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黒人と白人を隔てていた壁がいとも簡単に崩れ去ってゆく。愛すべき予定調和を見せた『グラン・トリノ』の後でもさすがにこれには拍子抜けした。おそらく誰もこんな語り方はできない。なぜならそこに辿り着くには様々な障壁があり様々な苦労があり複雑なやりとりがあり複雑なからくりがあったに違いないから。何よりも前提となる南アフリカの歴史があるから。しかしイーストウッドはシンプルに語ってゆく。障壁が描かれなくても誰もそこに障壁がなかったとは思わない。苦労が描かれなくても誰もそこに苦労がなかったとは思わない。観客を信頼している証しとしてのシンプルさ。そして白人と黒人が手を取り合うことがさほど難しくないとでも言うように簡単に話は進む。実際に難しいことではないのかもしれない。それを行うことが難しいのであって。イーストウッドの描くマンデラはそれを適格にこなしてゆく。自分を虐げてきたものたちを許すということを。『グラン・トリノ』のレビューで私は書いた。過去の自身の作品の中で十字架をちらつかせながらの残虐行為を描いてきたイーストウッドはキリストが成し遂げたことを生身の人間で成し遂げさせることで自身の宗教観に対するひとつの答えを見せたと。ここでも同じことをしている。マンデラは計算する。どうすれば政治手腕を発揮できるか。どうすれば国が豊かになるか。その手段として「許す」という行為がある。そして「許す」を演出する。あえて白人の象徴のユニホームを着る。白人の護衛を信頼する。並大抵のことではないだろう。しかしそれは成された。やったのは人間だ。神話ではなく実話なのだ。娯楽であることを意識したこれ以上ないくらいのシンプルな語り口の中にもイーストウッドの印が確実にある。そこがたまらなく嬉しい。
【R&A】さん [映画館(字幕)] 7点(2011-02-07 15:34:14)(良:4票)
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