1. 巴里の女性
《ネタバレ》 コメディではない&チャップリンが出ていないということで私も敬遠していましたが、ファーストナショナル以降は全て見てしまったのでついに本作も鑑賞しました。残りの超初期短編シリーズは流石にディスクを購入しないと網羅できそうにないですね。 結論から書くと本作「巴里の女性」は素晴らしい映画でした。もちろん多少粗削りに感じる部分も無い訳ではありませんが、この作品が101年前のものであるという事実を考えると無視できる問題です。また本作はサイレント映画であるのにシリアスなロマンスを詳細に描いてあるという事実にも驚きます。そしてチャップリン映画ではお馴染みの相手役エドナ・パーヴァイアンスを主役とし、チャップリン自身は出演せず監督に徹しているということも、この映画を見るべき理由の一つです。 上記の通り、チャップリン作品の中では極めて異例な本作ですが、落ち着いて鑑賞してみるとこれがとても完成度の高い映画であることに気付きます。現代人として意識せずに見ていますが、サイレント映画なのに人間の感情がとてもよく表現されていることに驚きます。他の方もおっしゃるようにコントラストや陰影を上手く取り入れてあり、影だけで人と成りや状況までも表現しており、これは紛れもなくチャップリンが製作者としても一流であることを示しています。 有閑紳士ピエール・ルヴェル(アドルフ・マンジュー)の振る舞いや仕草が本当に素晴らしく、この映画をより奥深いものへと昇華させています。元来田舎の底辺人種であるマリー・サン・クレール(エドナ・パーヴァイアンス)が真珠を拾いに行くシーンにそれぞれの価値観が象徴されていて、これを腹を抱えて面白がるアドルフ・マンジューの表情や仕草はとても意味深く、この映画随一の見せ場になっています。そもそも全てを自由にできるピエールが面倒なマリーに執着する必要性など全くなく、なぜ彼女を手放さないのかも興味が尽きません。 マリーお抱えのマッサージ師の表情もとても興味深く、友人の裏切りを告げ口するフィフィ(ベティ・モリセイ)の言葉にシッカリ聞き耳を立てていて、サイレント映画でここまで表現してしまうともう恐れ入りましたとしかいいようがありません。 後半、ピエールと決着をつけたマリーが駆け付けた部屋で、ジャン(カール・ミラー)と母との会話を聞いてしまった時の心情を後ろ姿だけで表現したり、ラストに泣きすがる姿も「絵」として完成されていて言葉が必要ないシーンに仕上がっています。オチのつけ方も100年後の私たちが見ても納得いくもので、極めてよく出来た映画でした。チャップリンファンでしたら見抜かっていはいけない重要な作品の一つです。 [インターネット(字幕)] 9点(2024-11-15 10:40:33)《新規》 |
2. チャップリンのゴルフ狂時代
《ネタバレ》 本作もスランプ時期といわれる時代の短編作品の一つ。ゴルフボールのコントは古典的ではありますが非常に面白く、、思わず変な声が出ちゃうくらいベタな展開で笑わせてくれます。当時ってまだルールが確立されていなかったのでしょうか。。といえるほど、ほのぼのしたコントが繰り広げられます。てか、大喧嘩ですがw 本作には話の根幹部分に大きな矛盾があります。前半のゴルフシーンでバトルを繰り広げた太っちょ紳士と浮浪者ですが、後半のパーティの席で「This is my daughter and her hasband」と、瓜二つの浮浪者が間違って知人に紹介されてしまいます。これはちょっと変で、本来なら前半のゴルフの時に浮浪者が娘の旦那と間違われていないとつじつまが合いません。(まあ、ここは華麗にスルーしましょうか) 本作ではチャップリンが上手い具合に一人二役を演じています。この一人二役のシーンは創意工夫の賜物で、最初に中の人(チャップリン)をじっくり見せることで、まるで本人が中に入っているかのような錯覚を観客に植え付けることに成功しています。古典的ですが非常に上手い演出でした。ただし、紳士と浮浪者が瓜二つである説明がありませんので少し不親切ではあります。まあこれは観客自身が脳内でシチュエーションを補完すればよいだけですが。 今の時代の映画に慣れた方には無声映画は面白くないかもしれません。でも考え様によっては無声映画は想像する楽しみが多く、半分小説、半分挿絵を見せられているような楽しさがあります。本作もなかなかウマいシチュエーションコメディで楽しませてくれます! [インターネット(字幕)] 7点(2024-11-10 14:22:44)《更新》 |
