1. ぼんち
宮川一夫のキャメラが炸裂する、実に凝り倒した素晴らしい画面だ。精神的内容は決して高尚でもなんでもない、が、映画の場合、形式そのものが「内容」なのである。この意味での「内容」をひたすら愉しむことができた。ほんの一例として、このシネマスコープの横広画面に仕掛けられた横の運動を、愉しむこと。 [DVD(邦画)] 9点(2025-06-07 22:03:39)《更新》 |
2. 恐怖の岬
《ネタバレ》 通常は探偵役のミッチャムが犯人役で、敵にまわしたらまことに厄介な存在となるということか。攻撃してくるミッチャムの姿をもっと見せ隠しするとホラー的な怖さが増しただろうが、そういう狙いではなかったようだ、作り手は。むしろ二人の男の真っ向勝負といった方向に近い。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-31 22:50:55) |
3. モード家の一夜
《ネタバレ》 人と恋愛関係に入るには、情欲の宗教的・哲学的位置付けが必要であるかのように始まる。キリスト教やらパスカルやらの話題、さらに表面的には何も起こらないモードのところでの一夜なのだが、お互いの他者性の探り合いはスリリングである。後半のお目当ての女性との絡みに移って俄然面白くなる。 [DVD(字幕)] 7点(2025-05-25 23:07:10) |
4. 穴(1960)
《ネタバレ》 あの、ただ一つのシーン、細長いヤスリの鏡効果で、捕縛に来ている一団(仲間の裏切りにより)が映し出される時。あれほどゾッとさせる一巻の終わりシーンも珍しい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2025-05-23 17:58:45) |
5. 雨のしのび逢い
《ネタバレ》 原題に謳うように、中庸・節度を保つこと、踏みとどまること、が主題。ベルモンドの役柄が圧倒的に踏みとどまっている(あのジャンヌ・モローと駆け落ちしても先は知れている、のをわきまえている感じ)ので、映画らしい転落は起こらない。一見ジジ臭い(ピーター・ブルックは年輩だ)中庸つまり踏みとどまることを馬鹿にしてはいけない。それには自制の大きな力が必要なのである。 [DVD(字幕)] 6点(2025-05-06 16:54:55) |
6. 妻二人
《ネタバレ》 イマジナリーラインを絶えず踏み越えて、見交わしの都度人物の位置が左右反転するという画面演出スタイルが目立っている。それは調和的な向かい合いの否定である。つまり、人物たちがそれぞれに潔く自分であることを追求しぶつかり合う増村流で、かくて未練がましい絡みのない、メリハリのあるスピーディな進行となる。岡田茉莉子の代表作の一つとなっているのではないだろうか、増村映画の偉大な常連若尾文子を脇に回して。 [DVD(邦画)] 8点(2021-05-18 10:21:01) |
7. 召使
《ネタバレ》 主と奴。奴であった者にカメラが貼り付いていたのに、主と奴の逆転とともにカメラの同情も逆転して、主であった者に向かったりする。英国階級社会を諷刺したとかもあるのだろうが、揺れる観客の視点こそが映画的モンダイ。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-10-26 20:05:19) |
8. 千羽鶴(1969)
《ネタバレ》 増村が川端とは!?と、まずは驚きなのだが、強弱ではなしに、やはり強強強の増村調である。増村は観客にひたすら襲いかかる。 [ビデオ(邦画)] 6点(2015-09-15 10:04:37) |
9. アルファヴィル
《ネタバレ》 いまとなってはゴダールにしては甘口である。が、我が国の国立大学を「役に立つ」学部のみにしていこうという例の「改革案」とかは、まさにアルファヴィル的だと思わせる作品。とりわけ、アルファヴィルでは深く問う概念というものがどんどん変更・抹消されていく、という設定に、ゴダールの真面目な主張が見える。 [ビデオ(字幕)] 7点(2015-08-28 23:48:45) |
10. ショック集団
《ネタバレ》 原題が「ショック廊下」であり、精神病院のこの廊下を、ルネサンス以来の中心遠近法が見据える。これがまさに「異常」を隔離・排除する「理性」のあつかましい視座であり、この視座(つまりは観客の視座)をこの映画は撃つのである。最も強烈な話題は、KKKに同一化する黒人患者で、つまり支配的な「ものの見方」に主体として参入することへの彼の切なる欲望にも拘わらず自らの存在が無惨に(発狂するくらいに)分裂しているのである。患者のフリをして潜入しついに殺人犯を見つけ出す主人公自身の「理性」も、やがて報復されなければならない。ラストの廊下シーンの客体として現出する主人公の視座を観客も引き受けなければならない。見ることは見られることなのだ。 [ビデオ(字幕)] 9点(2013-06-25 21:27:01) |
11. 華氏451
