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 > Cinecdocke さん
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コメント数 953
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自己紹介 ハリウッドのブロックバスター映画からヨーロッパのアート映画まで何でも見ています。
「完璧な映画は存在しない」と考えているので、10点はまずないと思いますが、思い入れの強い映画ほど10点付けるかも。
映画の完成度より自分の嗜好で高得点を付けるタイプです。
目指せ1000本!

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【製作年 : 2020年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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1.  セプテンバー5 《ネタバレ》 
報道が、情報が、人を殺す、社会を捻じ曲げる。  スピルバーグの『ミュンヘン』でも描かれた、 1972年のオリンピックで起きた「黒い九月事件」をアメリカの放送局の視点で描いた社会派ドラマ。 全編の9割がスタジオのみの展開であり、直接的な犯行シーンが一切ないことから、 前代未聞の事件に対する混乱、情報が錯綜するクルーたちの判断が"報道することの重み"を突きつける。 パソコンもない時代、当時のテロップが如何に表示されていたのか興味深い。  注目を浴びたいがためのインパクト重視の報道により、犯人側に重大な情報が提供されてしまう皮肉さ。 情報の裏付けを取らないまま、人質解放のニュースを流し祝杯を挙げたその矢先の急転直下、そして最悪の結末へ…… 未曽有の事態によって生み出された悲劇を教訓に、その繰り返しによって現在の平和が成り立っている。  テレビの報道バラエティで活躍する某ジャーナリストが本作へのコメントを寄せていたが、 別の記事で偏向報道を是として開き直る姿勢に呆れ果てたことがある。 日本のオールドメディアを見ていると、過去からむしろ何も学んでおらず、 フラットな視点もないまま扇動しているとしか思えない。 視聴率さえ取れれば、メジャーリーガーの自宅を空撮しても構わないほど良心の呵責もなく、 自分たちに都合の悪い情報は"報道しない自由"を行使するわけ。 その積み重なった信頼のなさがネットやSNSといった新たなメディアへと移行するきっかけになった。 だからといってネットが真実でもなく、プロパガンダもデマもディープフェイクもあふれる世界で、 どれが正しいかを見極め、誰もが情報を発信できることに身が引き締まる思いだ。  テロの生中継という結果的に凶悪犯を喧伝させる事態にさせたこと、そして9億人がその生中継を目撃したということ。 ラストのテロップが静かに重くのしかかる。
[映画館(字幕)] 7点(2025-02-24 23:15:13)★《新規》★
2.  ブルータリスト 《ネタバレ》 
アメリカンドリームが華々しく煌びやかであるほど、あぶれた分だけ漆黒の絶望が広がっていく。 虚栄と強欲にあふれたアメリカで偽りの自由に囚われ、"アメリカ人"として生きていくこと、そして己の帰属意識とは?  「期待はしていない」と常にやつれた顔を見せる建築家。 ホロコーストから逃れても、新天地でも差別され、搾取され、凌辱されて支配される。 緩慢な地獄、そしてシオニズムへの回帰。  ブルータリズム建築物はコンクリートを中心に構成された、どこか無機質で冷たく、コントロールされた印象を受ける。 それはタイトルの語源である"Brutal"="残忍な"を意味する通り、 人間の残忍さだけでなく、狡猾さ、傲慢さ、醜さ、愚かさと卑小さを兼ね揃えている誰にでも持つ本質。 