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《ネタバレ》 幕末の京都、池田屋の近所、大原屋の物語という設定がアイデアの基本。市中を威張って歩いている新撰組に対し、絵描きら町人が「そういう時代なんですよ」と息を殺している気分は、映画製作時の軍部と重なって見えてくる。原作の山中貞雄は前年に死んでいる。でも、勤王が善で新撰組が悪という単純なものでもないところが、この映画のいいとこで、どちらかというと、政治的なものと政治的でないものとの対比なのじゃないか。絵描きが勤王派の妻をかくまうのも、ある種の親しみの感情からで、「どうも政治向きのことは…」と自分でも言っている。新撰組を狙う河野秋武(当時は山崎進蔵)も、別に長州脱藩でなくイデオロギーとは無縁、個人として辱しめられた怨みによって行動している。新撰組にも加東大介(当時は市川莚司)のような気のいい奴はいるのであり、しかし「イデオロギーなんか関係ないっすよ」というようなことを飲み屋で他藩の人間と語り合ったために切腹させられる者もいる。中村翫右衛門は、とにかく働いて上昇するためなら新撰組にだって取り入る、という町人気質の人物、川原で染めものの水洗いをしているとき、加東大介と話し合うあたりのノンキな気分がいい。別にリアリズム狙いの映画ではないが、とかくピリピリと張りつめて描かれる幕末の京都に、案外こんな気分もあっただろうなと思わせる手応えがあった。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2009-06-06 12:03:56)
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