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男性である主人公は作中でも「女みたい」と言われるような名前をしていますが、奴隷に甘んじても誇りを失わなかった家庭に生まれ、アフリカ由来の名前をつけられたようです。映画の中身ですが、キング牧師のように「私には夢がある!」と絶叫するわけでもなくバスの中で頑として白人に席を譲らずに公民権運動の旗印を掲げた話でもなく(どちらもアメリカの1960年代)、それよりもずっと昔の話でありながら主人公が黒人であるという事実もさらりと描かれ、医学根性ものとでも呼びたくなるような主人公の努力も誇張されず、先天性心臓疾患の子供たちとその親たちの望みも努力の動機の一要素以上でも以下でもなく、白人医師と黒人助手の間の友情も相手の将来を思いやる親切心からというよりは自分の助手として存分に使いたいという利己心の両方の所産として現実的に描かれています。これだけ多くの要素が一作の中に詰め込まれているわけで英語のタイトルをつけた人はさぞかし考えあぐねただろうと思いますが、”Something the Lord Made”は正に「事実は小説より奇なり」ではなく「事実は小説より感動的なり」というところです。黒人に生まれたことを負い目とは感じず、医学校にいけなかった運命を悲憤慷慨もせず、敷かれた線路の上を歩まず、ただまっすぐに病気治療に向けて努力するゲリラ戦で栄光をつかむ主人公の生き方からは学ぶところが多いです。主人公の器用さが外科医としての道を歩むきっかけになったのは事実でしょうが、外科手術という人体にとっての極限状態の下でショック死させないためには執刀医には生理学の広範な知識が必要とされ、戦時下で怪我によるショック死を回避する研究が急務だったせいでブラロック医師が主人公に動物実験をさせた(採用の翌日だったそうです)理由であり、後に執刀医であり医学教育者となった主人公もブラロックと同程度の生理学の知識があったに違いないことをつけ加えておきます。
【かわまり】さん [DVD(字幕)] 8点(2012-05-08 12:47:46)
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