1. アンダルシアの犬
《ネタバレ》 まだ私が高校生の頃、なにか軽めの読み物の何気ない引用で、人の眼球を剃刀で切る映画があること、撮影には葡萄を使ったらしいことを読みました(wikipediaで調べてみると、実際に使ったのは葡萄ではなくて、子牛の目らしいです)。非常に心がざわついたのを思い出します。そのとき読んだ言葉によって想起されたのは、皮をむいた透明感のあるみずみずしい葡萄が、剃刀を包み込むときに示すであろう弾性挙動、細胞がはじけ、こぼれる果汁、これに、人の目の映像を、それぞれ透明度50%で重ね合わせたような、透明感とみずみずしさのイメージでした。今はインターネットという便利なものがあるので、昔の記憶を頼りに、調べたところ、1928年のシュルレアリスム作品であることが判明し、今回、鑑賞するに至りました。冒頭から、男が剃刀を研ぐシーンから始まり、女の目蓋が男の指で見開かれ、満月を一筋の雲が横切る映像の後に、眼球を一筋の剃刀が横切る例のシーンとなるのですが、想像していたのとはずいぶんと違っていて、不透明な球体の開いた裂け目から、透明なゲル状のものがじわりと出てくるものでした。葡萄で言えば皮をむいてない状態、どちらかというとゆで卵の質感と弾性。映像はすぐさま「8年後」の文字画面に切り替わり、別の意味ありげなシーンが次々と切り替わりながら続いていきます。15分見終えると、結局、何の脈絡もない映像だったことに気付かされます。何の必然性もないことが、逆に凄みを増していますよね。剃刀のシーンはさすがに笑えないものの、その他のシーンはコミカルな味付けで、思わず笑ってしまうものが多いです。一番笑ってしまったシーンは、どういう訳だか、主人公と思われる男が、重いコンダラよろしく、腐乱した馬の死体(?)が乗っかったピアノを紐で引っ張る状況になり、二本の紐を肩に掛けて引っ張り続けると、その紐には、実は、二人の男がぶら下がっていて、そいつらが仰向けに床を引き摺られながらついてくる場面です。おまえはダレですか?と小一時間ばかり問い詰めたい気持ちになりました。まあ、何とも言えない可笑しさが、この作品の妙味ですね。 [DVD(字幕)] 7点(2025-02-10 18:32:35) |
2. ブラックホーク・ダウン
《ネタバレ》 1993年、ソマリア、モガディシュの戦闘を描いたノンフィクションの映像化です。米軍の精鋭特殊部隊が、ソマリア反PKO勢力の主要人物2名を、30分程度で素早くスマートに拉致しようとしたものの、民兵の反撃にあって泥仕合に発展し、特殊部隊兵18名が殺害されるとともに、ソマリア人の民兵、民間人350~1,000名を殺害するに至った戦闘です。米国側視点の映像ですが、創り手の思想の押し付けは極力排され、市街地戦の現場で実際に何が起きたのか、その緊迫感と惨状を再現することに心血が注がれています。緊張の糸が途切れることなく、見ていて非常に疲れる作品です。DVD鑑賞の場合、途中でトイレ休憩を挟んだりしますが、トイレから戻ってきても鈍い疲労感があり、もう戦場には戻りたくない、という感じで、再び、映画の中の凄惨な世界に戻るのには、ちょっとばかり気合いを必要としました。映像、演技などに緊迫感を壊すようなスキは見られず、作品に没入することができました。序盤わかりやすい死亡フラグ立てがありますが、そういうのも入れないと、キャラの描き分けが弱くなり、知らない人が淡々と死んでいくだけになってしまいますからね。 [DVD(字幕)] 9点(2025-02-10 18:25:18) |
3. 告白(2010)
