1. 嘆きのテレーズ
《ネタバレ》 作り手はじっくりと説得的に描き込む、それを受け手もじっくり堪能する、というフランス映画だ。ハリウッド調とは異なった、バッド・エンドのアイロニーなんかもいい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-06-11 10:56:00)《新規》 |
2. 埋れた青春
《ネタバレ》 究極のバッド・エンド。映画館へ行って、この不条理なエンディングを観たいか、である。落ち込んでいるときに観たら帰路の電車がシンパイかも(笑)。しかし、映画観客が、「現在」の持続たる映像を乗り越えてゆく欲望に憑かれた存在ならば、バッドエンドもまた、地道に説得的に語られる「現在」の苦悩をついに「過去」へと送り込むのであるから、それは観客の「欲望」に合致するのである・・・なんていう、すごく平凡なことを確認したくなる映画。 [DVD(字幕)] 8点(2025-06-11 10:23:24)《更新》 |
3. 赤線地帯
《ネタバレ》 溝口の中でもこれはあんまり好きではない。流麗な動きのはずの宮川一夫キャメラも、この陋屋に閉じ込められている感じ。若尾文子と京マチ子がそれぞれ活発な役柄で浮いているのは、それで構わないのだが、やはり嘘っぽさが残る。 [DVD(字幕)] 7点(2025-06-06 21:08:00)《更新》 |
4. エドワールとキャロリーヌ
《ネタバレ》 一度も戸外には出ないが、長回しで、よく動き回っている感じの名作。実際にダニエル・ジェランが弾くかの如くのピアノの音色が素晴らしい。盛り沢山の演奏会シーンも充実している(「妻思い」のエドワールを支えようとしてピエロを演じる羽目になってしまう貴婦人のエピソードなど)し、主役カップルの諍いのありようも典型的で納得できる。 [DVD(字幕)] 8点(2025-05-30 23:11:27) |
5. 情事の終り
《ネタバレ》 この映画は何かしら謝罪しているという面と、開き直っている面の二面性があるように思う。何に謝罪?そりゃもちろん赤狩りで仲間を売ったこと。それもあってか、このヒロインはもはや絶対夫を裏切ってはならないのである。開き直っている面というのは、個人的な神という設定である。個人的な神の問題に逃げ込んでしまえば、もうそこは聖域なのだ。 [ビデオ(字幕)] 6点(2025-05-14 22:18:59) |
6. アスファルト・ジャングル
《ネタバレ》 ドイツ人の違った味、というのが目立っている。破滅まであれよあれよと自動的に進んでしまいがちな計画犯罪ものの流れを、首謀者のドイツ人は妙に遮ってみせる。その知的な発言「銃を持っていると撃ってしまうからね」は、今に至るまでアメリカ銃社会を照射する。とにかく計画が破綻した段階で終わってもいいはずの映画が、なかなか終わらないところにリアルなバランス感覚が働いている。 [ビデオ(字幕)] 6点(2025-05-14 09:21:09)《更新》 |
7. あした来る人
らしくない三國連太郎、らしい三橋達也、で十分愉しめる。川島映画の三橋達也の魅力は、ボヘミアンな鈍感さのフリの表現にある。そういう鈍(にぶ)さが、成瀬の『女の中ににいる他人』における妙に「寛容な」寝取られ男像にも生きているような気がする。鈍くてホッとさせる人間、なのである。 [ビデオ(邦画)] 6点(2025-05-10 18:45:07) |
8. 秘められた過去
《ネタバレ》 圧倒的な、観客に覆い被さってくる映像である、ダッチアングル。ウェルズの「記憶喪失」を真に受けて、その過去を調査することによってまんまと殺人の片棒を担がされる主人公(狂言回し)つまりは観客。フラッシュバック形式が絶えず過去を意識させるが、実は片付いてはいない、並走する過去なのである。映画の最後でのウェルズとの格闘において、やっと「過去」が落着して観客の手に入るというわけだ。ウェルズは観客存在を見事にターゲットにしている。 [ビデオ(字幕)] 9点(2025-05-10 13:04:10) |
9. 絹の靴下
《ネタバレ》 ダンスシーンはあまりないのかと思いきや、禁欲のヴェールを脱いで彼女が伸びやかに踊る、踊る! この映画の後三十年も経ってボウイの『レッツ・ダンス』の歌声がベルリンの壁を越えて「東」を挑発したのだった。 [ビデオ(字幕)] 7点(2025-05-06 23:18:51) |
10. 帰らざる河
《ネタバレ》 映画の流れる空間、シネマスコープの横長画面に横長にハマり続ける河(スクリーンプロセスであろうが)、それだけが大切なポイント。ひたすら襲いかかってくる悪者としての先住民という描き方の中に、この少し前の日本軍も含まれるかも。プレミンジャーは演出に厳格であるそうだが、人物の造形の上で、その成果が出ているようにも見えない。 [DVD(字幕)] 5点(2025-05-03 07:20:41) |
11. 旅愁(1950)