3. チャップリンの給料日
《ネタバレ》 名作を知らずに死ぬのはもったいないと思い、一生懸命チャップリンとヒッチコックを鑑賞しています。本作「チャップリンの給料日」は中期の、いわゆるスランプ時代(ファースト・ナショナル時代)の作品ですが、なかなか面白いシーンのみで構成されています。悪くいえば粗削り、良くいえば説明臭いシーンが一切なくスッキリした作品です。この時期の、いわゆる声が無い短編時期の時代がチャップリンの絶頂期じゃないかと思っています。本作も30分程度しかありませんがとにかく面白いです。 皆さん同様、レンガ、電車、恐妻、目覚ましが非常に面白い。昔は映像トリックといえばフィルムを裏表反対にするか逆再生くらいしかなく、本作では逆再生技法を極めたテクニックが堪能できます。技術に頼らず「いかにして逆再生した時に違和感なく見えるか?」を究極まで煮詰め、役者の演技で映像技術のほうをフォローしています。皆さんがおっしゃるように逆再生に見えない完成度はお見事。 恐妻に一部始終を見られていて帽子のへそくりも没収されますが、一瞬のすきにメインの財布からもう一度抜き取るのは最高です。。電車のシーン、せっかく一番に乗り込んだのに前から押し出されるのも最高。目覚ましシーンでも、散々あくびの前振り直後からの”今起きたから出かけますよ”の演技は素晴らしいです。その後のお風呂のシーンも笑えるし・・ この頃のチャップリンは本当に冴えわたっていました。 ちなみに、、お昼のシーンで従業員らのお弁当が結局チャップリンの元に集まってしまうのは笑えますww でもどう考えても普通はエレベーターにお弁当やバナナは絶対置きませんので、、冷静に分析してはいけません。チャップリンは勢いのみで楽しむ映画なのですww [インターネット(字幕)] 8点(2024-11-09 11:03:29)《更新》 |
4. サーカス(1928)
《ネタバレ》 本作は黄金狂時代とはうって変わって物悲しいラストです。しかしながらこの悲しい雰囲気がとても素晴らしく、なんだかとても気持ちイイ余韻が残る作品でした。サーカス団といえば=スパルタというのが時代を感じますが、そういえば大昔は叱られた時に「サーカスに売っちゃうよ」という迷信めいた言葉がありましたっけ。 命綱無しでの綱渡り(&お猿さん)やライオンのシーンは本当に素晴らしい。彼の凄いところは悶絶するくらい凄いことをやっているのに、それを微塵も感じさせないことです。これは本当に肝が据わっていて心が大きくないとできない振る舞いなので心底恐れ入ります。なんだかんだと批判も多いチャップリンですが、やっぱり凄いんですよ。 マンセーしている方もいますが、個人的には浮浪者(チャップリン)のラストの心変わりは少々違和感を感じました。まあ確かに彼女の気持ちを知っている浮浪者からしたら、マーナ(マーナ・ケネディ)と綱渡りのレックス(ハリー・クロッカー)をくっつけてあげるのが最大限の優しさだったのかもしれません。しかしマーナだって子供じゃないのですから、きっと今までの流れをよく考えた上で浮浪者を選んだハズだと感じました。 でも結果的にはこれがマーナの為には最善の選択だったと思うので、やはり一人で去っていく浮浪者(チャップリン)の背中に哀愁を感じずにはいられません。本当にもうラストが最高の作品でした。甲乙つけがたいのですが個人的には「黄金狂時代」のほうがより面白く、本作のほうが若干劣るような気がします。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-11-08 17:02:34) |
5. チャップリンの黄金狂時代
