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 > Cinecdocke さん
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プロフィール
コメント数 923
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自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

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1.  テトリス 《ネタバレ》 
一度はプレイしている人は少なくないのではないかという『テトリス』。 シンプルながらゲームボーイでかなり熱中していた世代の一人だ。 それを如何に映画化するともなると、ゲーム単体にストーリーを付けるのではなく、 冷戦末期の旧ソ連で誕生したゲームのライセンス争奪戦というユニークな造り。  本作を見て思い出したのは、 『アルゴ』を彷彿とさせるポリティカル・サスペンスの側面と、 『AIR/エア』で描かれたビジネス映画としての側面だ。 (どちらもベン・アフレック監督作品で、前者で幾分影響を受けていたのではないか)。  実話と言っても、展開を盛り上げるためにかなり誇張している箇所があり、 主人公の家庭が崩壊直前までに追い詰められたり、開発者が起こしたボヤ騒ぎ、 終盤のカーチェイスからのソ連脱出劇はほぼ創作だろう。 最終的に大成功を収めるのは分かるのだが、 駆け引きに、裏切りに、友情に、期待に、失望に、信頼に、と上手く絡まり合い、 ある種のフィクションとして見るならラストまで目が離せなかった。 時折、挟み込まれるゲーム的演出が心憎く、任天堂が深く関わったこともあり、日本への目配せも忘れない。  監視と密告とハニートラップと賄賂が当たり前のソ連体制側においても、 国家の利益のために主人公に手を貸す誠実な者、国家すら信用せず私腹を肥やしたい腐敗した者、 それぞれの思惑があって、いつか国が崩壊するのも分かっている。 共産主義国の恐さと閉塞感がひしひし伝わるも、一つのゲームが歴史を変えた壮大な物語に仕上がっていた。
[インターネット(字幕)] 7点(2024-11-18 22:17:34)《更新》
2.  マクベス(2021) 《ネタバレ》 
幾度も巨匠たちによって映画化されてきたシェイクスピアの4大悲劇の一つ『マクベス』。 本作はコーエン兄弟でおなじみのジョエル・コーエン初の単独作品であり、 彼のシャープな映像センスが遺憾なく発揮されていた。  何と言っても色を削ぎ落したコントラストたっぷりのモノクロ映像にとことん無駄を省いたモダンなセット。 そしてデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドを始めとする実力派の演技合戦が、 挑戦的な造りの映画の強度を支えている。  誠実な将軍が権力欲から唆されて主君殺し、やがて権力欲から安息も得られず、権力欲で破滅するまでの物語。 初心者にも非英語圏の人にも分かりやすいシンプルさは、前述のストイックな映像と連動している。 そこにシェイクスピアの台詞回しを理解し堪能できるなら、 仮想空間とも言えるような独創的な世界観と見事にマッチさせたジョエル・コーエンの力量に改めて唸らされる。 物語を復習した上でもう一度見てみたい。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-11-18 21:35:32)《新規》
3.  ぼく モグラ キツネ 馬 《ネタバレ》 
わずか34分の短編なのに傑作長編映画を見たときのような濃度と満足感。 原作絵本のタッチをそのまま活かしたラフの線を残したアニメーションに、 家までの旅路を静かに優しい眼差しで見守っている。 だからこそ、時折挟み込まれる哲学的で、下手すればあざとさも感じてしまう台詞の数々が、 スッと心に入ってくる。  「弱さを見せることは強さだ」。  「今まで言った中でいちばん勇敢な言葉は何?」。 「助けて」。  「助けを求めることは諦めるのとはちがう。諦めないためにそうするんだ」。  彼らは出会うまでどこか孤独だった。 モグラが罠にかかったキツネを助けた勇気、肉食のキツネが彼らと一緒にいる勇気、 馬が自らの秘密を明かした勇気、それが大きな力となって目的地の少年の家に導かれていく。 ところが少年は我が家ではなくて、二匹一頭の元に帰ることを選んだ。 目頭が熱くなる。  なぜ少年は雪原に迷い込んだのか、そして目的地だった我が家が本当の居場所なのか分からない。 そこを踏まえると、様々な隠喩と想像を掻き立てられる。 愛にあふれ、優しくて、温かくて、美しい映画だった。
