1. ドライブ・マイ・カー
《ネタバレ》 有名作家の原作でしかも大きな賞を取った映画、ということにつられて、家族みんなで見に行った意識高い系一家の悲劇は結構あったでしょう。あのシーンの必要性は感じられなかったですね。少なくとも、それを匂わす描写くらいに抑えて欲しかった。大人でさえ、直視に耐えられない人もいたのでは無いでしょうか。私のように。という訳で、登場人物の心理や葛藤は伝わり、胸を打ちました。主人公たちの表情や言葉、そして淡々とした映像が醸し出す、行き場の無いこもった負の雰囲気も、何故か心地よさが感じられて、やはり賞をを取るだけのことはあるなぁと思います。まあ、とは言っても、あのシーンはねぇ。 [インターネット(邦画)] 7点(2024-07-06 16:47:43) |
2. スティング
《ネタバレ》 この作品の面白さは、非情な大物ギャングの悪役ロネガンを、仲間の仇を討つため立ち上がった詐欺師達が一致団結して騙すことと、それを固唾を呑んで見る観客をも騙してしまうことの両方を見事にやる、という点に尽きる。そのための巧みな仕掛けが随所に張り巡らされ、ロネガンも我々もこの罠にはまります。嫌味のない心地よい騙され方です。それだけに演出が見事ですね。列車でのポーカーのシーンや、謎めいた大物殺し屋のエピソード。あるいは、フッカーが上手く行きかけた頃に、絶妙なタイミングで邪魔に入るスナイダー刑事など。巧妙に計算された騙しのテクニックといった描き方。この作品の世界に一気に引きずり込まれてしまいます。細かい描写も秀悦で、例えば、フッカーが仲間を心配して電話するシーンで、電話しているおばさんを無理やり追い出して電話するが、終わって走り去るフッカーにおばさんが「金を返せ」と絡む。フッカーが人恋しさでロレッタを訪ねる時にお向かいさんのお婆さんが顔を出すシーン。大物詐欺師ゴンドーフがベッドと壁の隙間に酔い潰れて寝転がっている、期待を裏切る意外な登場シーン。詐欺師達が血を流すことなく騙すことだけで物語を完結させる(若干例外もあるが)、観る者を裏切らない小気味良さ。映画の魅力満載の作品です。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2023-12-02 21:39:02) |
3. ウインド・リバー
《ネタバレ》 どこか達観している感のある孤高のハンターのコリーは、ピューマの駆除を依頼されて山に入るが、そこで若い女性の変死体を発見する。それは親しいネイティブアメリカンの友人マーティンの娘だった。コリーも過去に娘を亡くしていた。サスペンス風の導入部だが、捜査が進むにつれて事件の背景にあるアメリカが抱える負の側面が顕になり、重い社会派作品としての印象が残った。FBIから派遣されたのは新米の捜査官ジェーン。教科書通りの捜査をするがネイティブアメリカン居留地の複雑な現実には通用しない。コリーらの協力もあり何とか事件は解決するが、犠牲者が出てジェーンも負傷するなど後味は悪い。だが、決して問題点だけを顕にしている描き方ではない。コリーがマーティンを慰める言葉や、そのグレた息子チップを諭す言葉には、我々をも鼓舞するメッセージが込められていると感じた。娘の死を受け入れられずにいるマーティンに、「事実を受け入れ苦しめば、娘と心の中で会える」と言う。また、置かれている環境が悪いと嘆き「怒りが込み上げて世界が敵に見える。この感情がわかるか」というチップに「わかる。だが俺は感情と戦う。世界には勝てない」と言う。誰であれ自分の境遇や不幸を嘆くだけでなく、その現実にしっかりと向き合えば、道は開けるという示唆なのかも知れない。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-11-28 20:55:03) |
4. トーマス・クラウン・アフェアー
《ネタバレ》 「華麗なる賭け」フリークの私としては、やはりキツ目の点数になりますね。マックイーンとダナウェイの大人の恋愛に酔いしれた印象が、なんかチャラチャラしたなり上り実業家とキャリアウーマン丸出しの自尊心の塊女の恋愛(に見えました)になってしまって。とはいえ、ストーリーは良く出来ていましたし、脇役陣もそれなりで、程々に楽しめました。というわけで、せいぜい5点かな。まあ、そうは言ってもフェイ・ダナウェイ様を出していただきましたので2点プラスですね。良いですね、年とってもキュンと来ます。何を隠そう、彼女のファンなもんで。そして、オリジナルのテーマ「風のささやき」も使っていただいて。もう名曲ですもの。ミシェル・ルグランの傑作テーマ。これは良い。もう2点プラスさせていただきます。 [インターネット(吹替)] 9点(2023-11-25 17:52:57)(良:1票) |