《ネタバレ》 音楽とナレーションがあるバージョンを見ました。どうやら私は長編になる前のチャップリン作品が好みらしく、本作「黄金狂時代」もとても楽しく鑑賞することができました。長すぎず短すぎない60分前後の収録時間のほうがこのような作風には合っているように感じます。 本作は脚本とプロット(構成)の作りこみが素晴らしく、最初から最後までキレイな線でつながっています。このきれいなライン上にバランス良くちりばめられたチャップリンのお家芸が本当に素敵で、どのシーンを切り取っても安心して見ていられます。余談ですが本作では「孤独な金鉱探しチャーリー」となっており、トランプ氏ではないのは結末のことを考えてあえて別人にしたのでしょうか。 オープニング、冬山にタキシードでやってくるチャーリーでまず笑ってしまう訳ですが、その後続くストーリーは予想に反してかなりリアルな流れです。直接描写は無いものの殺されたり遭難したりとシッカリ死人も出ます。しかし切迫した状況のハズが、続くロッジでのシチュエーションコメディでは定番のパターンでシッカリ笑わせます。靴をまるで魚のように上品に食べるシーンは映画史に残る名シーンでしょうw 街に降りてからロマンス路線に切り替わる流れもスムーズで、今回チャップリンの意中の相手は「ジョージア(ジョージア・ヘイル)」で、こちらも若干高飛車な人間性を嫌味なく絶妙な塩梅で演じていて本当に上手な女優さんでした。残念ながら他に目立った映画出演はないようです。 枕に忍ばせてあった彼女の写真と造花、再訪があると聞いて枕を破壊してまで喜ぶチャーリーが伏線となっていて、大晦日のシーンはかなり泣ける展開です。パンのダンスも素敵だし駄馬突入の流れも素晴らしかったので、、本作で最も素敵なシーンの一つだと思います。 その後の流れもスムーズかつスマートで、プロポーズしておいて本物の大金持ちになる流れはお見事です。途中挟まれているシーソーネタも退屈させず最後の最後までシッカリ楽しませてくれます。ラスト、金持ちになった事実を知らずにチャーリーをかばうジョージアも愛らしく、この流れから「ハッピーエンドですね?」「その通り、ハッピーエンドです!」のナレーションは心底名セリフ(脚本)でした。素晴らしい作品! [インターネット(字幕)] 9点(2024-11-07 15:50:21) |
6. キッド(1921)
名作を知らずに死ぬのは勿体無いと思い、チャップリンとヒッチコックを見ています。基本的に彼らの映画には大きなハズレはなく、本作「キッド」も一定以上のレベル(実際かなり高いレベル)に達しています。これが100年以上も前の作品だというのだから本当に驚きます。1921年にこのクオリティで映画を撮ったチャップリンは極めて偉大で、一世紀後の現代人が見ても十二分に納得感が得られるというのは、やはり凄いとしかいいようがありません。 無声映画で最も注意すべきは登場人物の態度と表情だと思いますが、これをチャップリン本人が意識的に演技するのはまあ当たり前にしても、7歳の子役(役どころでは5歳)であるジャッキー・クーガンが存分に演じていることに驚きます。とにかく表情豊かでしゃっちょこばった雰囲気もなく、自由にのびのびと演じています。 このジャッキー・クーガンという人物を調べてみると子役スターの第一人者でもあり、高額な子役の報酬を本人に代わって守るための法律「クーガン法」が制定される切っ掛けになった人物だそうです。当時300万ドルともいわれる多額の報酬を母親が無断で使い込んだそうで問題になったようです。Wikiによると(クーガン法(クーガンほう)は、子役が稼いだ収益の一部を子役自身のために残すことを義務つけたカリフォルニア州の法律(州法)。英語表記は「California Child Actor's Bill」。) 映画の内容としては非常にシンプルなもので、チャップリンが演じていなかったら面白くもなんともない題材だと思います。ただし、面白くないといっても人種を超えて動物の本能である”親子が互いを愛する物語”なので普遍的かつ決して色褪せない鉄板の題材でもあります。ここでひねりが効いているのが、、この親子が実は全く血縁ではないということ。パンケーキを数えて分け与えたり、寝ている最中に同じタイミングでビクついたりと・・ なんだか奥深くてホロっとさせられちゃいます。 ラストが物足りないという意見も見られますが、序盤に見られたような宗教色やら贖罪色やら強調されてもお寒いだけだったと思われます。真摯に子供の願いを聞き入れ、育ての親を呼び寄せるラストカットだけでもう十分に幸せな余韻に浸らせてくれる素晴らしい結末だったと思います。「やっぱりチャップリンは面白かった。。」これに尽きます。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-11-03 17:17:59)(良:1票) |