それでもなお、その先にある"到達点"こそ重要であると。 ユダヤ民族の苦渋の歴史を生々しく映しながらも、尊厳としての、抵抗としての建築物を残すこととリンクする。 そこに意思を貫こうとする"美しさ"があった。 (ただ、イスラエルのガザ侵攻を見るに、公開時期的にタイミングが悪いとしか言いようがない)。  215分の長尺であるが2部構成に分け、中盤に15分の休憩時間を差し込むことで、 意識の切り替えと後半への期待を寄せる、故に観客を退屈させない仕組みを構築している。 昔の大作映画にはそういうものがあったそうで、今までにない貴重な体験。 オープニングとエンドクレジットの意匠凝らしに、 クラシックへの回帰だけでは終わらせないアーティストとしての矜持を感じた。  そう、本作の監督はブラディ・コーベット。 ミヒャエル・ハネケのリメイク版『ファニーゲーム』に出演したぽっちゃり系の若者は生き残るため監督へと転身した。 若さ故だからこそ挑発的な作りであり、巷にあふれている消費されるだけの映画業界に対して抵抗を叩きつけた。 粗削りで暴力的とも言える野心たっぷりで、負けてたまるかと言わんばかり。 次世代のアーティストが力で押さえつけようとする時代と戦い続ける限り、これだから映画はやめられない。
[映画館(字幕)] 8点(2025-02-21 22:36:03)《新規》
3.  リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様 《ネタバレ》 
公開当時、一部の識者から「ヤバい」と言わしめた怪作をようやく見れた。 タイムスリップ、ミュージカル要素があるとは知っていたが、意外にも"普通の映画”だった。 初めてテニプリを見る人には開いた口が塞がらない凄まじさだが、 私にはもっと狂ったものを期待しただけに肩透かし感はあった。 原作漫画こそ原点で頂点ということを再確認した形だ。  CGがプレステ2並みのクオリティだなんて些細なこと。 テニスギャングやらラップバトルやら脚にラケット付けてテニスやら、アレな情報量が多すぎる。 現役時代の南次郎に見つかっても、家族共々なぜか受け入れてしまうしツッコミどころ満載。 歴史改変を始めとしたタイムパラドックスとか大丈夫?かなんて気にしない。 「だってテニプリだから」で片付けられるヤバい世界だから。  原作の最初期に登場し、終盤につれて次第に存在が透明化していったヒロインの桜乃が、 本作ではメインで活躍していたのは嬉しかった。 原作者が製作に関わっているのもあるが、『テニスの王子様』の本質に立ち返った物語になっていた。  本作には二つのバージョンが存在しており、公衆電話からの通話相手がそれぞれ違い、 己の価値観に基づいたアドバイスをリョーマに授ける(全体のストーリーに大きな変化はなし)。 クライマックスでは強さの根源を探るべく南次郎と試合するのだが、なぜか青学の先輩たちを始め、 他校の選手たちも召喚されて踊り狂うミュージカルに。 特に突然の柳生比呂士の独断場に笑ってしまった。 声優がかつて『アナと雪の女王』のハンス役の吹き替えを担当していただけあって、 わざわざこのシーンのためだけにその上手さを笑いに変えているのがズルい。  少年誌原作ながら女性ファンの心を射止め、乙女ゲームまで作り、 ドラゴンボール並みにインフレ化していくギャグバトル"テニヌ"漫画としての側面も忘れない。 老若男女、誰もが笑顔になる、それが『テニスの王子様』だ。
[インターネット(邦画)] 5点(2025-02-15 23:59:20)
4.  チャレンジャーズ 《ネタバレ》 