5. ゴッドファーザー
《ネタバレ》 見直すたびに新たな発見がある。自分の気づきなのだが、見直す事の楽しみになっている。マイケルが一家の家業と距離を置くカレッジボーイから、徐々に、マフィアの世界に足を踏み入れていく過程が丁寧に描かれている。無理のない、納得できるエピソードが要所要所にあるのだが、ポイントは、あの病院のシーンではないかと思えてきた。父が撃たれて入院し、見舞いに行くが仲間の見張りが誰もいない。警察に追っぱらわれたらしい。危機を察知して、とっさに父をベッドごと別室に移し、見舞いに来た男と一緒に病院の入り口に立ち、仲間の応援を待つ。緊張で震える男を鼓舞して、暗殺に来た敵をハッタリで威嚇し、危機を乗り切るマイケル。この後の、レストランでの暗殺のシーンが強烈なだけに、つい印象が薄くなってしまっていたが、この病院での振る舞いが、正に明確な分岐点であり、最後に描かれる、冷酷で情け容赦のない新しいゴッドファーザーの誕生シーンに結びついていると思えた。まあ、また見直した時に、別の事を思うかもしれないけれども、あそこから、マイケルの顔の表情が、アル・パチーノの演技なのだろうが、明らかに変わった。映画としては文句なし、傑作だ。 [インターネット(字幕)] 10点(2023-10-30 21:27:13)(良:1票) |
6. クライ・マッチョ
《ネタバレ》 この作品もそうだが、「グラン・トリノ」や「運び屋」などクリント・イーストウッドの監督作品を見て感じるのは、こういう歳の取り方をしたいなぁという憧れだ。若い頃の成功や、挫折、屈折、愛する人との死別、家庭不和などの辛い経験を経て、晩年と言われる歳になった時の何に対しても達観しつつもこだわりを持った想い。気持ちを抑えて無理はしないが、逃げたりはしない。約束は守りながらも、困難に直面する者へは積極的に関わって助けていく。淡々としつつも信念を持った生き方。それにしても、イーストウッドにはカーボーイハットが似合う。このシーンを見ると、ああ、イーストウッドの作品だなぁという安定感がグッと醸し出されるから不思議だ。とはいえ、演技とは思えぬ背中を丸めた歩き方などは、老いには勝てないなぁとやや寂しさも感じた。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-10-15 17:55:14) |
7. 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け
《ネタバレ》 シリーズの中でも傑作に入る出来でしょう。特に、寅さんの男気が前面に出ている。金を騙し取られた芸者ボタンへの想い。「裁判所が奴の肩を持つのなら俺が仇を取ってやる。明日刑事が来て、車寅次郎はここの者ですかと聞かれたら、縁もゆかりもない者と言え、そうしないと、満男が犯罪人のおいとなる」そう言って出ていく寅さん。ここは泣ける。そして、有名画家に芸者ボタンのために絵を描いてくれと頼む。断られると、啖呵を切って捨て台詞を吐いて出ていくが、画家が絵を送った事を知ると、東京に向かって手を合わせ、お礼を言う。マドンナへの愛情というより、男寅次郎の、女へのいたわりが前面に出ている。決して、失恋もしていない。 [CS・衛星(邦画)] 9点(2023-07-30 20:55:53)(良:1票) |
8. イコライザー
