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これはスタインベック/フォードの『怒りの葡萄』をはっきり意識した作品だと思う。とりわけ孫が上野で肉まんをもらったときのじいさんの反応のあたり。注目すべきは、あちらが最初から大不況下の物語だったのに対し、こちらは一応万博景気で沸いている日本を背景にしていること。その「好況下」と言われている真ん中で、しかも同時代に、このオデュッセイを描いた。けっきょく日本の戦後の好景気と言っても、その恩恵を受けたのは山陽線・東海道線沿いだけの話で、九州で失業した一家は、そこを跳び越えて北海道まで渡らなければならなかったわけだ。その北海道の酪農業の未来も、現在の私たちは知ってしまっている。車窓の風景が雄弁。東京までの工業活気と、東北本線になってからの農村風景。それは日本の美しい田園がかろうじて残っている風景でもあるわけだが、そういう「ディスカバリージャパン」的風景とは、つまり「取り残された」風景でもあったわけだ。西と東がくっきり分断されていることを車窓風景が語っていた。一家が到着したときのドアのとこでの虚脱した顔が重なる場が、本作で最も気合いが入っているカットだろう。ただその後がいけない。じいさんを死なせたことも含め、北海道の部分がせっかくドキュメンタリー的に積み上げてきたこれまでの成果を受け継いでくれてない。アタマだけで作られたような、薄ら声の労働讃歌に聞こえてしまう。こう描くのが実際の開拓労働者への礼儀だと思ってしまうところが、「東京のインテリ」の限界なのではないか、とつい意地悪く思ってしまう。
【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-03-27 10:22:09)(良:1票)
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