《ネタバレ》 中学校を舞台にしたミステリィ作品です。女性教師の告白(というか、むしろ告発ですが)からはじまり、序盤で、教師の娘を殺害した生徒が確定します。残り時間どうしたものかと要らぬ心配がよぎりますが、別の登場人物の告白が続き、事件の全く違った見方が示されていきます。新たな真実が見えたときの、なるほど感がなかなかに心地よい作品です。学校という社会から隔絶された世界を舞台にしているので、閉塞感で息が詰まりますが、最後には、どっかーんとそれをぶち壊して、風穴を開けてくれるような、ある種の爽快感があります。久しぶりに自分の中学時代(四半世紀前)を思い出しましたが、その頃と比べて最も変化したのは、ケータイ(通信端末)とインターネットの普及ですかね。本作品ではこれらのツールを使用した新手のいじめなど、生徒の生活に与える負の側面が描かれています。ツール自体が悪いのではなく、使う人間のモラルの問題ですが、能動的な情報収集ツール故に結果的に偏ってしまうこと、依存症になりやすいことなどもあり、未熟なうちは使用を制限した方がよさそうですね。 [映画館(字幕)] 8点(2025-02-10 18:21:51) |
4. 父、帰る
《ネタバレ》 なんとも、とらえどころがない印象を受けました。父親は、旅を通して12年間のブランクを埋めるべく、子供に決して媚びることなく、威厳を持って大人の生き方を教えていこうとするものの、すでに、子供には、父性愛を感じ取る感受性がなくなっていた悲劇、とでも捉えればいいのでしょうか?ロシアの社会状況はわかりませんが、なぜ今(2003年当時)そのテーマなのかというのが、いまひとつピンとこないんですよね。旅に出てから以降は、父親と二人の息子以外に主要な人物は登場せず、父親の存在感は、なかなかいい雰囲気なのですが、子役が演じるところの弱虫な弟が、すねている姿を延々と見せ続けられるのは、かなりキツいなぁ、という感じです。アクションや笑いが皆無なのは、そういう作品だとしても、泣ける話でもなく、すれ違いはあれど、葛藤があるわけではなく、ときどき、青い空や、草いきれや、光る水面に、はっとさせられ、ノスタルジーをくすぐられるところはあるものの、どっぷりと浸かるところまではいかない。現実は映画のように面白くないのも事実ですが、この作品に現実味があるかというと、そうでもない。兄はともかく、弟の方は見た目や行動が、小3~小4程度で、彼が12歳以上だとしたら、あまり現実味を感じない。あえて12年ぶりという設定にしたことも、不可解に思われます。というように、何かすっきりとしない印象を持ちましたが、映像はよくまとまっていて、そこそこ、いい映画に仕上がっていると思います。 [DVD(字幕)] 5点(2025-02-10 18:16:51) |
5. ルックバック
《ネタバレ》 原作既読。4コマ漫画が得意で、学級新聞の4コマを担当して、クラスで人気を集めている女の子が主人公。わけあって同じクラスの不登校で引きこもりの女の子が、主人公同様に学級新聞の4コマ漫画作品を投稿するようになります。この引きこもりの女の子が、4コマ漫画の意味を完全にはき違えていて、大したつながりのない超写実的な風景画をただ4枚並べただけ、などという作品を投稿したりするわけなんですが・・・どういうわけだか、その作品を見た主人公や周りのクラスメートが、「それ4コマの意味ないやん!」などのツッコミを一切入れずに、むしろ絵の上手さが評価されているかのようなテイで物語が進んでいきます。これは自身が漫画描きである原作者が仕込んだ茶目っ気満載のギャグだと思うのですが、物語世界の外側にいる私たちの反応としても、この部分にツッコミを入れている人が案外少ないような気がしました。藤本タツキの他の作品をそこまで多く読んでるわけではないのですが、冗談とシリアスのブレンドのさせ方に、ブラックで、サイコパス的な感覚がある人のような気がしています。