1. 切腹
中身や実体を見ようともせず形式やメンツだけにこだわり人間性を奪われることへの批判がテーマですが、それを結構台詞でも説明しちゃってるのがちょっとくどいとは感じますね。それよりもすべて理解しているのに他人を痛めつけるためにさも何も知らないかのように振る舞うことの悪質さの方がより本質的な問題かもしれません。様式美とリアリズムの両立、そしてその様式美のこだわりはただ美しい構図というだけでなく武家社会の空虚さを際立たせるものとして効果的です。全体として動きの少ない中、三國連太郎の持つ扇子の立てる音がリズム感を作る良い働きをしています。しかし中盤以降の回想シーンで人間らしい感情の拠り所を家族に求めているところは、家制度自体が武士にとって重要で抑圧的なものであったことを考えるとあまりに素朴で理想化された描き方です。まあこれもこの時代には珍しく主人公がシングルファーザーである特殊なシチュエーションなのでそこまであげつらうべきではないのかもしれませんが、不幸に比べると幸福についての描写は陳腐なものになりがちなのだと痛感しますね。 [インターネット(邦画)] 7点(2023-10-29 23:54:34)(良:1票) |
2. ラ・ジュテ
止め絵にナレーションって実写では斬新に見えますが要はテレビアニメでよく使われる類いの技法じゃないですかね。実際押井守監督は影響を受けてるみたいですしね。第三次世界大戦という大掛かりな舞台設定を用意しておきながら語られる内容は幼少期や女性への執着という卑近さも悪い意味で日本のアニメに受け継がれていそうです。結局同じような技法が経済的な事情以外で採用されないのはこれが面白くも何ともないからでしょう。やっぱり映画は動いてナンボですよ。 [インターネット(字幕)] 1点(2023-10-05 23:08:40) |
3. アルゴ探険隊の大冒険
《ネタバレ》 誰もストーリーについてまともに語ろうとしない映画なのは納得です。大きく分けて二部構成の内容で前半のブロンズ島の場面までは主人公は女神ヘラに助けられ、後半は王女メディアに助けられるという構成になっています。前半は確かにわくわくする展開です。仇ペリアスの策略、冒険のための仲間集め、そしてブロンズ島での銅像ゆえにダイナメーションのカクカクした動きが見事にハマったテイロスの恐ろしさ、しかしこのわくわくする前半を受けて展開する後半が酷いのです。ストーリー上何の意味もない怪鳥に襲われる老人の場面で始まり、そこが終わるとハイドラまでダイナメーションのシーンすらなく変なデカいおっさんまで見せられる始末。テイロスとの戦いの後に主人公以外では一番キャラが立っているヘラクレスを途中退場させているので有名な骸骨戦士のクライマックスも誰か誰だかよくわからない人物と骸骨の戦いを見せられるだけなので合成の完成度こそ感動的ですが物語のクライマックスとしては盛り上がりに欠けます。それにこの話ってまるで敵の王国が邪悪みたいな描き方をされてますが、冷静に考えてみれば主人公たちのやっていることって劇中で指摘される通り盗賊・海賊のたぐいでしかないんですよね。序盤で提示されたペリアスへの復讐について回収されず投げっ放しのまま終わってしまうので、自分がやられたことを別の国でやり返しただけで気分が悪い結末です。ギリシア神話を知っていれば描かれなかった部分を補完できるのならまだ良かったのですが、なまじギリシア神話の知識があるとこの幸せそうなカップルが後々血生臭い悲惨な最後を迎えることがわかってしまい素直に楽しめなくなるおまけ付きというオチです。レイ・ハリーハウゼンが特撮を担当していることが唯一の価値で映画としては結構ダメダメな作品だと思います。 [映画館(字幕)] 3点(2023-08-25 19:52:21) |
4. 日本のいちばん長い日(1967)
序盤の広島への原爆投下映像、あれ戦後の核実験の映像の流用ですよね?こういう細部でいい加減な仕事しちゃダメでしょう、原爆ならどれも同じだと思ってるんでしょうか。仁義なき戦いは静止画とはいえそんな間違いは犯しませんでしたよ。オールスターキャストゆえの名作っぽい雰囲気だけで評価されていないでしょうか。ドキュメンタリータッチといえば聞こえがいいですが事実を再現するだけで作品のテーマやメッセージがいまいち見えてきません。映画なんてのは所詮作り話なのですから何か特別な理由でもないならばそこをはっきりさせるべきです。戦争継続に固執する軍人批判にしては軍人がカッコよすぎますし、国民の犠牲と対比するならあまりにも国民側の描写が少なすぎます。三船敏郎なんか急に平和を願ういい人に変わってませんか?まさか軍人たちの苦悩に共感しろという話なんでしょうか?そんな義理は私たち一般市民にはありませんよ。やってることは見知った人間同士のほぼ馴れ合いに近い内ゲバですもの。そもそも肝心の事件の描写がしょぼすぎませんか?狭いセットの中でひたすら役者が喚いているだけで銃撃シーンは窓ガラス割るだけで終わりです。この作品が作られた時には既に日本映画黄金時代は過ぎ去っていたというのには納得です。結末がわかりきった話なのでどう展開するかハラハラしようもありません。それっぽいナレーションで締めて終わりというのもちょっと…。ただ佐藤勝のエンディングテーマは名曲です。 [DVD(邦画)] 2点(2023-08-13 22:31:21)(良:1票) |
