともあるのが戦争の実態だ。マイクが帰還するのを両親に知らせなかったのは不審だ。犯人達も、マイクのクレジットカードで支払いするなんて、馬鹿じゃないかと思う。サインが必要ならアリバイ工作として成立しないのだから。 トップレスの中年女が後に重要な証言をするところなどは芸が細かい。無残な死体に対して悲嘆する姿が強調される。土葬文化圏では遺体の状態を気にするようだ。 原題は、羊飼いのダビデ少年が投石器で巨人戦士ゴリアテを倒す聖書の神話だ。小さい者が大きい者を倒す、勇気ある者が強者を倒す、神の名において戦う者が武器を頼りにする者を倒す、という三つの意味がある。しかし、ダビデ少年はひどく怯えていただろうと、エミリーは息子に話して聞かせる。殺すか殺されるか、怖くて当たり前なのだ。そして、殺すか殺されるかを強いるのが戦争である。英雄物語の影に隠された真実がある。それが分かる人間に成長して欲しいと願う母心だ。切れ味鋭い脚本だが、マイクの心の闇にはメスが届いていない。 
[DVD(字幕)] 8点(2014-12-02 22:32:15)(良:1票)
10.  プレステージ(2006) 《ネタバレ》 
アンジャーとボーデンという二人の手品師が不幸な出来事から不和となり、お互いに敵愾心を燃やして、妨害や盗みをして相手に打ち勝とうとする物語。主に瞬間移動術について争う。 最後のおちにはがっかりさせられたが、手品好きには面白い作品だった。時間軸をばらして再構築して見せる手腕は洗練されており、ねたの興味で、最後まで期待感、緊張感が持続した。おちの伏線はあちこちに張り巡らされており、再見すれば綿密に練られた脚本ということが分かるだろう。 映画はいくらでも編集が利くので、手品は画面切替なしで見せないと真実味が出ない。それが判っていながら拘泥しないのは、監督に手品に対する愛情が所為だろう。役者の技術も素人の域を出ない。 籠の鳥消失術は一世を風靡した手品で、実際に鳥を圧死させていたが、後に改良された。これは映画の通り。中国の老奇術師チャン・リン・スーが登場するが、実在の人物で、弾丸受け止め術で命を落としたことで有名だ。実際は中国人に扮したアメリカ人で、テスラ・コイルが発明された頃にはまだ二十代の若者だった。この改変の意図は不明。 テスラ・コイルは現在でも不明な部分があり、似非科学でよく言及される。だから採用したのだろうが、“人間消失”ならともかくも、”人間複製”は許容値を超える。まして、複製人間を殺すなどは言語同断である。殺す理由は皆無で、二人で協力して瞬間移動術を演じればよい。もっともその前に、普通の人ならせっせと金貨などを複製すると思うが。双子おちは安意過ぎる。すぐにばれてしまう。エジソンの手下が登場する。テスラはエジソンの元で働いていたが、金銭と直流・交流議論で関係がこじれた。エジソンはテスラ潰しの為に誹謗中傷や非人道的行為をくり返して攻撃している。テスラの実験屋敷の警戒が厳重なのもその為で、最後は爆発したようになっていたが、エジソンの手下の仕業だった可能性がある。 目立たないが、アンジャーからボーデンに乗り換えた女もひどい。 尚、イギリスの裁判では、裁判官や検事、弁護士はかつらを正装として着用する。古来、虱対策で短髪にしていたことに由来する。
[DVD(字幕)] 7点(2014-12-02 02:13:19)(良:1票)
11.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