テニスプレイヤーの親友の二人が将来有望な一人の女性テニスプレイヤーを愛し合う。 まるで実話みたいな内容だが、本作は完全なフィクションである。 (かつて選手だったフェデラーの妻のしかめっ面から着想を得たらしい)。  親友同士だった二人の試合と10数年にも渡る愛憎に満ちた三角関係の行方を、 ラリーのように現在・過去・現在・過去という具合に時間軸を交錯させていく。 三角関係だったらどこにでもある題材だが、男二人のキスシーンに驚いた。 その二人を止めることなく、笑顔になるヒロインのタシ。 監督がかつて同性愛映画を撮っていたルカ・グァダニーノだから、普通のテニス映画にならないわけだ。  現在で描かれる試合に向けて、テニスでしか生きる意味を見出せない三人がそれぞれ切望しているもの。 試合前日に罵り、不安を煽り、心理面で揺さぶりをかける。 タシは本当に二人を愛していたのだろうか? 選手生命を絶たれ、それでもコーチとして表舞台で注目を浴び続けたい理由付けのためにアートを利用したのか? アートは自分をコントロール下に置くタシに愛想が尽きたのか? パトリックは本当はアートと復縁したいのか? それぞれの思惑が意見の分かれる曖昧なラストに結実していく。 その後の物語は一切描かれていないが、タシの"Come On!"(やった!)を見るに、 あの一瞬の理想のために三人は手に入れたいものを手に入れたのだろう。  テニス映画として見ると、コミュニケーションツールとしての役割でしかなく、別にテニスで描く必要はない、 デヴィッド・フィンチャー映画でお馴染みのT・レズナーとA・ロスのコンビによる スコアの完成度が高かっただけに拍子抜けした。
[インターネット(字幕)] 5点(2025-02-15 01:16:04)
5.  Chime 《ネタバレ》 
『CURE キュア』ver.2.0 と言えば良いのか。 ある異物が気付いたら存在していて、"恐怖"という名のウイルスがじわじわ広がっていく。 45分の中編である分、ストーリー性も含めて無駄な要素が徹底的に排除され、 如何に演出力だけで恐怖を伝えるかに注力している。  爬虫類顔の吉岡睦雄が適役。 料理教室の一生徒が異常のように見えて、後の面接シーンでは自分のことばかり延々と喋っていて不気味。 いや、妻も息子も唐突なアクションを起こし、どうしてそうなったのか説明されない。 黒沢清が追求する根源的な恐怖とは、この"分からない"にあるだろうか。  『関心領域』と同様に、本作でも音響が要。 BGMがない分、包丁で肉を切る音、空調設備の異音、空き缶を潰す音、その環境音がより際立ってくる。 気付いたら何気ないことでもストレスが蓄積されて、魔が差したように防衛本能としての暴力に走る。 音に敏感で神経質である分、避けたくなるような、悪いことが起きるかもしれないという恐怖と不安に共感してしまった。 外界の物音からシャットアウトされた映画館で観たかった。
[インターネット(邦画)] 7点(2025-01-31 23:42:23)
6.  ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語 《ネタバレ》 
いやぁ、最後までシュールだった。  映画と演劇と小説を合体させた演出手法で、作家から富豪へ、富豪から医師へ、医師から導師へ、 語り手が入れ子のように代わっていく構成が面白い。 徹底したセット撮影と仕掛け絵本みたいなアーティスティックな美術に、 これぞウェス・アンダーソンの映像センスが光る。 嘘みたいな話をみんな真剣な表情で淡々と語るのが何とも可笑しい。  映画の中心人物であるヘンリー・シュガーが意図も簡単に透視能力を得てカジノで大儲けするも、 働いたことのない金持ちのボンボンだから心の充足感がなくて、 イカサマで世界を渡り歩きながら慈善事業に奔走するのがどことなくシニカルで味がある。 40分で気楽に見られて本作でしか得られない栄養素がそこにあった。
[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-28 22:28:48)
7.  逃走中 THE MOVIE 《ネタバレ》 