前述のツッコミどころも、良くも悪くも作品内の現実世界に虚構的なテイストを与えていて、後に虚構と現実が対比された際に、良く言えば、複雑で不思議な心地がするし、悪く言えば、現実世界への没入が薄くなる分、迫力が削がれている気がするのですよね。本作は、アニメ化にあたって、アニメ作家による作品解釈が入り、原作にはないシーンを追加したり、丁寧にイメージを膨らませていて、アニメならではの表現を楽しめます。特に主人公のギャグセンスのキレッキレ具合(絵の乱暴さも含む)が強調され、引きこもりの子の作品の頓珍漢っぷりが相対的に薄れ、原作が持つ独特な毒が少し抜けて、多くの普通の人が見て、より普通の感想を持てる作品になっているという印象です。映像化により多くの人に見られることを考えると、1つの正解かなと思います。 [インターネット(字幕)] 6点(2025-02-06 17:29:45) |
6. 魔界転生(1981)
《ネタバレ》 幼少期の終わり頃、ジュリーファンの母に連れられて、リアルタイムで二番街にあった「柏シネマ」で、母姉と一緒に3人で鑑賞しました。娯楽映画を家族で見たのはこの一度きりだったと思います。細川ガラシャの妖艶な姿態。女を犯しては殺す狂人坊主。真田広之が沢田研二にけしかけられ、いたいけな少女を押し倒すも失敗。若山富三郎のご乱心。そしてラストの城の炎上と生首。すべてがトラウマ級に心に焼き付いてます。さて、40年ぶりに(家族一緒ではなく一人でw)再鑑賞しましたが、やはり面白い。幼少のころ見た美女が後から見たら大したことはなかった、などということはママあるものですが、ガラシャ役の佳那晃子。妖しく美しくゾクゾクします。天草四郎役の沢田研二が蘇った後、次々と死者を蘇らせて、仲魔を増やしていく過程も、丁寧で分かりやすく、それでいてテンポも良くて、怪しい世界観にぐいぐい引き込まれます。魔界衆の最期も、それぞれ特徴的で、不要なキャラがいないのですよね。そして、最終局面。業火に包まれ今まさに崩れつつある建物の中の対決。CGでは生み出すことができない緊迫感。斬られた首を片手に持ち、高らかな笑いとともに業火の中に消えていく天草沢田研二時貞。勧善懲悪では終わらない、何とも言えない後味が残ります。柳生千葉真一三厳がかっこよすぎんよっ。 [インターネット(字幕)] 10点(2024-12-26 18:09:36) |
7. 空気人形
《ネタバレ》 業田義家の原作漫画は未読です。都市生活者達の孤独な営みを、鮮やかに、やさしい光で映し出したところに、心動かされました。何かを押しつけがましく主張せずに、静かに感じさせる作品は好きです。常に心が満たされることのない生活も、現代に生きる代償として受け入れて、つきあっていくしかないよね、という気持ちになりました。 [DVD(字幕)] 9点(2024-12-26 17:43:37) |
8. 北北西に進路を取れ
《ネタバレ》 主人公の男が、人違いで謎の組織から命を狙われる羽目になりながらも、保身のために立ち回り、謎に迫っていくというサスペンスです。豪華で壮大な展開と、細かくちりばめられたユーモアが絶妙です。主役のケーリー・グラントは、ユーモアの効かせ方を非常に心得ています。ヒロインのエヴァ・マリー・セイントのしおらしさもポイントです。楽しいシーンも盛りだくさんですが、やはり、複葉機に追い立てられるシーンですかね。画面の端の方で、農薬を撒いたりしながら、背景として馴染んでおいて、タメにタメて、ドッカーンという感じですね。笑ってしまいました。娯楽映画として、非常に良くできていて、余計なことを考えずに楽しむことができました。 [DVD(字幕)] 8点(2024-12-26 17:41:00) |
9. マーズ・アタック!
