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《ネタバレ》 お徳はなぜあんなにも美しい心を持っていたのだろう。自分の全てを擲ってでも、愛する人を支えようとできるのだろう。自己犠牲などとそんな言葉では言い表せないほどの強さ。美しさ。清らかさ。菊之助が誤った選択をしそうになったとき、お徳はいつも正しい道へ進ませようとする。頑固者で意固地な菊之助にいつも包み込むような優しさで語りかける。こんなにも美しく、清らかな登場人物が出てくる映画は他に観た事がない。お徳の温かな想いが、美しい画面の向こうからヒシヒシと伝わってくる。だから、彼女の苦しみや喜びが痛いほど胸に響いて、僕は涙を止めることができなかった。長い下済み生活の中で彼女は自らの命を削りながら菊之助を親身に支え、そして菊之助を立派な役者に育て上げた。全てはお徳の存在があってだった。彼女の葛藤と決断、舞台を見ることができず、手をあわせ、成功だけを願ったお徳。一瞬でも、失敗しろとは思わなかったのだろうか。ほんの一瞬でも、迷わなかったのだろうか。僕は彼女のように心が清らかではないから、そう思ってしまったが、終盤で始めて二人が夫婦になったあの狭い部屋の中で、彼女は言った。「もう思い残すことはない」と。何度もいろんな映画の中で聞いてきたこの台詞も、こんなにもその想いの全てが心の深いところに届いてくる台詞はなかった。自らを犠牲にし、死に意味を持たせ、菊之助の幸福を願ったお徳。この世に残った菊之助には、彼女が残した幸福を決して手放さないで欲しいと思った。素晴らしすぎる。鮮麗されたワンシーンワンカット、計算し尽された完璧な構図、照明。あぁ、なんて美しいのだろう。溝口監督に感謝せずにはいられない。この映画を僕の一生の宝物にしたいと思います。10点などでは収まりきらない感動と、心からの感謝を込めた10点。
【ボビー】さん [DVD(邦画)] 10点(2007-02-04 18:23:55)(良:1票)
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