本音を言えば、作品の新規登録なんてしたくなかった。 誰かが身代わりになって酷評して欲しかった。  公開当時、あまりのクオリティの低さで、 映画系YouTuberから格好のおもちゃにされてお祭り状態。 興行成績も348スクリーンの大規模上映の割に初登場5位、次週圏外という悲惨さ。  邦画恒例の『○○・ザ・ムービー』という題名のTV番組の映画化と聞けば、 粗製乱造のネガティブなイメージしか湧かない。 そう、見る前から地雷原以外の何物でもなく、本作はその中でもそびえ立つク○の中のク○映画だ。 手抜き、子供騙しでもヒットするだろうという観客を馬鹿にした姿勢が透けて見える。  TV番組自体はよく知らないが、セミドキュメンタリー要素により、 結果がその後のストーリーを反映させているという(ある程度の台本はあるにせよ)。 ただ、この劇場版は100%台本ありきで動いているため、 要である「逃走中」要素に臨場感が全く伝わらない。 ゲスト登場のヒカキン、クロちゃん、ガチャピンをはじめとする着ぐるみキャラが 時折画面に挿入され、バラエティのノリをそのまま映画にした姿勢に安っぽさを禁じ得ない。  後半の異空間デスゲームでは前半のロケ撮影で製作費が尽きたのか、 クライマックスをひたすら引き延ばすグダグダが延々と続く。 主人公の青年たちが一人一人脱落するも即ではなく、 これでもかと青春のぶつけ合いみたいな陳腐なドラマを引き延ばす。 もはや「逃走中」ではなく「会話中」だ。 ワイルドハンターに捕食されるグロ描写など一切なく、 量子化されて吸収されるCG演出に、振り切って観客を楽しませる気などないらしい。 全体的に友情物語が薄っぺらすぎてバラバラになった絆が一つになっていく説得力も感じられない。 女子高生と口の利けない弟の存在は要らないし、番組を乗っ取った謎の組織の詳細も投げ出したまま。 ケバケバしい衣装やら、チープなセットやら、本作の評価を決定付けさせるマズい予感しかなかった。 アイドル映画として需要はなくはないが、誰もが魅力も演技力も感じられず、 一週間も経たずに忘れ去られるだろう。  無許可撮影で近隣住民とのトラブルが発生し、 クルーが「あなたたちとは違うんです」と開き直る始末。 過去の栄光と成功体験にしがみつき、その選民主義と言わんばかりの傍若無人さが、 まともで才能のあるスタッフを流出させ、下請けに任せてばかりで番組制作能力を失い、 やがて大御所タレントのスキャンダルから始まった局ぐるみの大問題に繋がったのは当然と言える。 総務省が庇ってでも、偏向報道、質の低い手抜き番組しか作れないフジテレビに存在価値が果たしてあるのか? 最悪、倒産によりサブスクで見れなくなる可能性があるが、駆け込み需要で見るほどの価値すらない。  かつて、ドリフのお笑いやごっつええ感じ、トリビアの泉で楽しませてもらったが、 東日本大震災直後の粗製乱造の手抜きとゴリ押しとフジテレビ抗議デモで見限ることになった。 それから10数年して落ちるだけ落ちたフジテレビには何の感慨もない。 本作はフジテレビ末期を象徴する世紀の大愚作と言えよう。 実写版『デビルマン』のように歴史に残さず、存在自体を抹消したい。
[インターネット(邦画)] 0点(2025-01-24 23:53:22)(良:1票)
8.  シティーハンター(2024)
漫画の実写化と聞けば地雷のイメージでしかなく、それも邦画なら尚更だろう。 過去にフランス実写映画版が好評ともなれば、 その高すぎるハードルを乗り越えるためにも入念な準備を重ねたと見た。 事実、本作は懸念材料を見事払拭している。  鈴木亮平演じる冴羽獠の作り込みは圧倒的で、 コミカルな時はとことんコミカルで、シリアスな時はとことんシリアス。 どちらが本心か分からないくらいに複雑な二面性を持ったキャラクターを、 神谷明寄りの声質も肉体的なアクションも余すことなく自分のモノにしている。 フランス版に比べるとシリアス寄りで血生臭さが目立つものの、 原作への熱意もリスペクトも伝わる、"本家実写版"ならではの矜持を感じた。
[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-02 15:58:37)
9.  バード・ボックス:バルセロナ 《ネタバレ》 