5. ビリディアナ
この程度の作品が上映禁止となるとは随分素朴な時代だったのだなあという感じです。主人公はキリスト教精神を体現しようと最後までがんばりますので現代の視点からだととてもじゃないが冒涜的だとは思えません。主演女優が美人で脚や胸をちょっと見せるシーンがある程度ですのでそういうのを期待しても無駄です。セックスも暗喩でしか表現されません。宗教画へのオマージュも現代のキリスト教をファッションとしてしか利用しない作品の方がよほど宗教を軽視した態度だと言えます。ルイス・ブニュエル監督の作品としては過激さもシュールさも後の作品の方が優れています。キリスト教を馬鹿にしているというより貧乏人を馬鹿にしているような話になっているのもいかがなものでしょう。 [DVD(字幕)] 4点(2023-07-19 21:27:08) |
6. マルケータ・ラザロヴァー
歴史劇なのにチェコ・ヌーヴェルヴァーグとは?と違和感がありましたが実際に見てよくわかりました。とにかくわかりにくい構成と演出です。チェコでは有名な原作とのことですので、製作者も観客があらかじめストーリーを把握していることを前提にこの構成にしているのかもしれませんが、やはりそうでない人間が楽しむには難しい作品です。時系列もぐちゃぐちゃに見えます、回想かと思ってたら普通に話が進んでいたりします。曇天や屋内の暗いシーンが続いているところに突然ピーカンの明るいシーンが挿入される演出の意図は何でしょうか。主人公が誰かもよくわかりません。作品全体でもそうなのですが一つのシーンだけを見ても誰が喋っているのかよくわからない状態です。タイトルにも名前がある少女のマルケータはほとんど台詞もなく特に自分から行動することもなく人形のようです。性と暴力についての話なのでしょうが、60年代後半あたりの作品では珍しいテーマでもなく食傷気味です。カメラワークはマカロニ・ウエスタンみたいなところもあります。それもセルジオ・レオーネというよりセルジオ・コルブッチ寄りで安っぽく感じます。処女の泉やアンドレイ・ルブリョフの偉大さを再確認することはできました。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-06-22 22:57:01) |
7. アルジェの戦い
意外とハラハラドキドキするエンターテインメントとしても見れてしまう映画です。それもそのはずでこの映画は社会背景の説明や人物の心理描写はほとんど省かれていて中心となるのはフランス軍とアルジェリアの民族解放戦線、両者の攻防だからです。演出はリアリズムですが銃撃や爆破シーンは最大限盛り上がるように構成されています。走行中の自動車からの銃乱射シーンなどはまるでギャング映画みたいです。いやほんと背景知識を抜きにして見ると仁義なき戦いみたいな実録抗争映画っぽさがあるんですよ。劇中の銃声はちゃっかりマカロニ・ウエスタンと同じものを使用しています(笑)。空挺師団のマチュー中佐がまた理知的で冷静に状況に対処でき、ナチスへのレジスタンスとして戦った過去があるという皮肉な側面も含めて魅力のあるキャラクターなんですよね。ラストの群衆シーンは確かに本物にしか見えない迫力はあるのですが、終わり方も含めて唐突な印象を受けてしまいます。冒頭でかすかにバッハのマタイ受難曲が流れていますが、イスラム教徒のアルジェリア人の受難をキリストになぞらえるのが正しいのかは疑問です。 [DVD(字幕)] 6点(2023-06-20 23:36:30) |
8. 穴(1960)