《ネタバレ》 ナチのような「消防隊」が本を襲いまさにナチの焚書そのものであるが、ヒトラーの本『我が闘争』も焼かれるのはアイロニカルである。双方向の巨大モニターが各家庭にあり、「コンピュートピア」の息苦しさを先取りしているのは、いい。ただし要するに問題は、概念的な思考をするしないであって、現今のコンピューター・ネットワーク社会がべつに概念的な思考を禁じているわけではない(デジタル書籍もあるわけで)。要するに紙媒体が不要にされていくという現今の傾向と重なるだけだ。 [DVD(字幕)] 6点(2013-03-03 10:40:00) |
12. 男性・女性
《ネタバレ》 「思想では何でもできるが、感情では何もできない」。映画でそれを言うかという挑発的な言葉だが、たしかに、ゴダール映画の圧倒的に駆り立てるものは、切り分ける知性への欲求である。それはさておき、同録の雑音が台詞と同格の大きさであるのは面白い。 [DVD(字幕)] 6点(2013-02-25 15:43:37) |
13. 彼女について私が知っている二、三の事柄
《ネタバレ》 こういうエッセイ調の映画は、当然ながらスジの緊張感がない、流れがない、そういう「流れ」の楽しみをゴダールが意図的に拒否するのだからもう仕方がない、のだが、 「流れ」が遮断されるからこそ随所にドキッとするような生々しさが滲み出る。物語に奪取されない生々しさが。 [DVD(字幕)] 7点(2012-11-08 18:26:59) |
14. できごと
《ネタバレ》 緑青い画面が、しっとりと、ジェラシーの顛末を包む。とにかくしっとりと。こういう「負け組の内面性」が万人受けするとすれば、万人が負け組の心情に通じる? [ビデオ(字幕)] 8点(2012-11-05 20:42:30) |
15. 引き裂かれたカーテン
《ネタバレ》 冷戦に勝利するという「大義名分」のあるところ命は軽い、にも拘らず人を一人殺すことがどんなに大変なことかを、なまなましく見せる。これを見れば、趣味のように「軽やかに」人を殺す『ナイト&デイ』みたいな映画は、やはり百害あって・・・とあらためて思う。ヒッチコックという人の政治的な機能をどうこう言うのは野暮な感じだ。彼は堂々と安全なポジションを取り続けた。対ナチスドイツの戦争の文脈でアメリカ入りした英国人としてまず『海外特派員』(反ナチ映画)を撮り、やがて『汚名』を撮ったときにはすでに反ナチ(自由の星としてのFBIの描き方はヒッチコック自身の「汚名」かもしれない)が時代遅れであったし、今度は共産圏に対抗する映画へと移行することになる。東ドイツの警察がちょっとナチのようなテイストで描かれている。要するに彼はベタなまでに開き直って安全地帯で(赤狩りの危険だってあったわけだから)娯楽映画作りに専念したということか。 [DVD(字幕)] 7点(2012-11-05 11:31:05) |
16. 東風
『男の子の名前はみなパトリック』には10点を献上した私も、この作品には3点が精一杯である。ま、それはやむをえないところだろう。映画の実験室に興味はないこともないが、これはちょっとひどかった。急に『彼女について私が知っている二、三の事柄』を見たくなって来た。 [DVD(字幕)] 3点(2012-09-27 20:49:47) |
17. 鳥(1963)
《ネタバレ》 結局、母(姑)の嫉妬の表現としての鳥の攻撃ということなのだ。ヒロインが鳥に襲われる様は『サイコ』に酷似するし、瀕死の傷を負ってこそ姑に赦されるエンディングである。息子を嫁に奪われる母(姑)の不安や嫉妬を外的なパニックで表現するのは無理があるはずだが、ヒッチコックという人のマザコンぶりが暴発しているのであろう。 [DVD(字幕)] 7点(2012-07-16 13:14:52) |
18. 日曜日には鼠を殺せ
《ネタバレ》 あのジンネマンのスペイン市民戦争がらみの「真面目な」抵抗映画的な作品である。映画なので敵の悪役の視点からけっこう描かれたりもする(常套表現だが、このことのみがそれなりに興味深い)。人の生死が問題になるような話なのに子供の起用がまったく迫力を欠くのは、この作品のつまらなさの一例である。 [DVD(字幕)] 3点(2012-04-22 00:04:23) |
19. キューポラのある街
《ネタバレ》 走る、きびきびした吉永小百合。吉永の最高傑作がこれ(いまだにこれ)。北朝鮮に「還る」友人を見送る際に吉永は言う「私たちもっと話し合えばよかったね」。これは泣ける。話し合うことができたのに自分の不明のせいでそれができなかった、これは泣ける(貸し切り状態の「京一会館」で私は人目をはばかる必要もなかった)。 [映画館(邦画)] 7点(2011-03-26 09:20:47) |
20. ろくでなし(1960)
この「噂の名作」を映画館で観るのに時間がかかった、かつては。ついに観ることができたときにはほんとうに興奮した。世間に追従するだけではない「若者」の映画、映画は若者のための野心的なジャンルとなったのだった。若者表現において吉田には小津との有名な確執があったし、これも日本映画史の貴重なひとこまである。 [映画館(邦画)] 10点(2011-03-25 22:40:58) |