| 作品情報
レビュー情報
「王道」をひたすらに突き詰めた、正統なアップグレードだったと思う。
レース映画としての王道、スポーツ映画としての王道、ルーキー✗ロートルものの王道、そして“ブラッド・ピット”映画としての王道。 映画史を彩ってきたあらゆる「王道」が、映画上のレース展開とは違ってコースから逸脱すること無く、清々しいくらいに堂々と繰り広げられる。 そこには、監督と主演俳優をはじめとする製作チームにおける、映画製作に対しての「自信」がみなぎっていたように思えた。 奇抜なストーリーや、映像的な小細工なんて必要ない。 「F1」という“熱狂”を、そのまま映像化できたならば、それだけで傑作になり得るという自信。60歳を越えてまだまだセクシーなハリウッドスターが、その華と色香を撒き散らせば、観客はスクリーンに釘付けになるという自信。 そう言葉にすると、あまりに安易な志のようにも聞こえるけれど、決してそうではない。 現実の“熱狂”を、映画というある意味での“フェイク”の中で“リアル”と遜色ない肌感覚にまで高めるという労力は、映像技術的にも、人員的にも、また金銭的にも並大抵のものではなかっただろう。それは、本作の全編を通じた品質の高さから痛いほど伝わってくる。 そして、そんな高品質の映像表現の中で、それでもスター俳優として君臨し、映画世界を支配するブラッド・ピット。長らく彼の映画を観続けてきたけれど、ブラッド・ピットがブラッド・ピットであり続けていることが、本作における最大の「至福」だったと言っても過言ではなかった。 ジョセフ・コシンスキー監督は、前作「トップガン マーヴェリック」に続き、文字通りに“真っ向勝負”の豪胆な映画世界を創り上げてみせている。 王道極まる映画世界の中で、ハリウッドの頂点に君臨するトップスターが、その魅力を余すことなく表現しきるという映画製作の構図は、往年のハリウッド映画の隆盛期のような感覚も思い起こさせ、そういう観点からも映画ファンの心を熱くさせる。 真っ当な映画ファンが減り、映画製作、映画表現のあり方そのものが変わりつつある時代において、このように王道を紡ぐことができる映画人は、とても貴重だとも思える。ぜひとも、時代の流れに逆行してでも“真っ向勝負”の映画を作り続けてほしい。 現実の「F1」のレースを“生”で観たことはない。きっとその迫力や熱量は、創造を遥かに超えるものなのだろう。それと通じるように、本作の映画世界も、映画館で、さらにはIMAXで鑑賞しなければ、その魅力が半減してしまうことは明らかだし、この映画の本質は堪能できない。 劇場公開が終わり、本作を自宅の粗末な鑑賞環境で観る割合が増えるほどに、評価の平均値が下がっていくことは火を見るより明らかだし、それがこの映画の宿命なのかもしれない。 作品の“賞味期限”というものがあるとすれば、本作のそれはとても刹那的なものと言えるだろう。 でもだからこそ、1秒1秒に莫大な費用を投下する「F1」というエンターテイメントの映画化として、至極正しい在り方のようにも思える。 「今」という瞬間に、命と、金と、プライドを賭けた、映画内外の人間たちの心意気にまた胸が熱くなる。 【鉄腕麗人】さん [映画館(字幕)] 8点(2025-06-30 17:07:20)
その他情報
|
© 1997 JTNEWS |