1. 銀座カンカン娘
《ネタバレ》 中途半端なミュージカル仕立て、ストーリーに捻りもなく、深い人物描写もなく、あっけらかんと明るく脳天気。 何じゃこれって思っていたのだが、映画しか娯楽のない当時のアイドル主演ドラマなんだと考えると、人気歌手や落語家を脇に配し、高峰秀子の魅力をしっかり引き出してるなあと、それなりに納得できる。 戦後間もないという時代背景を頭に叩きこんでおけば、娯楽という映画の大事な役割はしっかり果たしていると思えるし、今見ても、当時の世相が垣間見えて興味深い。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-01-03 00:58:54) |
2. 死刑執行人もまた死す
《ネタバレ》 内容は完全にナチス批判、これをまだヒトラーが生きてる時に作っていたということに、まず驚き。 戦争という極めて異常な状態でのレジスタントとゲシュタポの駆け引きをサスペンスドラマとして非常にうまく纏めてある。 が、戦争そのものを悪としておらず、ナチスを徹底的に非人道的に描きプラハ市民の命を惜しまない抵抗を賛美することでプロパガンダ映画になるという側面もあり、映画としての面白さだけで考えられたシナリオではないと思うと、単純に素晴らしいと言い切れないのも事実。 チャップリンの独裁者と時代背景、ナチス批判という意味では共通しているが、チャップリンは背景に戦争そのものに対する大きな怒りがこめられているため、非常に思いが伝わってくるのに対し、こちらは抵抗を賛美していることで思い入れしにくい部分がある。 もしかしたら、抵抗を賛美しているように見せつつ、結局いくら抵抗しても結局犠牲者を増やすだけということを描くことで、より深く戦争批判をしようとしているのかもしれない。しかし、見ている最中の感覚は命を張った抵抗を賛美しているようにしか感じられなかった。 当時の映画としては、非常に出来のよい映画であるとは思うが、なんとも、背景に重く暗いものを感じつつ見るのは、やっぱりちょっと辛い。 [DVD(字幕)] 6点(2011-05-08 18:51:37) |
3. 一番美しく
《ネタバレ》 黒澤監督が戦前の軍国主義の国威発揚映画を撮っていたという、歴史的価値だけで見た。 こんな脚本、選曲しか駄目だったという当時の情勢でどう仕様も無い事情が大きい分、黒澤監督の画面構成や編集技術の卓越した力が素で一番良く分かる作品かもしれない。 今、背景が分かってこの映画を観る分にはいいが、監督の技術一つで人間の感性に訴えることができるものが、このような時代背景の時に公開されたことに、怖さを感じてしまう。 同じような時期に、ハリウッドではすでにたくさんの名作が作られているが、日本も黒澤監督にこんな作品を撮らせてしまうような時代背景がなければ、充分に娯楽として質の高い映画がつくることができたのにとと惜しくてならない。 映画の歴史や黒澤監督の凄さを知る上では貴重な映画だと思うが、本来の「映画」として個人的に楽しめたかどうかという評価は0点。 [DVD(邦画)] 4点(2010-11-29 00:04:34) |
4. わが青春に悔なし
《ネタバレ》 黒澤監督の、戦後すぐの民主主義プロパガンダ映画。 GHQの検閲が厳しい折、娯楽性ゼロ、コメディ要素ゼロのシナリオになってしまっている。 そんな中で、美人女優の原節子がお嬢様から汚れ役までこなし、それを感情や情景が滲み出るような印象的な絵作り、カット割りをして、ある女性の数奇な半生のドラマとして「映画」に仕立てたことに黒澤監督の才能を感じる作品。 しかし、この説教じみたストーリー展開だけは、いくら黒澤監督でもいかんともしがたく、面白い映画かと言われれば、好んでみるようなものではない。 シナリオの制約で、娯楽性ゼロのプロパガンダ映画を、一応鑑賞に耐えるドラマ性のある「映画」に仕上げた黒澤監督が凄い、ということを感じる映画。 [DVD(邦画)] 5点(2010-07-12 01:53:39) |
5. 虎の尾を踏む男達