爆発物捜査官のダグは、クレアの死体て何かを感じた。それは彼女に惚れたのではなく、彼が一度タイムトラベル(TT)して彼女と会った既視感からくるものだ。FBIで、監視装置“スノウホワイト”の映像を見せられ、「複数の衛星情報を解析合成したもので、膨大な情報処理に四日間を要するため、常に四日前の映像しか見れない」と説明される。が、疑念をもった彼がモニターのクレアにレーザーポインターを当てるとクレアが反応した。実は空間を折りたたんで時空の二点を繋げた“時空窓”で、出力を上げれば物質も送れる。彼は過去の自分に手紙を送るが、誤まって同僚のラリーの手に渡り、結果、彼は殺され、クレアも巻き込まれる。ダグは、携帯時空窓ゴーグル・リグを使って四日前の犯人の行方を追い、隠れ家を発見し、犯人は逮捕された。一件落着するが、ダグは自分の所為でクレアが犠牲となったことを悔やみ、二度目のTMをする。犯人を片づけ、大事故を防ぎ、クレアの命も助けるが、自分は爆破死してしまう。本作品では「過去は改変できない」のが前提で、過去に介入する度に分岐した別の世界になる。現代と、一度目のTM、手紙送信、二度目のTMの三つの分岐世界の四つが交錯するのでややこしい。ダグがラリーを救えなかったは、彼の死が四日以上前の過去になってしまったから。厳密にはTTを繰り返せば、スノウホワイト完成の四日前まで過去に遡れる。大事故は防いだものの、別の犠牲者で出ているので爽快さは無い。TTがなくても、事故は防げる。警察に事故を予告する手紙を出すとか、犯人の心臓に弾丸を送るとか、準備中の爆発物に弾丸を送るとか、方法は多様だ。過去に情報が送れるのなら、過去の人は未来を知ることとなり、相場や競馬、選挙結果等、社会が混乱するだろう。一度目のTTで犯人逮捕に失敗したダグがどうなったか不明。二度目のTTでダグが生き残った場合、携帯電話を鳴らすとどちらの携帯が鳴るのだろうか。冒頭で遺体袋の携帯電話が鳴る場面があるので気になった。犯人が、「私には運命がある。創造者が定めた運命が。それを変えようとする者は滅びる。運命を止めようとするとかえって引き金となる」と言った時、今後どんな展開になるか楽しみだったが、ただの虚勢で終った。大爆発、カーチェイス、銃撃戦と派手な演出で観客を驚かすという安易な姿勢が残念。TT無し、捜査だけで事件解決に導く演出なら良かった。
[DVD(字幕)] 7点(2014-12-01 16:22:35)(良:2票)
12.  イントゥ・ザ・ワイルド 《ネタバレ》 
世を儚み、文明社会と縁を切って、自然と共に暮らしたいと願う人はいるだろうが、実行する人は稀有である。それを敢行した人の実話なので貴重だ。彼は潔癖な性格だ。それは、車、身分証明書、お金、名前まで棄てて、過去と完全に決別した上で旅立ったことからも窺える。潔癖ゆえ、私生児たる出生の秘密と、家庭内不和がどうしても許せなかったのだろう。遁世の理由は「愛よりも金銭よりも信心よりも名声よりも公平さよりも真理を与えてくれ」という言葉が近く、真の人間たる姿を求道していたのだろう。 都会出の彼が、最初からアラスカ行を計画していたとは思えない。放浪しながら、もっと厳しい環境に身を置こうと、思いついたのだろう。「人生において必要なのは、実際の強さより強いと感じる心だ。一度は自分を試すこと。一度は太古の人間のような環境に身を置くこと。自分の頭と手しか頼れない苛酷な状況に一人で立ち向かうこと」 人を拒む厳寒の自然の中に身を置き、自然の恵みだけで生きるには、強靭な精神力が必要だ。彼は、世を捨てたのではなく、生きている証しとして自分の限界を試したかったのだろう。人間とは何かという真理を見つけたかったのだろう。彼は価値観の定まらない軽佻浮薄な若者ではなく、確固とした哲学を持っていた。だから出会う人達との間に交流と友情が生まれ、強烈な印象と影響を与えた。特に最後に出会った老人との交流は胸を打つ。老人は、若い頃に妻子を交通事故で失くした退役軍人だ。家族を喪失した老人と、家族を捨てた若者とが、お互いの身の上を話し合い、理解し合い、遂に、老人は若者に養子にならないかと申し出る。人間も捨てたもんじゃないと思わせてくれる。