| 作品情報
レビュー情報
《ネタバレ》 主人公の女は殺人犯。しかも殺した人間は我が子でした。くだらないマスコミに記事を書かせれば、冷酷な鬼母の犯行で片付けられるでしょう。ただし「事実」と「真実」は違う。女の出所後、母親の痴呆症や、警官の自殺など、不幸の大バーゲンセールがずっと続きます。息子殺しの正体がばれてクソオヤジから罵倒されるシーンもかなり痛い。しかしこういう場合、女は怒ることも泣くこともしない。感情のスイッチを切ることが唯一の防衛手段になる。これが傷つきすぎた人間が自殺せず生きるための応急処置なのです。アジア系の子供は監督の実の養子の娘らしい。この娘の無垢な愛情によってしだいに女は笑顔が増えていく。すると突然女が美人に見えてくる。もともと美人なのです。しかしそれを観客に感じさせなかったクリスティン・スコット・トーマスの演技が素晴らしい。まずそうにタバコを吸っていた枯れ果てた女が、だんだん輝きだしてくる。ただし女が周りに心を開けば開くほど、殺人事件の真相が暴かれていくというジレンマ。妹のレアは苦悩する─。小説「罪と罰」をめぐり、人殺しのラスコーリニコフと、姉を投影させ、突然ドストエフスキーに逆ギレする。「おまえ、人を殺した経験がないだろ?空想で殺人の苦悩を描くなよ。この不幸フェチのクソジジイが!」と、こんなふうにレアは言いたかったのでしょう。ラストでついに女の口から事件の真相が語られる。女はなぜ息子を殺したのか?実際にそれを知りたかったのは誰なのか?裁判官か?野次馬か?それともオチをおねだりする思考麻痺の観客か?我々は赦せる殺人なら赦すのか?赦せない殺人だったら赦さないのか?女は善か?悪か?偽善か?ノン、ノン、違います。女の告白は、すなわち「真実」は、彼女の罪を観客にジャッジさせるためのパフォーマンスではない。真実は相対的でありその真実は妹のレアのために必要でした。彼女がそれを知ることによって姉の痛みを共有させるために。肉体の激痛さえ手を握ってもらうと、やわらぐという本質。告白後の女の重しがとれた晴れやかな表情が全てを物語っている。それでも女の前途は多難であり、今後も厳しい世間の目に晒されるでしょう。しかし家族は痛みを共有しあう。人はこうして再生していく。
【花守湖】さん [DVD(字幕)] 10点(2010-12-03 21:51:52)
その他情報
|
© 1997 JTNEWS |