《ネタバレ》 UFOで地球にやってきた火星人に対して、平和的な交渉を試みようとする米国大統領(地球代表)。それを見透かした火星人と、地球人が繰りなすドタバタコメディ(死者多数)です。冒頭の馬が走ってくる映像は神秘的で、非常に期待させるものがあります。が、中身はただの悪ふざけでした。緊張感ゼロなのがいいですね。お茶噴きました。 [DVD(字幕)] 6点(2024-12-26 17:35:46) |
10. デビルマン
《ネタバレ》 評価の低い作品と聞いていたので、駄目さ加減を楽しんでやろうという邪心を抱きつつ見てしまったこと、あえて否定はしません。原作の漫画も読んだことですし、準備は万端です。さて、結果ですが・・・確かに駄作以外のなにものでもないのですが、いざ、ダメっぷりを楽しもうというスタンスに立った際に、その期待は見事に裏切られるという中途半端ぶり。原作の印象的なシーンを寄せ集めて、オリジナル設定も加えながら、ムリムリ繋いでいくようなつくりで、流れが悪くて全く没入できませんが、大筋では原作をなぞっており、残念なことにストーリーに大きな破綻がないようです。チープな学園ドラマ、ホームドラマが続き、確かに見ていて痛いレベルですが、残念なことにテレビで放映されている同類のものを大きく下回るわけでもないようです。伝説的駄作の王座を狙うのであれば、もっとハジケ切る必要がありますが、そういう「愛すべき駄作」からは最も遠い位置にある作品です。CG、SFXは悪くはなかったですよ。飛鳥了の親父のなれの果てなどは、おぞましくて良かったですし、デビルマンもなかなかカッコイイです。ただ、戦闘シーンの動きが速すぎて、小物感が漂ってしまっているのが残念。CGの荒さをごまかそうとしたのでしょうかね。CG、SFX担当スタッフの熱意は感じられましたが、実写スタッフの熱意のなさとのギャップが激しく、てんでんバラバラ、全体のコントロールが全くできていないという印象を持ちました。CGと手描きを融合させた表現などは面白かったので、役者の演技とかをCGと手描きを駆使して、修正してしまっても良かったのではないでしょうか?でも、一番悪かったのは企画と構想と脚本と演出と製作総指揮と監督ではないかと思います。 [DVD(字幕)] 2点(2024-12-26 17:24:26) |
11. 動くな、死ね、甦れ!
《ネタバレ》 前情報がない状態で見たのですが、白黒映画で、かつ、フィルムの痛みが激しいことから、1930~40 年代の作品と思いこんで見ていました。後で調べたところ、1989年と比較的新しい作品でした。作者(1935年生まれ)の幼少時の風景や空気を再現するために、その時代に入り込んで撮影したかのように仕立てる。トリッキーとも取れますが、それを凌駕する、映像の凄みを感じました。主人公の少年が住むのは、炭坑と収容所の村。地面はぬかるんで、泥の上に人が集まり暮らしていて、舗装された道はなく、自動車もなく、辛うじて他の町に通じる鉄道があるだけです。住人は、汚れた長屋に、寄り集まって暮らしており、人は多く、叫び声や喧噪はあれど、活気がまるでない。この「不毛」感は、凄いです。主人公も通っている学校は意外と立派でした。公権力の出先として力を入れた結果でしょうか。村の外れでは、抑留された日本兵が強制労働をさせられていて、よさこい節や、炭坑節が聞こえてきます。おそらく作者の望郷には欠かせないものなのでしょう。よどんだ世界の中で、どこか優雅で達観した響きを感じました。そんな中、主人公の少年は、鬱屈感からか、学校のトイレの汚物槽にイースト菌を入れて溢れさせたり、列車を脱線させたりの問題を起こします。その都度、一緒の長屋に住む少女に助けられます。この少女は、非常に賢く、したたかに生活に順応していて、なかなかの人物だなあと感心してしまいました。この作品の中では、唯一の光と言える存在です。時代の停滞した陰鬱な空気を再現して、フィルムに封じ込めたことは評価できるのですが、娯楽としてみると、正直、それほど面白くはないです。娯楽性の高いロシア映画も見てみたくなりました。 [映画館(字幕)] 6点(2024-12-04 20:16:00) |
12. エクソシスト ディレクターズカット版