結果として彼が落命したのを理由に非難する気はない。自然との暮らしは死と紙一重なのだ。 「偽りの自分を抹殺すべく、最後の戦いに勝利して、精神の革命を成し遂げるのだ。これ以上文明に毒されないよう逃れて来た。たった一人で大地を歩く。荒野に姿を消すため」このような人はもう現れないのではないか。劇中彼をキリストになぞらえた人がいたが、宜なるかなである。勇気ある冒険をした彼を賞賛したい。遺憾なのは、彼が増水した河に沿って移動しなかったこと。実際四百m先に鉄道があったらしい。又、廃バスが無ければどうやって住処を確保する積りだったのか。移動手段を車や貨車に頼ったのはどうしてか。気になる点である。
[DVD(字幕)] 8点(2014-11-30 19:38:57)
13.  フード・インク 《ネタバレ》 
米国の食品産業の問題点を取り上げた作品。通常の経済の仕組みでは、消費者の需要が先にあり、生産者がそれを供給する。しかし米国では違う。農業が高度に工業化され、メジャー食糧企業による寡占状態にある市場では、供給が需要に先行する。安くて栄養豊かで、しかし健康には決して優しくない食品が市場を席巻する。味が良くて、健康にも良い有機農は、値段が高くて太刀打ちできない。悪貨が良貨を駆逐している状態だ。お金の無い人は安価な食品を選ぶしかない。肉が野菜より安価なので、肉中心の食生活になり、結果健康被害に陥り、ひいては国の医療費を圧迫する。 食糧問題は最終的にコーンの問題にたどり着く。農薬耐性のある遺伝子組み換え種子を用い、農薬と化学肥料を使って大量生産し、政府が助成金をつけて世界一安値にした上で、大量に輸出する。輸入した国の農業は壊滅的な打撃を受け、畜産業は飼料をコーンに依存するようになる。恐ろしいのは、食糧メジャー企業が、お金にものを言わせ、政府、裁判官なども牛耳っていることだ。風評被害法なるものを成立させ、商品や会社に批判も言えない。「要らぬ不安を与えるから遺伝子組み換えの表示はしないほうがいい」という主張がまかり通る。反対するものは徹底的に叩く。風に飛ばされた遺伝子組み換え作物と自然交雑した近隣のコーン農家に対して、特許のある種子を保存したとして、巨額の損害賠償を請求する。裁判になると費用がかかるので、結局泣き寝入りするしかない。 メジャー企業は、商品の心象が悪くなるという理由で、家畜の飼育や屠殺の様子を見せない。消費者は聾桟敷におかれている。 「食品は一円でも安ければそちらの方を買う」という未成熟な消費者から脱却したいものだ。安いのには、それだけの理由があるのだ。それを知った上で、賢い消費をしたいものだ。良質の実録映画である。
[DVD(字幕)] 9点(2014-11-29 23:38:05)
14.  ありあまるごちそう 《ネタバレ》 
食のグローバル化の矛盾点を突いている。農業を大規模灌漑、遺伝組み換え技術等で工業化すれば、低コストで大量の農産物が収穫できる。多少味が落ちようと、多少健康不安を感じようと、安くて見栄えのよいものに飛びつくのが消費者心理だ。地元での消費量を越えた余剰農産物は、遠くに運ばれて、さらに輸出される。運ばれた先の土地では、安い農産物が大量に入ってくるので、農民は作っても売れず、生活が立ち行かなくな。そこでEUでは農家に補助金を出す。農家の収入の三分の二が補助金だ。こうして余剰農産物が大量生産される。余剰農産物は、昔は捨てられていたが、批判を受けて、今では大幅に値下げして、発展途上国等に輸出される。輸入した発展途上国の農業は荒廃の一歩をたどる。対等な国家間では自由に関税がかけれるが、発展途上国は先進国から資金や技術援助を受けているので、関税はかけれず、EUの言いなりだ。生活できなくなった農民は、働き口をEUに求めて、低賃金労働者となる。これがEUの“歪んだ”食のグローバル化が、飢餓と貧困を輸出する仕組みだ。