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教皇選挙 のクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 教皇選挙
製作国米,英
上映時間120分
劇場公開日 2025-03-20
ジャンルドラマ,サスペンス,ミステリー,政治もの,小説の映画化
レビュー情報
疑念と確信。人間の歴史、そして信仰の歴史は、常にその狭間で揺れ動き、人間はその“揺らぎ”から抜け出すすべも無く右往左往し続ける。
教皇選挙、すなわち“コンクラーベ”を描き出した本作が表したものは、そういう人間の「本質」だったと思う。

奇しくも、2025年4月に現実世界のローマ教皇フランシスコが亡くなられた。
しきたりに沿って行われるコンクラーベの状況が、国際ニュースで伝えられる中、「これは観なければならない」と思い、公開中だった本作を観るために隣町の映画館に足を伸ばした。

無宗教の日本人にとっては、教皇選挙も、ローマ教皇の存在自体も、遠い世界、縁遠い文化のものであるという感覚は否定できない。
ローマ教皇という存在とその言動が、世界各国の人々の思考や行動に影響をもたらすものであるということは理解してはいたけれど、教皇を頂点とするカトリック教会という組織の全体像と、それがこの世界の仕組みに対してどのように影響し、歴史的背景を孕んでいるのか、よく分かっていなかった。

本作を鑑賞したからといって、そういったカトリック教会自体の歴史的背景や、現実の国際社会における影響力の実態を、理解できるわけではない。
でも、フィクションとはいえ、その組織の本質的な性格を象徴する教皇選挙の“裏側”をつぶさに描き出した本作は、カトリック教会自体が孕んでいる功罪、その価値と過ち、そして「懺悔」を、雄弁に物語っていた。
その映画世界は、「宗教」に縁遠い者にとっても、とても興味深く、ある意味エキサイティングだった。

人種も国籍も異なる百数十人の枢機卿が集まり、様々な価値観、思惑がせめぎあい、入り乱れる様は、愚かしくも見えるが、まさにこの世界の縮図のようにも見える。
ある者は他者を陥れ、ある者は他者を利用し、ある者は野心を抱き、ある者は秘めた真相を貫く。
カトリック教会の枢機卿という、一つの確固たる信仰の頂点に存在する集団でさえ、この様相なのだから、無数の価値観の人間が“巣食う”この世界が混沌とすることは、そりゃあ必然なのだろう。


劇中の台詞にもあった通り、信仰は常に“疑念”と“確信”の間に存在し、苦悩と共に漂うように揺れ動く。
きっとそれは、必ずしも「信仰」という概念に限ったことではないだろう。人間の存在と社会そのものが、疑念と確信の狭間で苦悩し続けていることは、今この瞬間の混迷極まる世界を観ても明らかだ。

“コンクラーベ”は、ラテン語で「鍵がかった」という意味を持つ言葉らしい。
閉鎖された薄暗い“部屋”の中で、世界の方向性を左右しかねない物事を決めるには、もはやこの多様性に溢れる世界は広く複雑になりすぎている。
ときに“鍵”は必要かもしれないけれど、行き詰まり、息が詰まるのならば、“窓”を開けて、風と光を通さなければ、人間は疑念と確信の狭間で、埋もれて、潰れてしまうのではないか。

本作のクライマックスで映し出された幾つかの描写とその帰結は、そんな全世界の人間たちに向けたメッセージを孕んでいた。
鉄腕麗人さん [映画館(字幕)] 9点(2025-05-18 14:46:56)《更新》
その他情報
作品のレビュー数 12件
作品の平均点 7.25点
作品の点数分布
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作品の標準偏差 1.23
このレビューの偏差値 61.51
※この作品のどの当たりの点数に位置するかを表した値
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