《ネタバレ》 大恋愛は超え難き障碍があってこそ。大きな障害のように見えた妻の側の理性的な譲歩により「もうこれで自由だ」となった瞬間「自由ではない」ことにヒロインが気づく。つまり障碍がないことが最大の障碍である逆説の成り行き。そもそも、ヘイズコードがまだ生きている時代だからか、恋する「肉体」を全く感じさせない淡交でもあるし。ところで「時代」といえば実はこれは赤狩りの時代で、演出のディターレが大変な目に遭っていることの方が重大である。 [DVD(字幕)] 7点(2025-04-28 23:07:30) |
12. 朝の波紋
《ネタバレ》 日本が復興してゆく戦後期、 この映画は五所平之助監督らしく、ほのぼの温かい。高峰秀子が同僚(岡田英次)からのプロポーズを振り切って「もっと他にある」希望に向かおうとするクロースアップの顔は本当に美しく瑞々しい。そして(実人生でもこの映画の役でも、戦地からよく生きて帰ってきた)池部良が魅力的に共演している。この同年に池部良は『現代人』、高峰秀子は『稲妻』、ともに日本映画史上最高級の映画を創っている。 [インターネット(邦画)] 9点(2025-03-11 10:12:48) |
13. 現代人
《ネタバレ》 生家の鬱陶しい環境からの切断を生きる主人公(池部良)のあくまでシャープな身のこなし(これだけでも素晴らしい)、清濁合わせ飲む覚悟への無謀な移行、移行といえば長回しの画面奥へのキャメラの縦の移行に山田五十鈴が魅力的に絡む。フランス・ヌーヴェルヴァーグに先立つ圧倒的な名作。 [DVD(邦画)] 9点(2025-02-08 13:02:35) |
14. 女ともだち(1956)
長回しという言い表し方では済まないような巧みな撮影・演出手法で、目まぐるしく動く人物たちが主体として浮上しては脇へ外れてゆく様を描き出す。けっして、人物たちの間に割って入って見交わしをモンタージュするようなことはないのは、ほんとうにすごいことだ。ほとんんど取るに足らない筋で不思議に充実しているアントニオーニ作品たち! [ビデオ(字幕)] 9点(2022-11-13 23:06:25)(良:1票) |
15. 暖流(1957)
《ネタバレ》 左幸子が回る、環境の同調圧力を振り払う独楽のようにブンブン回りながら、恋のターゲットに向かって一直線。野添ひとみも素晴らしい。きわめて動的で立体的な演出で、イマジナリーラインを絶えず踏み越えるゆえ、見交わしの都度人物の位置が左右反転する。人物が頻繁に横に動いてイマジナリーラインを跨いだり、カメラが人物の背後に回って逆サイドからも撮ったりで。もちろん人物位置の反転自体が良いのではなくて、輪郭のある人物どうしの格闘が、反転の度により深められ、映画語りの速度を上げることこそが。この『暖流』の秀逸な撮影者ということで村井博を知る、すると、彼にはあの宮川一夫を鋭く相対化する視点がある、ということに出会う(「インタビュー 村井博」『映画監督 増村保造の世界』所収)、興味津々! [DVD(邦画)] 9点(2020-12-17 02:17:25) |
16. 奇跡(1955)
《ネタバレ》 いきなり窓外へのPOVを連続させる。もうこれで観客を映画の中に引き入れる。単純な造りなのに、観客を捕まえて離さない。捕まえて離さないためにはロミオとジュリエット的なネタは有効だが、じつは世俗組織(教会等)を痛烈に無化するようなレヴェルに観客を対峙させる映画であろう。「裁かるるドライヤー」となるようなレヴェル。 [ビデオ(字幕)] 7点(2016-02-29 15:04:00) |
17. 非情の罠
《ネタバレ》 鏡に映る隣室の彼女、この鏡が特によい(この鏡だけがよい)が、キューブリックにしては平板。彼女自称のフラッシュバックの真偽がもっと不透明であるべき(おそらくそういう案で出発したのだろうが)で、こういう処理ではフィルム・ノワールの女ではないことになり興醒め。ちょっと笑えるのは、ラスト近くの一騎打ちで、斧がでてくること、のちの『シャイニング』の伏線のように。 [ビデオ(字幕)] 6点(2016-02-21 14:38:06) |
18. 青空娘
《ネタバレ》 ウジウジ悩まない、恨まない!(とりわけこれ!)、低レヴェルの諍いに与しない、青空を仰いで苦境をどんどん乗り越えてゆく。昭和32年の快作である。湿っぽい日本映画にあからさまに対抗している。 [ビデオ(邦画)] 9点(2015-09-14 13:33:59) |
19. 最高殊勲夫人
《ネタバレ》 増村って、強弱がなくて、強強強の連続である。疲れる、が、一生懸命の細部演出の積み上げは感取できるし、ゴージャスな映画である。 [ビデオ(邦画)] 7点(2015-09-12 23:28:06) |
20. 宗方姉妹
《ネタバレ》 なるほどこれには戸惑う。やけに怖い無職の夫がふるうビンタ(溝口女優として成長する田中絹代に対する小津の嫉妬?)、これはいけない、存在の重みがトグロを巻くようなのは、小津向きではない。オテンバな役柄で思い切り浮いている高峰秀子、居てくれて良かったよ、でないと陰気になってしまう。 [ビデオ(邦画)] 6点(2015-03-16 21:16:32) |