《ネタバレ》 シナリオは歌舞伎「勧進帳」そのものだし、セットもロケも極めて少ない場面数で、第二次大戦の最末期に作られた作品だけに、予算も少なく、娯楽要素を大きくすることも出来なかったことが伺われる。 わずかに「強力」の役回りにコメディータッチを加えることが黒澤らしさとも言えなくはないが、そこに人気喜劇役者榎本健一を配しているところも、体制に気を使い、慰安として許されるような映画作りをしなければならなかったのではないかと思われる。 黒澤監督の歴史を語る上で見ておくべき作品だとは思うが、背景を一切考慮せずに作品として評価すると、当時の並みレベルのもの、今の時代では面白くない映画、というしかない。 [DVD(邦画)] 5点(2010-07-05 00:47:50) |
6. 静かなる決闘
《ネタバレ》 映画の出だしは黒澤作品らしいベトベトした重たい画面で、期待は高まったが、話が進むにつれて、あまりにも変化の少ない画面作りに監督手抜きしてるんじゃないのと思ってしまった。 また、三船敏郎のイメージとあまりにもミスマッチな役柄で、準主役の志村喬と千石規子だけがイメージ通り頑張ってる感じ。 それ以外の脇役陣も、大映映画だからだろうが、存在感がなく魅力に欠け、主人公三船の違和感のみが強調されてしまった。 シナリオ的には若くてギラギラした風貌の主人公が静かに葛藤するということで、当時は三船敏郎がドンピシャと判断したのだろうが、その後の映画で築いた三船敏郎のイメージでこの映画を観ると、ちょっと違うだろう思ってしまう。 三船を使うなら、もっと躍動感があってギラギラした展開、絵作りにすべきだし、シナリオ重視なら、もっと落ち着いた役者を使うべきだったと思う。 シナリオも含めて映画として全然駄作ではないのだが、「黒澤-三船の映画」という目で見ると名作とは言いがたく、まだ三船の可能性を探っている段階の試験的作品で、この路線はダメだと勉強した作品ではないだろうか。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-07-04 03:50:02) |
7. 酔いどれ天使
《ネタバレ》 第2次大戦終戦3年後に作られた黒澤映画。 白黒で画質も悪いのに、この見応えは何なんだろう。 ストーリーは複雑ではないのだが、水溜りのドロドロさに代表されるさまざまな細部の描写や展開の緩急で見るものを引き込む脚本、カメラワークの凄さや、若い三船敏郎の鬼気迫る演技と志村喬の熱血漢ぶりなどの演出の素晴らしさなどが、びんびんと伝わってくる。 むしろ白黒だからこそ、画質が悪いからこそ出せる魅力なのかもしれない。 黒澤映画、凄い!! でも、ちょっと重い(^^; [DVD(邦画)] 7点(2010-07-01 02:09:05) |
8. 天国は待ってくれる(1943)
《ネタバレ》 ほんわか暖かくて、じんわり感動できていいねえ。夫婦メインの中に家族や親族の愛情までバランスよく取り揃えられていて、映像よりストーリーで見せる感じでマイルドで心地良く見ることができる。 主人公はじめ、それぞれの人の行動の善し悪しには?の部分もあるけど、根底に優しさがしっかり流れていて、嫌悪すべき悪人が一人も登場しないから違和感なく感情移入できて、その暖かさが染み込んでくる。 この時代にカラー!!、「閻魔」って字幕に出るけど英語にそんな言葉あるの? 最初に驚きと突っ込みを入れてしまったけど、すぐに、暖かさに引き込まれてしまった。 [DVD(字幕)] 6点(2010-07-01 01:51:33) |
9. 野良犬(1949)
《ネタバレ》 ジメジメと蒸し暑くて重苦しい設定が、白黒のコントラストと画面構成でいやというほど表現されていて、それが引き込まれる魅力になってしまう映画。 感覚的に、登場人物全員「野良犬」という言葉がぴったりだ、と思わせる描写はさすがである。 刑事物としては、それほど練りこまれた脚本ではないのだが、場面展開、画面の作り方、見せ方、役者の個性で、映画を見た!っていう満足感はしっかり味わえる。この後に出てくる世界に名を馳せる名作の、クロサワエッセンスが、まだ研ぎ澄まされないままでこってり入ってる感じ。 同じクロサワ刑事物でも「天国と地獄」の方がエンタテインメント性では絶対にお勧めではあるが、映画としてのテーマ性、芸術性と戦後3-4年しか経っていない日本の雰囲気がよくわかるという歴史的価値でトータルでは負けていないかもしれない。 [DVD(邦画)] 7点(2010-07-01 01:49:25) |