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《ネタバレ》 一時期スランプに陥っていた溝口健二と田中絹代が、見事に復活を果たしたと評される名作です。1952年の映画ですが、大蔵貢に買収されてボロボロになる前の良心的だった頃の新東宝の製作で、東宝が配給しています。 そこそこの良家の娘で御所勤めしていたお春=田中絹代は歳をとった現在は夜鷹にまで身を堕としてしまった。羅漢像の顔面を眺めている内にそれが過去に関係した男たちを思い出していき、そこからお春の波乱万丈の半生が回顧されるのでした。最初に人生を躓くきっかけとなったのが若侍との道ならぬ恋、その若侍を演じているのがなんと三船敏郎で、まずびっくりです。すでに『野良犬』や『羅生門』には主演していて黒澤明の秘蔵っ子になりつつある時期ですが、三船が溝口健二作品に出演していたとは知りませんでした、もっとも溝口映画出演はこれっきりでしたけどね。まあお春と関係した罪を問われて斬首されるいわばチョイ役でしたが、何度観ても別人としか思えない風貌でした。そこからのお春の人生はツキがまわってきて幸せになれるかと思えば不幸が襲ってきて煉獄に突き落とされる、まさにこのループが延々と続くジェットコースター人生です。お春の父親もけっこうな毒親で、いやはや娘を食い物にして生きているとしか思えません。お春も単純な幸薄女ではなくて、要所要所で身分不相応な贅沢をしたり手のひら返ししてきた恩人に復讐したり、けっこうしたたかな面も見せます。映像は溝口スタイルの長回しの多用、そしてお春の過去シークエンスではミディアムショットで押し通し、演者もバストショットが最小限でアップショットでは撮らないというところが徹底しています。尺が残り三十分を切ったあたりで回想が終わり冒頭の夜鷹生活に戻りますが、そこからの展開はまさしく溝口演出の独壇場で、本作が海外でも絶賛される所以だなと思います。 原作というか原案はご存じ井原西鶴の『好色一代女』ですが、かなり原作のタッチを変えた溝口健二ワールドといった感じに仕上がっていると感じます。同じ西鶴の『好色』ものとしても、増村保造と市川雷蔵の『好色一代男』とは全然雰囲気が違います、もっともこっちのほうが西鶴の浮世草子の破天荒さを反映していると思いますがね。やはり“夜の女”を描かせたら溝口健二はピカイチだったと言えるんじゃないでしょうか。
【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2025-06-09 22:11:19)《新規》
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