珈琲などの輸出向農産物の価格は、ネスレなどのメジャーが価格を決めてしまうので、生産者の利益は低く抑えられてしまう。従って、末端の労働者は、いつまでも貧しいままだ。本作品では、その一端を見せているに過ぎない。食の輸出入は適度に抑えて、地産地消するのが望ましい。生産競争、輸出競争しだすと、結局、資本のある会社が一人勝ちするのだ。「安い肉を食べれるようになる」ことは一見喜ばしいことだが、その背景には様々な矛盾や問題が存在する。農作物を強引に輸出される国、農作物を強引に低価格で輸出しなければならない国の実状が描けていればもっとよかった。
[DVD(字幕)] 7点(2014-11-29 14:35:43)
15.  天使の眼、野獣の街 《ネタバレ》 
香港警察の刑事課の監視班に配属になった女警官“子豚”の成長物語。ほとんどが監視・尾行という地味な捜査ながら、きびきびとした場面切替と演出で緊張感を盛り上げており、その手腕は賞賛に値する。主である宝石強盗団の話に、子供誘拐が絡むあたりの脚本は絶妙である。早い時期で誘拐犯を登場させているのは、気が利いている。何度か登場する「小話」も効果的に使われている。緊張ばかりでは疲れるので、その緩和に人情を持ってくるところは脚本の機微であるが、その見せ方に工夫が無く、新鮮味に欠ける。緊張感が弛緩なく持続するため見ている間は飽きないのだが、冷静になって振り返ると、気になる場面がいくつかある。 強盗団の首領のチャンがひと仕事を終えて高跳びしようとする時に、18年間刑務所にいた親分が出所してくる。ひと波乱あると思ったが、何もなかった。肩透かしである。 警察は、チャンの携帯電話と強盗団の手下の携帯電話番号はどうやって知ったのだろうか。 “子豚”がチャンを発見するのが「偶然」なのが興を削ぐ。合理的で科学的な捜査を魅せる映画なのだから、チャン発見は、捜査に裏打ちされた結果であることが自然であり、望ましい。 “子豚”の尾行に気づいたチャンが、“子豚”の席に行き、どうして尾行するのかと詰問するが、これはあり得ないだろう。会話の内容が警察に筒抜けになっているのは容易に想像できるわけで、一刻も早く逃走すべき場面だ。 “子豚”と上司“犬頭”の人情物語が映画の良い味付けになっているが、“犬頭”がチャンに刺されてからの“子豚”の行動が不可解である。人を呼び、救急車を呼んでもらい、素早く緊急止血だけして、すぐにチャンを追えばよいのに、動揺が強く、右往左往している。その前の警察官刺殺事件の轍を踏む失態だ。ここでは“子豚”の成長した姿を見せて、チャンの確保につなげばよい場面だ。 チャンの死に方があまりにもあっけない。ボートで逃走しようとして吊り鈎に首を引っ掻けるという事故死。もう少し華麗な最後にしないと帳尻が合わない。 警察の尾行の方法だが、途中で眼鏡をかけたり、帽子を被ったり、リバースの服を裏返したり等の工夫が全く見られなかった。それくらいの用意はしておくべきではないだろうか。
[DVD(字幕)] 7点(2014-11-27 22:47:04)
16.  千年女優 《ネタバレ》 
三十年前に女優を引退した藤原千代子が取材に応じ、過去を振り返る物語。初恋の相手であり、女優となる機縁となった、鍵の君への一途な恋が語られる。回想場面に立花と井田が登場するのが特徴で、中盤からは、井田は役の人物にもなるという斬新な演出。戦国時代からSFまでを演じたので千年女優。主題は一貫して千代子が鍵の君を追いかけること。残念なのは、千代子の目に輝きがなく、顔に生気も感じられず、主人公に魅力が無ければ興味は半減だ。彼女が何故あそこまで鍵の君を一途に思い続けるのかも不明だ。彼女が鍵の君に助けられる等の演出が欲しかった。彼女は類型行動を繰り返し、精神的にも成長しない。何度も地震が起きたり、土蔵の絵画が残ったり、特高が鍵の君の手紙を持っていたりと不自然な点もある。