[インターネット(字幕)] 9点(2024-11-18 21:13:58)《新規》
4.  パリ、テキサス 《ネタバレ》 
愛が深いほどお互いのことが分かりすぎてしまい、傷つき、現実と折り合いを付けられなかった元夫婦のすれ違い。 全編英語、アメリカロケながら西ドイツ・フランス合作なあたり、ヴェンダースのアメリカへの憧れと郷愁があるだろうが、 その広大で空疎とも取れる風景が家族の歪さ・脆さを内省的に、より引き立てている。  ただ、共感できるかは別の話で身勝手な男女に振り回される息子と育ての親である弟夫婦が不憫すぎる。 ロードムービー要素はそこまでなく、中盤から最後まで出番なしの弟夫婦へのフォローがないまま、 息子を妻に押し付けて再び旅に出て終了。 ケジメを付けるためとは言え、これは無責任すぎるのでは? 結局、妻は息子を弟夫婦の元に返して、振り出しに戻りそうな気がする。  劇伴のギターも相成って'80年代のアメリカンな雰囲気に痺れるも、 冷静に見たら主人公が一方的に掻き回しただけの自己陶酔にしか見えない。
[インターネット(字幕)] 4点(2024-11-09 14:12:15)(良:1票)
5.  JUNK HEAD 《ネタバレ》 
ギレルモ・デル・トロの世界観に近いものを感じる。 退廃的な廃墟の緻密なセットといい、グロテスクなクリーチャーの造形といい、 受け狙い一切なしのクリエーターが独学で本気でぶつけた情熱に、 ギレルモ本人の目に留まったのだから。  不気味で暗さを感じさせる内容ながら、 ユーモラスな登場人物にゆる~い会話の数々が上手くバランスを取っている。 生理的に拒絶しそうなのにどこか虜になりそう。  切り取られたクノコや三人組のペットの尻尾が生殖器に見えてしまい、 永遠の命と引き換えに失った生殖能力へのアンチテーゼにも見える。 生命の危機に直面したからこそ見えてくる、主人公の発する"生きている実感"があまりに皮肉だ。  3部作とのことで最終的な評価は完結編ができてから。 現段階で7点にしておきます。
[インターネット(邦画)] 7点(2024-10-26 00:22:03)
6.  ベルリン・天使の詩 《ネタバレ》 
子供は子供だった頃──。 ノートで書き出したシーンから始まる詩は、 確実に死を迎える人間になることを選んだ天使に開かれた世界そのものである。  美しいモノクロで紡がれた天使と人間のメルヘンチックなラブストーリーであるものの、 舞台がベルリンであることに大きな意味があるように思える。 かつて多くの子供たちも命を落とした第二次世界大戦の記憶が風化していき、 いつ戦火が上がるか分からない冷戦の象徴であるベルリンの壁が東西を分断している。 この舞台装置が本作を唯一無二の独特の雰囲気へのし上げている。  人々の悩みや想いを読み取れる、太古の時代より生きていた天使たち。 だが、彼らは人間に触れることもできず、ただ見守ることしかできない。 生きる喜びとは無縁の、無機質でモノクロな世界が眼前に広がっている。  やがてブランコ乗りの女性に恋をしたダミエルは、限りある命を持つ人間になることを選ぶ。 モノクロからカラーに移り変わり、存在の重さを知り、色を知り、コーヒーの温かさを知り、 好奇心というスポンジで新たな驚きを吸収していく。 それは詩で描かれていた子供たちの世界そのものだ。 先輩にあたる元天使が刑事コロンボでおなじみのピーター・フォーク本人役なのが良きアクセント。 この人が天使から俳優になった経緯を想像したくなる。  一度見ただけでは理解できたとは言えない。 眠気に襲われるときもあるだろう。 だが、寂しさによって自分自身を認識できたからこそ、誰かに心を開ける。 きっと楽しいことばかりではない、醜く汚い現実を知ることになっても、 前向きに歩いていくことのメッセージが感じられるヴェンダースの人生賛歌。 ふと思い出して見たくなる一本の一つに加わった。