この頃の映画は暗い夜の場面でも照明が照らされて画面が不自然に明るかったりするのですが、この映画の場合暗い地下のシーンでは手持ちのランプの火のみで照らされ、人工的ではない自然な照明が現代でも通用するリアリティを生み出しています。それがまた通路を歩くシーンでは光が輪のようになって美しい効果をもたらしています。いい意味でドラマ性が希薄な作品です。最後のシーンまでは5人が仲良しで一つの目的に向かって一致団結し、いじめや対立が起きたりしないのがいいんですよね。基本的には看守とすら対立せず安直なドラマチックな展開は排除されてびっくりするぐらい人がよい人間しか出てきません。そのためか変なことを言うようですが、この映画は深刻な脱獄というよりは修学旅行の夜や学園祭の準備をしているかのようなわくわくする感じがあるんですよね。持ち物検査をされ、先生に隠れて夜遅くまで遊んだり、手作業で何かを作ったり、散らかして掃除をしたり、ラストも仲の良かった友達と進路の違いで別れることになるような寂しさを感じました。監獄とはまるで学校のようなもの、いや、学校とは監獄のようなものというのがより適切かもしれません。そういうところからこの映画は一種の青春映画のような気持ちで見れちゃうのです。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-06-08 23:29:54)(良:1票) |
9. 5時から7時までのクレオ
ヌーヴェルヴァーグとか今更見てもたいていつまらないしヌーヴェルヴァーグ左岸派とかなんのこっちゃという感じでsight&soundの2022年版オールタイムベストに見慣れない映画があったからという非常に軽薄な動機で見たのですが、これは今も古びてないどころか現代的なセンスでかなり楽しめる作品でした。日本の女性作者のエッセイ漫画みたいな感覚です。ヌーヴェルヴァーグらしい自由な軽快さがありながら死という現実に向き合うことをテーマに据えたちゃんとした構成があるところが頭一つ抜けています。ああいう口うるさい世話焼きおばさんみたいな人いるよなあ、人の目を過剰に気にしてしまうような時ってある、お互い理解がずれた微妙に噛み合わない会話、街の人々の会話や振る舞いもどこかで見聞きしたことがあるような既視感があります。自分に関係なく世界は流れてゆき何にも変わっていないのになんとなく何かがわかったような気がして生きていく、まさにこれこそが人生そのものではないでしょうか。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-06-03 20:28:50) |
10. 続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
セルジオ・レオーネ作品の中では一番ドラマ性が薄い作品です。娯楽映画ならテンポよく進めればいいのに何の意味もなくワンシーンがしつこく引き伸ばされる上、本筋と関係のないエピソードまで挿入されるので正直ダレます。夕陽のガンマンを見た後だとところどころで前作夕陽のガンマンのロケ地と被ってるので安っぽく見え、リー・ヴァン・クリーフが単純な悪役を演じている姿にもがっかりします。冒頭の殺されるメキシコ人一家が生き残りもいるのにその後全く話に絡まないのは普通に構成上の失敗ではないでしょうか、例えばトゥーコの家族として設定するだけでもラストの決闘にドラマ的深みが出たと思います。トゥーコの兄の神父や無意味な橋の奪い合い等ドラマチックなエピソードもあるにはあるのですが所詮サブエピソードでしかなく、この辺でブロンディとトゥーコの友情を描いておきながらラストの展開がああなるのも違和感があります。全体として個々のエピソードの繋がりが弱くつぎはぎのような構成は平凡なテレビドラマに近いとすら言えます。カルロ・シーミの衣装は砂漠のシーンでのトゥーコのピンクの日傘などいいものもあるのですが、今回は戦争ものということで時代考証を優先したのか地味でいまいちですね。結局この映画の価値はエンニオ・モリコーネの音楽のための壮大なミュージックビデオという点に尽きるのではないでしょうか。 [インターネット(字幕)] 4点(2023-05-28 22:42:20) |
11. 夕陽のガンマン
何よりこの映画はファッションがいいですよね、脇役に至るまでとても野蛮な連中とは思えないほど(笑)見事な着こなしと小物へのこだわりだと思います。さすがイタリア人の映画といったところでしょうか。殺伐とした金の奪い合いでありながらオルゴールの音色が示すように物語の底には哀しみが流れています。大切な人がいなくなってしまった世界で自分はどう生きればいいのか、それがこの作品以降のセルジオ・レオーネ作品に通底するテーマです。モーティマー大佐(リー・ヴァン・クリーフ)もインディオ(ジャン・マリア・ヴォロンテ)も本当は金のことなんてどうでもいいのです、彼らは己の欲望に突き動かされて行動しているわけではありません。金よりもずっと大事な人が死んでしまった後では賞金稼ぎも強盗稼業もすべては暇つぶしの戯れでしかなく、だからどこか大人が子どもじみた悪ふざけをやっているような感覚が付きまといます。そうした諦観があるからこそ、この映画は大人の寓話であり続けていると思います。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-05-25 23:41:45)(良:2票) |
