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1.  ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ 《ネタバレ》 
知力も体力も胆力もないアーサーが”あの”ジョーカーになるのか!という疑問が、前作の最大にして唯一の不満だったのだが、そうではなかったと分かってとてもよかった。ヒース・レジャーもホッとしているだろう。  予備知識なしで、てっきりレディー・ガガの指導でホアキンが成長して行く物語だと思って観ていたから、途中であれれとなった。考えてみればそりゃそうたよなあ。アーサーは時々才能の片鱗は見せたけど、あれではメジャーリーガーにはなれない。せいぜい独立リーグ程度の選手だ。ガガが見限るのも無理はない。  それでもホアキンの頑張りでゴッサムシティに悪のはびこる土壌はできたし、ガガという指導者も現れた。次は真のジョーカー誕生を描いてほしい。ジョーカー・ライジングかダーク・クラウンか。スーサイド・スクワット以上の爽快感を期待したい。  今回も映画としてはとても面白かった。ミュージカル仕立ても悪くなかった。まあ、前作の好きな方は不満だろうが‥。
[映画館(字幕)] 6点(2024-10-22 07:27:48)
2.  アイアンクロー 《ネタバレ》 
アイアンクローはもっともプロレスらしい技だと思っている。顔面をつかむだけで,相手は激痛に悲鳴を上げながらのたうち回る。やがて血が流れ、失神してピクリとも動かなくなる。そのまま3カウントが入ることもあるが、レフェリーがかけられているレスラーの手を持ち上げ、だらんと下がるのを繰り返して意識がないのを確認し、ゴングを要請するのが定番だ。 顔を手で締め上げられると、エイリアンに襲われた宇宙飛行士のように意識を失うなんて、どれほどの威力だと子供心に震え上がったものだ。  使い手のフリッツ・フォン・エリックも怖かった。2メートル近い巨体に、眼光鋭い冷酷そのものの無表情。ジャイアント馬場の顔面をわしづかみにして場外を引きずり回す怪力に加え、ドロップキックも軽々とこなす身体能力。悪夢を具現化したような男だった。 相手が顔を手で守ろうとした時に、がら空きになった腹部をつかむストマッククローも怖かった。あまりそういうことをしないアントニオ猪木が、顔をゆがめてもがく姿にはぞっとした。 当時のテレビ解説では「胃そのものをつかむのではなく、胃の裏側にある太陽神経叢という神経の塊をつかむために激痛が走るのです」と説明していた。何という恐ろしい技だろうと思った。後に知ったのだが、太陽神経叢は自律神経なので、つかんでも痛みは感じないらしい。アイアンクローで血が出るのは、フリッツが後年インタビューで、とがらせた爪で額を切っていたと話している。その辺も含めてプロレスらしくて好きだ。  映画では、題名にしておきながら、その技にスポットを当てなかったのが残念だ。兄弟で一番レスラーとして成功したケリーの見せ場は、ハーリー・レイスの倒れ込み式ヘッドバットをタイガークローで迎撃するところなのだが、それも出てこない。 ケリーがケビンより小さいのも納得がいかない。ケビンが報われなかったのは、体と、レスラーとしての線が細かったのが原因なのに、このマッチョぶりでは無理がある。フリッツがデビッドとケリーに期待をかけた理由は、体の大きさを見ればすぐに分かるのに、これではさっぱり理解できない。 アップ画面を多用したファイトシーンに迫力がないのは仕方ないとしても、ケリーの成功を含め、レスラーの華やかな面をきちんと描いていないので、明暗がはっきりしない。一族最大の悲劇、ベイビー・フォン・エリックと言われた末弟のクリスが登場しないのも、物語のメリハリを欠く要因になっている。  最後もどうせ空想シーンを入れるなら、デビッドにもケリーにも不幸が訪れず、弟たちには遅れたものの、ケビンもようやく世界王座を手に入れ、「やったな兄貴」「お前たちのおかげだよ」とリング上で喜び合い、マイクがバンドで演奏しながら祝福するという、明るい夢にしてほしかった。
[映画館(字幕)] 6点(2024-04-17 16:48:01)(良:1票)
3.  ゴジラ-1.0 《ネタバレ》 
