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冒頭の『不如帰』の、頭が上がってくるところは美しかった。ゾクゾクさせられた。過去のフィルムの骨董的美しさというよりも、モダンな現代美術として蘇ったような効果。しかし本筋に入ると、もひとつ乗り切れないところがある。いつもながら室内の暗さは美しいし、カットごとに人に移っていくそのリズムの心地よさは申し分ない。一番ドキドキしたのは、溝口の読み合わせのシーンでしたか、なんだなんだという絹代の戸惑い、消されていく黒板のセリフ、ステージ以外の周囲に広がる暗がり、「田中さん、…です」の繰り返し、こういう畳み込んでいく感じは素晴らしい。ただ吉永小百合、短いカットだと映えるんだけど、ちょいと太いとこを見せる場面になると、無理が目立っちゃう。うまいヘタの問題というより、質の問題なんだろう。そこらへんでどうも乗り切れない。この監督はポカーンとしたとこ撮るといいんだよね、セリフのあるドラマ部分よりも。よそ見をしながらビールを飲んでるとことか。上原謙はコントラストの強い場面で、ほんのちょっと出るだけ。清水宏役の渡辺徹は、体格で選ばれたキャスティングでしょう。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 6点(2010-08-15 09:42:21)
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