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《ネタバレ》 思春期にも満たない少年が主人公なのにエロス満載という不思議な映画。しかも反戦が主題。エロスと反戦はなじまないと思うが、文化の違いだろうか。終盤まで、「チップス先生さようなら」のエロス版と思っていたが、最後にどんでん返しが待っていた。全てはラストのための伏線だったのだ。
喘息持ちで、人見知りで、学校に馴染めない少年を優しく迎えてくれた先生。喘息の発作のとき、川の水で体を冷やして救ってくれた先生。蝶の舌やティロノリンコという鳥の生態を教え、自然への興味を開いてくれた先生。虫取網を買ってくれた先生。「蝶の舌を顕微鏡で観よう」と誘ってくれた先生。「本は心を豊かにする」といって「宝島」を貸してくれた先生。自由の大切さを説いて教壇を去った先生。少年と先生の心温まる交流が描かれる。少年の両親も先生を慕っていた。だが内戦が勃発し、共和派の先生が逮捕されると、保身に走った両親は思想転向し、広場で先生を面罵する。母は少年にも叫べと命じる。「不信心者!アカ!」意味もわからず叫ぶ少年。次の言葉は「ティロノリンコ、蝶の舌」だった。少年にとって両者は同格なのだ。 「あの世に地獄などない。憎しみと残酷さ、それが地獄のもととなる。人間が地獄と作るのだ」先生の語った通りの地獄が出現した瞬間、「空のベット、曇った鏡、虚ろな心」の世界が広がる。 少年はトラックの先生めがけて石を投げつける。残酷さを強調するための演出だが、やり過ぎだ。無垢な少年が命令されてもいないのに、昨日までの恩師に石を投げつけることはできないだろう。あえてやるなら石が当って血が出るくらい徹底した方がよい。それならキリストとユダに擬すこともできた。少年の親友ロケの父親も連行されてゆくが、前段階で少年とその父親の交流場面ばあればなおよかった。この場面、少年のガールフレンドのロケの妹の姿が一瞬しか見えないのは惜しいことだ。 愛と自由を教えてくれた恩師に対して裏切りと罵倒で応えなければ生きてゆけない残酷な現実。けれども少年の最後の言葉からは、裏切りや罵倒を超越した「希望」が感じられる。純粋さを失っていないのだ。 蝶の舌はゼンマイ状に巻かれ、普段は隠れている。ヒトも本心を隠すものだ。少年が蝶の舌を見ることはなかった。いつか大人になったとき、自由という甘い汁を吸うことができるのだろうか。先生の眼差しは暖かく少年を見守っているように見えた。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 7点(2013-06-16 23:51:22)
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