[インターネット(字幕)] 7点(2024-10-22 22:32:22)
7.  ポトフ 美食家と料理人 《ネタバレ》 
小鳥のさえずり、葉が擦れる風の音、虫の鳴き声が外から聞こえ、 調理場には野菜が切られ、肉が焼かれ、鍋のスープが沸き立つ、自然と人工の音のアンサンブル。 全編にわたって長めのワンショットと少ない台詞によって調和が貫かれ、細やかな所作に適度な距離と緊張感が伝わる。  なぜ料理を作るのか?という問いかけ。 20年間、公私ともにパートナーだった美食家ドダンと女性料理人ウージェニー。 やがて結婚するも彼女が病で先立たれ、喪失感に打ちひしがれた彼が如何にして料理への情熱を取り戻していったか。 そこには哲学があり、愛情があり、物語がある。  調理場を滑らかに捉える、カメラの360度パンから回想シーンに移行していく。 ワンカットで時空を超越させるアンゲロプロスの演出を彷彿とさせる。 生前のウージェニーがドダンに問う。 「私はあなたの料理人? それとも妻?」 ドダンが導き出した答えは……もちろん分かっているだろう。  複雑なストーリーもない、意外な結末もない、伏線回収もない、さらには人物の背景や説明すらない。 まるで当たり前であるかのように、営みは誇張なしにただそこにあれば良い。 「映画にこれ以上の何がいるのか?」と本作は気付かせてくれる。 ただ無駄に豪華で贅沢な素材を使っただけの皇太子がもてなしたコースより、非常にシンプルなポトフにこそ真髄が宿る。
[インターネット(字幕)] 8点(2024-10-05 23:48:22)
8.  シビル・ウォー アメリカ最後の日 《ネタバレ》 
アメリカは世界一の経済大国であり、IT大国であり、エンタメ大国だ。 だが、新自由主義を推し進めたが故に格差が著しい大国でもあり、今なお残る人種差別に、 機会はあれど能力に恵まれなかった者にはひたすら容赦なく残酷だ。 それが圧倒的な凶悪犯罪率であり、大都市には麻薬に溺れた路上生活者で溢れ、絶望死した者も少なくない。 一方で成功した一部のマイノリティが己の価値観を強制するポリコレによって保守層の不満が募り、 上記の極端な事例によるトランプの台頭、やがて対立・分断し、長年の社会の歪みがツケになって顕著化した成れの果てが本作だ。  関わることを諦めた地方の無関心、そして「お前はどういうアメリカ人だ?」という問い。 そこには外部がズカズカ入り込めないアメリカの病みが詰まっている。 世界の警察やらグローバリズムやらを伝搬して、諸外国に首を突っ込んでいるクセにである。 そんな世界をジャーナリストは誰かを犠牲にすることでフレームに真実を収める。 初心な新人カメラマンが次第に冷徹な人間へと変わっていき、最後は主人公の犠牲をも手柄にしていくのは皮肉だ。 大統領の死体と兵士の笑顔が写る一枚に、アンミスマッチな曲が流れるエンドロールの居心地の悪さと来たら。  自分事にならない限り、自国の危機に誰も動かないだろう。 次期大統領がトランプになろうが、カマラになろうが、詰んでいるとしか言いようがないアメリカ。 外部から対岸の火事として見ている日本はどうだろうか? 大国にひたすら媚びへつらって搾取される側を選ぶのかね。
[映画館(字幕)] 7点(2024-10-04 23:59:48)
9.  カリスマ 《ネタバレ》 
刑事ものの導入部分からホラー・ファンタジーを彷彿とさせる不条理劇への移行、 時折挟み込まれるシュール・コメディな演出の数々に、 ジャンルらしいジャンルが分からない唯一無二の雰囲気が醸し出されている。  カリスマという一本の木を巡り、その存在に振り回されていく人間模様。 どの勢力にも属さないアウトサイダーだった刑事がやがて狂気の中心になっていき、 「世界の法則を回復せよ」の問いに対する「ありのまま」の対応は下界にさらなる混沌を巻き起こす。 しかし、しがらみがある以上、誰もが「ありのまま」にはなれない。 それが今の現実で、狡猾な政治屋なり、口が巧い実業家なり、寂しさに付け込んでくる宗教家なり、 彼らに振り回されて疲弊してなんて滑稽なことか。 "カリスマ"とは土壌に張り巡らされた毒そのものだ。  『CURE キュア』をさらに難解にその一歩先を行く世界をラストで描いているわけだが、 "何か"に縋り付いて自由を失った普通の人と、執着を手放しありのままを受け入れた刑事、 どちらが正常でどちらが狂っているのだろうか? 一度破壊された世界に"カリスマ"が新たな秩序を形作っていく。