表面だけ追っても理解できない。鍵は、鍵の君の絵画道具の入った鞄の鍵で、これは千代子も承知だ。鍵の君は特高の拷問で死んでおり、彼女は幻を追っていたことになる。追いかけることは、あこがれに向かっていることで、女優であることの象徴。鍵があることで女優でいられた。千代子に恋の呪いをかける老婆はもう一人の千代子。千代子は映画の中で虚構の生を生き、虚構の恋をする。一種の輪廻転生で、それを客観的に見ている自分が老婆。自分に永遠に女優でいる呪いをかけた。だから千代子を生まれる前から知っており、憎くてたまらず、いとおしくてたまらない。鍵をなくして一時呪いの効力は失せたが、鍵が戻り、女優として再生し、撮影途中で投げ出したSF映画を脳内で完成させる。「彼を追いかけている自分が好き」は、女優である自分が好きという意味。最後のロケットがワープ航法で消える場面は、現実での死であり、女優としての輪廻転生からの解脱だ。輪廻転生は随所に出て来る蓮の花で示唆され、ロケット基地も蓮の花の形をしている。劇中、監督が言う。「観客も女優も適当に嘘をおりまぜて乗せてやるんだよ」これは千代子にも当てはまることで、最高の演技をするために、一途な恋を自分自身に演じてみせていた。鍵の君への想いが演技の糧だった。彼女は鍵の正体を知っていたし、鍵の君がこの世にいないことも薄々気づいていた。が、自分に呪いをかけて、永遠に恋焦がれるよう、すなわち女優でいられるよう暗示にかけた。映画も女優も嘘、すなわち虚構である。死ぬまで女優でいることの素晴らしさ。映画愛の詰まった作品だ。 
[DVD(邦画)] 7点(2014-11-21 23:56:01)
17.  悲夢(ヒム) 《ネタバレ》 
ジンが夢の中でとる行動を、赤の他人であるランが期せずして夢遊状態で行ってしまうという怪異な所縁で結ばれた二人の物語。 ジンは昔の彼女Aに未練があるのでAの夢を見る、ランは昔の彼氏Bを毛嫌いしているが、夢遊状態でBと逢引する。AとBは付き合っているが心は通わないという関係。精神科医の診断は、二人は一人で、二人が愛し合えば解決する、白と黒は同色であるというもの。二人を知恵を出しあって、ランが夢遊状態にならないようにするが、遂にランがBを殺してしまう。罪の意識に苛まれたジンはもう眠らないと決意するが、睡眠欲には勝てずに飛び降り自殺する。同じ頃、ランが病院で首吊り自殺する。ランは蝶に姿を変え、ジンの死体の傍らに飛んでいき、二人は眠るように横たわる。 幻想物語なので多義的解釈を許すが、全てが夢の中の出来事であるという解釈も可能だ。夢の入れ子状態。 そもそも、他人の夢の通りに行動してしまうというのは超自然現象であり、現実には起こらない。精神科医の診察室も病院らしくない。人物同士が、日本語と朝鮮語と違う言語でも違和感なく通じるのは、夢だからであり、同時に夢と現実は同じという示唆である。ジンがいつも黒服、ランがいつも白服なのは、二人は表裏一体という意味だが、夢の中だからと考えた方が自然だ。ランが蝶に姿を変えるのは、現実と夢の区別がつかない「胡蝶の夢」の故事にちなむ。二人は戸惑いながらも、少しずつ愛を育んでいくが、「どんな夢でも、もう恨まない」というランの言葉で愛が成就した。究極の愛は自己犠牲である。だからジンは自殺し、ランも後を追った。二人は、ロミオとジュリエット。Bがランの自殺を幇助したのは、二人の気持ちを理解し、二人の幸せを願ったからだ。悲劇で終る夢だから題名が「悲夢」なのである。ジンが篆刻師で、ランが服飾意匠師なのは、印鑑を紙に押すと文字が逆転し、服を変えれば別人に見えるという暗喩。独創的な着想には感心するが、見せ方がぎこちない。より幻想的な演出が好ましい。ジンが饒舌すぎて映画の雰囲気を壊し、究極の愛を演じるには演技力不足である。何より二人が愛し合っているように見えないのが短所だ。徐々に惹かれあっていく、繊細な二人の心の機微が窺えないことには感情移入できない。