マンネリを避けるため、感染者側の視点と世界観の拡張を推し進めた姿勢は買う。 ただ、主人公の姿勢と葛藤がブレブレすぎて、正体がバレてからの行動には「何を今更」と醒めてしまうことも。 極限状況でカルト宗教が跋扈して、家族の喪失感で狂っていた自分の行動に疑問を抱き、最後は自己犠牲の展開もありきたり。 感染者側のドラマはいいから、もう少しミスリードしたり、先が読めない展開にシフトした方がまだマシだった。  過去のトラウマとその感情変化が"何か"に対処できるとして軍が実験・研究をしており、続きを匂わせるラスト。 期待はしてないが、3部作としてキチンと完結させてほしい。 暇ならどうぞ。
[インターネット(字幕)] 5点(2025-01-02 15:27:49)
10.  哀れなるものたち 《ネタバレ》 
胎児の脳を移植され、甦った女性の魂は胎児のものか、それとも生前の女性のものか。 そのどちらもはっきりしないまっさらな状態のまま、彼女は知恵を得て、世界を見て、猿から人間に変化を遂げる。 そして支配欲に満ちた男が恐れるだろう、凝り固まった既存の常識をなぎ倒し、 愚かな所有物から独立して一人の女性としてのアイデンティティを確立する。 その成長過程をエマ・ストーンが余すことなく演じ切り、主演女優賞は納得。  ところが社会正義に目覚めようが、貪欲に知識を吸収しようが、倫理観と慈悲の心は身に付かなかったようだ。 フェミニズム映画のように思えて、"哀れなるものたち"とは一体誰だったのか。 現代における"正義の顔をした悪"の台頭に、本作はそれすら笑い飛ばしているように思える。 ルールを取っ払えば、男も女も悪知恵だけはある本能に従順な猿に過ぎないのだから。
[インターネット(字幕)] 7点(2025-01-01 23:58:00)
11.  ドライブアウェイ・ドールズ
コーエン兄弟でおなじみのイーサン・コーエン初の単独作品。  LGBTQへの理解がまだ発展途上中の1999年を舞台に、 レズビアンのカップルが車両配送で危険な物品の入った車を受け取ったことから始まる珍道中。 兄ジョエルが撮った重厚な『マクベス』とは対照的に、 超一流の監督と超一流の俳優で撮られた犯罪映画の中身がお下劣B級テイストという落差で、 物凄い無駄遣いしているというか、あれほどの実績を築いたからこそ肩の力を抜いた映画を作りたかったのかな?  徹底的に最後まで下らない内容でもコーエン兄弟らしい含蓄を挟み、 対照的なキャラクターである主演二人は魅力的で、ありきたりなストーリーを乗り切る。 また、一歩間違えば政治利用されやすい同性愛要素はギャグの応酬で深く考える暇すらなく、 85分でコンパクトにまとめたのは正解だった。 でも、自分には合いませんでした。  イーサンの力量なら下ネタ控えめでもう少しサスペンス寄りにできたはずで、ちょっと期待しすぎた。 次回作は兄弟合作に戻るのか、単独で続けていくのかそこが気になる。
[インターネット(字幕)] 4点(2024-12-30 23:01:46)
12.  ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
「良い映画を見たなあ」って素直に思える。 クリスマス映画の新たな古典誕生。  '70年代を意識したフィルムの質感と演出が、当時のベトナム戦争が影を落とす格差と差別を背景に、 傷と孤独を背負った者たちが如何に現実と向き合うかというテーマを普遍的なものにさせている。 三人が不本意ながら休暇を共に過ごしたことによって救われていく過程に、 たとえほろ苦い幕切れでも前向きに生きていく今後に思いをはせた。  大本命の『オッペンハイマー』がなかったら、アカデミー作品賞はこの作品だったかもしれない。
[インターネット(字幕)] 8点(2024-12-27 23:13:26)
13.  キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 《ネタバレ》 