[インターネット(邦画)] 5点(2024-10-03 22:56:47)
10.  Cloud クラウド 《ネタバレ》 
黒沢清の映画は多作故に当たり外れが非常に大きい。 本作は明らかに後者。  タイトル通り、雲のようにあやふやで掴みどころがない。 それは主人公のはっきりしない対応であり、転売で当たるかどうか分からないギャンブル要素であり、 ネットで増幅する姿の見えない悪意である。 悪びれることなくどこか他人事で、常に棒読み台詞で人の形をした空虚みたいに。  射幸心。 一山当てたいがために中毒性のある一過性の幸福を手に入れ、ひたすら視野が狭くなっていく。 主人公の関心は如何に安く仕入れた大量の商品が高く売れるかで、 物欲大好きな恋人よりも、猟友会の男が死んでも、殺人による死の危機を脱しても、 売り物が無事であるか、そして売れるかどうかしか見ていない。 それはSNSの「いいね」にそのまま当てはまる。 不特定多数の何かに依存し、四六時中ウォッチして、「いいね」が少なければ人は病んでしまう。  黒沢清ならではのダークな画作りと演出に、おおっと思わせるシーンはあった。 ところが中盤以降の廃工場のガンアクションで映画が既視感だらけの薄っぺらになってしまった。 ほぼ『蛇の道』のクライマックスのまんま。  助手にパソコンを使われたり(パスワード掛けろよ…)、主人公が攫われて殺されるかもしれないのに忍び込む恋人、 なぜか主人公に執着する狙う側の元職場の経営者と守る側の助手(どこかボーイズラブらしさがある)、 それぞれの背景がはっきりしないまま終わってしまった。 100%描き切れば良いわけではないが、この曖昧さのバランスの悪さが足を引っ張っている。  素性がバレ、恋人に裏切られ、これから巨大な組織に取り込まれるだろう主人公には深い地獄の入り口が待ち受けている。 自業自得と言えばそれまでで転売ヤーに対する目が厳しくなっている以上、 彼らに一切関わらない、ネットに依存しすぎない、真面目に働こう、という教訓が得られるくらいか。
[映画館(邦画)] 5点(2024-09-27 22:58:18)
11.  エボラ・シンドローム/悪魔の殺人ウィルス
ネットで検索すると時折、魑魅魍魎な映画が存在していることを知る。 噂には聞いていた特級呪物がアマプラをはじめサブスクで配信されているという狂気。 確かに軽い気持ちで、気の知れた家族や恋人や友人と見るものではない。 エロ・グロ・バイオレンス全開の傍ら、アバウトすぎる設定にナンセンスでコントのようなやり取りが同居し、 不愉快・不潔・不謹慎も合わさって闇鍋のようなカオスな様相が強烈なパワーとなって怒涛の如く押し寄せる。 全編シリアスなら見るに堪えない(これでも監督・主演コンビの『八仙飯店之人肉饅頭』よりはマシらしい)。 今の時代なら絶対に作れないし、案外しっかりとしたエンタメで最後まで目を離せなかった。  いろんな意味で記憶に残る映画で、鬼畜っぷりもここまで来ると清々しいレベル。 私はこの手の映画、一か月先はお腹いっぱいです。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-21 00:26:01)
12.  風が吹くまま 《ネタバレ》 
物語の行く末を左右する100歳越えの老婆は最後まで姿を見せることなく、 独自の風習が残る村の葬儀目当ての都会人であるテレビマンが振り回される。 携帯電話で会話するにも電波が届く、くねくね曲がる道の先の丘まで車で走らなければならず、 他方で村の人々はのんびりマイペースな分、滑稽に映る。 とは言え、一見美しい黄金の麦畑が広がる長閑な村でも、 家族への忠誠のため、面子のために辛い因習に従わざるを得ない現実がある。  死を待っていてもやって来ることなく、苛立ちを隠せないテレビマンが、 村人の生き埋め事故を切っ掛けに人命を救う側に回っていく。 このまま放っておけば珍しい葬儀を取材できるのにである。 撮影して放送して、ただエンタメとして消費されるだけ。 裏側を見ない我々は普段提供されているものに対して、それを期待しているのではないか? そこに人間の矛盾と不可思議さが感じられる。  キアロスタミの芳醇な会話劇は今作も健在で、医者の詩の引用にハッとさせられる。 「天国は美しい所だと人は言う、だが私にはブドウ酒の方が美しい」。 "風が吹くままに"生きられたらどれだけ素晴らしいのだろうか。 仕事に雁字搦めのテレビマンは執着を手放し、現実に折り合いをつけてこれからの人生を生きていく。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-20 23:59:02)