[DVD(字幕)] 6点(2014-11-01 16:10:20)
18.  春夏秋冬そして春 《ネタバレ》 
水中から樹が生える不思議な山の湖に浮かぶ寺院舞台に、人生を四季になぞらえて描いた仏教説話。小坊主がいたずらで、魚と蛙と蛇に石を括りつけて苛める。老僧は懲罰として小坊主の体に重石を巻き、いじめた動物を助けに行き、一匹でも死んでいたら、お前は心の中に石を抱えて生涯を生きると予言する。魚と蛇が死んでいた。少年僧となった小坊主は、少女との愛欲に溺れて寺を出奔、その十数年後に妻を殺して舞い戻る。老僧は、男が自死しようとするのを諌め、般若心経を彫らせることで精神の安らぎを与える。男が刑事に連行されるのを見送った老僧は焼身往生を遂げる。男は服役を終えて帰門し、老僧の衣鉢を継ぐ。ある日、覆面の女が赤子を捨てて去ろうとするが、事故で死ぬ。女の菩提を弔う為、男は苦労して仏像を山上に安置する。男が土台石を引きずる姿は、かつて男に苛められた小動物の姿そっくりだった。赤子は成長し、動物をいじめ始める。過ちと償いが繰り返えされ、かくて人生は流転する。人は、いたずら、執着、愛欲等で過ちを犯すが、どのような棘の道、艱難辛苦であろうとも、最後には安らぎを得るという有難い教え。予定調和な仏教説話の範疇を出ておらず、あくの強いこの監督の作品としては物足りない。奇跡を示現するような作品がふさわしい。水は神聖と浄化の象徴で、水上の寺院は超俗と孤絶を表わす。壁のない扉は見えない戒律。蛙が生き残ったのは偶然だが、神の視点では偶然も必然。男が仏像を持ち去ったのは絶ち切れぬ仏教への愛執。鶏を持ち出したのは、閉塞の象徴の鶏を自由にすること。老僧の超能力めいた力は、金剛密教の修行の成果。焼身往生するのは、入滅の時期を悟り、最後の功徳を積むため。男が氷った舟から掘り出したのは聖者の遺骨こと舎利で、それを氷仏像の白毫に入れ、最後は溶けて自然に還る。女が布で顔を隠すのは、最初から子を捨てる目論みだったのと、女は特定の誰かではなく、あなたかもしれないという示唆。「閉」の字で目鼻を覆い、般若心経を彫るのは、文字に聖なる力が宿ると信じているから。猫の尻尾で経を書くのは、他に太い筆が無いことと、何事にも自然に臨機応変に対応する老僧の才覚の表現。老僧が蛇に変身するのは、蛇が神秘の象徴だから。残念な点。老僧が自由に舟を操れるなら、舟を戻すのに紐付鶏を利用する必要はない。仏像を据えた山上に雪が無かった。裸での冬季登山は難しかったのか。
[DVD(字幕)] 7点(2014-10-31 19:22:03)
19.  ブレス 《ネタバレ》 
大変風変りな作品だ。表面上は、破局の危機に陥った夫婦が再生するという愛の寓話。夫の浮気が原因で、夫婦関係は完全に冷え切っている。妻ヨンは空虚で閉塞的な毎日を送っていたが、ある日自殺未遂をした死刑囚のニュースを見て惹かれる。孤独と自殺願望という共通点があるからだ。彼女は死刑囚に会いに行き、謎の保安課長の計らいで、特別に面会が許される。ヨンは子供の時の五分間の臨死体験を語る。体が風船のように大きくなる、いわば万能感で、「悪くない感覚」だ。死刑囚はヨンの髪の毛を抜くが、髪は女の象徴で、彼が性愛を欲していること。ヨンは面会を重ねるごとに春、夏、秋の四季の演出で死刑囚を愉しませる。妻の行動を知って驚いた夫が叱責、諫言すると、妻は自動車自殺を図る。夫は悔悛し、愛人と別れ、妻に許しを乞う。妻の氷の心は漸う溶けていった。自分の自画像として製作した、胸に穴の開いた天使塑像を粉々に砕き、わざと汚して捨てた夫のワイシャツを持ち帰る。 最後の面会で、ヨンは死刑囚の口と鼻を塞ぎ、臨死体験を追体験させようとした。しかし、死刑囚は苦しみもがくばかり。