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この映画は、長崎へ原爆が落ちる前日からその瞬間までの人々のありふれた日常を描いている。凡庸な人々の凡庸な日常が説得力を持って僕らの心に響いてくるのは、その背後で着々と進む原爆投下という非日常性との対比においてであろう。悪夢の瞬間によって、彼らの確固たる日常は脆くも破壊されることが暗示されているが、その救われなさこそが、僕にとって、胸が奮えるほどの救いだと感じられたのは何故だろう。この物語は、僕らにとって全く失われた物語として、決して語り継がれない物語としてある。彼らは、原爆の何たるか<破滅という不安>を全く知らずにそれを受け入れる立場になってしまったが、だからこそ、逆に彼らの日常が確固たる足場の上に成り立ちえたという幸福をみるのである。彼らは原爆という意味を知らずに死んでいったが、僕らはその意味を既に知っている。そのことがもたらす無意味な生という観念は、僕らを終末感というメランコリーの淵へ誘う。しかし、この映画が描く日常という確固たるリアリティは、そういう観念をフィクションとして無化し、浄化しているように思えた。この作品は単に戦争という、原爆という悲惨を描く物語としても読めるが、僕にはそれ以上に現代の僕らに向けた逆説的な「救い」の物語であると感じられたのである。
【onomichi】さん 9点(2004-06-25 02:00:36)
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