《ネタバレ》 悪魔に取り憑かれた少女がスライムを吐いたり、逆さ蜘蛛歩きをするシーンは、あまりにも有名です。私もそのイメージしかなかったので、古典としてきちんと見ておくべきだなと思った次第です。イラクの遺跡発掘現場から始まり、実直で生真面目なシーンが続きます。話の展開は、遺跡から甦った悪魔が少女に憑依し、その悪魔を祓うべく、悪魔とキリスト教神父が、壮絶な精神戦を交わすというものです。ホラー作品としては、静かで、暗く、厳かで、格調高く、演出過多に陥っていないところがいいのですが、今の感覚で見ると、もう少しエンターテインメントとして、色気があったほうが楽しめるかな、とも思いました。ただ、サブリミナル的に入ってくる映像は、作品の厳かさを損なっていると感じました。ディレクターズカット版で追加されたようですが、余計でしたね。 [DVD(字幕)] 7点(2024-12-04 20:12:44) |
13. それでもボクはやってない
《ネタバレ》 痴漢冤罪の現状に基づくフィクション作品。日本の刑事裁判システムの歪みが痛いくらいに示され、2時間半という長さを全く感じないくらい、引っ張り込まれました。非常に興味深いけれど、見ていてあまり楽しくない映画です。でも、かなり衝撃的です。作品の真実性については、素人には判断しづらいですが、ネットなどで調べた範囲では、真実性に対する反論はあまりなさそうですね。脚色・演出はあれど、議論のきっかけになれば成功でしょう。さて、冤罪の最良かつ唯一の回避方法が、現場から離れる(逃げる)しかないという現実。それは結局、実際の痴漢が普通に取る行動なわけで、ということは、実際の痴漢は逃げるので逮捕される確率が低く、痴漢をしていないと自信を持って、その場に残った人は、反論は一切聞き入れられずに、逮捕・拘留されるため、有罪になる確率が高いという、結果的に、犯罪抑制型ではなく、犯罪推奨型・犯罪放置型のシステムが出来上がっています。警察、検察、裁判所のスクラムで、そうなっているようですが、わざとやっているというよりは、社会を良くすることに対して、ほぼ無関心で、目先の点数稼ぎが最大の関心事であるところが原因だと思われます。もはや痴漢被害者ですら、彼らにとっては、点数稼ぎの道具の一部と推測されます。まったくもって、わかりやすいのが、彼らの唯一の取り柄と推定されます。その唯一の利点を活用して、社会利益に還元すべく、彼らの最大関心事である点数稼ぎのベクトルと、社会が良くなるベクトル、この2つのベクトルの向きを、逆向きから同じ向きに変えてあげれば、社会が劇的に変わるのではないでしょうかっ?! [DVD(字幕)] 8点(2024-12-04 20:11:03)(良:1票) |
14. 勝手にしやがれ
《ネタバレ》 主人公の自動車泥棒が、追ってきた警官を銃殺し、指名手配されながらも、ほれた女を口説いて、というような話。序盤、主人公が車に乗って悪態ついてるところは、時代と国を隔てても、なんら変わらないものだと面白く見ていたのですが、銃を撃つシーンのカット割が非常に悪くて、誰が誰を撃ったのかもわからないくらい。雑な感じ。その後は、若干ねちっこい男と女のやりとりの雰囲気を楽しめるか楽しめないかという感じ。フランスで起こったヌーヴェルヴァーグの記念碑的作品と言われていますので、発表当時は、斬新だったのだと思いますが、半世紀経った今見ると、驚きがないですね。パリの街の雰囲気は悪くなかったです。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-04 20:06:56) |
15. 二十四の瞳(1954)
《ネタバレ》 小豆島の豊かな自然と、そこに住む人々の生活風景が、時間をかけて選び抜かれたであろう美しい構図で、フィルム状態が非常に悪い中にも、精細に写し撮られていて、思わずため息がこぼれます。しかし、長い作品です。二時間半という時間が非常に長く感じられました。前半、子供たちに、子供らしさを演じさせてしまっていて、本来子供が持っている自然な生き生きとした勢いが感じられず、これが延々と続くので、参ってしまうのです。後半、教え子達も戦争の波に巻き込まれていくのですが、淡々と巻き込まれていく様子が、淡々と描写されていく感じです。個々の悲劇に対する感情移入よりも、元教師から見た若干俯瞰的で、間接的な描写で、冷静に戦争の無情さを表現しているのは、よいと思います。後でキャストを確認したときに、天本英世や清川虹子、浦辺粂子など、後の妖怪級が何気なく出演していたことに気づき、それが一番の驚きでした。まったく気づかなかったので。 [DVD(字幕)] 5点(2024-12-04 20:04:55) |
