1. ノーカントリー
セリフが少なく、具体的な状況説明が抑えられているのだが、観ていて置いてけぼりになることはない。一つ一つのカットも長くて静寂なシーンが多いが、飽きることはなくて、むしろ緊迫感を与えてくれる。 今は何が起きているのか、どこにどのような危険が潜んでいるのか、そのようなことを観ながらに自然と考えられて、ぐいぐいと引き込まれる。 コーエン兄弟の独特なブラックユーモアはほとんどないが、欲に目が眩んだ人間が運命に逆らえないまま転落していくのは彼らの映画ではお馴染みの展開。 人間の無力さを描くのが巧い。上から目線な言い方になるが、ストーリーテラーとしての力が半端じゃないと思う。 そして、言うまでもないが、ハビエル・バルデムがとてつもないインパクトを放っている。演技を越えた強烈な"存在"と化していた。 「ルールを守って生きた結果がこれだとしたら、そのルールに意味はあるのか」というセリフが忘れられない。 一度対峙してしまったら避けられない、強大な悲劇の恐ろしさを痛感させられた。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2021-06-17 11:37:36)(良:1票) |
2. “アイデンティティー”
《ネタバレ》 この映画に隠された秘密が明らかになったときに、「じゃあ、なんでもアリじゃん!」と思ってしまう方も多いだろう。 でも、これは映画だからこそできる表現だと思うので、自分は好き。 よくこんな脚本思いついたなー、そしてこれをよく映像化できたなーと感心。 最後の最後にもう一個サプライズ用意してるし、めちゃくちゃサービス精神旺盛じゃないか! 無駄がなくてテンポもいいし、もう好印象しかない。 題名を"アイデンティティー"にしてるのも潔くて、「実は最初からネタバレしてたんだぜ」と言わんばかりでカッコいい。 しかし、モーテルに駆け込んだ"人格たち"がみんな愛らしくて、観ながら自然に応援してたので、普通にシチュエーション系サスペンスとして完結してほしかったという思いも少しある。 ジョン・キューザック・・・カッコいいな。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2020-10-05 11:50:05) |
3. イエスマン "YES"は人生のパスワード
「自分の人生に最も影響を与えた映画って何だろう?」そういうことをふと考えていると、実はこの映画なんじゃないかという結論に辿りついた。高校生のときにこの映画を観て以降、僕は“Yes”と答えることが明らかに増えたのだ。 “Yes”と答えたその先に何があるのか。それを確かめに行くのはとてもスリリングでエキサイティング。それが結果的にあまり楽しくなかった場合でも、新しい経験をしたということが一つの価値になる。普段やらないことをやれば、今まで知らなかった自分に出会える。 人は皆、“幸せ”を手にしたくて日々を生きている。そして、大抵の人は、その“幸せ”に繋がるような道を選んで生きているのではないかと思う。僕自身も、“幸せ”とは例えるなら高い階段の一番上にあって、一段一段上っていくと到達できるものだという認識を持っていた。 しかし、この映画を観ると、“幸せ”は実はそこら辺に転がっているものなんじゃないかと思えてくる。「あれもYes、これもYes」というように、様々な機会を拾いあげていって、たまたまそこに“幸せ”が混じっている。“幸せ”とはそういうものなのかもしれない。そういうことをサラッと考えさせてくれた映画。そのサラッとした感じが良かった。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-05-25 13:29:08)(良:1票) |
4. バーン・アフター・リーディング
《ネタバレ》 豪華キャストが売りの映画は数多く存在するが、本作のキャスティングにはしっかりとした意図が感じられた。様々な大作に出演した俳優たちが勢揃いしているので、「何か凄い展開が始まりそう」という期待を観客に与えてくれるのだ。そして、見事に何も起こらない。エンドクレジットが始まる頃にはズッコケたくなる。観ている側の期待を裏切るためのキャスティングなのだと思う。 この映画に出てくる人たちは皆、自分たちが特別な人間だと思っていたり、国際社会を揺るがす情報を握っていると考えていたりする。しかし、結局はその全員が特別でも何でもない人々だったことが露わになる。ジョージ・クルーニー演じる不倫男も人目の届かないところで何やらヤバそうなマシンを製造しているように見えたが、結局ただただ壮大なオモチャを作ってるだけだった。本当にただの不倫男だった。 実際は人間なんてこんなもんだよと、ちっぽけな存在なんだよと、そういうことを再確認させてくれるそんな映画だと思う。 世界中から絶賛された“ノーカントリー”のすぐ後にこれを制作したのがコーエンらしくて好きだ。常に観客の一歩先に行って遊んでいる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-05-22 15:59:21) |
5. ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
暖かい印象を受けた。衣装やセットのデザインがカラフルで暖かい。チャスと息子二人の赤いジャージ。パゴダの真っピンクのズボン。リッチーの黄色いテント。マーゴの金髪。イーライのカウボーイハット。スカイブルーの壁紙・・・などなど。 この映画、父親のせいでバラバラになってしまった家族の話で、意外と悲惨な内容だったりするんだけど、観ていて落ち込むものではなくて、むしろ可笑しい。これも暖かい色の演出のおかげなのだろう。 ロイヤルの服装の変化も面白い。22年前のロイヤルはダークなジャケットを羽織り、サングラスを掛けていて、どこか邪悪な感じだったが、家族のもとに帰ってきたときは明るいグレーのスーツにピンクのシャツ、赤いネクタイに眼鏡を掛けていた。フレンドリーな印象を与える服装で、彼が家族との絆を修復しようと考えているのが分かる。 色彩を巧みに利用した視覚的なストーリーテリングが素晴らしい。 登場人物ひとりひとりを個別に見ると、皆が変わった衣装を身にまとっていてクセを感じる。しかし、全員が集まるとバランスが取れて優しい暖かい印象が残る(DVDのパッケージでは彼らの集合写真が使われている)。家族が一つになるって大切なんだなと思った。 [DVD(字幕)] 8点(2016-05-20 15:12:31) |