初めに言っておきますが、評価低いです。理由は後述。 まず普通にいいところ。 ゴジラの造形。無機質でシン・ゴジラよりも無気味。意味は分からないが熱戦を出す前のひれの変化もかっこいい。無造作に人々を踏み潰すのが怖い。 海上の戦いが迫力十分。どうやって撮って、いや作っているのだろう。艦船の無力感がすごい。 あとは、子役の女の子が上手、終戦後の銀座の風景がすてき、浜辺美波がきれいなど。 普通に悪いところ。 何を考えているかわからないのがゴジラの怖いところなのに、なぜ蚊のような戦闘機の攻撃であれほど激高するのか。目的(そもそもわからないけど)を忘れて海に戻っていくのが不思議。 神木隆之介はなぜ大戸島で機関砲を打たなかったのか。脚本上の都合としか思えない。撃ったところで意味がなかったのは青木崇高にもわかるはず。 フロンガス攻撃で本当に倒せると思ったのか。浮上作戦はより意味不明。オキシジェンデストロイヤーは偉大だった。 吉岡秀隆の「脱出装置もない戦闘機」のセリフと青木崇高のコクピット説明の場面は、どちらかもしくは両方が不要だった。直前でラストが分かってしまう脚本はいかがなものか。 浜辺美波が不死身すぎ。SISUの主人公と同じくらい。生きているんだろうなと思ったら、案の定だった。脱出装置と同じくらい意外性がない。さらに言うなら浜辺美波と何年も一緒に暮らして手を出さない男はこの世にいない。  で、それだけなら評価6くらいでもいいが、どうしても嫌なのは全編に漂う戦争礼賛の空気。 「戦争っていいもんですなあ」「まったく! 人材育成には欠かせません」「戦争に行ってなくても役に立つでしょう」「戦争に行ってないやつでも出来ることはあるんだ」…。登場人物のそんなセリフが聞こえてきそう。 ほかに方法がないことの説明が不十分なままでの神風特攻隊再現は、さすがにやめてほしい。脱出装置があったからいいというものではない。お国のためなら命はいらないという考え方は、我慢できない。神木隆之介が特攻から逃げたのは、結局いけないことなの?
[映画館(邦画)] 3点(2023-11-09 13:21:31)(笑:3票) (良:4票)
4.  イニシェリン島の精霊 《ネタバレ》 
多分間違っていると思う、個人的解釈。  元音大教授が退任後、愛犬とともに離島に移り住む。出会ったのは驢馬のような純朴な男。「やあ、僕の名前はパードリック。牛を飼っているんだ。島のことなら何でも聞いてくれ。パブ?この辺には一軒しかないんだ。よかったら案内するよ。じゃあ、2時に迎えに来るね」 島の生活は楽しかった。家の前はすぐに海岸。いくら見ていても飽きない。2時になったら驢馬のような男と一緒にパブに行く。馬鹿話をして、笑って、一日が終わる。そして翌日も同じ暮らしが続く。内戦の砲音は海の向こうだ。  ある日、一人でレコードを聴いていてふと気づく。残り少ない日々をこんな無為に過ごしていていいのだろうか。自分には音楽がある。最後にもう一曲作ろう。驢馬男の馬の糞の話を聞いている暇はない。 驢馬は愚鈍でしつこい。何度、外に出ていろと言ってもあきらめずに家の中に入ってくる。驢馬男も一緒だ。俺の時間を無駄にさせるなと、いくら言ってもあきらめない。おれに話しかけたら、指を切ると脅しても変わらない。ならば本当にやるしかない。 目が覚めると、元に戻っていると思っている驢馬男のせいで左手の指はなくなったが、曲は完成した。一方で驢馬男の精神とかわいがっていた驢馬を殺してしまった。海を見つめるしかない。  驢馬男は友情を失った。最愛の妹は、閉塞感に耐えられず島を出て行った。死んだ驢馬の代わりに牛や馬を家に入れたが、満たされない。元友を焼き殺すこともできなかった。楽しいまま続くと思っていた生活は消えてしまった。海を見つめるしかない。  あえて描かなかったのだと思うが、仲良く過ごしていた日々のシーンがあってもよかった。観客に想像しろということなのかな。
[映画館(字幕)] 7点(2023-02-08 14:45:41)
5.  MUTE ミュート(2018) 《ネタバレ》 
ブレードランナーの世界観のハードボイルド。雰囲気はいいのだが、ストーリーがイマイチ。恋人を探す過程が行き当たりばったりなのはいいとしても、ただ操られているだけというのはちょっとどうなの。 主人公がしゃべれない設定もうまく生きていない。というか、むしろ邪魔。最後に少女と二人で話すシーンも盛り上がりに欠け、感動的とはいいがたい。主人公よりも悪役二人の方が書き込まれていて、魅力的。だが、そいつらも含めて悪役がみんな弱っちい。あれで街を締めているとは思えない。近未来なのに、肝心なものが時々ローテクなのも気になった。 見終わってから「月に囚われた男」の監督と知ってびっくり。あの傑作は偶然の産物だったのか?
