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《ネタバレ》 この間見た「淑女は何を忘れたか」が明るく楽しい喜劇映画だったのに対してこの「東京暮色」はやはり評判通りかなり暗い。でもこの映画に描かれている家族像は現在にも通じるものがあり、いやむしろ現代のほうがより切実に感じられる部分が多くあり、昭和30年代の映画だが、まるで現代の家族の問題を描いていると錯覚するほどリアリティーが感じられて怖いほどだ。原節子演じる出戻りの長女も、有馬稲子演じる子供を妊娠しながら相手の男に捨てられたも同然の次女共にどこかかげのある役柄で、とくに次女が抱える孤独感やさびしさは思わず感情移入してしまうものがあり、母親に対して自分は誰の子なのかと問い詰めるシーンや、電車にはねられたあとの病院でのうわ言も悲しかった。この次女は最初岸恵子が演じる予定であったそうで、結婚による渡仏のために有馬稲子が演じたらしいのだけど、有馬稲子はこの役を見事に演じていて、代役出演であることを感じさせていない。(岸恵子が演じていたらどんなふうに演じただろうという興味はあるが、この役は有馬稲子で正解だったと思う。)その次女が小さい頃に家族を捨てて男(中村伸郎)と逃げてしまった母親を演じる山田五十鈴の演技が素晴らしく、次女が死んだことを知って一人飲み屋で打ちひしがれるシーンはこの母親の辛さというものをうまく表現していてとくに印象的で、言葉など使わなくてもこの母親の気持ちというものが痛いほど伝わってくる。山田五十鈴というのは怖くて貫ろくのある役のイメージが強い人なのだが、こんな繊細な演技もうまいと感じさせるのはさすが。もちろん笠智衆と原節子もいいし、杉村春子のマイペースなキャラクターは暗い物語の中でほっと一息つける。小津安二郎監督の演出は次女が電車にはねられるシーンを直接描写しなかったり、次女の死のシーンも省略してしまうなど、ドラマチックになりすぎない演出がなされているのがいい(現在の映画だったら絶対に入れてるだろうなあ。)し、また全体的にクールな目線で描かれているのだが、さきほども書いた次女が自分は誰の子なのかと母親を問い詰める深刻なシーンに明るいテーマ音楽をかぶせてあえてミスリード効果を狙っているのもよかった。「東京物語」でも親子の問題を描いていた小津監督だけど、この「東京暮色」もそれと同じく笠智衆演じる父親が一人残されるラスト。この映画のほうが「東京物語」よりもラストにさびしさを感じるのは描かれている物語が「東京物語」よりも痛烈に胸にせまってくるものがあるからかもしれない。今まで見た小津作品の中では最初に書いたように暗くて救いのない映画ではあるのだが、それでも心に残るいい映画だったと思う。
【イニシャルK】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-09-21 18:46:46)(良:1票)
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