《ネタバレ》 主役がデンゼル・ワシントン。姿を見るだけで社会派の雰囲気が滲み出る。地味なマーケットの従業員だが、何か訳ありの雰囲気を醸し出す。深夜のレストランで一人読書をする。しかも、ヘミングウェイの「老人と海」。そして、更に訳ありそうな娼婦が登場して、これはもう間違いなく重い社会派ドラマかな、と思いかけたところに、娼婦がボコボコにされ、組織のロシア・マフィアが登場して軌道修正。主人公が組織のメンバーをあっさりと片付けて、急にB級テイストに。訳ありのネタバレが元CIAとわかると、安心してこのアクション活劇に入り込める。不死身の主人公が次々と悪人を倒して行く。危ない場面もなく、倉庫での死闘が間延びしてやや間抜けに感じるが、それでもロシアのボスまであっという間に始末する。良いね、この爽快な終わり方。堅気に戻った娼婦の顔が可愛く、少し社会派に戻る。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-11-05 20:25:10) |
9. スタンド・バイ・ミー
《ネタバレ》 自分のことを町の皆が知っている。学校での給食費のトラブルも、家族の悲劇も、父親の悪弊も、兄弟の何もかもが周知されているのだ。プライバシーが無いどころでは無い、何をしてもすぐに全てが町中に知れ渡ってしまう。これが70年代のアメリカの田舎町だ。息の詰まる毎日に、大人の言動に少年たちは傷付きながらも、お互いに慰め励まし合い、いつか町を出ることを夢見る。日本の田舎で過ごす少年たちと同じだ。純粋であるが故の真剣さ、繊細さ、そしてお互いを思う優しさ。大人になって振り返れば確かにノスタルジーではあるのだろう。だが、それだけで語るには余りに言葉足らずだ。おそらく、誰もが感情を揺さぶられる切ない体験をしているからだろう。この映画は、こうした自分の体験を蘇らせてくれる。 [インターネット(字幕)] 10点(2022-06-19 19:34:11)(良:1票) |
10. フィールド・オブ・ドリームス
《ネタバレ》 2021年8月12日、ヤンキースとホワイトソックスの試合がアイオワ州ダイアーズビルで行われた。そう、この映画で使われた球場。両チームの選手がトウモロコシ畑から出てくる入場シーンの演出に歓喜して歓声を送るアメリカの野球ファンに、この映画に抱く思いを強く感じた。世界の野球人口は3500万、アメリカだけでも1500万、その頂点MLBの選手はわずかに1200人。まさにきらびやかなスーパースター軍団メジャーを目指して挑戦し、挫折する若者がどれほどいるか。彼らにも、それぞれの人生があった。レイの父も医者になったグラハムもそうだった。夢を追いかけても叶わず違う道を歩んだ者がほとんどなのだ。夢は野球に限らない。他のスポーツでも、学問でも芸術でも同じだろう。この作品は、挫折を味わって、その後の人生を懸命に生きた者たちへの賛歌なのだ。だから皆の胸を打つ。 [インターネット(字幕)] 10点(2022-06-08 19:02:41) |
11. イエスタデイ(2019)
《ネタバレ》 突然に世界が変わる設定。何が変わったかというとビートルズの存在が消えていた。ファンならずとも興味をそそる設定である。成功して億万長者になれる可能性ややり方を間違えて大失敗する危うさが感じられるからだ。しかし、物語は単純では無い。そこから、ややまどろっこしい展開に。それは主人公が持つ優しさと純粋なビートルズ愛による戸惑いがあるからだ。他人の才能でスーパースターになることがいかに虚しいか、恋人と離れてしまうことがいかに寂しいか。そう語りかけてくる。日常の何気ないものでも、無くなってから初めて大事な物なのだと気付くのだ。やはり誰でもビートルズの無い世界など考えられない。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-09-22 10:26:29) |
12. マイ・インターン
《ネタバレ》 同じ会社で働くものの、世代、性別、価値観や生活環境の違いにより衝突するがやがて理解し合う人たちをユーモアとペーソスを交えて描いている。70歳だがまだまだ活力が衰えない無骨な男をデ・ニーロが好演している。何もかもギャップがある若い人たちと徐々に溶け込んでいく過程は自然で違和感がない。歳をとったら誰もがこうありたいと思うはずだ。最後の夫との和解が違和感があって一気に盛り下がった感があり残念だ。ハッピーエンドで良いとの思いもあるが、実生活ならともかくこれは映画ですからね。料理もそうだがスパイスとソースは刺激的なほうが良い。最後にピリリと来てジーンという余韻が欲しかった。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-09-09 18:50:46)(良:2票) |