1. 未知への飛行
《ネタバレ》 前半はすこしだるい演出。 しかしこれが後半効いてくるんだから見事な演出。 それにつけてもヘンリー・フォンダの演技の素晴らしさよ。 「十二人の怒れる男」と同様、密室でのソ連書記長とのやり取りは息を飲む臨場感だった。 モスクワが消えたことに対する償いとして、ニューヨークに自ら核を落とす。 核戦争による人類の滅亡を防ぐ手段として、確かに他に手はなさそうだ。 しかし、なんと愚かな。 現在の映画なら、モスクワやNYに核が落ちるさまを映像にして観る者を絶望の淵に追いやるのだろうが、脚本と役者がちゃんとしてれば、そんなものは必要ない。 モスクワとのホットラインから伝わる核着弾の際の絶望感たるや、筆舌に尽くしがたい。 映画としてのクオリティはもちろん、核戦争のバカバカしさを考えさせられる映画。 いや、素晴らしい。 [インターネット(字幕)] 8点(2024-01-02 19:09:33) |
2. ブリット
《ネタバレ》 この時代の空気感と街並み、そして並んでいる車の形がなんとも言えない雰囲気を醸し出している。しかもマスタングから356って、センス良すぎだぜ。 そして役者に多くを語らせず、観ているものに考える余地を与える。 こういう映画、最近ではもう撮れないんだろうなあ。 警護していた証人が別人で、本人は高飛びなんてありきたりの筋書きなんだけど、ドラマチックに描こうとせず、淡々と証拠を積み重ねていく手堅さが渋い。そしてジャクリーン・ビセットの美しさに頼らない、ほのかなロマンスも丁度いい。 もちろんスティーブ・マックウィーンの喋らない演技も素晴らしく、ブリットという権力におもねらない無骨な刑事を見事に演じ切っている。 この人をアクション俳優だと思っていたが、『パピヨン』を観てから印象ががらりと変わった。 そしてロバート・ドュバル。どんな配役かと思っていたが、まさかのタクシー運転手。しかしその存在感は相変わらずで、こういう所に手を抜かない映画作りに改めて感嘆。 オープニングも今見ても最高にスタイリッシュで、文句なしのいい映画。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-08-15 09:28:49) |
3. 地球最後の男
《ネタバレ》 街が荒廃している様が、見事な終末観を醸し出している。 バンパイアウイルスという設定には、やはり時代を感じるものの、それを差し引いても面白く観ることができる映画。 地球に一人取り残されるまでの回想シーンも効果的で、素晴らしい演出。 モーガン博士だけが感染しない理由についても、ちゃんと説明的なものを押さえた丁寧な作り。 普通の人間が一番怖い。 ロメロゾンビにつながる、まさに伝説の一本を観られて大満足。 [インターネット(字幕)] 8点(2020-12-20 12:28:11) |
4. 馬鹿が戦車(タンク)でやって来る
《ネタバレ》 世間知らずのお嬢様は、悪気もなくひどいことをし、世間知らずの荒くれ者は、それを真に受けてひどい目に遭う。 観ていて切なかったのは、サブが必死に生きていること。 耳の悪い母を支え、知的障害のある弟の面倒を見る。 そんなサブが、お嬢さんから快気祝いに来てねと言われて、少しぐらい舞い上がったっていいじゃないか。 でも、そんな無神経な善意を社会は許してはくれない。 それでも、タンクで暴れ回りながら最後まで砲撃しなかったのは、弾が無かったからではなく、サブの優しさだと信じたい。 そして岩下志麻。 この映画の志麻様は、あまり良くない役回りだけど、彼女が兵六の気持ちを代弁してくれたことで、彼の死もサブの生き方も見事なまでの抒情詩に昇華している。 こんなちっぽけな畑や村に縛られないで、あの鳥のように大きな空に飛び立ちたい。 サブにも兵六にも、そんな思いがあったんじゃないだろうか。 そして映画を観ながら、国木田独歩の「春の鳥」を思い出した。 原作者か山田監督は、きっとこの小説を読んで心を動かされたに違いない。 悲しくて美しい、いい映画だった。 [インターネット(邦画)] 9点(2020-10-12 19:27:37) |