6. ミート・ザ・ペアレンツ
男の看護師に対する偏見という社会的問題を指摘している映画でもあると思う。 [DVD(字幕)] 6点(2016-05-18 08:57:54) |
7. シリアナ
《ネタバレ》 ゾッとするくらい残酷ですよね。世の中、強い人間が勝ち続けるように動いていて、他の人間はそれを変えることは出来ないのかと思うと。本当に不条理だ。 ラスト、アメリカ人であるアナリストが事なきを得たのが皮肉だなと思った。直前まで王子と同じ車に乗っていたし、これは明らかに製作者の意図でしょう。王子と共に爆死したCIA工作員もカナダ人だったし。 日本に住む僕も夏は涼しく冬は暖かく快適に過ごせる設備のついた家で暮らしているが、そのための資源(石油に限らず)は外国から搾取している部分は大いにあるだろうなーと思うとやはり罪悪感を覚えてしまう。 テロが何故起きるかを考えたときも、格差社会が存在しているからだとすると、誰が被害者なのかよく分からなくなる。自分が人間であることが少し嫌になる話だ。 豪華キャストを揃えてこんな映画を制作、公開できるのは本当に凄い。こういうのを撮ったからといって、観た者のほとんどは現状を変えようと動き出すことはないだろうけど、映画という媒体を用いて告発するという行動は勇気があると思う。 [DVD(字幕)] 8点(2016-05-16 14:31:48) |
8. ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画には大好きな作品が多いのですが、本作はそこまで好きではありません。なんか「ドヤぁ」感が画面から滲み出ているようで。「この画、ドヤぁ」とか「この長回し、ドヤぁ」とか「この別の映画のオマージュっぽいシーン、ドヤぁ」とか(最後のは自分でもよく分かっていませんが)。 この監督の他の作品にある「温もり」がこの映画にはない気がするのです。個人的に、アンダーソン監督にはダメでキレやすい人間たちを愛らしく描く作品が多いイメージがあって、そのダメ人間たちに対する暖かい眼差しが彼の映画の大好きなところなのです。ここではそれがほとんど感じられなかった。もちろん、主人公がただ富のために冷徹に邁進するだけの人間なので愛らしく描く必要はなかったでしょうし、「欲」が本作の大きなテーマですから、とにかく冷たくて石油臭い映画にするという意図があるのは汲み取れます。原作ありきの映画ということもあって、普段のアンダーソン調でやる必要もなかったのでしょう。 ダニエル・デイ=ルイスのパフォーマンスは正直やりすぎだと思います。もはや彼一人の映画になっている。それはそれで結果的に完成度の高い作品にはなったけど、やはりポール・トーマス・アンダーソンの映画はアンサンブルキャストによる演技でこそ輝くと思うのです。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2016-05-10 10:04:31) |
9. ザ・スナイパー(2005)
大好き。陽気な殺し屋ジュリアンと、生真面目なサラリーマンのダニー。この二人の不思議な友情の物語です。二人の対比が絶妙なんです。とっかえひっかえで女をひっかけて遊ぶジュリアン、学生時代から付き合っている妻を愛し続けるダニー。特殊な生業ゆえに一般人には分からない孤独を抱えるジュリアン、平凡だが悩み多い人生を自分なりにしっかり生きるダニー。二人はたまたま“出張先”が同じだったことから出会う。パッと見では正反対に見える二人ですが、不思議とウマが合った。クライマックスでは、お互いの生きるべき道を相手に示し合います。これぞ友情!公衆の面前をパンツ一丁で堂々と歩くピアース・ブロスナンは見物ですよ。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2015-04-13 21:36:44) |
10. 暴走特急 シベリアン・エクスプレス
ここまでロシアに関わりたくなくなるような話をされ続けるとは思いませんでしたね。後半は少し茶番な気がしましたが、全体的には好きな雰囲気でした。暗い画が良い感じ。登場人物の描き方も好きですね。コイツは何を考えているんだろうって思いながら見られて楽しかった。主人公のエミリー・モーティマー、初めて拝見しましたが、カッコいい美人さんですねえ。ベン・キンズレーのロシア訛りも楽しい!そして、ウディ・ハレルソンがやたら良い人だったのがひたすら面白かったです。しかし、「何をする!俺たちはアメリカ人だぞ!」ってそこ強調するところなのか? [CS・衛星(字幕)] 7点(2015-04-13 21:34:23) |
11. バベル
登場人物の取る行動に理解ができないことが多かった。「何故?」の連続。でも、人間ってそういう生き物なんです。目の前にいる人間だって、頭の中では何を考えているかなんて分からない。そして、軽い気持ちで取った行動が自分はもちろん周りの人間の人生まで大きく変えてしまう。長い歴史の中で人間は分断されていった。同じ種族の中で。それぞれが集団を作り、独自の言語を生み出し、互いに境界線を引いていく。他人に対する不信感が生み出す悲劇。ちょっとした行動で深まる溝。そんな中でも人と人は繋がっていく。繋がろうとする。良い映画だと思いますよ僕は。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-04-12 12:29:39) |