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1.  ユキとニナ
曖昧で植物的なユキの顔の様に、散漫にして散らかったまま、確たるシナリオもなく感性だけで撮ったような印象の映画。フランスの森から、何処かの日本の田舎にワープしたかのような幻想に帰着させるには、全体の流れからいっても不適合で無理な感じ。更にUAが唄う沖縄or 奄美民謡風の曲で、えっ、此処ってもしかして沖縄もしくは奄美なの?、と混乱してくる。あれほど日本に行きたくないとゴネていたユキは何時何処で妥協したのやら、日本での撮影はどこか河瀨直美調。
[インターネット(字幕)] 5点(2017-07-12 16:51:41)
2.  エレニの旅 《ネタバレ》 
オデッサで想起するのは、ソ連映画「戦艦ポチョムキン」。ロシア革命の引き金となった兵士の叛乱事件を描いた歴史的作品。この映画はそのオデッサから逃れてきたギリシャ人の一団の中にいる、未だ幼い戦災孤児の少女、エレニの物語には違いないが、叙事詩としての側面が濃厚。1919年が起点となっている他、特にこの映画の中で説明はないものの、オデッサからの逆難民であると冒頭にある様に、ロシア革命の余波から戦乱に拡大した頃の時代背景を基に描いていて、アンゲロプロスの一貫したテーマ、悲劇的歴史に翻弄されるギリシャ人の姿を描いている。  この後、画面は思春期の少女に成長したエレニが、付き添いと共に小船で定着後の村に戻るシーンにとぶ。会話の内容から未婚のエレニが双子を出産、否応なく里子に出され、失意からベッドに打ち拉がれている様子が映し出される。それから更に話は跳び、妻を亡くした村の有力者で養父でもあるスピロスが、エレニを妻に迎え入れる婚姻の準備がエレニの意思などお構いなしに進行していて、それに危機感を抱いたスピロスの息子、アレクシスとエレニが示し合わせ、ウエディング姿のまま手に手を取り合って出奔する。  逃げたエレニを追って、座の一員として居た劇場にまで現れたスピロスから再び逃避行をする羽目に。スピロスはアレクシスにとっては実父、エレニにとっては養父で夫という面倒な関係にある。ここまでの話は結構ドロドロとした下世話な展開なのに、主要人物を捉えるカメラ視点が常にロングで撮られているので、エレニとアレクシスの不幸なカップルにさほど感情移入がし難い。情動表現を嫌うロベール・ブレッソンの映画と違い、エレニの情緒は演技で普通に表現しており、哀感の涙が頬を伝って落ちている筈のショットですら、顔のクローズアップは意図的に外されている。  映画を観る観客とエレニの間に、アンゲロプロスの撮影は常に一定の距離的空間で隔たれているので、観る側としては感情移入することなく客観的にエレニの不幸を観てしまう心理状態に置かれる。アンゲロプロスの撮影にもズームアップが無いわけではないが、主人公でさえ、殆ど顔のアップは避けられている。せいぜい遠景に広範に撮られていた群集や風景に緩慢なズームアップで僅かに寄る程度のもの。何故にこうした手法に固執するか解らないが、ギリシャ劇場の伝統的舞台劇を観る観客の視点に基準したものかも。  アンゲロプロスの映画にいつも思うのは登場人物達に生活感(臭)がしない事。養蜂家であったり詩人だったり、旅芸人や本作の場合は旅一座の音楽団という設定。どれも定住せず流離う人々だ、流転・流浪を余儀なくされた魂の象徴とでも言いたげ。いずれにせよ労働者階級を描くことはせず、アンゲロプロスの映画はひたすら芸能で生きる人々や、何を生業としているのか判然としない人々を描く事が多い。  憔悴し横臥したエレニがうわ言のように、様々な色の制服に拘置されたと何度も同じ台詞を繰り返すのは、ギリシャの近現代史に疎い外国人には意味が伝わり難い。内戦や様々な外国軍の占領支配や、干渉を受けた負の歴史を簡易に台詞で語らせているのは解るが、3時間近くの長い映画なら映像でそれを観せ、観客に解らせるべきではないかと思う。  本作に顕著な水辺の風景シーンは、全てのものを倒立像として映しだし、官能的なまでに美しいのだが、タルコフスキーの癒しの水と同じ様に、水に何らかのメッセージ性を込めているのだろう。冒頭からラストシーンまで水尽くしで、常に彼らの傍には水面が静かな佇まいでを観せ、人の世の移ろいに対して、悠久とした時間、抗えない運命・歴史を感じさせた。ラストで遺体となった息子の傍らで慟哭するエレニの背景も水辺なのも印象的。
[DVD(字幕)] 8点(2017-04-10 12:05:40)
3.  扉をたたく人 《ネタバレ》 
