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《ネタバレ》 そこは理想郷のはずだった――。子供も独立し、人生の折り返し地点を迎えたフランス人夫婦アントワーヌとオルガ。自然豊かな田舎町で第二の人生を穏やかに過ごすことにした彼らは、若かりし日に訪れて感銘を受けたスペインのとある山岳地方へと引っ越してくる。大型スーパーもなく、村人たちのほとんどが自給自足に近い生活を送っているような辺鄙な片田舎だったが、それでもアントワーヌ夫妻にとっては夢にまでみたスローライフだった。野菜を育て、羊や牛の世話をしながら夫婦水入らずの生活を満喫するアントワーヌ。だが、突如として持ち上がった風力発電プロジェクトがそんな彼らの人生を狂わすことに。多額の保証金を求めて計画を受け入れようとする村人と景観保護の観点から反対の立場をとるアントワーヌ。意見の相違は徐々に拡がり、夫婦は次第に孤立してゆく。計画推進派の急先鋒である隣人の兄弟は、よそ者でありながらなかなか意見を変えようとしないそんなアントワーヌに徐々に苛立ちを募らせてゆく。やがてそれは決定的な悲劇を招くのだった……。何の予備知識もなく今回鑑賞したのですが、いやはや、なんともいや~~~な話でしたね、これ。数十人の村人たち誰もが顔見知りのような閉鎖的な村の中で、些細な意見の行き違いから住民たちと諍いを繰り返してゆく余所者夫婦。実話を基にしたと言うことで、この陰鬱とした物語は物凄くリアルで説得力抜群。これ、舞台がスペインじゃなく、普通に日本の限界集落でも充分通用する話ですよ。粗野で粗暴な、いかにも田舎の乱暴者と言った隣人兄弟がなんともリアルで怖い。当初はゴミを投げ入れたり犬に小便をひっかけたりする程度だった兄弟が、いつしか大事な井戸にバッテリーを投げ込んだりライフルを持って待ち伏せしてたりともはや犯罪に。対する主人公も身を守るためだと称してカメラで彼らを盗撮するとか、こちらもけっこう自業自得。そんな2組の諍いは徐々にヒートアップし、やがて取り返しのつかない事態に陥ってしまう。見れば見るほど気が滅入るような陰鬱なお話なのに、それでも最後まで見入ってしまうのはこの監督の優れた演出力によるものが大きい。分かりやすい伏線のようにはられたビデオカメラも見つかってみると実は……と言うのも、なんとも嫌な肩透かしを味合わせてくれる。惜しいのは、奥さんが主人公となる後半の展開。妻と一人娘との関係性が深掘りされるのだが、それが前半との繋がりが悪く、自分は少々散漫な印象を受けてしまった。娘のお話はもっとあっさり流してしまって2時間内で収めてくれればより完成度の高い作品となっていたであろうに。それでも田舎町特有の陰湿な空気がなんとも嫌な余韻を残してくれる、心理スリラーの佳品でありました。
【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 7点(2025-06-22 10:18:15)
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