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《ネタバレ》 19世紀末に実在した仏人画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの波瀾の生涯をハリウッド風味で上品に仕立て上げたジョン・ヒューストン監督の伝記モノ映画。後期印象派に属し、今や巷に溢れる”宣伝ポスター”というものを創案した「イラストレーターの元祖」的存在、という評価が美術史上でのロートレックへの最も一般的な位置付けである。その画風は何とも猥雑で(良くも悪くも)人間の生きる姿を活写しているのが特徴だが、個人的にはどうにも好きになれないタイプ。本作でその彼に扮するはホセ・ファラー。カメレオン・アクターの称号はデ・ニーロやダニエル・デイ・ルイスの為だけにあるのではないコトが本作での彼の熱演を観れば実によく理解して頂けようかと思う。長身の彼が膝を折り曲げて僅か150cmの小男ロートレックを演じる姿には「役者バカ」という最大級の賛辞こそが相応しい。伯爵家に生まれながら不具者としてのコンプレックスと孤独に苛まれた彼がパリに出て根城に据えた一つが巴里名物のキャバレー「ムーランルージュ」(つまり邦題は店名のモロ直訳)。冒頭の踊り子たちが一斉にY字バランスをきめるシーンは圧巻だ。ここで酒をあおりつつ踊り子たちや酔っ払った客をひたすら描き続け、先述の”宣伝ポスター”へと繋がってゆく。しかし、皮肉にも”宣伝ポスター”をきっかけにして「ムーランルージュ」は彼の愛した”陽気で卑猥なバイタリティ”を失い「高級な紳士淑女の社交場」へと変貌してしまう。私生活でも娼婦マリーに捨てられた恋の痛手から、素直になれないばかりに掴みかけたミリアムとの恋までも失うことになるロートレック。まぁ実際のロートレックの私生活は酒と娼婦にまみれた、映画どころではない退廃ぶりだったのだが、ヒューストンのバランス感覚は過剰なリアリズムにまでは暴走しない。当時の検閲コードから考えても正解だろう。オズワルド・モリスの豊かな色彩に満ちたカメラワーク、ジョルジュ・オーリックによる主題歌「ムーランルージュの歌」も強く印象に残る。強いて言えば女優陣がホセの名演に拮抗しきれていない気が。コレット・マルシャンもシュザンヌ・フロンも勿論ザ・ザ・ガボールもだ。ココで遺憾ながら2点マイナス。
【へちょちょ】さん 8点(2004-09-20 03:53:06)(良:2票)
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