[インターネット(字幕)] 6点(2022-06-30 10:07:17)
6.  ファーザー
映画館だから最後まで観られたが、家だったらおそらく途中でやめていただろう。話が進むにつれ、母に対する申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 私の母も認知症で一人暮らしができなくなり、わが家に来て、施設に移り、最後はホスピスで6年前に亡くなった。彼女の心象風景もこんなだったのだろうか。 「覚えてないの?」「もう忘れた」「さっきも言ったように」―。なんで、こんな言葉を何度も口にしてしまったのか。困惑した母の表情が脳裏によみがえる。物がなくなったとか、家に帰りたいとか必死に訴える姿に苛立ったり、苦笑したりした自分に腹が立つ。もうやり直すことができないだけに、つらく、悲しい。  映画の話をすると、アンソニー・ホプキンスはアンソニーを演じているのではなく、アンソニーその者にしか見えなかった。大俳優に逆に失礼かもしれないが、ドキュメンタリーを見ているようだった。次々とわが身に降りかかる、理不尽で理解不能な出来事の数々。何を言っても否定され、時には怒り、時には泣いて、それでもすべてを受け入れるしかない。ありのままの認知症患者がそこにいた。 認知症。矛盾と不条理に満ちた、時の牢獄にとらわれた日々は、どれほど苦しいか。想像すると、背筋が寒くなる。やがて自分もそうなることを思うと、正視するのが苦しくなる。 身内に認知症患者を持ち、似たような体験をした人は、本作を冷静に観ることはできないだろう。映画好きの女性の友人は「アルツハイマー病の父と娘…、10年ほど現実だったので、観られないですね」と言っている。ほかにも同じ思いの人は多いはずだ。 ただ、父母が元気な方、認知症でもまだ深刻でない方、そんな人たちにはぜひ観てもらいたい。私のような悔いを残さないためにも…。
[映画館(字幕)] 8点(2021-06-14 17:01:44)(良:2票)
7.  ザ・ファブル
原作を途中まで読んだ段階で、Amazon primeで視聴。予想外に面白かった。何より評価すべきは、原作を切ったり、つまんだり、くっつけたりして、さらに足りないものを加えた脚本の力。いやあ、素晴らしい。 それも岡田准一という存在があってのとことではあるわけで、これだけアクションをこなして、ジャッカルで大笑いするのは、ほかの役者ではありえない。しかも木村文乃、山本美月の美女二人と代わりばんこにアップになっても、全く見劣りしないルックス。まさに和製トム・クルーズ。 ほかの出演陣もいい味を出していたが、特筆すべきは柳楽優弥。この不気味さは表現のしようがない。「ノーカントリー」の殺し屋に匹敵すると言っても褒めすぎではないだろう。それなのに案外活躍の場がなかったのが少し残念。原作を無視してでも出番を増やしてほしかった。次作は劇場で見るかな。日本映画も捨てたものでない。
[インターネット(邦画)] 6点(2021-02-22 11:17:17)
8.  異端の鳥 《ネタバレ》 
ジョジョ・ラビットの明るい部分を根こそぎ奪い去ったダークサイド版。平日夜にもかかわらず結構入っていた観客が、一度もくすりともしなかった。ストーリーだけでなく、登場人物の表情も、美しい風景も何もかもが暗い。モノクロだからというのではなく、描いている世界が心の奥底を寒々とさせる暗さを持っている。 正直、ユダヤ問題は一般の日本人の理解は及ばない。私も分からない。ペインテッド・バードは主人公の少年を指すのだろうか、それともユダヤ人を指すのだろうか。いずれにせよ自ら望んでいるわけでも目指しているわけでもないのだから、異端という言葉は当たらないと思う。原題通りでよかった。 首まで埋められた少年の周りにカラスがいるポスターを見て、ホラーではないかと思っている方へ。ホラーではありません。安心して見てください。代わりに違う種類の恐怖が待っています。 169分という上映時間にためらっている方へ。大丈夫です。少しも長いことはありません。ただ、見終わった後に沈んだ気持ちが長い時間続きます。
[映画館(字幕)] 7点(2021-02-17 13:20:31)
9.  パパはわるものチャンピオン
