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「隠された事実というのはサスペンスを引き起こさない。」だから「謎解きにはサスペンスなど全くない。」そして「(一種のパズル・ゲームに過ぎない)謎解きはある種の好奇心を強く誘発するが、そこにはエモーションが欠けている。」(ヒッチコック『映画術』)
本作における犯人探しミステリーもまた、ヒロインをめぐるドラマに情動を付与するための一手段に過ぎないのであり、確信的に登場人物を絞り真犯人を仄めかしている作品に「犯人が早々に判る」式の批判は、ナンセンスでしかない。 映画が主眼とするのは非本質的な謎解きなどではなく、ケイト・ブランシェットが担う「映画の感情」なのだから。 地味な普段着で息子達の部屋片付けをする母親像。パーティシーンで鏡を前にふと衣装を気にする女心。床のペンキに滑り、ずっこけるアクションの人間臭さ。キアヌ・リーブスの恫喝や、弁護士の陰湿な追及に対して怯えながらもそれに真直ぐに対峙する気丈さ。そして、ラストの車中の純真な涙。ナイーヴで不器用な中に芯の強さを湛えた表情と芝居が素晴らしい。 彼女とジョバンニ・リビシとが車中で見つめ合う切り返しの「間」と、続いて警察署前での視線を交わすショットは(謎解きが無くとも)その時点で二人がもう再会しないだろうことを確信させる。そこにはエモーションが充溢しているからだ。 物干しに揺れる白いシーツ。霧のかかる池。樫の木の合間に揺らぐ水中の死体など。(『狩人の夜』のよう) イメージショットの数々も美しい。 【ユーカラ】さん [DVD(字幕)] 8点(2012-04-29 00:35:30)
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