12. 銀河
浮浪者のような二人の巡礼者はゴドーを待ちながらっぽいです。この映画もある意味どこにもたどり着けない空虚な徒労の旅のお話です。現代において宗教なんてものはパロディの対象でしかない、真剣に描けば描くほどバカバカしくなってきます。しかしこの映画はキリスト教を滑稽なものとして描きながらも神学的に間違った描写もなされていないのです。古代・中世・現代の世界と人物がシームレスに溶け合いながらもこの映画は不思議とそれらに平等にリアリティを感じられます。別の見方をすれば親しみやすい娯楽性を加えた真面目なキリスト教映画でもあります。これを受け入れてしまう懐の深さこそがキリスト教の強さとも言えます。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-04-23 23:42:38) |
13. わんぱく王子の大蛇退治
この日本アニメーション映画史に残る古典的名作が2023年に至るまで登録されていなかったとは……いくらアニメが一般化したと言ってもやっぱりマイナーな表現なんだと感じざるを得ません。ちょっと大袈裟な表現かもしれませんが、日本神話や日本美術のようなこれまでの日本の文化の集大成にして後の日本の文化へ大きな影響を与えた作品でもあります。特にゲーム業界への影響が大きいのは観ればわかります。とはいえディズニー作品からの影響も大きいでしょうね、アカハナは因幡の白兎というよりはバンビのとんすけです。平面的なデザインが動きによって立体感を得るアニメーションの原初的な美しさがここにあります。ヤマタノオロチとの空中戦なんか現代のアニメーション作品でもなかなかお目にかかれない迫力だと思います。ストーリー的には神話なので特筆すべきところはないのですが、この時代のアニメや漫画ってマザコン要素が強いとは感じます。伊福部昭の音楽は他の作品からのメロディの使いまわしが目立ってちょっとマイナスです、まあ他の映画でも言えることではあるんですが(笑)。 [インターネット(字幕)] 9点(2023-04-11 22:16:52) |
14. ワイルドバンチ
西部劇というジャンルが廃れた後に生まれた人間だとこの映画が最初に見た西部劇になることも多そうですね、最後の西部劇と謳われる作品なのに皮肉な感じです。サム・ペキンパーの映画って社会の中で組織や規範に縛られている人間がアウトローに夢やロマンを託すみたいな内容ですが、それって別に本物の男の姿を描いてるとかじゃなくただのサラリーマンの現実逃避程度の意味しかないと思います。アウトローはアウトローで生きづらさや繊細さを抱えているというのが現代人が持つべき認識ではないでしょうか(その点ではジョン・ウーの方がよっぽど優れているとすら言えます)。そういう視点を持って今見直すとアーネスト・ボーグナインの役が同性愛者なのでは?という疑問が生じました。まあこういうジャンルだと同性愛に見える男同士の関係は珍しくもないのですが、ラストで売春婦を抱かないのも実はそれが原因ではないかと思います。凶悪な面構えのせいで気づかれにくいのですが、この映画では結構思慮深い繊細なキャラを演じています。 [インターネット(字幕)] 3点(2023-04-04 23:23:15) |
15. 博奕打ち 総長賭博
残念ながらジャンルと時代の壁を超えて評価される作品ではないと思います。三島由紀夫がギリシア悲劇のようだと評したらしいですが、悲劇として見ると金子信雄というわかりやすい悪役がいるのはダメだと思います。例えば、ギリシア悲劇の代表作オイディプス王がどういうお話かというと主人公オイディプスが父親殺しの犯人を捜していたが、その犯人は自分自身であったと突き詰めてしまい自分の眼を潰すというストーリーです。悲劇として成立するためには外部からの介入により苦境に落とされるのではなく、主人公の内部にこそ罪が潜んでいるというのが重要だと思います。悪役を退治すれば解決してしまうならば、人の業や運命を描いた作品とは言えないでしょう。一応鶴田浩二は任侠道という自分自身の規範によって破滅していくのですが、金子信雄が裏で策謀しなければこのような破綻は起こらなかったわけでそこが悲劇としては弱いのです。単純に今の日本人にとっても任侠道なる価値観が共感しづらいというのもあります。しかし一方で悲劇として十分に成立しなくともそれはそれで十分という気持ちにもなります。鶴田浩二と藤純子はこれ以上にないはまり役でとても美しく撮られています。あくまで二大スターの美しさを堪能する時代がかったメロドラマとして観れば悪い映画ではないです。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-03-19 23:43:14) |