ヨンは、二人の間に共通点など無く、死刑囚が自分に会うのは、性愛目的だと悟った。ヨンの心は再び夫の元に戻った。死刑囚は、ヨンという希望を失くして絶望した彼を憐れんだ同室者によって殺された。謎の保安課長は、監督自身が出演している。映画に自分自身を投影している。保安課長は、さしたる信条もなく、覗き見的好奇心のみで恣意的に命令を下す。監督の指図一つで物事が決められ、俳優が動く。高慢になった自分を卑下し、揶揄する自虐的演出。ヨンの面会の奇矯な演出と下手な歌は、監督の過去の作品の自己評価で、碌な作品しか作ってこなかったという自省が込められている。映画製作に行き詰まり、自己嫌悪に陥った監督が、もがき苦しみ、暗中模索する中で思いついた、切羽詰まった末の演出なのだろう。その時の、息もできない体験が題名となったと思う。ヨンが自分を見つめ直すことで立ち直ったように、監督も自省することで立ち直った。死刑囚は、金や名誉を求めるもう一人の監督で、再生するためには、彼が死ぬ必要があった。自己再生は自分殺しでもある。愛の寓話の映画であると同時に監督自身の再生の実録でもあるという、映画の表現として極めて斬新な作品だ。ある意味、独りよがりだが、ふざけているのではなく、至って真摯だ。
[DVD(字幕)] 7点(2014-10-30 16:51:59)
20.  絶対の愛 《ネタバレ》 
恋愛倦怠期にさしかかった恋人同士、ジウとセヒの物語。セヒは、恋人のつれない態度に疑心暗鬼となり、彼が自分に飽きてしまったのではないかと深く憂慮し、起死回生の策として、何も告げずに行方をくらまし、顔を整形手術し、別人スェヒとして恋人の前に姿を現した。スェヒの期待した通りに事は進んで二人は恋人関係になるが、ジウがまだセヒを愛していることが発覚し、過去の自分に嫉妬した彼女は、自分はセヒだと正体を告げる。驚愕したジウは惑乱し、錯綜の果てに、自分も整形して別人になろうと失踪する。ジウを一心不乱に探すスェヒだが、ジウの姿は見え隠れするものの、本人には出会えない。そんな中、ジウらしき男が交通事故に遭って死亡する。錯乱状態に陥ったスェヒは、整形外科医の勧めで、再度整形手術を受けて別人になろうとする。 原題は「TIME」。どんなに深く愛し合った恋人同士でも、時の経過と共に恋の新鮮さは減じてゆくが、それを潔しよしとせず、別人になることで愛情を取り戻そうという話。現実には元恋人であれば、いくら顔を変えても、声や口調が同じならすぐに本人とばれてしまう。特に房事での艶声は変えられないだろう。映画では、掌を合せることで相手を確認しようとしているが、まどろこしい。ちょうど小道具に使えそうな掌の彫刻があったから、思いついた発想だろう。掌は温みがあり、恋人の暗喩として最適である。その掌の彫刻が、満ち潮で海に半ば浸かっている景色で、恋の終わりをを表現している。対照的に、セヒが過去の自分と別れを決意する場面では、自分の写真を足で踏みつける。大木をジウとスェヒが蹴りつける場面が二度出て来るが、大木は年輪を重ねることから時間の象徴であり、二人が時間を憾む気持ちを表現している。小道具の使いかたは巧みで、映像表現技法の冴えはみられるものの、あまりにも現実離れした話なので、心は動かない。こういった内容の話であれば、時代を未来にし、整形して超絶美人に変貌するような設定にすれば良い。それなら誰もが納得し、興味が湧くだろう。物語は冒頭と最後がつながる円環構造となっているが、意味がない。ちょっとした仕掛けで観客を煙に巻こうとしただけかもしれない。時間が円環することと、作品の主題とが結びつかないからだ。
[DVD(字幕)] 6点(2014-10-29 20:18:41)(良:1票)
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