13.  わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険! 《ネタバレ》 
ネタバレ踏む前に鑑賞したが、内容が内容だけにこの手の映画は敷居が高すぎる。  恒例のシリーズ作品の映画版ともなると追加戦士が登場するが(実は本作を含め2作しか見てない)、 ただの追加戦士ならともかく、「2年連続で男子プリキュアが登場するのか」という情報が錯綜し、 界隈では意見が分かれる事態になっているからだ。  当初は「女の子だって戦いたい」というコンセプトだったが20年も続く現在において、 メインターゲットの女児による売上が少子化で減少し、 次第にリアルタイムで当時のシリーズに触れ、成人になって出戻ってきた層にシフトしている。 それが後日談だったり、舞台版のぼくプリだったりするわけだ。 そう、新陳代謝を促すために、去年はレギュラー初の男子プリキュアであるキュアウイングを発表し、 個人は個人としてそれなりに受け入れられているものの、 これが恒例になっていくことでシリーズのアイデンティティーが逸脱していくのではないかという懸念がされていた。  それで結論を言えば……出る。 ペットと飼い主の関係性がテーマであるが故に、男子ペアが登場するのである。 71分の短い上映時間の中で、詰め込むだけ詰め込んだ"お祭り映画"として頭空っぽに楽しむ内容なので、 ストーリーの整合性とか映画の深い背景はなく、歴代シリーズのクロスオーバーにワクワクして、 とにかく暴力的なまでの映像の洪水がカオスの如く押し寄せて体感するしかない。 近年の邦画でよく見られる薄っぺらなメッセージや安い感動でゴリ押ししてくるより、 映画館に見に行く人たちを第一に楽しませる姿勢において誠実だろう。  アカデミーやカンヌで賞を取るような映画ではないし、数年経てばファン以外から本作の存在を忘れ去られるかもしれないが、 短い間だけでも非日常を楽しみたいという意味ではエンターテイメントとして健全な姿だと言える。 ただ、映画館での謎の一体感みたいな、そういう異様な空気は多分忘れないだろう。 今頃、お待たせしましたと言わんばかりに追加戦士のファンアートが捗っているはずだ。
[映画館(邦画)] 6点(2024-09-14 00:26:34)
14.  消えた声が、その名を呼ぶ 《ネタバレ》 
「娘に会いたい」。 処刑から生き延びるも声帯を切られ声を失った父親が地球半周を渡り歩き、生き別れの娘たちを追う8年間。  シリアスドラマからコメディまでジャンルを分け隔てず活動する、 ファティ・アキンのフィルモグラフィーの中では最もスケールが大きい。 1910年代のオスマントルコによるアルメニア人虐殺を題材にしたあたり、 加害者のトルコをルーツに持つ監督の思いはあるだろう。  アルメニアはキリスト教を国教と認めた初めての国であり、 オスマントルコでも富裕層として成功して政治にも関わる影響力があったものの西ヨーロッパとの関係を強固にしたことで、 オスマントルコ側のムスリムとしてのアイデンティティーが脅かされる恐怖が虐殺の背景にあったようだ。 これがアルメニア人のディアスポラになった。  信仰で救われることなく強制労働で次々に倒れていく同胞、生き残るためなら簡単に棄教する現状を目の当たりにし、 死にかけの義姉を手に掛けなければならない苦しさに、宗教がどれだけ愚かで虚しいものであるかを突き付けられる。 避難先のアレッポで初めて見たチャップリンの無声映画に自分の境遇と重ね合わせ、 娘たちが生きていることを知って、生きることの根源を取り戻していく。 たとえ盗みも暴力も働き、獣に墜ちてしまおうとも、死ぬわけにはいかないという執念。  いくらでも傑作になりえた題材なのに、国家の罪と罰をストレートに描かなければならないわけではないが、 最終的に単なる親子の感動ドラマにスケールダウンしてしまったのが惜しい。 娘と再会するまでの過程が終盤につれて偶然で片付けられていく脚本の杜撰さが鼻につくし、 心震わせることなく次第に冷静に見てしまいました。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-09-08 23:20:15)