16. 雨月物語
《ネタバレ》 戦国時代。人が集まる町では、節度ある町民たちによって、繁栄が保たれているものの、農村は落ち武者の襲撃に会い、道中は賊が跋扈する混沌とした世界設定。時代の動乱の中、農村に暮らしながらも、野心を胸に、動かずにはいられない男たちと、平和と安定を望む女たちを描いているのですが・・・最終的に女の生き方の強さを、まざまざと感じさせる作品ですね。常に焦燥感に駆られて足掻いている男の生き方ってなんなの的な。あと、とにかく、映像がすばらしいです。農村から町に向かう道中、船で漕ぎ進む先の霧に煙る水面の幻想的風景。主人公が迷い込んでしまう、朽木屋敷での妖艶な誘惑。直接的な表現を排して、なお妖しく艶やかなところは、海外作品では、なかなか見られない日本映画の真骨頂でしょうか。シーンのつなぎでの地を這うカメラワークは印象的でした。また家屋内での、蝋燭を光源とした光と影の繊細なコントラスト。白黒映画で、これだけ幻想的魅惑的表現が可能なのかと驚きました。日本映画のスペクタクルに付き物の安っぽさが微塵も感じられないことも驚きでした。もう、日本映画は新作でも半分は白黒でいいんじゃないかと思ってしまいました。 [DVD(字幕)] 8点(2024-10-10 18:23:27) |
17. おろち
《ネタバレ》 梅図かずおの原作漫画は小学生のころ、たぶん1巻だけ読んだのだと思います。他は忘れてしまいましたが、「姉妹」のエピソードはトラウマ的に強烈に記憶に残っています。さて、本作品についてです。屋敷の中のシーンが大半で、セットは、きちんと作っているようですが、映像として、重々しさ、禍々しさがないというか、狂気が漂ってないというか、なので、まったく怖くないんですよね。あと、尺の都合もあるのでしょうが、ひたすら間延びしていて、テンポが悪く感じました。また、おろちの役割がほとんど意味不明です。おろちが前面に出てきてしまったことで、恐ろしいエピソードにキレがなくなり、非常にまぬけに感じてしまいました。原作と同様オムニバス形式で3つくらいのエピソードをテンポ良くつなげていけば、それで十分で、おろちの狂言回しとしての立ち位置もはっきりして良かったのでは?と思ってしまいますね。個人的な嗜好の範疇になりますが、おろち役には、透明感のある美少女を選んでほしかったところです。また、子役の使い方も、キャストの段階から含めて、もう少し気を使ったほうがいいのではないかと感じました。ホラーであれば、子供に下手に演技をさせなくても、効果的に使うことはいくらでもできるわけで、スタッフの手腕が問われますよね。とはいえ、収穫もありました。映写機で一時停止をすると、ライトの熱でフィルムが焼けてしまうらしいことがわかったのは、収穫でした。収穫のついでに思い出してしまいましたが、映画の中で、映画を扱うというのも、新鮮味がない割りに、ハードルだけが上がって、あまりいいことないような気がするんですけどね。まあ蛇足です。 [DVD(字幕)] 2点(2024-10-10 18:14:46) |
18. リンダ リンダ リンダ
《ネタバレ》 前知識ほぼなしで見ましたが、お話としては、女子高校生4人の急造バンドが、高校文化祭で、ブルーハーツの「リンダ リンダ」を披露しようと、猛練習したりするという、知っていたらスルーしてしまいがちな内容で、更に、ボーカルは韓国からの留学生という、駄作街道まっしぐらというか、駄作無双というか、そんな感じです。横道にそれますが、ブルーハーツが流行ったとき、私はリアルタイムで高校生でしたが、朴訥な感じがあまり好きにはなれませんでした。しかし今となっては、唱歌として再評価しているところで、日本語がはっきりしていて、思わず口ずさんでしまいます。聴きたくないけど歌いたくなるカテゴリーにおける、ひとつの完成形と言えます。話を元に戻しますが、冒頭に述べたとおり、駄作臭のきついプロットにもかかわらず、こんなに面白い映画を創れてしまうというのは、ちょっとした魔法を見たような感覚です。各シーンにおいて、人と人との関係により生じる「空気」であったり、「間」であったりが、ごくごく自然に再現できてるんですよね。各役者が下手な芝居をせず、役になりきり、キャラクターの魅力を最大限に引き出しています。また、そのシーンが持っている味が出尽くすまで、ギリギリまで引っ張ってから次に繋いでいくので、空回りとか、上滑りとかが全くなく、着実にヒットが重なっていく感じです。出演者とスタッフ間において、そういった作品に対する姿勢や意識が、高いレベルで共有できているのが感じられ、監督の並々ならぬ才能を感じました。 [DVD(字幕)] 9点(2024-10-10 18:11:50) |