予想以上に淡々と描かれていく先住民オセージ族への静かな虐殺。 そこには西部劇における憧憬が完全に失われ、強欲と搾取がただの日常になった。  当初、ディカプリオが捜査官役だったそうだが、ヒーロー物語になることを恐れ、本人の希望で断ったという。 そのため、デ・ニーロ演じる有力者の叔父とオセージ族の妻との板挟みで苦悩する、 "平凡な男"という美味しい役どころではあるが、流されるがまま犯罪に加担してしまう時点で感情移入もない。 妻を愛しているのは事実だとしても、家族のために真っ向から抵抗しようとした時には既に手遅れで全てを失ってしまう、 そんな愚かな男の顛末を生々しく炙り出していた。  『羊たちの沈黙』でおなじみのFBIの原型はこうして生まれたのか。 エドガー・フーヴァーの名が台詞で登場したので、彼の伝記映画はいつか見てみたい。  前作の『アイリッシュマン』に並ぶ、3時間半に及ぶ大長編だが、スコセッシのテクノカルな演出と編集は冴えていて、 静かながら最後まで見届けるパワーは相変わらず。 トレンドの若者受け推しキャラアニメ映画、漫画実写化の対極に位置する"骨太な古典"が時代の流れと共に失われていく、 かつての黒歴史が風化されていく、その現実に対して必死に抵抗する巨匠の矜持が伝わってくる。
[インターネット(字幕)] 7点(2024-12-21 12:51:09)
14.  ブリッツ ロンドン大空襲 《ネタバレ》 
タイトルの"Blitz"はドイツ語で"電撃戦"のことを指す。  1940年秋のナチスドイツによるロンドン大空襲を背景に、 黒人の血を引く少年が疎開を拒み、白人の母親の元に帰ろうとするシンプルなストーリーだが、 「戦争はやめよう、人種差別はやめよう」というメッセージの先にあるものがまるでなく、 内容が水のように薄かった。  母役のシアーシャ・ローナンをはじめ、俳優初挑戦の祖父役のポール・ウェラーの好演は言うに及ばず、 潤沢な資金を使った空襲シーンのCGの本気度、格調高い美術セットといった技術面のクオリティは高い。 だからこそ惜しい映画なのだと。  幾度の空襲に耐え抜いたイギリス国民の神話に対して異論を述べたかったのは分かる。 透明人間に近いマイノリティに光を当てたことは、黒人監督であるマックイーン監督ならではだろう。 だが、イデオロギーが強すぎて、物語と登場人物が"多様性社会"と上手く溶け合っていない。  別に祖父を死なせる必要はなかったし、最後に母子が再会しても何の感慨もなく、ただ終わっただけである。 とは言え、ディケンズの児童文学を彷彿とさせる雰囲気があり、ハードな描写が少なめのため、 児童からお年寄りまで家族で一緒に見るには丁度良いかもしれない。
[インターネット(字幕)] 5点(2024-12-01 21:18:57)
15.  テトリス 《ネタバレ》 
一度はプレイしている人は少なくないのではないかという『テトリス』。 シンプルながらゲームボーイでかなり熱中していた世代の一人だ。 それを如何に映画化するともなると、ゲーム単体にストーリーを付けるのではなく、 冷戦末期の旧ソ連で誕生したゲームのライセンス争奪戦というユニークな造り。  本作を見て思い出したのは、 『アルゴ』を彷彿とさせるポリティカル・サスペンスの側面と、 『AIR/エア』で描かれたビジネス映画としての側面だ。 (どちらもベン・アフレック監督作品で、前者で幾分影響を受けていたのではないか)。  実話と言っても、展開を盛り上げるためにかなり誇張している箇所があり、 主人公の家庭が崩壊直前までに追い詰められたり、開発者が起こしたボヤ騒ぎ、 終盤のカーチェイスからのソ連脱出劇はほぼ創作だろう。 最終的に大成功を収めるのは分かるのだが、 駆け引きに、裏切りに、友情に、期待に、失望に、信頼に、と上手く絡まり合い、 ある種のフィクションとして見るならラストまで目が離せなかった。 時折、挟み込まれるゲーム的演出が心憎く、任天堂が深く関わったこともあり、日本への目配せも忘れない。  監視と密告とハニートラップと賄賂が当たり前のソ連体制側においても、 国家の利益のために主人公に手を貸す誠実な者、国家すら信用せず私腹を肥やしたい腐敗した者、 それぞれの思惑があって、いつか国が崩壊するのも分かっている。 共産主義国の恐さと閉塞感がひしひし伝わるも、一つのゲームが歴史を変えた壮大な物語に仕上がっていた。