15.  TITANE/チタン 《ネタバレ》 
レビューを見て戦々恐々だったが、覚悟して挑んだら何とか見れた。  痛覚を刺激するショッキングな暴力描写で見る者の思考を停止させ、 そこからジェンダー観を云々語って、メタリックベイビー出産シーンであたかも神聖で高尚な映画であるかのように見せる。 これではカルト宗教がやってることと変わらない。 そういう意味では確かに"カルトムービー"だが。  血の繋がりのある両親からの愛情を受けられなかった女性が感じた、赤の他人である消防隊長との疑似的な親子関係。 行方不明になった息子が女装している写真を見るに、これは"受容"の物語なのだろう。 如何なる姿でも、実の息子でなくても、孤独を埋めてくれる存在への無償の愛を描きたかったかもね。  ただそれだけです。 カオスで斬新で奇を衒ったユニークさだけで観客不在。 そりゃ賛否両論のエブエブですら弱者への優しい視線はあるけど、本作にはそれがない。 どこか絵空事のような上から目線を感じるが、まあ嫌いではない。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-09-06 23:19:23)
16.  VORTEX ヴォルテックス 《ネタバレ》 
人生とは、夢の中の夢なのか?  それを象徴するかのような老夫婦の最期の数日間とその後。 ギャスパー・ノエらしいセンセーショナルな表現はほぼなく、 オープニングを除いて分割画面で生々しく淡々と綴っていく。  心臓病を抱えた夫が映画評論の仕事に打ち込む間に、他方、認知症の妻は人知れず街に出て徘徊している。 夫が妻の扱いに苦悩している間、妻は混濁した思考でガスの元栓を開き、一方的に夫の原稿を破り捨ててしまう。 息子は老人ホームの移住を提案しても、父親は家を離れたくないと意固地で平行線を辿ったまま。 「このような光景はあなたの家族にもいつか起こることですよ」とノエは容赦なく突きつける。 通常なら一画面で撮れそうなシーンですら分割画面であり、人は常に孤独であることと分断を強調する。  夫がストレスから心臓病の悪化で旅立ち、妻も孤独の中で後を追う。 粛々と葬儀が行われ、二人の生きた証だった、雑然としたアパートの部屋も跡形もなく片づけられる。 生きることはモノが多く積み重なることだが、死んでしまえば関心もなくなりモノは無価値になる。 人は思い出しかあの世に持っていけない。 その無常さの中で如何に人生を全うしていきたいか再確認する。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-08-31 02:27:12)
17.  ファミリー・ネスト 《ネタバレ》 
崩壊していく、家族の巣窟。  共産主義政権下、住居難にあえぐ当時のブダペスト。 狭いアパートで三世代が同居せざるを得ず、プライバシーも金銭的余裕もなく、 傲慢な舅にいびられ、追い詰められている嫁の"リアルな現在"を切り取っている。  夫が除隊となり、国から公営住宅が提供されると思ったら順番が回ってくる様子もなく、 舅とのストレスフルな関係から残業と称して家に帰らないことも増える。 そこから不倫しただろ、アバズレだの一方的に決め付け罵る舅は、 自分は苦労していると理想の父親像を謳いながら浮気しているクズっぷり。 夫もどちらの側に立っているのか曖昧で守ってくれず、 とうとう壊れてしまった嫁は娘を連れて出ていくも帰る場所もなく、 空き部屋を不法占拠せざるを得ない世知辛い現実が待っていた。 お役所体質で部屋はないと言い張っている職員は何のために存在している?  ここにあるのは息苦しさしかない社会で、強者が弱者を捌け口として蹂躙していく。 露骨な性暴力が共産主義を牛耳るソ連の暴力性とリンクしている。 当時、弱冠22歳で本作を撮り上げたタル・ベーラによるドキュメンタリータッチの台詞の応酬に、 後の作品群とは似ても似つかぬ作風だが、社会への疑念・怒りというテーマは初期から通底していた。 共産主義政権下のハンガリーでここまで反骨的なものを撮れたなと感嘆させられる。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-08-24 02:02:21)