今、最も世界各地でのタイムリーな話題、移民や難民問題を婉曲法で扱っており、テーマとしてはかなり重要と言えるのかもしれない。主人公は、他者との交わりを避け、殻に篭りがちで孤独に生きる大学教授のウォルターという男。彼は学会での出張で、久しぶりにニューヨークの元居た別宅のドアを開けると、そこには全く見知らない男女が住み着いていたという、どう考えてもホラーかサスペンス映画としての要素しか窺えない展開。本作の脚本及び監督であるトム・マッカーシーは、こんな面白い出だしなのに、サスペンスやホラー映画に仕立て上げるつもりはサラサラなく、所謂、不法移民を社会問題として、如何に考えるべきかを真面目にこの映画で提示・考察しているのだ。  自分の領域に否応なく関与してくる他者との関わりの中で、惰性的で不活発だった主人公の意識の活性化と、失っていた社会性の獲得が描かれる。移民・難民は様々な国から豊かさを求め、或いは自国の政治風土を嫌って、又は戦禍を逃れ出国して来る。この映画の主人公、ウォルターは家に居る異邦人のカップルに驚愕しながらも、彼らの事情を知ると、親切にも自宅に住むことを認めてしまう。青年の方はシリアからの不法入国者でタレクだと名乗る、女も同じく不法滞在、セネガル出身でイスラム教だと言う。シリア人の男とセネガル人の女が、米国では法的には存在していないも同然なのに、ニューヨークの他人の家に勝手に住み着き、家族形態の関係を築こうとしていた事になる。  客観的事実を簡潔に述べるとそうなってしまうが、不法入国滞在という事実は、ウォルター個人にとっては問題視すべき事とは見なしていないのだ。そんなタレクとはドラム演奏を教えてもらう関係の時間を通じて急速に親しくなる。もはや友人のようなタレクが、ある日、地下鉄の駅で鉄道警察に逮捕されてしまう。以後、ウォルターは自分の弁護士を差し向けるなど親身に面倒をみる。訪ねてきたタレクの母親も家に引き入れ親身に面倒をみるのだから、ウォルターは決して人間嫌いという訳ではなさそう。心配する母親の思いも受け、釈放に向け奔走するが、個人の想いなど歯牙にもかけず、法の壁が立ち塞がる。  ウォルターはタレクやその恋人、それに母親まで幅広く人間関係を築く事で活力と生きる意味を見出す。ウォルターの視点がこの映画の思想・思惟とするならば、イスラム教国の7カ国からの入国禁止令を発令するなど、忙しく大統領令を乱発中のトランプ氏とは思想信条が対極的。本作は移民問題は閉ざすより開放してこそ社会も活性化に繋がるという、リベラリストとしての隠れた主張があるのかも。駅ホームでの演奏を願ったタレクに代わり、ラストでウォルターがやるせない思いをドラムに叩きつける。どうやらタレクに教わった、魂を込める演奏法を会得したらしい。
[DVD(字幕)] 6点(2017-02-09 20:49:10)
4.  マイマイ新子と千年の魔法
アニメ映画に詳しくはないので、彩色に関わる決定権が誰にあるのか知らないが、色の使い方が、桜の咲く頃とラストの雪景色のシーンを除いて、空だけでなく全般的に何かくすんだ感じであまり美しくない。宮崎アニメの場合、季節や時間帯も色と明暗表現で明瞭に描き分けられ、このシーンは夏の午後6時頃の様だと明瞭に判り、気温すら感じ取れるが、本作ではその点が希薄。人体と顔に日差しが当る明るい部分と、影になっている部分の明度差が正確に描き分けられておらず粗雑な印象。  アニメ映画には、何より色彩設計が最重要と考え、厳密に計られて然るべきなのだ。欠点ばかりをあげつらう様で些か心苦しいが、更に言うと、眼の描き方も雑。視線を横に反らした表現など、まるでへのへのもへじで描く人顔の、の字の様、目の表現は紙に描いた人物に生命を吹き込む上で最も重要。そこを疎かにしては感情移入も難しい。アニメの場合、膨大な量をこなさなければならず、またアニメーターの技量もマチマチで、描画に一貫性が無かったり、線や動きがぎこちなかったりと、色々と問題を克服するのは難しいが「神は細部に宿る」と言うではないか、商業映画としてお金を払ってもらう以上、クオリティをもっと高める努力が必要。  ストーリーについて言うと、千年の魔法とする意図の意外性を期待したが、拍子抜け。タイムスリップしたような千年前の牛車が、新子の主観による幻視として現れるのでは、表現として弱く、説得力も持ち得ないのでは。国破れて山河あり、昭和30年頃の山口の風景描写は感心した。未舗装の道路や田園風景と野辺の花は、日本の原風景のようで、愛おしく感じられる。日焼けした現地っ子との間に発生する、色白の転校生少女との場違いな異質感と、27色の色鉛筆のエピソードも微笑ましい
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-30 14:39:17)
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