[インターネット(字幕)] 7点(2024-11-18 22:17:34)
16.  マクベス(2021) 《ネタバレ》 
幾度も巨匠たちによって映画化されてきたシェイクスピアの4大悲劇の一つ『マクベス』。 本作はコーエン兄弟でおなじみのジョエル・コーエン初の単独作品であり、 彼のシャープな映像センスが遺憾なく発揮されていた。  何と言っても色を削ぎ落したコントラストたっぷりのモノクロ映像にとことん無駄を省いたモダンなセット。 そしてデンゼル・ワシントンとフランシス・マクドーマンドを始めとする実力派の演技合戦が、 挑戦的な造りの映画の強度を支えている。  誠実な将軍が権力欲から唆されて主君殺し、やがて権力欲から安息も得られず、権力欲で破滅するまでの物語。 初心者にも非英語圏の人にも分かりやすいシンプルさは、前述のストイックな映像と連動している。 そこにシェイクスピアの台詞回しを理解し堪能できるなら、 仮想空間とも言えるような独創的な世界観と見事にマッチさせたジョエル・コーエンの力量に改めて唸らされる。 物語を復習した上でもう一度見てみたい。
[インターネット(字幕)] 6点(2024-11-18 21:35:32)
17.  ぼく モグラ キツネ 馬 《ネタバレ》 
わずか34分の短編なのに傑作長編映画を見たときのような濃度と満足感。 原作絵本のタッチをそのまま活かしたラフの線を残したアニメーションに、 家までの旅路を静かに優しい眼差しで見守っている。 だからこそ、時折挟み込まれる哲学的で、下手すればあざとさも感じてしまう台詞の数々が、 スッと心に入ってくる。  「弱さを見せることは強さだ」。  「今まで言った中でいちばん勇敢な言葉は何?」。 「助けて」。  「助けを求めることは諦めるのとはちがう。諦めないためにそうするんだ」。  彼らは出会うまでどこか孤独だった。 モグラが罠にかかったキツネを助けた勇気、肉食のキツネが彼らと一緒にいる勇気、 馬が自らの秘密を明かした勇気、それが大きな力となって目的地の少年の家に導かれていく。 ところが少年は我が家ではなくて、二匹一頭の元に帰ることを選んだ。 目頭が熱くなる。  なぜ少年は雪原に迷い込んだのか、そして目的地だった我が家が本当の居場所なのか分からない。 そこを踏まえると、様々な隠喩と想像を掻き立てられる。 愛にあふれ、優しくて、温かくて、美しい映画だった。
[インターネット(字幕)] 9点(2024-11-18 21:13:58)
18.  ポトフ 美食家と料理人 《ネタバレ》 
小鳥のさえずり、葉が擦れる風の音、虫の鳴き声が外から聞こえ、 調理場には野菜が切られ、肉が焼かれ、鍋のスープが沸き立つ、自然と人工の音のアンサンブル。 全編にわたって長めのワンショットと少ない台詞によって調和が貫かれ、細やかな所作に適度な距離と緊張感が伝わる。  なぜ料理を作るのか?という問いかけ。 20年間、公私ともにパートナーだった美食家ドダンと女性料理人ウージェニー。 やがて結婚するも彼女が病で先立たれ、喪失感に打ちひしがれた彼が如何にして料理への情熱を取り戻していったか。 そこには哲学があり、愛情があり、物語がある。  調理場を滑らかに捉える、カメラの360度パンから回想シーンに移行していく。 ワンカットで時空を超越させるアンゲロプロスの演出を彷彿とさせる。 生前のウージェニーがドダンに問う。 「私はあなたの料理人? それとも妻?」 ドダンが導き出した答えは……もちろん分かっているだろう。  複雑なストーリーもない、意外な結末もない、伏線回収もない、さらには人物の背景や説明すらない。 まるで当たり前であるかのように、営みは誇張なしにただそこにあれば良い。 「映画にこれ以上の何がいるのか?」と本作は気付かせてくれる。 ただ無駄に豪華で贅沢な素材を使っただけの皇太子がもてなしたコースより、非常にシンプルなポトフにこそ真髄が宿る。