5. いいかげん馬鹿
《ネタバレ》 いやー笑った。 リアルタイムで映画館で観た人たちも、きっと声出してみんなで笑ったんだろうなあ。 出稼ぎや集団就職で上京してきた若者は、岩下志麻が口ずさむ犀星の歌で、急に切なくなったりしたんだろうか。 観終わって、そんなことが頭に浮かんだ。 映画って、庶民の大事な娯楽だもんね。大いに笑って、ちょっと涙して。 実る恋じゃないけど、弓子からもらった絹のハンカチを、ずーっと首に巻いてるやっさんがいじらしい。 岩下志麻はマドンナとしては最高にキュートだし、宿の主人や巡査など、脇を固めるドタバタな人たちも、人間味があって素晴らしい。 シリーズ化して三部作あるってことだから、他のも必見かな。 この時代の映画って、こんなに面白いんだって新たな発見。 いや、佳作。 [インターネット(邦画)] 8点(2020-10-06 00:20:18) |
6. 秋刀魚の味(1962)
娘を嫁に出した後の笠智衆さんの演技、良かったなあ。 この人うまいんだか下手なんだかよくわからないんだけど、いいんだよね。 嘘がなくて、誠実で、温かい。 自分も月を見ながら涙する時が来るのかもなあ。 そんな人生の現実を見せてくれる映画。 岩下志麻様が目当てで観たんだけど、小津監督と笠智衆さんの凄みに改めて気づかされる映画だった。 [インターネット(邦画)] 8点(2020-09-27 20:12:48) |
7. あゝひめゆりの塔
《ネタバレ》 沖縄の少女たちの受難を、見事に切り取っていると思う。 戦後23年で未だ本土復帰も果たしていなかった沖縄ゆかりの人は、この映画をどう観たのだろう。 吉永小百合演じる主人公の母親が乗る輸送船。 対馬丸でなければいいのにと願ったが、やはり対馬丸だった。 あの船に我が子を乗せた両親が沖縄戦を生き残っていれば、あのシーンをどう観ただろう。 本来なら人生の門出であるはずの卒業式は、米軍の爆撃が周囲に炸裂する中で行われる。 お国のためと命を投げ出す少女たちと比して、大本営の幹部たちの何と卑劣なことか。 少女たちの魂の何と無垢ではかないことか。 死と隣り合わせの日々を送ったことのない私には、まさに想像を絶する瞬間を生きて、そして散っていった少年少女たち。 救いのないラストも、戦争の虚しさ、悲惨さを私たちに突きつけている。 次代に残すべき映画。 [インターネット(邦画)] 8点(2020-07-26 23:38:38)(良:1票) |
8. ローズマリーの赤ちゃん
《ネタバレ》 オカルトの古典的名作、でありながら未見だったために、今回が初見。 オカルトだから、無駄に血は流れないし、音でびっくりさせたりもせず。 しかし、感じる恐怖は一級品。 じわじわと精神の自由を奪われていくローズマリーが歯痒い一方、カルト集団の構成員が金持ちや社会的地位の高い人たちであることも恐ろしい。 そして、ラストシーンでのローズマリーの表情。 たとえ悪魔であっても、産んだ子なら愛おしいと思えるのだろうか。 我が子を愛おしいと思う気持ちが神の教えに基づくのなら、最終的に神と悪魔のどちらが勝ったのかがわからなくなってしまった。 ただ、50年前の映画であっても、一級品のオカルト映画であることに間違いない。 [DVD(字幕)] 8点(2019-08-04 02:09:34) |
9. サイコ(1960)
《ネタバレ》 子供の頃に観て以来の再鑑賞。 実はシャワーのシーンしか印象に残っておらず、ストーリーは正直全くと言っていいほど覚えてなかった。 じわじわと母親の秘密に迫っていく展開は今観ても充分面白いし、剥製について熱く語るシーンなんて観るものをぞっとさせる力があると思う。 やや大味な作りではあるけど、映画としてレジェンドな作品になっていることが納得できる。 ヒッチコックはやはり偉大な監督なんだよな。 [インターネット(字幕)] 8点(2019-04-10 23:57:29) |