18.  映画 プリキュアオールスターズNewStage3 永遠のともだち 《ネタバレ》 
偶然テレビ放送されていて鑑賞した思い出。 元になったTVシリーズと歴代プリキュアに思い入れがないと評価が決め辛いのは確かだが、 そんなストーリーの整合性なんてどうでも良いくらい、"お祭り映画"として開き直っているのが良い。 本音を言えば、横浜の街の中を敵とチェイスするシーンをもっと見たかった。  ゲストキャラの一般人の少女である坂上あゆみが一時的にキュアエコーになって、 戦いではなく対話で和解するあたりがキモだろう。 「女の子も戦いたい」という歴代のコンセプトのアンチテーゼかもしれないが、近年はバトルしないプリキュアも出てきたし、 パートナー妖精と変身アイテムの力を借りずに、ただ純粋な想いの力だけで変身しているあたり、 「女の子は誰でもプリキュアになれる」という映画のテーマを見事体現している。 (とは言え、去年から男の子もペットもレギュラーのプリキュアに変身できてしまい、時代の流れに苦笑い)。  過保護、引きこもり、といった問題を暗に含みながら、現実を一生懸命に生きることの大切さを 押し付けがましくなく描く、ファミリー映画としては及第点ではないだろうか。  余談1 劇場で中学生までの入場者にプレゼントされるミラクルライトでプリキュアを応援しようというメタ的な演出がある。 メインターゲットの女児が飽きないように考案され、シリーズ恒例になっているらしいが、 何もしなかったらバッドエンドになるんじゃないかと思った。 ある意味、応援上映の先駆け。  余談2 ちなみに20年もやっていると歴代プリキュアの年齢問題が大きく引っ掛かるが、 放送当時の時間軸から召喚されたり、社会人が全盛期の中学生の姿に一旦戻って変身するらしいです。
[地上波(邦画)] 5点(2024-08-17 23:56:09)
19.  クイール 《ネタバレ》 
遠い昔見たことがあるが、無味無臭で終わった映画。 実話の映画化でありながら犬が主役の映画としては焦点が合わず中途半端さを感じる。 演技する犬の労力やストレスを考えれば仕方ないが、盲導犬の啓発だけならドキュメンタリーで十分だろう。 ファミリー層を中心に盲導犬とはどういうものかを知って貰う意味で、この言い方は野暮かもしれない。  視覚障碍者の目となり、道標として自由を制限された生き方を決められ、老いて役割を終えていく。 長きに渡って連れ添ったパートナーの飼い主からしたら代わりが利かない存在だが最期までいられない。 かつて無償の愛情を受けたパピーウォーカーの元に戻り、看取られながら生涯を終える、 その一生に切なさと儚さを感じてしまう。  雇われ仕事かもしれないが、同年の『血と骨』を撮った監督とは思えない。
[地上波(邦画)] 5点(2024-08-17 23:24:08)(良:1票)
20.  アウトサイダー(1981) 《ネタバレ》 
タル・ベーラの長編2作目であり、唯一のカラー長編。 ゆったりした流れのカメラワークは皆無だが、長回しと踊りと酒場は初期から存在し、 セミドキュメントらしさはある。  一言で言えば、面白くない。 ただ、ソ連支配下の社会主義国だった当時のハンガリーの生きづらさは体感できた。 アーティスト気質でありながら、刹那的で楽観主義で社会不適合者に見える主人公なら尚更。  音楽で食べていけるほど甘い世界ではなく、誰もが生きていくことに必死で普通に働くだけでも余裕がない。 妻子持ちで問題から逃げ回る主人公は中途半端に一芸があったために職も長続きせず、 音楽と踊りに明け暮れ、ディスコでの妻との痴話喧嘩すらヘラヘラしてばかりで、そのツケが徴兵となって現れる。 主人公が退場したあと、主賓をもてなすハンガリー狂詩曲を弾く音楽家との対比が鮮烈だ。  大きな夢を持つ人はいるが、何かを犠牲にしなければいけない覚悟と決断があるか。 それを先延ばしして、10年後20年後には取り返しのつかないことになっている。 映像作家として成功したタル・ベーラによる世界を変える方法は「自分を変えること」。 主人公はそれができず、夢を打ち砕かれることになってしまった。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-08-17 02:43:08)
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