19. 4ヶ月、3週と2日
《ネタバレ》 予備知識ゼロで見ました。1987年、チャウシェスク政権下という設定。学生寮らしきところに住む20代前半?の女子学生二人(ルームメイト同士)が、なにやら泊まりがけで出掛ける支度をしているところから始まります。部屋の中は、ぬいぐるみやらのkawaii系グッズなどは皆無で、無機質で男前です。さて、泊まり先としてホテルを予約していたのですが、実際に行ってみると、予約係のミスで予約が入っておらず、フロントには冷たくあしらわれます。逆に、前日に予約確認をしていなかったことを責められる始末。計画経済における供給者側の傲慢さに加えて、利権すら見え隠れします。余分に請求されたお金はフロントの懐に入ってしまうのでしょう。そして、映画が始まり30分ほどしたところで、ようやく、闇医者に闇中絶をしてもらうために、ホテルを予約したことがわかってきます。そう言えばネットか何かでみた作品概要に、妊娠中絶の話って書いてあったなと思い出しました。勘の悪い私は、ここでようやく、タイトルと内容を結びつけることができました。さて、ルーマニアでは、妊娠中絶は違法行為なので、闇市場化しています。健全な市場であっても医者と患者が対等な関係となるのは難しいと思いますが、いわんや闇市場をや、です。ホテル代を支払ってからの価格交渉では、後に引くにもコストがかかり、供給者側の圧倒的有利な立場により、言い値が通ってしまいました。仮に金を多く持っていたとしても、やられていたことでしょう。人間のエゴをコントロールして、推進力として活用しようとする市場経済システム。人間にエゴはないものとし、資源は計画的、効率的に配分されるものとする計画経済システム。コントロールされないエゴの醜悪さを、まざまざと見せつけられた気がします。妊娠をするに至った経緯や相手の男について一切触れないことにより、想像の余地が非常に大きくなっています。見た人によって感じ方が著しく異なるであろうところが面白いですね。他の人の感想を知りたくなる作品です。私の感想は、社会システムが悪いのは、重々承知の上で、まあ自業自得かなと。主人公は、巻き込まれた被害者でもあり、気の毒ではありますが、妊娠した本人は、胎児を殺すわ、親友を巻き込むわ、まったく自覚がないので、腹が空いたら飯を喰らうが如く繰り返しそうです。胎児の父親については、特定できない可能性もあり何とも言えませんね。仮に特定できるとすれば当然男も悪いですが、この妊娠女に至っては、100人に1人の悪い男を100発100中で選ぶような勢いすら感じられ、同情の余地がありません。憎めない感じではありますが。ドジっ娘属性ありますが。結構好きですがなにか。P.S.映画中で説明はないのですが、ネットなどで調べるに、当時、チャウシェスク大統領夫人の考案で、労働人口を増やすために、避妊と堕胎を禁じる政策を布いていました。うん、わかりやすいよ、うん。結果として、ストリートチルドレンがあふれました。 [DVD(字幕)] 7点(2024-10-10 18:05:16) |
20. 里見八犬伝(1983)
《ネタバレ》 独特のケバケバしさと、毒々しさと、特撮セット感のある手作り感と、光輝く玉や弓の映像効果の組み合わせ。嫌いではないです。当時のPVの内容はあまり覚えてないのですが、英語の歌が流れてたのは覚えてます。それなりに面白そうで見たくなるようなPVだったと思います。そこに角川みを感じます。だがしかし、大作を2時間程度にまとめるのは土台無理があったとは言え、もう少し何とかならなかったものか。終盤、八犬士が次々と捨て駒のように倒れていくやっつけ仕事の中、真田広之だけなぜか生き残って(というか1回死んだよねw)、姫役の薬師丸ひろ子と恋愛成就というのが、安っぽ過ぎてなぁ。 [インターネット(字幕)] 4点(2024-10-10 17:54:15) |