一番良かったのはプロレスシーンを本物のプロレスラーが演じていること。おそらく、これまでのどんなプロレス映画(ドキュメンタリーを含む)よりも、質の高いファイトシーンが見られる。 2番目に良かったのはそのプロレスラーに必要以上の演技をさせなかったこと。“主演”の寺田心をはじめ、木村佳乃、仲里依紗、大泉洋ら、無駄遣いと言っていいほど豪華な俳優陣が、芝居はすべて引き受けている。レスラーたちのセリフまわしや表情の作りにハラハラドキドキすることなく、話がスムーズに進むので、観客も安心して見ていられる。 新日本プロレスの絶対的ベビーフェイス、棚橋弘至がヒール役をやっているのが、設定の柱。ただ、ヒールに転向した理由がけがというのは、納得のいかないところ。ヒールを軽く見ているのか! そんな不満は終盤できれいにひっくり返される。思わず涙腺が緩む入場シーンだけでも、この映画を見る価値はある。プロレスファンの気持ちを分かっていらっしゃる。 レスラーの演技について批判的に書いたが、唯一ファンキー・ウェポン田口隆祐は別。今後も銀幕に出番を与えていただきたい。
[ビデオ(邦画)] 7点(2020-03-25 10:20:09)(良:1票)
10.  ターミネーター:ニュー・フェイト
ええ、面白かったですよ。アクションはすごかったです。息つく暇もありませんでした。でもそれだけ。映画館を出たら、何も残っていませんでした。 新しいものがないのが、皆さんの不興をかこっている原因でしょうか。いいかげん、液体金属よりも強いものは出てこないですかね。 そもそもシュワちゃんの肉体ありきのシリーズなのだから、ご本尊が年を取って衰えてしまっては、どこを見ればいいのか、見せればいいのか、お互いに分からなくなります。追いかけてくるヤツが見た目地味なのが売りなのでしょうが、シュワちゃんに面影がないのだから、ここはロック様を適役、守護役にグェンドリン・クリスティーを据えるくらいのことはできなかったのでしょうか。
[映画館(字幕)] 5点(2019-12-17 13:55:44)
11.  ジョーカー 《ネタバレ》 
 とんでもない親から生まれて、世間からひどい仕打ちを受けても、ちゃんと成長している人はいくらでもいるはず。 そこらの犯罪者じゃなく、稀代の大悪人誕生の原因を生まれ、育ちのせいで片づけてしまう発想がそもそも陳腐で救いがない。誰でもジョーカーになる可能性がある―と言いたいのだろうが、あんな怪物になる人間はいない。   もう一つ不満なのが、ジョーカーが能動的には何もしていないこと。地下鉄の殺人は身を守るためだったし(過剰防衛だけど)、母親を殺したのはうそを消し去って、自分の尊厳を守ろうとしたのだし(過剰防衛だけど)、元同僚を殺したのは責任を押し付けて自分を守ろう(以下略)、デニーロを殺したのは笑いものにされそうになった自分を守(以下略)。最後も暴徒に助けられて、踊っているだけ。 悪に変身するきっかけも、母親のカルテというのはあまりにも弱い。母親が変なのは、自分も気がついていただろ。   パーティー・クラウンが大量発生したのはよかった。いっそ、元祖ジョーカーは暴動に巻き込まれて死に、そこに現れたマスクを被った真ジョーカーが遺志をついで、バットマン父、会社のボス、病院の職員、黒人母娘を殺し回るほうがよかった。 そしてラストは燃え上がるゴッサムシティをバックに真ジョーカーがマスクを脱ぐと、下からメークした顔が出てくる。病気ではなく心の底からの笑いとともに―というのは、どうでしょうか。   最後に、くれぐれも誤解のないように言っておきたいのは映画はよくできていて、面白いということ。ホアキン・フェニックスも素晴らしかった。ただ、知力も体力も足りない今作のジョーカーが、ダークナイトのジョーカーになるのは納得いかない。それではヒース・レジャーが浮かばれない。
[映画館(字幕)] 6点(2019-11-18 11:41:18)(良:2票)
12.  イエスタデイ(2019) 《ネタバレ》 
 かわぐちかいじの「僕はビートルズ」はタイムスリップでビートルズが知られていない世界を作り、本作はパラレルワールドに飛ぶことでビートルズのいない世界を作った。  共通しているのは「盗作」との心の葛藤だ。「僕は…」は結局それを消化しきれなかったが、本作はコメディーということもあり、きれいに着地させたと思う。強引な着地との見方ももちろんあるだろうが、「ビートルズのいない世界は退屈」というセリフに免じて許してほしい。  ジョンが出てくることに賛否両論があるが、私はポールがいなくてもビートルズは存在しうるが、ジョン抜きではだめと考えているので、全く問題がない。それより、世界が分かれたのはジョンが漁師になったから? タバコが発明されなかったから? コカ・コーラが誕生しなかったから? というのは気になった。  個人的にはエド・シーランの存在を恥ずかしながら初めて知ったのが、本作を観た最大の収穫。このところ、ずっと彼の曲を聴いている。ただ、オアシスが消えるのは当然としても、エド・シーランはビートルズがいなくても生まれたのだろうか?
[映画館(字幕)] 8点(2019-11-15 14:48:21)
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