[インターネット(字幕)] 8点(2024-10-05 23:48:22)
19.  シビル・ウォー アメリカ最後の日 《ネタバレ》 
アメリカは世界一の経済大国であり、IT大国であり、エンタメ大国だ。 だが、新自由主義を推し進めたが故に格差が著しい大国でもあり、今なお残る人種差別に、 機会はあれど能力に恵まれなかった者にはひたすら容赦なく残酷だ。 それが圧倒的な凶悪犯罪率であり、大都市には麻薬に溺れた路上生活者で溢れ、絶望死した者も少なくない。 一方で成功した一部のマイノリティが己の価値観を強制するポリコレによって保守層の不満が募り、 上記の極端な事例によるトランプの台頭、やがて対立・分断し、長年の社会の歪みがツケになって顕著化した成れの果てが本作だ。  関わることを諦めた地方の無関心、そして「お前はどういうアメリカ人だ?」という問い。 そこには外部がズカズカ入り込めないアメリカの病みが詰まっている。 世界の警察やらグローバリズムやらを伝搬して、諸外国に首を突っ込んでいるクセにである。 そんな世界をジャーナリストは誰かを犠牲にすることでフレームに真実を収める。 初心な新人カメラマンが次第に冷徹な人間へと変わっていき、最後は主人公の犠牲をも手柄にしていくのは皮肉だ。 大統領の死体と兵士の笑顔が写る一枚に、アンミスマッチな曲が流れるエンドロールの居心地の悪さと来たら。  自分事にならない限り、自国の危機に誰も動かないだろう。 次期大統領がトランプになろうが、カマラになろうが、詰んでいるとしか言いようがないアメリカ。 外部から対岸の火事として見ている日本はどうだろうか? 大国にひたすら媚びへつらって搾取される側を選ぶのかね。
[映画館(字幕)] 7点(2024-10-04 23:59:48)
20.  Cloud クラウド 《ネタバレ》 
黒沢清の映画は多作故に当たり外れが非常に大きい。 本作は明らかに後者。  タイトル通り、雲のようにあやふやで掴みどころがない。 それは主人公のはっきりしない対応であり、転売で当たるかどうか分からないギャンブル要素であり、 ネットで増幅する姿の見えない悪意である。 悪びれることなくどこか他人事で、常に棒読み台詞で人の形をした空虚みたいに。  射幸心。 一山当てたいがために中毒性のある一過性の幸福を手に入れ、ひたすら視野が狭くなっていく。 主人公の関心は如何に安く仕入れた大量の商品が高く売れるかで、 物欲大好きな恋人よりも、猟友会の男が死んでも、殺人による死の危機を脱しても、 売り物が無事であるか、そして売れるかどうかしか見ていない。 それはSNSの「いいね」にそのまま当てはまる。 不特定多数の何かに依存し、四六時中ウォッチして、「いいね」が少なければ人は病んでしまう。  黒沢清ならではのダークな画作りと演出に、おおっと思わせるシーンはあった。 ところが中盤以降の廃工場のガンアクションで映画が既視感だらけの薄っぺらになってしまった。 ほぼ『蛇の道』のクライマックスのまんま。  助手にパソコンを使われたり(パスワード掛けろよ…)、主人公が攫われて殺されるかもしれないのに忍び込む恋人、 なぜか主人公に執着する狙う側の元職場の経営者と守る側の助手(どこかボーイズラブらしさがある)、 それぞれの背景がはっきりしないまま終わってしまった。 100%描き切れば良いわけではないが、この曖昧さのバランスの悪さが足を引っ張っている。  素性がバレ、恋人に裏切られ、これから巨大な組織に取り込まれるだろう主人公には深い地獄の入り口が待ち受けている。 自業自得と言えばそれまでで転売ヤーに対する目が厳しくなっている以上、 彼らに一切関わらない、ネットに依存しすぎない、真面目に働こう、という教訓が得られるくらいか。
[映画館(邦画)] 5点(2024-09-27 22:58:18)
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